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第十一話「唯花と研二」3

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 控室から移動し、撮影スタジオに着いて、手際よくスタッフが準備をしてくれる。
 先に到着した研二や他の役者はすでに準備ができているようで、唯花もそれに倣い準備を進めた。

 タオルのように柔らかい素材で覆われた目隠しを付けて、そのままVR空間の画面に切り替わる。その目に映る空間は、自然的なリアリティーを追求した理想的なデジタル空間のようなもので、手に持っていた台本も先ほどまで肉眼で視認してたものと、比較しても差が分からないほどだ。

 限りなくリアルに作り上げられたバーチャルな世界。

 リアルとバーチャルの違和感を限りなく失くし、疲労感を感じさせないように作り上げられた様々な工夫は取り付ける機器にも込められていて、ゴーグルやヘルメットのような重たく大きい機器は今は使われておらず、アイマスクのような軽くて柔らかい素材に代わり装着感は依然と比べて格段に良く変わっている。

 人間はもともと社会性のある生き物であることから、時代の変化に適合してこうしたVR空間に慣れていった。
 これがVR空間であるということ、嘘と本当の違いがほとんど見分けがつくのはもちろん、その作り上げられた嘘の部分にも時には心地よさや安らぎを感じるまでになった。

 世代間格差はあるものの、どちらかといえば居心地の悪さを感じるのはリアルの方が多いと話す人が多い。

 対面的なコミュニケーションの重要性が再三言われていたとしても、距離や時間、外見的な煩わしさを考慮すると、リアルの方にストレスの負荷を強く感じる研究データもある。
 その上で、ここにあるVR技術は最適化された理想の体現ともいえるが、自分たちの生きている世界を否定する危険をも孕んでいると、依然として警鐘を鳴らす人もいる。

 唯花の姿はいつも通り、まだデビューして間もないバーチャルアイドル天海聖華の姿に変わり、目に見える風景も、家具やインテリアも含めて撮影するシーンに合わせてイメージ通りに作り替えられている。

 VRの世界でも、服装以外はほとんど変化のない研二の姿が唯花にも映った。
 それが研二なりの自己表現であることは、周りも理解していることだった。

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