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第四話 雇用主は幼女様

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「ここがわたくしたちのお家でございます」

 案内された先にあったのは、あまり大きくない家屋だった。
 小屋、と表現できるだろうか。俺一人が住んでちょうどいいくらいの大きさである。

「ここに、わたくし含めて四人生活しております。これからはご主人様を含めて五人になりますね」

「……せ、狭くない? これだとどうしても、同居人たちと俺との距離感が近くなっちゃうと思うけど。嫌がらないかな?」

「そこは問題ないかと」

 俺の懸念をルーラはまったく気にしていないようだった。

「まずは生活していただいて、出てきた問題はその都度対処していきたいと思います。もしご主人様が狭くて息苦しいと感じたなら、もっと広くなるように手配しますので」

 彼女はそれだけを言って、家の扉を開けてくれた。

「どうぞお入りくださいませ……ご主人様」

 優雅な仕草で一礼するルーラ。
 促されるままに中へ入ってみた。

 少し緊張するな……

「お邪魔しまーす……」

「んー? ……あ!」

 そしてまず見えたのは、部屋の中央でお人形遊びをしていた小さな女の子だった。

 ピンク色の髪の毛、紫色の瞳、そしてちょこんと突き出た八重歯と尻尾に、背中に生えた小さな翼……そんな特徴を持つ彼女は、俺を見るや否やまん丸の目を大きく見開いた。

「――パパ!!」

 次いで、彼女は勢いよく立ち上がったかと思えば、俺に向かって飛びついてくる。

「おっと……」

 慌てて受け止めると、甘い匂いが鼻腔をくすぐった。
 俺に触れると汚いだろうに、しかしこの子はルーラと同様にそんなことまったく気にしていないようだ。

「おかえりさない、パパ!」

 満面の笑みを浮かべて彼女は俺を抱きしめる。

「……もしかしてっ」

 抱きしめて、パパと呼ばれたところで、ようやく気付いた。
 昔、俺はこの子と出会ったことがある。

 何故か俺をパパと呼んでいる少女に、一人だけ心当たりがあった。

「サキュバスの村にいた……サキちゃん?」

「はーい! サキです、8さいになりました!」

 昔、旅をしていた時にサキュバスの村に寄ったことがある。

 亜人種である彼女たちは人間から迫害されており、秘境の地でほそぼそと生きていた。
 俺は彼女たちから物品の援助などしてもらったことがある。

 その際に、サキちゃんとはよく遊んだことがあった。

「えへへ~。パパ、だいすきっ。サキね、ず~~っっっとパパのこと、まってたんだよ!!」

 抱き着く彼女の無邪気さに、いつの間にか緊張も解けていた。

「また会えて、嬉しいよ」

「パパ、うれしーの? よかったね!」

 笑いかけると、サキちゃんは楽しそうにリアクションしてくれる。
 久しぶりの感覚に少し和んだ。

「それにしても……サキちゃんがどうしてここに?」

 サキュバスの村で暮らしていたはずなのに、どうしてルーラと一緒に暮らしていたのだろうか。
 気になって考えていると、後から入ってきたルーラがこんなことを耳打ちしてきた。

「細かい事情はまた後でお話いたします。今はただ、再会をお楽しみください」

「……うん、分かった」

 色々とあるみたいである。
 詳しいことはまた後で聞くことにしよう。

「それで、あとの二人は?」

「ここだよ、おにーちゃんっ」

 と、不意に後ろから誰かが抱き着いてきた。

「うぉっ……だ、誰?」

「わ、た、し、だ、よ! 忘れたなんて、言わせないもん――下等種のおにーちゃん」

 その呼びかけに、俺の背筋が震えた。
 こうやって、俺をからかうように『おにーちゃん』と呼ぶ奴なんて……一人しかいない。

「邪神――アンラ・マンユ」
 
 この世に終末をもたらすもの。
 魔王を越える災厄。

 伝承でしか語られない、悪の邪神――アンラ・マンユ。

 彼女と出会ったのは、やっぱり旅の途中だった。
 壊れた神殿跡地で、偶然にも俺は彼女と出会ってしまった。

「やだな~……マニュちゃんって呼んでって言ったのにっ」

 金髪碧眼で、髪の毛をツインテールにした活発な容姿の幼女。 
 信じられないことに、邪神である彼女はそんな外見である。

「なんで、お前がっ」

「言ったでしょ? また、会おうって」

 初対面の時、大決戦を繰り広げた。
 全盛期の俺よりも、ともすれば彼女は強かった。

 しかし、どうにか倒すことはできて、邪神は封印できたはずだった。
 それ以来彼女は姿を消していたのだが……まさかここで再会するなんて夢にも思っていなかった。

「これからよろしくね、おにーちゃん!」

 まさかの人物に動揺を隠せない。
 しかし、次に出会う少女には、アンラ・マンユ――マニュよりも、驚愕することになった。

「ご主人様……とりあえず、お風呂場へどうぞ。四人目の同居人がおります」

 マニュの登場に呆けている俺を、ルーラはお風呂場に案内する。
 小さな家の割には大きめのお風呂場に入ると、そこには既に先客がいた。

 真っ白い肌の、銀髪が美しい少女だった。

「あら? やっと、来たのね……勇者さん?」

 俺は、彼女を知っていた。



「魔王の、娘……」



 そうお風呂に入っていた彼女は、俺が討伐した魔王の娘。
 誰よりも俺に恨みを抱いているはずの、小さな少女だった――
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