紅い騎士の物語

アヴァン

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航海の後悔

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 その船は僕らの乗っていた船の五倍くらいデカかった。僕らの船も三人にしては大きい方ではあったのだが、何人も乗せるとなると手狭だったのかもしれない。そして、この船は何十人レベルの人員がいるともなれば、その大きさにも納得がいく。

「あー、あいつらやられたのかなぁ?」
「奴らが沈めたってことはそういうこったろ。どうせもともと捕虜だったんだ。使い捨てだよ」
「それもそうだなぁ。ガハハハハハ」

 気色悪いおっさんの声が聞こえる。どうやら、僕の飛び乗った音は聞こえてないようだ。気配をできるだけ殺して、僕は船内へのルートを模索する。

 甲板の上には既に二十人くらいの船員が至る所にいた。海面を凝視している者。周囲を望遠鏡で覗いている者。サボっているのか、談笑している者などだ。自分たちが襲われることなど考えてもいないのだろう。遠くの敵に対しての注意はあるようだが、今襲った敵に関しての注意は散漫だ。

 しかし、このままでは船内への侵入が難しい。船内からは少しずつ船員が上ってきているため、今入ろうとしたら鉢合わせになってしまう。他にルートらしきものはないし、どうしたら……。

 とりあえず謎の感知能力で船内の様子を探る。ふむふむ、船内にもかなりの数がいるようだ。ざっと五十人くらいだろうか。多いのか少ないのかわからないが、戦力差は圧倒的だ。と、その中で特異な反応を察知する。

 それは、人ではない人外の気配。周囲の反応より異質な感じだ。思えば、さっきの戦闘では、人以外の感覚というのが分からない未知の気配だったからわからなかっただけで、今ならその気配を正確に察知することができる。

 ここから……船の後方。その下の下。あの辺りだな。

 音を殺して僕はその場所らしきところへと向かう。そこには窓らしきものがあり、そこから中の様子が見えた。
 派手な装飾が施された絵画や、凝ったデザインの机に椅子。時計などはアンティークものだろうか、現代ではあまり見ないタイプの形をしている。そして、一際目立つのが、その大きな水槽だった。

 水槽の中には鎖で両手を繋がれた人魚が弱っているようにうなだれている。それをただぼんやりと眺めているむさいおっさんがそこにはいた。

 大きな椅子に座って上半身裸の人魚を見ているのか……間違いない。この男、変態だ。

「先手必勝……」

 バリィン! 

 窓ガラスを蹴破って中へと入る。驚いているおっさん。しかし、相手が構えるより先に僕は剣でその首を一閃する。

 バシュゥゥゥゥゥ!
 
 首がはね飛び、体だけが椅子に座ったままになる。グロイ。それに気づいた人魚は驚いた表情で僕を見る。

「あ、あなたは……?」

 水槽で閉じ込められているというのに声は聞こえる。しかし、今は時間がない。おそらく、音を聞きつけてこの部屋に海賊が向かってくるだろう。とりあえず、ドアのカギを壊し、その辺の家具で入口を塞いだ僕は人魚の水槽へと向かう。

「…………」

 どうしようかな。水槽を壊すべきか、それとも鎖から壊すべきか。鎖から壊した方がいいんだろうけど、鎖を斬るためには水槽を壊すしかなくて……。じゃあやっぱり水槽?

 剣を持って思案していたのだが、人魚からみたらなにやら変な事を考え込んでいると思っていたようで。

「……あ、あなた私の胸を見て……、へ、変態! 鬼畜! ムッツリスケベ!」
「誰が変態じゃぁ!」
「キャァァァ!」

 男のプライドと怒りの一閃が水槽を壊す。そして、その中の手枷の鎖までも一刀両断した。
 バシャア!と水槽の水がこぼれる。手枷から解放された人魚は放心していた。

「あ、あれ……?」
「はっきりと言う。僕は今の一瞬で君の事が嫌いになった」
「!? はぁ!? あたしだって……」
「問答無用」
「きゃぁ!」

 人魚を抱えた僕は窓に向かって走り出す。なにやら可愛らしい声が聞こえたが、そんなの気にしない。割れた窓ガラスから海のへと向かって大ジャンプを決行した。

 バシャァァァァァン!

 僕+人魚の二人分の衝撃と音が辺りに響く。意外と人魚は重い。太った叔母さんを抱えている気分だった。そんなことを考えているとは露知らず、その人魚は僕の腕の中でバタバタともがき始める。

「い、いい加減離しなさいよっ!」
「待て待て!いいから僕の話を聞け!」
「変態のいう事なんて聞く筈ないでしょ! なんでこうも陸の男は自分勝手なのよ!」
 
 ほう。助けてもらっておきながらこの態度ですか。このクソアマは。

 ドゴッ!

 人魚の顔面を僕は強打した。すると、人魚はその衝撃で気を失ったのか、体から力が抜けていくのがわかる。魚をしめる時にもまず気絶からだもんね。うん、僕は悪くない。

 心の中で言い訳をした僕はアンリ達のもとへと向かう。すると、アンリ達の姿はなく、そこには船の上から人魚たちを罵倒する海賊たちの声が。

「はぁぁ!? あの船には何もなかっただってぇ?」
「本当よっ!」
「そんなわけないだろぉ! あの規模の船ならそれなりの食料とかはある筈だ!何人いたんだよ!」
「…………三人よ」
「三人に十人強の海賊がやられる筈ねぇだろうがっ! それに、そんなバカな奴らがこの海域に入ってくる筈がねぇ!」

 言われてるよ、アンリにゼノさん。

「ほ、本当なのよ! 奴ら強くって……」
「そいつらはどうした!」
「海の藻屑よ……。ねぇ、いつまでこんなことさせるのよ!もういいでしょ!」
「はぁ? まだまだ足りねぇよ! あと五隻は船を奪わねぇとあんたらの王様は返せねぇなぁ!」
「そ、そんな……」

 なるほど。そういう感じね。だったらこうしよう。

「おーい! もう取り返したから!」

 僕は気絶した……、ええっと、名前何だっけ?

「ミリアネート様!」
「ああ、そうそう、それ」
「し、死んでる……?」

 気を失ったミリアネートを見た人魚たちは僕に向かって突進してきた。僕が殺したとでも思ったのか、それとも、助けられなかった僕を殺しに来たとか?たまんねぇぜ。

「ち、違うって! 気絶! 気絶してるだけだから!」
「えっ? あ、そうなのね……てっきり……」

 十二人の人魚はほっとした顔になる。僕もほっとした顔になった。

「でもなんで気絶してるの……?」
「ああ、僕が殴ったから」
「こ、こいつ!殺す! 絶対に殺す!」

 殺意の波動をビンビン感じます!

「仕方がなかったんだよ! 一々説明していたら敵が来ちゃうでしょ! だから一時的にだよ! 命を優先したんだ! 神に誓って本当だ!」
「ほ、本当でしょうね……? 後でミリアネート様に聞きますよ……?」
「ホントホント。マジのマジ、大マジよ」

 焦ってなんか変な言い方をしてしまった。すると、甲板から見ていた海賊がその様子を見ていたのか、他の海賊に向かってこう叫ぶ。

「お、オイ! 女王が逃げたぞ!」
「な、なんだと!?」
「ヤバい! 船長が殺された! 女王も逃げた!」
「クソぉ! 者ども! 武器を持って人魚共を撃ち殺せ!」

 数秒もしないうちに、拳銃を構えた海賊たちがワラワラと出てき始めた。そうだよなぁ。この時代に銃は普通だよなぁ。なんであの海賊たちは剣だったんだろう……。あ、反乱防止か。

 と、こんなことをしている場合ではない。とりあえず……どうしよう。

「き、君達は船とか持ってる?」
「船ですか?ありますけど……」

 あるんかい。だったらそれをいただくからこの船は沈めた方がいいね。

「じゃあこの船壊せる?」
「……難しいです。この船の船長は特別な力を持っており、船を自由自座に操れるのです。水中にも潜って潜水艦のようにもなりますし……」
「船長らしき人は殺したよ」
「!! …………みんな、聞いたね?」

 頷く人魚たち。そして、どこかへ向かった後、船の底からドンドンと鈍い音が響いてきた。おそらく、槍を取りに行ってそのまま船の破壊に着手したのだろう。いいぞ、もっとやれ。

 パン! パン! パン!

「うぉぉ! 危ねぇ!」

 水中では無力の僕は甲板から撃ってくる海賊の攻撃は防げない。マズい。このままでは死ぬ。と、そこへ一匹(?)の人魚が僕の手を掴んで海の中へと引きずりこんできた。

 そのまま殺すのか!? と慌てたのだが、その人魚は僕に口づけをして、肺に空気を送り込んでくれた。口と口での人工呼吸。思ったより何も思わないし、寧ろ苦しい。慣れない感覚にとにかく苦痛しかなかった。

 そこでようやくミリアネートが目を覚ます。突然、人魚と人間が口づけしているのだ。その慌てぶりは半端なく、僕と人魚の人工呼吸を邪魔しにかかる。しかし、ここで止められては僕は息が出来なくて死んでしまう。僕は必至でミリアネートを抑え込む。

「あ、あなたそこまでしてキスがしたいの!?」
「!? (ブルブル)」

 口づけしたまま僕が首を振っているのを、ミリアネートは人魚の口を堪能していたように受け取ったらしく、更に激高して僕を殴りにかかる。

「こ、この! 変態人間が!」
「…………」

 ドゴン!

 僕は何も言わずにミリアネートの顔面を殴る。それを今現在人工呼吸をしていた人魚は僕から離れ、慌ててミリアネートに近づく。

「だ、大丈夫ですか!?」
「…………」

 再度気を失ったミリアネートは勿論何も言わない。キッとした顔で僕を睨む。

「ぞんだがぼざででぼ……(そんな顔されても……)」
「じ、女王に手を上げるなんて……それも二度も……!」
「じじぶじじゅうびでだじゃぶ……(一部始終見てたじゃん……)」
「言い訳無用! どんなことがあろうとも、女王様を傷つけていい理由などありません!」
「じぶじん!(理不尽!)」

 さっきまで熱いキスをしていたとは思えない形相で近寄る。手に持った槍が怖い。というか息が切れる。あれですね。水中で無駄に話そうとするから早めに息が切れちゃった的な? 南無三……

 そこで僕の意識が途切れる。慌てふためく人魚の姿を最後に、僕は水中での溺死という情けない終わり方で人生の幕を下ろす。ああ、出来れば今度は陸の人とキスをしながら死にたい…………。











「…………ハッ!」

 気づけば僕は小舟の上に横たわっていた。僕を上から見つめるアンリとゼノが心配そうに僕を見つめている。波の揺れを直に感じながら僕は体を起こす。

「……あれからどうなったの?」

 直前での記憶はある。そうだ、僕は正常だ。異常なのは人魚共だ(白目)。

「そうね、海賊船は沈んだわ。奴らの残党は無事に人魚たちが駆逐したし、問題ないわね」
「無事に駆逐って……。やっぱり海の中じゃ海の男もひとたまりもないんだな」

 体の構造が圧倒的に違うからね。海の男も結局は陸の男なんだよ(白目)。

 そこへ、小舟の周りにわらわらと人魚たちが顔を覗かせてくる。人数的にも一人も欠けてない。優秀だな。

「こ、この度は何と言っていいのやら……」

 申し訳なさそうにミリアネートが話す。だいぶ落ち着いていることから、この状態が彼女の素なのだろうか。だとしても、あの錯乱したミリアネートの事を忘れられない僕は苦手意識がある。

「…………いいよ、これは取引だからね。君を助けたらなんでもいう事を聞いてもらうっていう」
「えっ?」

 ミリアネートが周りにいる人魚の顔を見渡す。人魚たちは申し訳なさそうに顔を背けるだけだった。その反応だけでもう真実は明らか。一目瞭然というやつである。

「あ、あなた達! 何も反省してないじゃない!」

「ご、ごめんなぁぁぁい!」
「ミリアネート様の為に仕方なくぅ!」
「他に手はなかったんですよぉ~!」

 確か人魚の涙って貴重じゃなかった? めっちゃこぼしまくってるんだけど。

「あ、あなた達……もう、バカなんだから……」

 ミリアネートは人魚たちを引き寄せて優しく抱きしめる。うんうん。イイハナシダナー。

「で、報酬の件だけど……」
「鬼ですね」
「鬼ね」

 何と言われようがこっちはボランティアでやってるんじゃないんだよ。命がけでやってるんだよ。何もしていないオマヌケさん二人に言われたくはないね。

「こ、この子をやるわ! ほら! あなた水中でき、き、キスをしちゃうくらい好きなんでしょ!」
「み、ミリアネート様!?」

 さっそく仲間を売るミリアネート……。うん、その潔さはいいと思う。でもね、このタイミングでそんなことを言わないで欲しい。アンリとゼノさんの視線が痛いから。

「ち、違うから。人工呼吸だから!ね!その……」
「ラティです……」
「うん、ラティ。君からも言ってくれよ!」
「確かに……この男が溺れかけていたので呼吸をさせてあげただけですが……」

 嫌そうに言わないで欲しい。人生初のキスなんだから。いや、昔の記憶ないけど。

「話を戻すけど……僕らはさ、カメリア国へと渡りたいんだ。それまでの食料の提供と、移動までの警護。そして、船を貸してもらえると尚助かる」
「そ、それだけでいいんですか……?」

 呆気にとられるミリアネート達。え、それだけって?

「今までの海賊とかは人魚を丸ごと何人も要求したり、沈没船の提供や他の海賊船を襲えなどの内容ばかりだったのに……」
「あー」

 言いそうだなー。だって海賊だもん。搾れるまで搾り取るよねー、多分。

「僕らはそこまで要求しないさ。別にお金稼ぎで海にいるわけじゃないしね。君達だってせっかく助かったのに、また奴隷みたいな事されたくないでしょ?」

「か、神様……」
「神の子だわ……」
「へんな仮面被ってるけどいい人……?」

 調子がいいね。あと最後の奴は一発殴るから顔を貸しな?

「まぁそういう事よ。さっさと肉とか持ってきなさい。人魚共」
「こちら側の女王はお腹を空かせて大変ご立腹です。至急肉の提供をオススメします」

 何もしてないアンリとゼノがしゃしゃり出る。 
 君達なんでそんな偉そうなの?

「は、はい! ただいま!」

 一斉に水中へと潜る人魚たち。いいね。行動が早い人……じゃないや、人魚は大好きだよ。


 ~ 五分後 ~


 水中から何かが浮き上がってくる。それは、沈没船のようだが、木造ではなく、鉄製の船で、近代国家さながらの立派なものだった。大きさは今までとは違い、小ぶりではあったが、本来三人の航海であるならばこれが妥当である。人魚たちにはそれがわかっていたらしい。

「おお! 凄いな!」

 思わず感嘆の声が出る。なんか海中から船が出るってロマンがあるよねー。

「こ、この船でよろしいですか?」
「うん。ありがとう。ミリアネートの事は嫌いだけど、この船は好きだよ」
「き、嫌いですって!? この私を!?」
「そういうとこだぞ」

 恥じらいとか、慎みとか、そういうものがないんだよ。いや、アンリもないけどさ。

 僕らはありがたくこの船を頂戴する。のりこんだ船には確かに食料らしきものも入っていた。入ってはいたのだが……

「うっわ、海水に浸ってるじゃん……」
「これは……酷いですね……」
「あー!私のお肉がぁー!」

 そりゃそうだよね。海に一度は落ちてるんだもん。というかさ、なんでこの時代に樽に肉とか入れてんの?普通缶詰とかでしょ?バカなの?

「まぁいいや……。一応まだ食えそうだし、火を入れますか。アンリ、お願い」
「はい? 魔道具とか全部沈んじゃったから無理に決まってるでしょ?」
「え……魔女ならなんか魔術で火を……」
「お生憎様。私の魔術って設置型だし、準備に相当時間かかるから無理ね」
「こ、この! 魔女のくせに魔法が使えないなんて詐欺じゃないか!」
「そっちこそ! 本来であればあの海賊船ごと奪う手筈じゃない! なんで沈めちゃうのよ!」

 全員と戦うよりも沈めた方が早いからだよ! それに、戦ってたら相手の武器が銃なんだから死んじゃうって!

「あ、あのぅ……」
「なんだよ! ええっと……カティ!」
「ラティです……。あなた達の沈んだ船から使えそうな物を拾っておいたのですが……」

 ラティは船の中にゴソゴソと物を投げ入れてくる。扱いが雑だが、その優秀な働きぶりに感謝しよう。

「ああー! これお気に入りの魔道具だったのよぉ! それにこれも……あなた達!やるじゃない!」

 なにやらよくわからない箱や球体の物を見てアンリは嬉しそうにしている。よかったね、でも僕にはどんなものかわからないから感動が薄いよ。

「ふっふっふ。あなた達にはわかないでしょうけどね。これはかなり使えるものよ!」
「そう? じゃあもういい? 行くよ? いいね?」
「……投げやり過ぎない?」

 こうして僕らは船に乗ってカメリア国を目指す。動力は何もない為、人魚たちが縄で引っ張って動かしてくれるようだ。あれだね。水中版の馬車だね。人魚だから人車?魚車?いや、人魚船か。










 結局のところ、食べ物は僕らの船にあった缶詰だけになってしまった。船を失い、人魚を手に入れた僕らは等価交換できただろうか。絶対に失った物の方が大きい気がする。

 どのくらい時間が経ったかわからないが、人魚たちの話ではあと三十分ぐらいで着くのだという。予定よりだいぶ早い。日が昇ってからすぐなので、日光の光がとても気持ちいい。

 アンリにどの辺に着くのかを聞いたところ、わからないそうだ。あの海図が無ければ全くの不明らしい。星の位置とかそんなのでわからないのか?と言ったら、「私は本が無ければ全くの素人よ!」と、胸を張って言われたものだから何も言い返せなかった。この場合は勿論呆れてだけど。

「そう言えばさぁ。僕って最初に人魚殺しちゃったじゃん?恨みとかないの?」

 カティだかラティだかわからないけど、そんな名前の人魚に話しかける。

「……全くないわけではありません。でも、元はと言えばこちらの方があなた方を襲ったわけですし、それに、女王まで助けられては何も言えないでしょう」

 つまり、ちょっとは恨んでる、と……。

「人魚ってさ、どうやって繁殖するの?」
「は、繁殖って……。まぁいいです。勿論、人を海に引きずりこんでです。海の中にある空気で満たされた場所に男を閉じ込め、そこでその……致します」
「結構野蛮なんだね」
「し、仕方がないでしょう! 私達はこういう生物なんですから……。今はいいですけど、私達にもその……周期がありまして……」
「発情期か」
「い、言い方に気を付けてください!!」

 そうは言ってもね。人魚とかたとえ上半身人間でも下半身は魚でしょ?魔物の類だよ……。

「やっぱり人を食べちゃうの?」
「まぁ、食べなくもない、ですかね。でも基本的には海の物を食べます。どうしてもお腹がすいた時に人も食べますけど……普通は食べませんよ」

 どういう消化器官をしているんだろうか。雑食なんだろうけど、神秘過ぎて想像もつかない。

「逆に聞きますけど……。あなたの強さは異次元です。声だけで同胞を殺すなんて、あなたは一体何者なんですか?」

 そこで今までボーっと海を見ていたアンリが呟く。

「ライトはね、千堂の一族よ」
「はぁぁぁぁ!?」

 ラティは心の底から絶叫する。うるさいよ。他の人魚に聞こえちゃうよ。君今休憩中なんでしょ?

「なんで最強の一族がここに……」
「色々あるのよ。私達にも。とりあえず言える事は、あなた達はライトを敵にした時点で負ける事は必然だったってことよ」

 あまり公言するなって言った本人が言っちゃうなんてな……。まぁ、人魚に話してもそんなに意味ないか。

「そんなに千堂って有名なの?」
「当たり前ですよぉ! 山の一族ですが、過去には海を渡る千堂もいて、今ではおとぎ話や伝説にもなってますから! その能力は勿論の事、能力以前に身体能力や戦闘センス、不意打ちだって全く効かないんですもん! あんなのバケモノの中のバケモノですよ!」

 いきなり饒舌に語ったと思ったら、貶しているのか褒めているのかわからない内容だよ。そんなこと言われてもピンとこないとこもあるけど。

「ふぅん……でもまぁ、確かに僕もいきなり実戦で戦えたし、そういうものなのかもなぁ……」
「?」
「色々あるのよ。私達にも」

 なんか悟ったような顔をしてるけどさぁ……僕は未だにわかってない事多いんだよ?

 すると、突然モジモジしだすラティ。指と指をつんつんしながら僕に話しかける。

「ええっと……ライトさんは今彼女さんとかいるんですか?」
「いや……いないと思うけど、何?」
「思う……? まぁいいです。もしいないんなら……私と……」

 あー、なるほど。最強の遺伝子を取り込みたいと。やっぱり魔物だね。思考回路が魔物だよ。でもよく考えたら人もそうか?好きになる人って頭がいいか、顔がいいかとかだし……。僕は一体何目線で考えてるんだ……。

「悪いけど、僕そういう気分じゃないから」
「!! (ガガーーン)」

 心底傷ついたような顔をするラティ。人魚の容姿は男受けがいいように本能的に、遺伝子レベルでそうなっている。だから、今までこの容姿を気に入らなかった男はいなかった。人生初の失恋にラティはショックを受けた。

「で、ではそちらの男性は……?」

 船の船首で前方を眺めているゼノに話しかける。

「私ですか?」
「はい、あなたももしや千堂……」
「残念ながら違います。吸血鬼と人間のハーフ。それが私です」
「「えっ?」」

 僕とラティはハモった。

「それに、私は主人を失った吸血鬼。親を失った吸血鬼は更に弱くなります。だから、私はちょっと夜に強いだけの普通の只人と相違ありません」
「そうなんだぁ……」
「え、なんでライトさんが知らないんです?」
「色々あるのよ。私達にも」

 色々ある。で済ませられると本当に思っているのだろうか。人魚に話すことはないけど、僕には聞く権利があると思うんだけどな……。

「荒金一族だっけ? 案外大したことはなかったね」
「ライト勘違いしてる? あれは荒金一族じゃないわよ?」
「え?」
「あれは普通の海賊。荒金一族はもっと強いわよ。なんか船長は特別な力を持っていたから、荒金の関係者かもしれないけれど、その他は普通の海賊だから、最弱の海賊ってわけ」

 道理で。海上で最強の一族っていえば戦艦とか乗ってそうなイメージだったのに、実際は昔ながらの海賊でおかしいとは思っていたんだ。時代遅れにもほどがあるよ。

「海賊にはあったけど、荒金ではなかったのか……。運がいいのか悪いのか」
「いいでしょ。無事にカメリアまで行けるんだし。それにホラ、あそこがカメリアよ」
「おお……見えてきた!」

 アンリが見ているその先に陸らしきものが見え始めていた。ここから僕らの新生活が始まるのか……。でも……。

「所持金ゼロで荷物も少し。やっぱり安全なルートで行くべきだったと今では思うね……」

 僕のひとり言は潮風に乗ってどこかへと飛んでいく。新天地でホームレス生活スタートになるのなら、人魚に連れ去られて養われた方がいいかもなー、と思わなくもないのであった……丸。









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