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第十章「天使は往く鐘の音が鳴る方へ」5
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「すっかり、遅くなってしまいましたね……」
往人さんの淹れてくれた温かいココアを飲んで落ち着いてきたところで私は丁寧な言葉遣いで話しかけた。
家の中ではイヤホンを付けないから、スマホを操作して時刻を確認する仕草は往人さんにも伝わっていた。
「今日は泊っていくか? 師匠の部屋のベッドなら空いてるから」
今から帰ることに抵抗感のあった私に往人さんは提案した。
「いいのですか? お師匠さんにもご迷惑なのでは……」
「気にしなくていいよ。いや、まぁ少しは気にした方がいいとは思う。家にいるのは俺一人だけだから」
少し躊躇いがちにドキッとするようなことを往人さんは口にした。
交際を始めたばかりで大胆なことを言われると余計に意識させられてしまう。
「もしかして、手を出しますか……?」
「いきなり手を出したりしない」
「そうですか……まだ早いですよね」
いきなり手を出されたいわけではないがちょっと寂しさを覚えてしまう。
十分な性知識のない私には何をどうされるのか、正確な手順というものも分からず、情けないやり取りになった。
それからフェロッソはリビングで寝てもらうことにして、神崎さんの寝室に案内してもらった。
寝室にはベッドが二つあり、それが何故なのかは教えてはくれなかった。
往人さんから普段使ってない方のベッドを教えてもらい、今日はそこで寝かせてもらうことになった。
「お風呂、一人で入れるか?」
着替えを持っていなかったので、往人さんの大きめのサイズの私服を貸してもらい、お風呂に入ることになった。
「入れないって言ったら、一緒に入ってくれるんですか?」
「それは考えてなかった」
「そうだと思いました……。大丈夫ですよ、少し教えてもらえれば一人で入れますから」
一緒にお風呂に入るというイベントは次回に持ち越して、私は浴室内の配置や使っていいシャンプーやトリートメントなどを教えてもらい、疲れた身体をお風呂で洗い流すことにした。
往人さんの気配が消えたところで、半日近く着ていたサンタ服を脱いでいく。
恵美ちゃんと銭湯に行った時も周囲の視線が気になって緊張してしまったが、好きな人が暮らす家のお風呂を使わせてもらうのは、その時以上に恥ずかしい心境になった。
「邪念を振り払って、無心の境地で早くお風呂に入らないと!」
もし一緒にお風呂に入ったらどうなっていたのだろうか。
そんな危険な思考を振り払い、裸になって寒さから逃れるように浴室に入っていく。
何でだろう……こういう時に限って、普段考えもしないようなことまで考えてしまうのは。
「往人さん……往人さん……」
湯船に浸かりぬくぬくと身体を温め、何度も繰り返し往人さんの名前を呼ぶ。
通じ合えた気持ちを噛み締めるように繰り返していると、すぐにのぼせてしまいそうなくらい火照った気持ちに包まれた。
「恋人が出来ちゃった。信じられないね……真美。
私……これからもっとドラマみたいなこと、たくさんしちゃうのかな」
ほとんどの恋愛知識は映画やオーディオブックから得たものだ。
他の人が実際にどんな恋愛をしているのか、話しを聞いたことはほとんどない。
恋愛という関係は私にとって本当に未知の領域だった。
でも、好きという気持ちを抱えたまま想い続ける日々は辛く、切ないものだった。
気持ちを伝えたいと思っても、傷つくのが怖くて躊躇してしまうことが何度もあった。
それでも、伝えて良かったと思う。勇気を出してよかったと思う。
この想いが届いて得た、この満たされた感情は言葉では形容しがたい、唯一無二のものだ。
だから、これからも大切にしていかなければならない。
私を見つけてくれた、往人さんのためにも。
長い間、想いを募らせて、勇気を出して告白をした自分自身のためにも。
どこまでも一緒に幸せへの道を歩み続けたいから。
「分かっているよ……ちゃんと明日は真美に報告しに行くから。
往人さんを連れて行くから待っていて、あの日の砂浜で」
音が反響するお風呂場で私は明日のデートに向けて、思いを馳せた。
二人で向かうこれからの道はきっと幸せに繋がっている。
そう信じているから、私は往人さんとあの日の海岸を一緒に歩きたいと思った。
往人さんの淹れてくれた温かいココアを飲んで落ち着いてきたところで私は丁寧な言葉遣いで話しかけた。
家の中ではイヤホンを付けないから、スマホを操作して時刻を確認する仕草は往人さんにも伝わっていた。
「今日は泊っていくか? 師匠の部屋のベッドなら空いてるから」
今から帰ることに抵抗感のあった私に往人さんは提案した。
「いいのですか? お師匠さんにもご迷惑なのでは……」
「気にしなくていいよ。いや、まぁ少しは気にした方がいいとは思う。家にいるのは俺一人だけだから」
少し躊躇いがちにドキッとするようなことを往人さんは口にした。
交際を始めたばかりで大胆なことを言われると余計に意識させられてしまう。
「もしかして、手を出しますか……?」
「いきなり手を出したりしない」
「そうですか……まだ早いですよね」
いきなり手を出されたいわけではないがちょっと寂しさを覚えてしまう。
十分な性知識のない私には何をどうされるのか、正確な手順というものも分からず、情けないやり取りになった。
それからフェロッソはリビングで寝てもらうことにして、神崎さんの寝室に案内してもらった。
寝室にはベッドが二つあり、それが何故なのかは教えてはくれなかった。
往人さんから普段使ってない方のベッドを教えてもらい、今日はそこで寝かせてもらうことになった。
「お風呂、一人で入れるか?」
着替えを持っていなかったので、往人さんの大きめのサイズの私服を貸してもらい、お風呂に入ることになった。
「入れないって言ったら、一緒に入ってくれるんですか?」
「それは考えてなかった」
「そうだと思いました……。大丈夫ですよ、少し教えてもらえれば一人で入れますから」
一緒にお風呂に入るというイベントは次回に持ち越して、私は浴室内の配置や使っていいシャンプーやトリートメントなどを教えてもらい、疲れた身体をお風呂で洗い流すことにした。
往人さんの気配が消えたところで、半日近く着ていたサンタ服を脱いでいく。
恵美ちゃんと銭湯に行った時も周囲の視線が気になって緊張してしまったが、好きな人が暮らす家のお風呂を使わせてもらうのは、その時以上に恥ずかしい心境になった。
「邪念を振り払って、無心の境地で早くお風呂に入らないと!」
もし一緒にお風呂に入ったらどうなっていたのだろうか。
そんな危険な思考を振り払い、裸になって寒さから逃れるように浴室に入っていく。
何でだろう……こういう時に限って、普段考えもしないようなことまで考えてしまうのは。
「往人さん……往人さん……」
湯船に浸かりぬくぬくと身体を温め、何度も繰り返し往人さんの名前を呼ぶ。
通じ合えた気持ちを噛み締めるように繰り返していると、すぐにのぼせてしまいそうなくらい火照った気持ちに包まれた。
「恋人が出来ちゃった。信じられないね……真美。
私……これからもっとドラマみたいなこと、たくさんしちゃうのかな」
ほとんどの恋愛知識は映画やオーディオブックから得たものだ。
他の人が実際にどんな恋愛をしているのか、話しを聞いたことはほとんどない。
恋愛という関係は私にとって本当に未知の領域だった。
でも、好きという気持ちを抱えたまま想い続ける日々は辛く、切ないものだった。
気持ちを伝えたいと思っても、傷つくのが怖くて躊躇してしまうことが何度もあった。
それでも、伝えて良かったと思う。勇気を出してよかったと思う。
この想いが届いて得た、この満たされた感情は言葉では形容しがたい、唯一無二のものだ。
だから、これからも大切にしていかなければならない。
私を見つけてくれた、往人さんのためにも。
長い間、想いを募らせて、勇気を出して告白をした自分自身のためにも。
どこまでも一緒に幸せへの道を歩み続けたいから。
「分かっているよ……ちゃんと明日は真美に報告しに行くから。
往人さんを連れて行くから待っていて、あの日の砂浜で」
音が反響するお風呂場で私は明日のデートに向けて、思いを馳せた。
二人で向かうこれからの道はきっと幸せに繋がっている。
そう信じているから、私は往人さんとあの日の海岸を一緒に歩きたいと思った。
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