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第2話 話の始まり
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アルバ国にあるヴェルディーレ伯爵家の当主、ダンドール・ヴェルディーレは由緒正しい貴族の血統である。
彼は単に爵位に分け隔てないだけでなく、平民への敬意も忘れない性格をしていた。
彼は学園で出会ったボルツェーノ男爵家の女性に一目惚れし、熱烈なアピールを繰り返した末、婚約するに至った。
それが、現在の彼の妻、ルアンナ・ヴェルディーレである。
ルアンナは彼の人柄に惚れ込んでおり、現在も夫婦仲が良い。
長男のギルガルドは昔はよく笑う子供だった。
しかし、突き放すように手厳しく育てられた為か、いつしか表情が読めない、冷酷な人間に育った。
勿論、ダンドールは元々そんなつもりはない。
次期当主として足元を見られないようにと、子への愛情ゆえのことであったのだ。
第一子ということもあり、教育の仕方を間違えてしまった。
気づいた時には手遅れで、手の施しようがない状態にまでなっていた。
加えて、両親はそんな彼にどう接すれば良いか分からず、ギルガルドとの家族の溝は深まるばかりだった。
その結果、家族さえも彼のことは未だによく分かっていない。
対して、長女のフィリーネはギルガルドとは違った。
彼女は元より努力家であった。
それ故に自分から進んで作法やマナーを学び、年齢や爵位に見合わない程の美貌と上品さを併せ持つ淑女に成長した。
その為、婚姻を求める声も少なくないらしい。
彼女はマリアンナよりも少し早くに学園に通っていて、今は寮で生活している。
学園の長期休み期間中はヴェルディーレ家本邸に帰ってくるという。
そして、次女のマリアンナだ。
彼女はダンドールの愛するルアンナに似通っている容貌や声色をしていたのだ。
両親も無意識に最も愛情を注ぎ、彼女を甘やかして育てた。
その結果が、社交界にも子供3人の中で唯一出ない、という異常事態だ。
これは、ダンドールが猛反対したのだった。
社交界は様々な思惑が交錯する、言わば戦場のようなものだ。
そんなところに幼い娘を入れるわけにいかない、と言い張ったのだ。
しかし、そんな彼女も今年14歳を迎え、再来年には学園に入学しなければならない。
そこで3年間の学園生活を過ごすことになるという。
アルバ国は古くから続く大国である。
しかし、他の国とは遥かに異なり、政略結婚より恋愛結婚が多い。
それでも貴族と平民間での結婚は難しいとされており、殆どは家紋の名誉を守る為、貴族同士で結婚する。
即ち学園という所は、貴族たちにとって結婚相手を探す大きな舞台であった。
実際には、主に魔術や剣術を学ぶ所である。
貴族のマナーや作法などについては、ふつう幼い頃から専属の教師に教え込まれる為、その手の授業が少ないのだ。
しかし、戦闘の心得を身に付けることに意義を感じる貴族は少なく、真面目に受けない者が多い。
彼らは、学園に入学する前に魔昌石で属性を調べる。
そして適性にあった魔術を学ぶことができる。
魔術は大きく炎、水、森、光、闇の五属性に分かれる。
光と闇属性は稀にしか出現せず、その中でも『光』は皆が欲した。
何故ならば、光が発現した者には地位や名誉が確立され、神に近い存在として崇め奉られるからだ。
反対に『闇』は不吉の象徴として人々に忌み嫌われた。
これらは、数百年以上前に起こった事件が由来している。
一つの呪いによって、世界中を混乱に陥れた男がいた。
男は悪事が表沙汰になるまで、犯行を繰り返していた。
その男が闇属性の魔術を使っていたことが後に判明したのだ。
光属性を持つ者が神の御告げを聞いたことがきっかけだった。
そして、呪いや傷のようなヨゴレを跳ね退け、男の闇を打ち払った、と伝承には記されているのだ。
現在では、『光』を持つ者の中で、神の声を聞くことが出来る女性が極稀に現れるのだという。
人々はその人を『聖女』と呼んでいる。
***
メイはマリアンナの身支度を整えながら、そんなことを不信がりながらも教えてくれた。
彼女の中で、転生したという事実がより現実味を帯びた。
話を聞けば聞く程、不思議と聖花の緊張は解れていった。
身体に馴染むかのように、話がじんわりと彼女の中に浸透していく。
ただ、聖花にはどうも初めて聞いた話には思えなかった。
「お嬢様、お話はそろそろ終わりにしますね。身支度が整いましたので、朝食に向かいましょう。
伯爵夫妻様、ご子息様がお待ちですよ」
聖花が考え込んでいると、メイが話を止めた。
どうやら用意ができたようだ。
聖花はゆっくりと腰を上げて、部屋を出た。
メイを後ろに連れて食卓へと向かう。
何故か、食卓がどこにあるのかが分かったのだ。
更に彼女は、以前のマリアンナの立ち振舞を少し思い出していた。
◆
さて、アルバ国内に奏は入っていた。
ルーツから心配され、少しの金銭を貰って彼と別れた彼女はは、早速ギルドに訪れた。
大抵の貴族からの依頼はギルドを通している。
国周りの整備を行ったり、薬の原料を採集したりと、何かと役に立つ所で、登録者は多い。
それだけでなく、様々な情報も行き来する。
「‥‥先ずはお金を集めないと」
奏は計画の為に必要な魔道具や薬の値段を見て愕然とした。
想像以上に高い。
‥‥ルーツに貰った金額も相当だったが、それには遠く及ばなかった。
奏は第一目標として、お金集めに専念することにした。
ついでに、自身の適正魔術の練習も兼ねて。
奏がギルド登録している間、ルーツはそこには来なかった。
実は、傭兵の仕事もここで受けているのだが、何かが可笑しい。
奏は終ぞそんなことに気がつくことはなかった。
アルバ国にあるヴェルディーレ伯爵家の当主、ダンドール・ヴェルディーレは由緒正しい貴族の血統である。
彼は単に爵位に分け隔てないだけでなく、平民への敬意も忘れない性格をしていた。
彼は学園で出会ったボルツェーノ男爵家の女性に一目惚れし、熱烈なアピールを繰り返した末、婚約するに至った。
それが、現在の彼の妻、ルアンナ・ヴェルディーレである。
ルアンナは彼の人柄に惚れ込んでおり、現在も夫婦仲が良い。
長男のギルガルドは昔はよく笑う子供だった。
しかし、突き放すように手厳しく育てられた為か、いつしか表情が読めない、冷酷な人間に育った。
勿論、ダンドールは元々そんなつもりはない。
次期当主として足元を見られないようにと、子への愛情ゆえのことであったのだ。
第一子ということもあり、教育の仕方を間違えてしまった。
気づいた時には手遅れで、手の施しようがない状態にまでなっていた。
加えて、両親はそんな彼にどう接すれば良いか分からず、ギルガルドとの家族の溝は深まるばかりだった。
その結果、家族さえも彼のことは未だによく分かっていない。
対して、長女のフィリーネはギルガルドとは違った。
彼女は元より努力家であった。
それ故に自分から進んで作法やマナーを学び、年齢や爵位に見合わない程の美貌と上品さを併せ持つ淑女に成長した。
その為、婚姻を求める声も少なくないらしい。
彼女はマリアンナよりも少し早くに学園に通っていて、今は寮で生活している。
学園の長期休み期間中はヴェルディーレ家本邸に帰ってくるという。
そして、次女のマリアンナだ。
彼女はダンドールの愛するルアンナに似通っている容貌や声色をしていたのだ。
両親も無意識に最も愛情を注ぎ、彼女を甘やかして育てた。
その結果が、社交界にも子供3人の中で唯一出ない、という異常事態だ。
これは、ダンドールが猛反対したのだった。
社交界は様々な思惑が交錯する、言わば戦場のようなものだ。
そんなところに幼い娘を入れるわけにいかない、と言い張ったのだ。
しかし、そんな彼女も今年14歳を迎え、再来年には学園に入学しなければならない。
そこで3年間の学園生活を過ごすことになるという。
アルバ国は古くから続く大国である。
しかし、他の国とは遥かに異なり、政略結婚より恋愛結婚が多い。
それでも貴族と平民間での結婚は難しいとされており、殆どは家紋の名誉を守る為、貴族同士で結婚する。
即ち学園という所は、貴族たちにとって結婚相手を探す大きな舞台であった。
実際には、主に魔術や剣術を学ぶ所である。
貴族のマナーや作法などについては、ふつう幼い頃から専属の教師に教え込まれる為、その手の授業が少ないのだ。
しかし、戦闘の心得を身に付けることに意義を感じる貴族は少なく、真面目に受けない者が多い。
彼らは、学園に入学する前に魔昌石で属性を調べる。
そして適性にあった魔術を学ぶことができる。
魔術は大きく炎、水、森、光、闇の五属性に分かれる。
光と闇属性は稀にしか出現せず、その中でも『光』は皆が欲した。
何故ならば、光が発現した者には地位や名誉が確立され、神に近い存在として崇め奉られるからだ。
反対に『闇』は不吉の象徴として人々に忌み嫌われた。
これらは、数百年以上前に起こった事件が由来している。
一つの呪いによって、世界中を混乱に陥れた男がいた。
男は悪事が表沙汰になるまで、犯行を繰り返していた。
その男が闇属性の魔術を使っていたことが後に判明したのだ。
光属性を持つ者が神の御告げを聞いたことがきっかけだった。
そして、呪いや傷のようなヨゴレを跳ね退け、男の闇を打ち払った、と伝承には記されているのだ。
現在では、『光』を持つ者の中で、神の声を聞くことが出来る女性が極稀に現れるのだという。
人々はその人を『聖女』と呼んでいる。
***
メイはマリアンナの身支度を整えながら、そんなことを不信がりながらも教えてくれた。
彼女の中で、転生したという事実がより現実味を帯びた。
話を聞けば聞く程、不思議と聖花の緊張は解れていった。
身体に馴染むかのように、話がじんわりと彼女の中に浸透していく。
ただ、聖花にはどうも初めて聞いた話には思えなかった。
「お嬢様、お話はそろそろ終わりにしますね。身支度が整いましたので、朝食に向かいましょう。
伯爵夫妻様、ご子息様がお待ちですよ」
聖花が考え込んでいると、メイが話を止めた。
どうやら用意ができたようだ。
聖花はゆっくりと腰を上げて、部屋を出た。
メイを後ろに連れて食卓へと向かう。
何故か、食卓がどこにあるのかが分かったのだ。
更に彼女は、以前のマリアンナの立ち振舞を少し思い出していた。
◆
さて、アルバ国内に奏は入っていた。
ルーツから心配され、少しの金銭を貰って彼と別れた彼女はは、早速ギルドに訪れた。
大抵の貴族からの依頼はギルドを通している。
国周りの整備を行ったり、薬の原料を採集したりと、何かと役に立つ所で、登録者は多い。
それだけでなく、様々な情報も行き来する。
「‥‥先ずはお金を集めないと」
奏は計画の為に必要な魔道具や薬の値段を見て愕然とした。
想像以上に高い。
‥‥ルーツに貰った金額も相当だったが、それには遠く及ばなかった。
奏は第一目標として、お金集めに専念することにした。
ついでに、自身の適正魔術の練習も兼ねて。
奏がギルド登録している間、ルーツはそこには来なかった。
実は、傭兵の仕事もここで受けているのだが、何かが可笑しい。
奏は終ぞそんなことに気がつくことはなかった。
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