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第九話「止まない雨」2
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「稗田さん、大丈夫?」
手に持った傘をもうこれ以上濡れないように知枝に掛けて、唯花は知枝に話しかける。知枝にはすでに生気はなく、返事もできないほどだった。
知枝に傘を掛ける唯花を見て、浩二は近づいて、代わりに雨に濡れている唯花を自分の傘に入れた。二人で一つの傘に入ると狭くはあるが、この際そんなことも言っていられない。それに、これくらいのことは二人にとっては慣れていて、珍しいことでもなかった。
「あ、あなた方は……」
心配そうに二人に見つめられている事に知枝が気付き、俯いていた顔を上げて力のない声色で呟く。何があったのかはわからなかったが、その光景は二人にとって痛々しいものであった。
「樋坂浩二、今朝会っただろう? どうしたんだ?」
「永弥音唯花、稗田さん、大丈夫? こんな所にいちゃ、風邪引いちゃうよ」
改めて自己紹介をして知枝を心配を続ける。小さな身体が余計に可哀想な気持ちを募らせた。
「大丈夫です、心配なさらなくても。少し、一人になりたかっただけですから」
そう口にする知枝はとても弱々しく、重い悩みを抱えているように見え、二人にはとても大丈夫そうには映らなかった。
「駄目だよ、こんなところにいたら、風邪引いちゃうよ」
「いいんです、これは罰なんです、罪の深さを教えてくれているんです。だから、放っておいてくれていいんですよ」
「――――そんなこと、できないよっ!!!!!!」
一際大きな声で、唯花は言い放った。
驚いたように知枝が唯花のことを見る、唯花は今にも泣きだしそうな表情で、真っ直ぐに知枝のことを見つめていた。
「稗田さん、すごく苦しそう、きっといっぱい我慢してるんだよね? 何かに耐えようと必死に、そんなの放っておけるわけないよ!!!
だから、行こう? こんなところにずっといたら、本当に風邪引いちゃう、私たちでよければ、話し、聞くから」
唯花が世話焼きでお節介なところがあるのは昔からだった。
困っている人を見かけたら放っておけない、それを躊躇うことなく自然にすることができるのが唯花だった。
知枝は唯花の泣き出しそうな表情を見るのに耐えられなくなったのか、浩二の方を見た。視線が合わさって、それに気づいた浩二も口を開いた。
「遠慮するなよ、これから一年間、クラスメイトとして一緒に通うんだろ?」
浩二は慣れない相手だったが出来るだけ優しく声を掛けた。唯花の性格の影響もあって浩二も本質的には困っている人を見つけたら見捨てられないところがあった。
さらに強さを増し、降りしきる雨の中、ようやく知枝は立ち上がったが、すでに衰弱しているのかよろけそうになった。
「おい、大丈夫か」
よろけて倒れそうになる知枝のことを浩二は腕を掴んでなんとか両手を使って胸に抱き寄せた。
「あっ、ごめんなさい……」
知枝は遠慮がちに小さく呟く。知枝はもう、浩二の傘の中に入っていた。
「すみません、もう、自分で立てますので、このままじゃ樋坂くんが濡れてしまいます」
「あっ、ごめん、無理するなよ」
浩二は距離の近さに動揺しながら手を離す、唯花はその様子をジト目で見ていた。
「エッチ」
「ふ、不可抗力だよっ!」
動揺する浩二を見て怪しむ唯花に、浩二はなんとか言い訳をした。
二人より身長が低く、幼く見えるが、女性として年相応の成長をしている知枝の身体に色気がないわけではなかった。
唯花は知枝を自分の傘に入れて、浩二と家路へと向かった。
力なく歩く知枝のことを心配しながら、無理に話しかけることも出来ないまま、とりあえず、浩二の暮らす樋坂家まで向かうことにした。
「うちには妹の真奈しかいないから、安心していいぞ」
「私も隣近所だから、心配しないで、着替えとか用意するから」
家に着く前にそう話したが、知枝は返事をできなかった。
(私、また迷惑かけてる、どうして……。少しは大人になったつもりだったのに……。
私の覚悟なんて、全然大したことない。こんなことで落ち込んで、また迷惑かけて、強がってばっかりで、本当に弱いままだ……。ごめんなさい、おばあちゃん)
知枝はいくら反省してもし足りないほどの自責に苛まれた。身体は濡れて服は重くなり、傘を差されながらも気持ちは沈んでいた。
手に持った傘をもうこれ以上濡れないように知枝に掛けて、唯花は知枝に話しかける。知枝にはすでに生気はなく、返事もできないほどだった。
知枝に傘を掛ける唯花を見て、浩二は近づいて、代わりに雨に濡れている唯花を自分の傘に入れた。二人で一つの傘に入ると狭くはあるが、この際そんなことも言っていられない。それに、これくらいのことは二人にとっては慣れていて、珍しいことでもなかった。
「あ、あなた方は……」
心配そうに二人に見つめられている事に知枝が気付き、俯いていた顔を上げて力のない声色で呟く。何があったのかはわからなかったが、その光景は二人にとって痛々しいものであった。
「樋坂浩二、今朝会っただろう? どうしたんだ?」
「永弥音唯花、稗田さん、大丈夫? こんな所にいちゃ、風邪引いちゃうよ」
改めて自己紹介をして知枝を心配を続ける。小さな身体が余計に可哀想な気持ちを募らせた。
「大丈夫です、心配なさらなくても。少し、一人になりたかっただけですから」
そう口にする知枝はとても弱々しく、重い悩みを抱えているように見え、二人にはとても大丈夫そうには映らなかった。
「駄目だよ、こんなところにいたら、風邪引いちゃうよ」
「いいんです、これは罰なんです、罪の深さを教えてくれているんです。だから、放っておいてくれていいんですよ」
「――――そんなこと、できないよっ!!!!!!」
一際大きな声で、唯花は言い放った。
驚いたように知枝が唯花のことを見る、唯花は今にも泣きだしそうな表情で、真っ直ぐに知枝のことを見つめていた。
「稗田さん、すごく苦しそう、きっといっぱい我慢してるんだよね? 何かに耐えようと必死に、そんなの放っておけるわけないよ!!!
だから、行こう? こんなところにずっといたら、本当に風邪引いちゃう、私たちでよければ、話し、聞くから」
唯花が世話焼きでお節介なところがあるのは昔からだった。
困っている人を見かけたら放っておけない、それを躊躇うことなく自然にすることができるのが唯花だった。
知枝は唯花の泣き出しそうな表情を見るのに耐えられなくなったのか、浩二の方を見た。視線が合わさって、それに気づいた浩二も口を開いた。
「遠慮するなよ、これから一年間、クラスメイトとして一緒に通うんだろ?」
浩二は慣れない相手だったが出来るだけ優しく声を掛けた。唯花の性格の影響もあって浩二も本質的には困っている人を見つけたら見捨てられないところがあった。
さらに強さを増し、降りしきる雨の中、ようやく知枝は立ち上がったが、すでに衰弱しているのかよろけそうになった。
「おい、大丈夫か」
よろけて倒れそうになる知枝のことを浩二は腕を掴んでなんとか両手を使って胸に抱き寄せた。
「あっ、ごめんなさい……」
知枝は遠慮がちに小さく呟く。知枝はもう、浩二の傘の中に入っていた。
「すみません、もう、自分で立てますので、このままじゃ樋坂くんが濡れてしまいます」
「あっ、ごめん、無理するなよ」
浩二は距離の近さに動揺しながら手を離す、唯花はその様子をジト目で見ていた。
「エッチ」
「ふ、不可抗力だよっ!」
動揺する浩二を見て怪しむ唯花に、浩二はなんとか言い訳をした。
二人より身長が低く、幼く見えるが、女性として年相応の成長をしている知枝の身体に色気がないわけではなかった。
唯花は知枝を自分の傘に入れて、浩二と家路へと向かった。
力なく歩く知枝のことを心配しながら、無理に話しかけることも出来ないまま、とりあえず、浩二の暮らす樋坂家まで向かうことにした。
「うちには妹の真奈しかいないから、安心していいぞ」
「私も隣近所だから、心配しないで、着替えとか用意するから」
家に着く前にそう話したが、知枝は返事をできなかった。
(私、また迷惑かけてる、どうして……。少しは大人になったつもりだったのに……。
私の覚悟なんて、全然大したことない。こんなことで落ち込んで、また迷惑かけて、強がってばっかりで、本当に弱いままだ……。ごめんなさい、おばあちゃん)
知枝はいくら反省してもし足りないほどの自責に苛まれた。身体は濡れて服は重くなり、傘を差されながらも気持ちは沈んでいた。
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