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第一話「魔女と魔王」1
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およそ30年前、WWW(World Wide Web)、長年親しまれ、人類の暮らしの一部として浸透したインターネット上で提供されているハイパーテキストシステムがAIにより生成された自動生産ウィルスプログラムによって、ついに全面利用停止に追い込まれるまでに破壊しつくされた。
同じく、同年に発生した一つの街を飲み込んだ蜃気楼のような原因不明の霧により引き起こされた未曾有の災厄により、街は14日間もの間、外界とのあらゆる干渉の断絶に襲われ、結果として多くの市民が犠牲となった。
この二つの事象をきっかけに大きな時代の変革が訪れ、社会は大きく変化していった。
本来、人類を助けるはずのAIが人類のためにならない事態が起き、AIが支配する情報管理社会や評価経済社会からの脱却への言論が高まると共に、グローバルネットワーク社会の中でビッグデータを収集し、それを活用したAI技術を利用した大手の民間サービスに対する反対運動が激しさを増し、それにより生まれた反対運動に伴う法改正、情報収集管理の正常化を目指した試みが時代の流れの中で続けられた。
そうした時代の変化の中で生まれた、個と個をより繋ぐ目的で作られた、人体を通して構成される新しいネットワーク社会の象徴ともいわれる生体ネットワーク。
重度行動障害の対策として期待され、同時に感染症対策としても打ち出された社会秩序の安定を目的とした次世代型ワクチン開発、接種循環システムは制度改革と一体して試みられ、精神疾患の患者を20年で3分のⅠまで減少させることに成功し、同時に医療費の削減にもつながる結果となった。
誰も予想できない時代の流れへと進み始めた人類は、未だ“本当の敵”の存在を明らかにすることのないまま、時代の針を回し続けていた。
*
西暦2059年4月10日
――――新しい転校生がやってくる。
そんな情報が突然に舞い込んで、凛翔学園三年生の漆原先生が担任を務めるクラスは朝から教室中がザワザワしていた。
三年生になってから転校して来るという時点で知枝はレアケースであったわけだが、そんな人がもう一人、同じクラスにやってくるというのは、一体どんな確率だろう。
漆原先生は持ち前の血の気の多い言動で朝から騒ぐ生徒たちを黙らせて、噂の転校生を教室に迎えた。
転校生が教室に入り、その姿が確認できると同時に、生徒達にはその人物が誰であるか分かるほど、転校してきた生徒は有名人だった。
「それじゃあ、自己紹介頼めるか」
漆原先生は教壇に連れてきた新たな転校生に声を掛けた。
呼ばれた転校生は黒いジャケットに身を包んでおり、スラっとした体形の堂々とした佇まいをしている男子生徒で、達也とほとんど変わらない大きな身長の上に整った顔立ちをしており、普段から美容院に通って手入れしているのが分かるほどに、髪もワックスが掛かって整っている。テレビや雑誌でしかその姿を見たことなかったクラスメイトにとって、”本物”を目の当たりにした衝撃は大きく、その容姿にほとんどの女子が見惚れて声が出ない状態だ。
「黒沢研二です。訳あって一年間、こちらで暮らすことになりました。以後お見知りおきを」
言葉数は少ないが、落ち着いた声色で話す彼の堂々とした振る舞いは、彼の経歴も含め、大衆の面前に慣れた威厳の感じるものだった。ただそこに立ち、口を開くだけで並の人間でないことが、そのオーラのようなものが、クラスメイトに浸透した。
そのカリスマ性はどこにいても変わらない。彼はこの場にいる人間の誰にでもわかるほどの国際的に活躍している有名な俳優だった。
(すごい人が転校してきたね……)
転校生の挨拶を聞いていた樋坂浩二の後ろの席から、永弥音唯花が小さく話しかけた。クラスメイトと同様に唯花も驚きの色を隠せないようだった。
転校生が席に着き、朝礼が終わって先生も教室を退出していくと、彼の元には遠慮がちに多くの生徒が集まって来ていた。
浩二の席からではその人気ぶりは伺えても会話のやり取りの内容までは読み取れなかったが、初日から驚くほどに注目の的になっていた。
「お姉ちゃん、転校生の黒沢さんとは知り合い?」
転校生の方をずっと見つめている稗田知枝の姿を心配して、水原光は声をかけた。
「ごめん、知り合いじゃないの、でも、ちょっと気になって」
知枝は訝しげに考える素振りを見せた。
「欧米で活動してた人だよね?」
「うん、私もアメリカにいた頃は、CMやドラマで見たことあるから」
国際的に活躍する転校生の姿はアメリカで暮らしながら一部始終を見てきた知枝にとっては、偶然にも日本で巡り合うことになったことで、不思議な気持ちになっていた。
「だよね、どうして急に日本に来たのかな?」
疑問ではあったが、光も知枝も海外の映画や洋楽で転校生のことは知っていたので、日本に来た理由に関して、気にはなるものの答えは見つからなかった。
「分からない、ずっと考えてるんだけど、どうしても思いつかなくって」
「そっか、お姉ちゃんでも分からないか……」
光も不思議そうに転校生の方を見る。今は人だかりになって黒沢研二の姿まで見ることが出来ない。急な転校といい、二人にとっても黒沢研二は謎の多い人物だった。
「今日は大人しいな? こういうことが起きたらいつもはすぐ首を突っ込むのに」
唯花が席から動かないのを不思議に思って、浩二は唯花に言った。
「私も、いつも野次馬やってるわけじゃないから……」
唯花は呆れた様子で首を横に振った。
お節介なところがある、面倒見のいい唯花は、こうした生徒を見つけると率先して話しかけに行くタイプであったが、今回はそうではなかった。
「そうなのか、でもどうして?」
「何だか、凄い人だって分かってるから、なかなか踏み込みにくいっていうのもあるんだけど、振る舞い方が、どこか上辺っぽいというか、何を考えてるのかわからない雰囲気の人だなって思って」
「海外暮らしが長いから緊張してるんじゃないか?」
「そういう風には見えないんだよね……、何て言えばいいんだろう、役者ってイメージが刷り込まれてるのかな……、常に本心を隠しているような、そんな気がして」
唯花は自分でもはっきりと言っていることが分からないのか、曖昧な言葉になった。
「でも不思議だよな、海外での仕事を放ってここに来たのかな」
「それは分からないけど、でも、そう簡単に自由になれないはずだよね……」
自分のことと重ねているのか、唯花は複雑そうな表情で言った。
同じく、同年に発生した一つの街を飲み込んだ蜃気楼のような原因不明の霧により引き起こされた未曾有の災厄により、街は14日間もの間、外界とのあらゆる干渉の断絶に襲われ、結果として多くの市民が犠牲となった。
この二つの事象をきっかけに大きな時代の変革が訪れ、社会は大きく変化していった。
本来、人類を助けるはずのAIが人類のためにならない事態が起き、AIが支配する情報管理社会や評価経済社会からの脱却への言論が高まると共に、グローバルネットワーク社会の中でビッグデータを収集し、それを活用したAI技術を利用した大手の民間サービスに対する反対運動が激しさを増し、それにより生まれた反対運動に伴う法改正、情報収集管理の正常化を目指した試みが時代の流れの中で続けられた。
そうした時代の変化の中で生まれた、個と個をより繋ぐ目的で作られた、人体を通して構成される新しいネットワーク社会の象徴ともいわれる生体ネットワーク。
重度行動障害の対策として期待され、同時に感染症対策としても打ち出された社会秩序の安定を目的とした次世代型ワクチン開発、接種循環システムは制度改革と一体して試みられ、精神疾患の患者を20年で3分のⅠまで減少させることに成功し、同時に医療費の削減にもつながる結果となった。
誰も予想できない時代の流れへと進み始めた人類は、未だ“本当の敵”の存在を明らかにすることのないまま、時代の針を回し続けていた。
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西暦2059年4月10日
――――新しい転校生がやってくる。
そんな情報が突然に舞い込んで、凛翔学園三年生の漆原先生が担任を務めるクラスは朝から教室中がザワザワしていた。
三年生になってから転校して来るという時点で知枝はレアケースであったわけだが、そんな人がもう一人、同じクラスにやってくるというのは、一体どんな確率だろう。
漆原先生は持ち前の血の気の多い言動で朝から騒ぐ生徒たちを黙らせて、噂の転校生を教室に迎えた。
転校生が教室に入り、その姿が確認できると同時に、生徒達にはその人物が誰であるか分かるほど、転校してきた生徒は有名人だった。
「それじゃあ、自己紹介頼めるか」
漆原先生は教壇に連れてきた新たな転校生に声を掛けた。
呼ばれた転校生は黒いジャケットに身を包んでおり、スラっとした体形の堂々とした佇まいをしている男子生徒で、達也とほとんど変わらない大きな身長の上に整った顔立ちをしており、普段から美容院に通って手入れしているのが分かるほどに、髪もワックスが掛かって整っている。テレビや雑誌でしかその姿を見たことなかったクラスメイトにとって、”本物”を目の当たりにした衝撃は大きく、その容姿にほとんどの女子が見惚れて声が出ない状態だ。
「黒沢研二です。訳あって一年間、こちらで暮らすことになりました。以後お見知りおきを」
言葉数は少ないが、落ち着いた声色で話す彼の堂々とした振る舞いは、彼の経歴も含め、大衆の面前に慣れた威厳の感じるものだった。ただそこに立ち、口を開くだけで並の人間でないことが、そのオーラのようなものが、クラスメイトに浸透した。
そのカリスマ性はどこにいても変わらない。彼はこの場にいる人間の誰にでもわかるほどの国際的に活躍している有名な俳優だった。
(すごい人が転校してきたね……)
転校生の挨拶を聞いていた樋坂浩二の後ろの席から、永弥音唯花が小さく話しかけた。クラスメイトと同様に唯花も驚きの色を隠せないようだった。
転校生が席に着き、朝礼が終わって先生も教室を退出していくと、彼の元には遠慮がちに多くの生徒が集まって来ていた。
浩二の席からではその人気ぶりは伺えても会話のやり取りの内容までは読み取れなかったが、初日から驚くほどに注目の的になっていた。
「お姉ちゃん、転校生の黒沢さんとは知り合い?」
転校生の方をずっと見つめている稗田知枝の姿を心配して、水原光は声をかけた。
「ごめん、知り合いじゃないの、でも、ちょっと気になって」
知枝は訝しげに考える素振りを見せた。
「欧米で活動してた人だよね?」
「うん、私もアメリカにいた頃は、CMやドラマで見たことあるから」
国際的に活躍する転校生の姿はアメリカで暮らしながら一部始終を見てきた知枝にとっては、偶然にも日本で巡り合うことになったことで、不思議な気持ちになっていた。
「だよね、どうして急に日本に来たのかな?」
疑問ではあったが、光も知枝も海外の映画や洋楽で転校生のことは知っていたので、日本に来た理由に関して、気にはなるものの答えは見つからなかった。
「分からない、ずっと考えてるんだけど、どうしても思いつかなくって」
「そっか、お姉ちゃんでも分からないか……」
光も不思議そうに転校生の方を見る。今は人だかりになって黒沢研二の姿まで見ることが出来ない。急な転校といい、二人にとっても黒沢研二は謎の多い人物だった。
「今日は大人しいな? こういうことが起きたらいつもはすぐ首を突っ込むのに」
唯花が席から動かないのを不思議に思って、浩二は唯花に言った。
「私も、いつも野次馬やってるわけじゃないから……」
唯花は呆れた様子で首を横に振った。
お節介なところがある、面倒見のいい唯花は、こうした生徒を見つけると率先して話しかけに行くタイプであったが、今回はそうではなかった。
「そうなのか、でもどうして?」
「何だか、凄い人だって分かってるから、なかなか踏み込みにくいっていうのもあるんだけど、振る舞い方が、どこか上辺っぽいというか、何を考えてるのかわからない雰囲気の人だなって思って」
「海外暮らしが長いから緊張してるんじゃないか?」
「そういう風には見えないんだよね……、何て言えばいいんだろう、役者ってイメージが刷り込まれてるのかな……、常に本心を隠しているような、そんな気がして」
唯花は自分でもはっきりと言っていることが分からないのか、曖昧な言葉になった。
「でも不思議だよな、海外での仕事を放ってここに来たのかな」
「それは分からないけど、でも、そう簡単に自由になれないはずだよね……」
自分のことと重ねているのか、唯花は複雑そうな表情で言った。
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