魔法使いと繋がる世界EP2~震災のピアニスト~

shiori

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第十九話「黄昏に暮れる病室」4

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 達也は真奈の呼吸が穏やかなものになるのを見届けると病室を出て、一通り今すぐできることを終えると、浩二に通話を掛けた。
 これ以上遠慮することもないだろうと達也は考えた。


「すまん、達也から掛かってきたみたいだ」


 遊園地を回る二人のもとに達也からの連絡が入った。
 浩二は羽月の手を放して、引っ張り出したイヤホンを耳に着けて通話を繋いだ。
 その様子を見た羽月の表情が固まって、じっと不安そうに浩二のことを見つめていた。


「浩二、真奈ちゃんをうちの病院に搬送させてある、早く浩二も来い」


 周囲の雑踏を搔き消すような、達也の重苦しいまでの報告。

 二人の事情を考慮せず、簡潔に言い放った真剣な達也の言葉に浩二の心が揺れた。

 達也は真奈が病室にいるとなれば、浩二はデートを中断せざるを得ないだろうと考えた。
 浩二にとっても羽月を納得させる言い訳にもなる。達也はそこまで考えて、このタイミングで連絡を入れた。

 浩二は隣に羽月がいる状況ではあるが、妹の一大事となればもはや無視出来る状況ではなかった。

「真奈は……、真奈は大丈夫なのか?」

 焦る気持ちの心境のまま浩二は達也に聞いた。

「今は眠ってる、唯花も一緒だ、分かるな? 待ってるぞ」
「うん……」

 信じたくない気持ちが残りながらも理性で納得させて、なんとか反射的に返事で声を出した浩二の言葉を聞くと達也そのまま通話を切った。

 急な連絡に動揺が浩二の中で広がった。
 浩二の目の前には羽月がいて、今の会話が聞こえていたのか、羽月の方から先に口を開いた。


「行っちゃうの? せっかく今日は誕生日だから、一日一緒にいてくれるって言ってくれたのに」


 切実な表情を浮かべ、身体にまで響くような冷たい言葉が浩二に重くのしかかった。

 この状況に至っては、一番大切なことを見失ってはならない。浩二は楽しい時間を取りやめて羽月に断り入れなければならなかった。


「真奈は家族なんだ、俺が守ってやらないといけないんだ」


 浩二は他に言いようがなく、羽月に正直に答えた。

「やっぱり、私がいると迷惑だよね……」

 羽月は目を伏せて、立ち尽くしたままで、もの悲しそうな表情でそう言った。

「そんなことはない、羽月は大切な俺の恋人だよ」

 その言葉を残して、振り返ることなくその場を立ち去ろうとする浩二の手を羽月は掴んだ。

「行かないで……っ、お願い、私も一緒に行くから」
 
 置いて行かれるのを恐れて声を振り絞るようにして羽月が言葉にすると、浩二も歩みを止めた。
 こんな状況で離れられて、孤独に耐えられるような羽月ではなかった。
 二人はそのまま無言のまま遊園地を出て、真奈のいる病院まで急いだ。



「真奈!!」

 内藤医院まで辿り着き、真奈の眠る病室まで入ると、浩二はベッドで眠る真奈のところまで行き声を掛けた。

 羽月は病室の入り口で邪魔にならないようその様子を見ていた。
 達也が病状を伝えると浩二は涙を滲ませながら、真奈のそばを離れなかった。

 時は過ぎて、夜になっても目覚める様子がないのを見て、その異常さを羽月も気付き始めた。

「薬の効果は効いている、明け方には目覚めるさ。唯花がすぐに見つけてくれたから処置が素早く済んだ。真奈ちゃんは我慢強い子だ、もうすぐ目覚めるよ」

 達也の説明に唯花も浩二も少し気持ちを落ち着かせることが出来た。

「唯花さん」

 病室の外で羽月は声を潜めるように唯花のことを呼んだ。
 浩二には聞かれたくないという意図が見えたので、唯花は病室を出て、話があるという羽月の傍に寄った。

「ごめんなさい、後のことをお願いできる?」

 羽月は憔悴しきったような、いたたまれない様子で唯花に言った。

「ええ、私はずっと見ているつもりだから」

 唯花は擁護するつもりはなかったが、羽月の体調も気遣って答えた。

「唯花さんも無理しないでね」
「うん、心配してくれてありがとう、羽月さんも無理しないで」

 普段、学園内で気軽に話し合えるほど仲が良いからか、こんな状況でも自然とお互いに労う言葉が出てきた。
 羽月が翻して病室の中の様子を一度ちらっと見てから離れていく。


「さよなら、私には荷が重すぎて背負いきれなかったわ」


 それは誰に対して言い残した言葉か、辛うじて声の聞こえた唯花には意味が分からなかったが、その言葉だけを残して羽月はとぼとぼと内藤医院から出ていった。

「羽月さん……」

 羽月が通り過ぎて行った廊下を眺めながら、唯花は呟いた。
 大きな心の穴が開いてしまったような、そんな心境を唯花は羽月から別れ際に感じ取った。



 交替で真奈の様子を見ながら、朝陽が登る頃になって、ようやく真奈は目を覚ました。

「おにぃ、来てくれてたですか?」

 達也の言葉通り目を覚ました真奈が、小さくか細い声でそう言うと、浩二の瞳からは一筋の涙が零れた。

「ごめんよ真奈、一人にさせて。寂しい思いをさせちまったな。
 頼りない兄貴だったよな……、ごめん」

「そんなことないのですよ。おにぃがまなのそばにいるのを、ずっと感じながら眠っていたのです。だから、泣かないでほしいのです」
 
 真奈の記憶には浩二に看病をしてもらった記憶もちゃんと残っている。

 その時の安心感を思い出したのか、浩二がギュッと握る手のぬくもりを感じながら、真奈は安心した様子だった。

「でも、みんなに囲まれてうれしいのです」

 やっと一息ついた三人、ようやく長い一日が終わったような感覚を覚えながら、退院の時まで交代で三人は面倒を見ることにした。
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