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第九話「止まない雨」1

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「浩二、買い物行くよ?」
「おう、今行くよ」

 浩二と唯花は夕食の買い出しに出掛けることとなった。
 玄関までやってきた浩二は防水性のあるスニーカーを履いて、玄関で待つ唯花と合流した。

「もう、のんびりしてる暇ないんだから」
「分かってるよ」

 水玉のワンピースを着て、後ろに髪をまとめた唯花が先に玄関を出て傘を差す。
 遅れてパーカーを着た浩二も玄関を出ると傘を差して、速足で唯花の横に立つと、二人はいつものように自然な足取りで買い出しのため商店街に向かって歩き出した。

「春雨かな、雨、止みそうにないね」
「あぁ、転ばないようにな」

 昼過ぎからポツポツと降り始めた雨は、段々と強さを増して、視界も悪くなるほどの悪天候となった。
 
「桜、散っちゃうかも、今年は綺麗に咲いてたのに」

 ローヒールブーツを履く唯花が寂しそうに雨の前では無力な桜の木を眺める。
 激しさを増す雨は容赦なく、雨風に濡れると花びらを地面へと落としていく。

「あぁ、週末の花見は怪しそうだな。そういえば、米はまだあったっけ?」

 桜が散る儚さは浩二も感じた。

「うん、大丈夫だと思う、なかったら配達かな」
「配達してもらうと高く付くだろ」
「そうだけど」
「また、必要な時は持ってやるから」
「うん、ありがと」

 ドローンによる配達は重量による価格変化が激しい。それは重量税の高騰による影響が大きいためで、少しでも安く済ませるため、日常的な買い物においては未だスーパーやコンビニエンスストアが生き残っている。

 買い物を一通り終えて、傘を差しながら浩二と唯花は帰り道を歩く。

「重くない?」
「大丈夫だよ、今日は少ない方だろ」
「そんなに普段、持たせてたっけ?」
「いや、一人で買い出し行く時の方が、たくさん持ってるってこと」
「そう、あんまり無理しないでね」

 長年、連れ添った関係でも、些細な会話は大切で、その距離感は変わることはなくても、浩二と唯花の会話は自然的なものとして続いていた。

 住宅街にある小さな公園、二人もよく遊んだことのある公園を浩二は不意に見つめて、こんな雨の中遊んでる子どもなんていないだろうなと心の中で思いながら、見たことのある人影に気が付いた。

「なぁ、あれって、稗田さんだっけ?」
「えっ?」

 浩二が視線を向けた先には、ブランコに座って雨に濡れる、黒いローブが特徴的な知枝の姿があった。

「本当、転校生の稗田さんだ」
「朝は元気だったよな、何かあったのか」
「そんなことより! ほら、行くよ!! このままじゃ稗田さん風邪引いちゃうよ!!」

 唯花は浩二の左手を掴んで引っ張ると、公園に入って知枝の元へと駆け寄った。

「稗田さん、大丈夫?」

 手に持った傘をもうこれ以上濡れないように知枝に掛けて、唯花は知枝に話しかける。知枝にはすでに生気はなく、返事もできないほどだった。

 知枝に傘を掛ける唯花を見て、浩二は近づいて、代わりに雨に濡れている唯花を自分の傘に入れた。二人で一つの傘に入ると狭くはあるが、この際そんなことも言っていられない。それに、これくらいのことは二人にとっては慣れていて、珍しいことでもなかった。

「あ、あなた方は……」

 心配そうに二人に見つめられている事に知枝が気付き、俯いていた顔を上げて力のない声色で呟く。何があったのかはわからなかったが、その光景は二人にとって痛々しいものであった。

樋坂浩二ひさかこうじ、今朝会っただろう? どうしたんだ?」
永弥音唯花えみねゆいか、稗田さん、大丈夫? こんな所にいちゃ、風邪引いちゃうよ」

 改めて自己紹介をして「浩二、買い物行くよ?」
「おう、今行くよ」

 浩二と唯花は夕食の買い出しに出掛けることとなった。
 玄関までやってきた浩二は防水性のあるスニーカーを履いて、玄関で待つ唯花と合流した。

「もう、のんびりしてる暇ないんだから」
「分かってるよ」

 水玉のワンピースを着て、後ろに髪をまとめた唯花が先に玄関を出て傘を差す。
 遅れてパーカーを着た浩二も玄関を出ると傘を差して、速足で唯花の横に立つと、二人はいつものように自然な足取りで買い出しのため商店街に向かって歩き出した。

「春雨かな、雨、止みそうにないね」
「あぁ、転ばないようにな」

 昼過ぎからポツポツと降り始めた雨は、段々と強さを増して、視界も悪くなるほどの悪天候となった。
 
「桜、散っちゃうかも、今年は綺麗に咲いてたのに」

 ローヒールブーツを履く唯花が寂しそうに雨の前では無力な桜の木を眺める。
 激しさを増す雨は容赦なく、雨風に濡れると花びらを地面へと落としていく。

「あぁ、週末の花見は怪しそうだな。そういえば、米はまだあったっけ?」

 桜が散る儚さは浩二も感じた。

「うん、大丈夫だと思う、なかったら配達かな」
「配達してもらうと高く付くだろ」
「そうだけど」
「また、必要な時は持ってやるから」
「うん、ありがと」

 ドローンによる配達は重量による価格変化が激しい。それは重量税の高騰による影響が大きいためで、少しでも安く済ませるため、日常的な買い物においては未だスーパーやコンビニエンスストアが生き残っている。

 買い物を一通り終えて、傘を差しながら浩二と唯花は帰り道を歩く。

「重くない?」
「大丈夫だよ、今日は少ない方だろ」
「そんなに普段、持たせてたっけ?」
「いや、一人で買い出し行く時の方が、たくさん持ってるってこと」
「そう、あんまり無理しないでね」

 長年、連れ添った関係でも、些細な会話は大切で、その距離感は変わることはなくても、浩二と唯花の会話は自然的なものとして続いていた。

 住宅街にある小さな公園、二人もよく遊んだことのある公園を浩二は不意に見つめて、こんな雨の中遊んでる子どもなんていないだろうなと心の中で思いながら、見たことのある人影に気が付いた。

「なぁ、あれって、稗田さんだっけ?」
「えっ?」

 浩二が視線を向けた先には、ブランコに座って雨に濡れる、黒いローブが特徴的な知枝の姿があった。

「本当、転校生の稗田さんだ」
「朝は元気だったよな、何かあったのか」
「そんなことより! ほら、行くよ!! このままじゃ稗田さん風邪引いちゃうよ!!」

 唯花は浩二の左手を掴んで引っ張ると、公園に入って知枝の元へと駆け寄った。
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