魔王を討伐して無職になった勇者だけど、チートな幼女に運良くお世話されているから勝ち組かもしれない

八神鏡

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第十三話 真相

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「抜け駆けなんてずるいわ……私も、下僕とお茶したかったのに」

 勇者――カレスが眠りについてすぐのこと。
 魔王の娘、エレオノーラが外に出てきた。

「ルーラ? 何をぼんやりしてるのよ」

 エレオノーラの言葉に、先程までカレスの座っていた席に腰を下ろしているルーラがピクリと体を揺らす。

「……エレオノーラ様ですか。申し訳ありません、ご主人様とお話した余韻に浸っておりました」

「そう。私にもお茶淹れて」

 ルーラの対面にエレオノーラも座る。
 カレスの時とは違ってルーラは座ったままお茶を注いで、エレオノーラに差し出した。

「起きていたのですね」

「ええ。寝たふりして下僕に悪戯しようと思っていたのよ……それなのに、あなたが連れて行ってしまうなんて、ずるいわ」

「申し訳ありません。独り占めしてしまいました」

「まぁ、いいのだけれど……大事な話もしていたようだし」

「話を聞いていたのですね……耳が良いことで。ご主人様は?」

「寝たわよ。それを確認して、こっちに来たわ」

 カレスの就寝をエレオノーラはしっかり見届けたようである。

「わざわざそれを確認して出て来たと言うことは、ご主人様に聞かれたくない話でもあるのでしょうか」

「ええ。まぁ、私が聞かれたくないというより、あなたが聞かれたくない話だと思うけれど」

 銀髪の少女がティーカップを傾けて、静かに言葉を紡ぐ。
 夜の闇に溶け込むような、不思議な音色の声が響いた。



「どうして、嘘をついたのかしら?」



 言葉に、ルーラは目を閉じた。

 驚く様子はない。動揺もないのは、カレスとの話に聞き耳を立てていたエレオノーラが、その質問をすると予想していたからだろう。

「嘘は、ついておりません」

「でも、真実は隠した。そうでしょう? ……私を魔界から連れ出した協力者であり、マニュの封印を解き、サキの村を襲っていた敵を追い払ったのは――あなたじゃない」

 ルーラは『わたくしのお答えできる範囲で、よろしいでしょうか?』とカレスに告げていた。

 これをカレスは『知らないことは言えない』と解釈したらしいが、ルーラは『言いたくないことを言わない』という意味合いで口にしていたことである。

 だから彼女は嘘はついていない。
 だが、エレオノーラの言う通り、真実は隠していた。

「この家に下僕と一緒に住もうと計画したのはルーラなのよ? 全部、あなたが影で色々したから、今の状況が完成したのに……どうして彼にそのことを教えてあげなかったのかしら」

 種族も境遇も違う四人の幼女が、この家で暮らしている真相。
 それは、ルーラが手引きしたことだったのである。

 かつて、ルーラはカレスに助けられたごくごく普通の村娘だった。
 でも、今は違う。

 たかが村娘が、魔王の娘を魔界から連れ出すことなんてできない。
 たかが村娘が、邪神アンラ・マンユの封印を解くことなんてできない。
 たかが村娘が、一つの村を壊滅させるほどの敵を追い払うことなんできない。

 ルーラはもう、普通じゃないのだ。



「もしかして、あなた……下僕に、自分が『勇者』になっていることを、言わないつもりかしら?」

 
 魔王の娘、エレオノーラは知っている。

 勇者とは代替わりするということを……カレスが知らない、勇者という存在の仕組みを彼女は父の魔王から聞かされていた。 

「……わたくしは勇者ではありません」

「とぼけないで。お風呂場でも確認したでしょう? 下僕の体に勇者の紋章はなかった……あなたも自分の目で確認してたじゃない。食い入るように、彼の裸を見てたくせに」

「それは、その……おちんちんに興味があっただけですから」

「な、何よ、ませてるわね……私たちにはまだ早いわ――って、そういうことじゃなくて」

 言い逃れしようとするルーラを、エレオノーラは許さなかった。

「私、見たわよ。ルーラのふとももの付け根に、紋章みたいなのがあったわ」

「エッチですね」

「同性だから問題ないわ。エッチなのは、あなたじゃない……おちんちん見てたくせに」

「案外、可愛い形をしてました」

「え? 本当に? 私、実は恥ずかしくて見れなかったの……って、だからそういう話じゃなくてっ」

 エレオノーラのジトっという視線に、しかしルーラはどこ吹く風だった。

「……確かに、ご主人様には隠し事をしました。でも、そんなことはどうでもいいと思いませんか?」

 自分の功績なんて、ルーラはどうでもいいと口にする。

「ご主人様と出会えた――ただ、それだけを喜んではいけませんか? もし、わたくしがご主人様と同じ『勇者』であった場合、きっとあの人は複雑な気持ちになると思います。だから、わたくしは村娘でいいのです」

 真実を全て告げれば、きっとカレスはルーラに感謝する。
 エレオノーラ、マニュ、サキともう一度で合わせてくれたことに、ありがとうを伝えるはずだ。

 だが、同時に気も遣うだろう。
 勇者になったルーラに、何かしら思いを抱いてもおかしくはない。

 その可能性があるから、ルーラは真実を告げなかったのだ。

「ご主人様が幸せになってくれるのなら……それだけでいいのです。わたくしが何者であろうと、関係ありません」

「ふーん? まぁ、いいわ。あなたがそう言うのなら、そういうことにしてあげる」

 頑ななルーラを見てなのか、エレオノーラはこれ以上追求しないことにしたようだ。

「でも、息苦しくなった時は相談しなさい? 私もあなたには感謝しているもの……下僕と出会わせてくれてありがとう。何かあれば力になってあげるわ」

「では……その時はご相談致します」

 ここまで会話を交わして、二人は席を立ちあがった。
 もう夜も遅い。そのまま後片付けをして、眠ることにしたようだ。

 みんなには色々と事情もある。
 でも、カレスと四人の幼女はこうして再会できた。

 今はただ、そのことを喜んで――深い事情は、心の奥にしまい込むことにしたようである。

 そして、スローライフが始まる。
 山もない。谷もない。元勇者カレスの穏やかな日々が、幕を開けるのだ――
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