紅い騎士の物語

アヴァン

文字の大きさ
54 / 61

傭兵団

しおりを挟む


 おとうさん……おかあさん……


 燃え盛る建物を少年はただ見ている事しかできなかった。
 木造である二階建ての小さな家はごうごうと、更に勢いを上げて燃えていく。

 天気は快晴だというのに、目の前の現実は灰色でぼやけて見える。まるでその光景が現実ではないものであるように少年は感じたのだ。いつも通りに起きて、いつも通りにご飯を食べて、いつも通りに外のバケモノ共を二階から銃で駆逐する。それが、二年前からの少年とその家族の日課。第三次世界大戦という、終わりの見えない戦争の毎日だった。

 あの日からすべては変わった。機械と農業の町であるホルマンは、死霊とゾンビが蠢く地獄の町へと変貌したのだ。日中はゾンビに怯え、夜間は更に死霊も加わって町の住人を襲ってくる。食料の調達は大人の仕事だったが、それももはやどうしようもない。この区画にはもうその一家族しか住んでいなかったのだから……

 火の粉が爆ぜる音に反応したのか、それとも、燃え盛る火そのものに反応したのかわからないが、歩く死体、ウォーキングデッド、通称ゾンビがこの場所に続々と集まって来ている。

 (もう……ダメだ……ボクは……死ぬ……)

 手には一丁の拳銃と何発かの弾のみ。これを奴らにぶち込んでも、死の期限が少し伸びるくらいだろう。結局は奴らに取り押さえられて奴らの仲間入りする運命しない。それに、どうせ逃げれたところで……

 (ボクには……もう……居場所がないんだから……)

 ああぁぁ…… うああぁぁ…… 

 亡者の群れがもうすぐそこまで近づいて来ている。少年が覚悟を決めて自分のこめかみに銃を突きつけ、そして……

「もう死んでしまうのでござるか?」
「!!」

 後ろから声が聞こえる。びっくりして振り向くと、そこには全身黒い衣装で身を纏った若い男が首を傾げて少年をじっと見ていたのだ。
 少年が驚いて何も言えないでいると、その黒衣の男は独特な喋り方で再度話す。

「? 死にたければ早く死ねばいい。あれに噛まれて死ぬのが嫌なのでござろう?」
「お、お兄さんはだれ……?」

 黒衣の男は、あー、そうでござるよなー、と緊張感のない声でのんきにしている。あと数十秒程で完全に囲まれるというのに、何故そんなに余裕なのかが少年には心底不思議だった。

「名前は名乗らないでござるよ。拙者は忍者でござるからな。それで、お主の名前は?」

 口元を布で隠したその男は、確かに忍者のような恰好をしている。しかし、この少年には忍者という言葉は知っていても、どういう存在であるかはわからなかったので、奇妙な服装のお兄さんというイメージしか浮かばなかった。

「ぼ、ボクはセイル……」
「拙者が名乗らないと言ったのに、お主は律義でござるね……。うん、素直でよろしい! 人を疑う事を知らない子供だからこんな目に遭うのでござるな!」
「!!」

 一瞬、この男が何を言っているのかわからなかったが、自分がバカにされたのだけはわかった。それがどうしようもなく腹が立ったセイルは怒りを目の前の男にぶつける。

「な、何もわからないくせにっ! 関係ないくせにっ!」
「そうでござるなぁ。だから、ここでお主が死のうと関係ないでござるよ。ほら、お迎えでござるよ?」

 奴らはもう目の前まで迫っている。しかし、この男はそれでも逃げる様子がない。セイルは困惑して男に問う。

「お、お兄さんはどうしてにげないの……?」
「拙者の心配でござるか。哀れな」
「そ、そんな言い方はないでしょ!」
「……はぁ。逃げないのではなく、逃げる必要が無いからでござるよ」
「え……?」

 そして、ついにゾンビの一体が黒衣の男に手を伸ばそうとして……その手が落ちた。

「!?」
「時間切れでござるな。もうちょっと話してみたかったのでござるが……致し方なし」

 ジャキン!と、どこから取り出したのか。男の手には二本の小刀が握られており、曲芸のように小刀を空中で何回転もさせた後、再びキャッチして構える。そして、ゾンビの集団に突っ込んでいった。

 バシュ! バシュ! バシュ! バシュ!

 小刀が舞う。剣閃が煌めく。そして、首が飛ぶ。

 腐った肉と固まった血の塊が噴水のように宙を舞う。首を失ったゾンビ共は両手で何かを掴むような仕草をしながら地面に倒れこんでいく。十……二十……三十……。死体の山はどんどん増えていく。あっという間に大勢いた動くゾンビは、ものの数分で動かない死体へと変わってしまった。

 その圧倒的な強さと、動きの滑らかさにセイルはただ眺めることしかできなかった。

 セイルは男を見る。黒衣の男は血で汚れた小刀を布で丁寧に拭いており、呼吸を乱すことなくその場に立っている。さらに、その衣服には汚れた形跡がなく、あの血肉の中をどう躱せば汚さずにすんだのか、傍から見ていたセイルですらわからなかった。

 セイルは興奮して黒衣の男に近づく。

「お、お兄さん強いんだね!」
「……そうでござるね」
「た、助けてくれてありがとう! さっきは……ごめんなさい……」
「……感謝も謝罪も必要ないでござるよ。拙者はするべきことをしただけ。それに、お主はこれからどうするでござるか?」

(そ、そうだ……ボクには帰る家もないし……、で、でもこのお兄さんについていけば……!)

「あ、あの……ボクも一緒にお兄さんと……!」
「無理でござるな」
「! なんで……」
「お主は弱い。弱すぎる。在り方も、生き方も、何もかもが。この乱世の時代に誰かを頼らなければ生きていけない子供など、拙者には助ける義理などないでござるよ」
「そ、そんな……」

(で、でもボクはまだ子供なんだし……)

 セイルがそう考えていると、心の中を見透かしたかのように黒衣の男はセイルを侮蔑するかのような目で見下ろして言う。

「……そのような甘い考えではこの世は生きてはいけないでござる。お主はもはや一人きり。一人で生きて、一人で考え、一人で悩む。そう運命は決まったのであるから、そうするがいいでござるよ」
「あ、待って!」

 黒衣の男はそう言うとどこかへと走り去ってしまった。後に残るは燃え尽きた家の残骸と、死体の山。そして、手にはやはり拳銃が。

 (ボクは…………)















「あーー!ついたぁーー!」

 僕はやっと揺れない地面に立っている事を実感して、両手を空に伸ばしながら背伸びをする。
 アンリとゼノもそれに倣って背伸びをし、深呼吸をした。

「あー!いいわねぇー! 潮の香りが……もううんざりよっ!」
「まだ陸地に着いただけじゃないですか!」

 やけにテンションが高い二人。ちょっと見ていて面白い。
 後ろには短時間ではあったが、十数人の人魚がここまで連れてきてくれた。ミリアネートとその配下たち。思えば……

「ヤバい、何にも感慨深くなくて自分でもびっくりだよ」
「? ライトは時々変なこと言うわねー」

 アンリに言われたらおしまいだよ。でも一応彼女たちには礼を言っておかないとね。

「ありがとう、ミリアネート。そして、みんなも。取引とはいえ、ここまで引っ張ってくれたことには感謝するよ」
「どうという事ではないわ。助けられた恩を考えればお安い御用ね。次何かあれば、少しなら手伝ってあげなくもないわよ?」
「あーはいはい。そうだね」
「なっ! 私が下手に出たらあなたという人は……!」
「うんうん。そうだよね。じゃあカティ、またね」
「ラティです……」

 プンスカと怒った女王一名と、しょぼくれた人魚一名はすごすごと海の中へと帰っていった。それを困った様子の人魚が追いかけているのを尻目に、僕らは町の方へと目指す。

「アンリ。ここはどこ?」
「人魚の言っていた通りならホルマンって町ね。それなりに栄えていた町だったけど、今はどうなっているのか見当もつかないわ」

 見当もつかない。とは言っているが、目の前に広がる風景は殺風景だ。港のような場所ではあるが、壊れた船や、大きな倉庫がずらりと並んでいるだけ。今現在使われている様子はないから、もう廃れてしまっているのだろう。

 僕らはとりあえず、もっと奥の方へと散策することにした。海岸沿いを探ってもいいのだが、今は海からなるべく離れたかった。

 しばらく時間も忘れて歩き続けると、ようやく町のような場所を発見する。ようなと表現したのには訳があり……

「ご、ゴーストタウンじゃないかっ!」
「なんてこと……私達何もないのに……」
「まったくです……もう缶詰しかありませんよ……」

 廃墟。廃墟。廃墟。

 見渡す限りの廃墟ばかりで、人が住んでいそうな形跡はまったくない。まるで映画に出てくるワンシーンのようだ。その世紀末な雰囲気に僕らの希望はターミネートされた。

 しかし、とどまってばかりもいられない。今はとにかく食料を探さなければ。あと、水も。

「はぁ……人はさ、水がないとすぐ死んじゃうんだよ……?」
「わかってるわよ……でもしょうがないじゃない。人魚たちが拾ってきてくれた飲料水はちょっとしかなかったんだから……」
「人魚って海の水でもいいんですね……普通に考えればわかることなんですが……」

 思い出したように僕らは喉が渇く。手持ちの水では今日をしのぐくらいの量しかない。よく考えたら、上陸した所が人の活気に溢れているなんて都合のいい考えだろう。甘い、全てが甘い。想定が甘すぎるよ。

 しばらく建物の周囲を散策したり、中に入って食べられそうな物を探していくが、何も見当たらない。本当に困った。いざとなれば、手持ちの缶詰の中の水分を舐めまわすようにして摂取しなければならないのだろうが……、そんなことまでして喉の渇きを潤したくない。というか、サバの缶詰の汁なんて余計に水が欲しくなるよ。

「ね、ねぇ、ライト……」
「なんだよ……アンリ……」
「この周囲に誰か……いないの……?」
「やってみる……」

 能力開放!

 と、心の中で叫んではみたものの、別にそこまで意気込む必要はない。自分の周囲を意識という網で感知していくだけの話。それを伸ばせるところまで伸ばしてくだけだから、ちょっと集中すれば簡単にできる。

「……嘘だ。めっちゃいる……」
「え、何が……!?」
「ひ、人ですかね……!」

 いや、違う。この反応は人じゃない。もう感覚でなんとなくわかってきてる。これは……

「人外だ。異形のバケモノかもしれない。数はおよそ百。集まっているわけじゃないけど、広範囲に散らばって徘徊してる……」
「徘徊ね……。数が多いし、どうしようかしら……」

 アンリは考え込む。ゼノも不安そうではあるが、そこまで危機感を覚えているわけではなさそうだ。僕を見る視線が熱い。え……まさか、僕のことが好きなの!?

「ライト。あなたの出番では?」
「だよね。そう思ってた。寧ろそれ以外だと割とマジで引いてた」
「? ライトはたまに変な事言いますね」

 うっさいわ。全ての戦闘を僕頼みにしないで欲しい。しかし、よく考えたら二人は僕を助けてくれた恩人みたいなものなんだよな……。

 紐で腰に結び付けておいた剣を抜く。赤い剣なんて最初はどうかと思っていたが意外と切れ味は悪くない。名刀とかいうやつだろうか。でも、もしそうなら扱いが雑過ぎる。物は大切にしないとだよ……

 そこへ、建物の陰から一人の老人が出てきた。だが、どうも様子がおかしい。歩き方が酔っ払いのそれだし、着ている服も破れまくっており、血の跡がびっしりとついている。どこからどう見ても異常だ。

「あ、あれは……」
「そうですね……あれですね……」

 アンリとゼノは気づいていた。その正体に。うん、本当は僕もわかってるさ。

「ゾンビだね……。じゃあホイッと」

 掛け声とは裏腹に、赤い剣はゾンビの頭部にものすごい速さで飛んで行った。常人でも躱せる速さではないのだ。動きの緩慢なゾンビが避けられる筈もなく……

 ドシャ!

 気色の悪い音を立てて頭部が切断……もとい、破裂する。あれだね、腐ってるから脆いんだ。頭部をグチャグチャにされた老人は為すすべもなくその場に倒れこむ。そして、二度と起き上がってこなかった。

「こんなのがいっぱいいるのか……早くこの町を抜けないとね……」

 腐った肉とどす黒い血がたっぷりついた剣を引き抜きながら僕はぼやく。もともと赤い剣ではあったのだが、今はどす黒い血の刀身へと早変わりしていた。正直もう使いたくない。

「そうね。この町にはもう用はないし、次の……」

 アンリがそう言いかけたところで、今度は遠くからエンジンのような音が微かに聞こえてくることに気づいた。
 この音はなんか聞き覚えがある。大人になったら乗ってみたい乗り物で上位に入る(僕調べ)あの二輪車だ。

 ドッドッドッドッドッドッドッドッ!

 規則的なモーターの音に、重低音の迫力のある独特な音。間違いない。

「バイクだ!」

 僕はテンションが上がって音のする方へと急ぐ。それを、アンリとゼノが慌てたように追いかけていく。

「ま、待ちなさいよ!」
「ストップ! ストップ温暖化!」

 若干一名おかしい事を言っているが、僕は気にしない。町の外れの方へとダッシュして、奥の方から向かってくるその音の正体を確かめる。少しすると、これまた見事な黒塗りのバイクに乗った一人の男が紫色の服装と共にブンブンとエンジンをふかしながらやってきた。

 当然、向こうからくる道は一本道であったため、そのバイクと紫の男は僕らの目の前で止まる。興奮が止まらない僕はバイクの男に問いかける。

「そ、そのバイクかっこいいですね!」
「ヘイボーイ! こんなところにそんな装備でいたらダメじゃなぁーい?」
「う……じ、実は僕らさっきここに来たばかりでして……」

 海から来ました。なんて言えない。なんか恥ずかしすぎて。
 そこへ、息を切らしながらアンリとゼノが追いつく。

「はぁ……はぁ……やっと追いついたわね……」
「ふぅ……、やはりライトの体力は規格外ですね……」

 そんなに早く走ったつもりはない。ただ、二人の体力が限界というのもあるのだろう。勿論、僕だって大丈夫ではないのだが。

「三人はこんなところで何してるんじゃなぁーい?」
「……道に迷ってまして、この近くに町はありませんか?」
「あるじゃなぁーい? でも、後ろには二人しか乗れないじゃなぁーい……」

 個性が……強い……。でも、悪い人ではないみたいだ。乗せようとしてくれるとは……優しい。いい人っているもんだなぁ……。

「大丈夫ですよ。僕走るんで」
「!? 頭おかしいじゃない!!」

 酷い。でも、どのくらいの距離にあるのかわからないが、なんとなくバイクのスピードくらいならいけると本能的にわかってしまったのだ。であればそうするべきだろう。

「アンリ。缶詰一つ頂戴」
「え、ええ……」

 渡されたのはサバの缶詰。走る前に栄養補給と水分補給をしようと思っていたのだが……。うん、もうこれでいいや。












「クレイジー……。クレイジーボーイ……。あ! じ、じゃない……」
「やっぱりあなたどう考えても体の構造おかしいわね……」
「補給した栄養と行動分のエネルギーのバランスが異常です。もうこれからは水だけでも生きていけるのでは?」
「…………」

 あのゾンビの場所からバイクで二時間。それなりの距離を休まずに走り切った僕に対して彼らが放った言葉がこれである。最初の方は「おお!ナイスファイト!」とか言っていたこの男も最後にはこれである。というか、最後の語尾とってつけたような言い方してなかった?

「ここは……?」
「ホルマンが誇る人類による、人類のための、人類安寧の砦!その名も『コールマンシティー』じゃなぁーい!」
「コールマンシティー?何よそれ」
「この砦を作ったのがコールマンってだけじゃなぁーい」

 砦。確かに砦だ。五メートルほどの壁が横にぶっと並んでいる様子は、外敵からの脅威から内側を守るものなのだろう。所々には、上の外壁から外の様子を観察する偵察兵のような人も見受けられる。ごつい銃も持ってるし、あまり関わりたくはない。

「じゃああそこの憲兵に登録証を見せるじゃなぁーい?」
「登録証? なにそれ?」
「ま、まさか……ないじゃなぁーい!?」
「うん。聞いたことないからないってことなんだろうけど……二人は知ってる?」

 アンリとゼノはブンブンと首を横に振る。困った。それがないと入れないかんじだぞ、これ。

「……仕方ないじゃなぁーい。今回は私の顔で入らせてもらうじゃなぁーい……」
「い、いいんですか?」
「まぁ問題ないじゃない? この中に入れるのは強い人だけだから、あなたは持久力だけでも資格はあると思うじゃなぁーい?」
「あ、ありがとうございます!」

 どうやら登録証の発行には資格がいるらしい。弱い人だと、守る価値がないとか?そんなとこだろうか。でも、なんて残酷な……

 五人の門番という、厳重な警備ではあったのだが、じゃないさんが口をきいてくれたらしく、すんなりと入ることができた。このじゃないさんがいなければ、この場所に着いてたとしても門前払いだっただろう。まぁ、いざとなれば強行突破したけど。

 中の雰囲気は一言で言うと軍事施設のようだった。様々な兵器を背負った人達や、体のどこかが機械で改造されていたり、まんま人型のロボットとかが普通に町を歩いていてびっくりした。そして、人だけでなく、人以外の動物。四つ目の犬や、狼。顔がトカゲみたいな獣人?みたいなものもいたし、強ければなんでもアリ。といった印象を受けた。

「す、すごいですね……」
「でしょー? あなた達、登録証がないならまずそれの発行からじゃない? 案内してもいいじゃない」
「そ、そこまでしてくれるんですか?」
「強い人は好きじゃなぁーい。これも何かも縁じゃなぁーい?」

 好きなのか、好きじゃないのかわかりづらい言い方だよ……。初めからわかってたけど、この人やっぱりオカマだな……。

 とは思っていても口には出さないのが大人のマナー。紳士でグッドでナイスなガイである僕は敢えてスルーする。

 僕らはじゃないさんの案内で、一際目立つ建物に案内された。そこは二十階以上はありそうな高層ビルのような場所で、中は広く、どこからどう見ても有名企業の本社という印象を受けた。だが、出入りしている人は、人以外の異形の者や、全身武装した軍人みたいな人などがいて、どうみてもパソコンでカタカタするタイプの人達ではなかった。近代版の冒険者みたいな感じで僕は少し興奮した。

「お! フーライじゃねーか!」
「あら! ブライアンじゃなぁーい!」

 遠くの方から頭以外は機械の人物がこちらを見ながら近づいてくる。どうやら、じゃないさんはフーライというらしい。そういえば自己紹介をしていなかった。

「そちらさんは?」
「僕はライトって言います」
「私はアンリで……」
「ゼノです」

 ブライアンという男は僕らを値踏みするように下から上へと満遍なく見つめる。

「お前ら……登録証は?」
「あー、実はないんですよねー」
「ブライアン。作ってほしいじゃない?」
「うーー。まぁ、このガキはいいが、この二人はどうかなぁ……」

 アンリとゼノを見ながらブライアンは困った顔をする。よく見れば、顔はいかついが、声音や仕草から優しそうな雰囲気を感じる。いい人なのかもしれない。

「じゃあちょっとテストしてみるか。アンリとゼノだっけか?こっちに来いよ」
「え、ええ……」
「はい……」

 ブライアンの案内で二人はビルの外へと出て行ってしまった。そのテストというのがどういうものかはわからないが、強さを測る的な感じだし、危ない事をするのだろうか?

「行っちゃたじゃなぁーい」
「そうですね。ところでフーライさん…でしたかね?」
「フーライでいいじゃない。どうしたじゃない?」
「この施設はどういうものなんですか? それに、ここの事もよくわからなくて……」
「いいじゃない。説明するじゃない?」

 フーライの説明によると、ここは所謂仕事の斡旋所であるようだ。このご時世、物を運んだりするにも護衛がいるし、建物の外へ行くにも危険が伴う。混沌と化した世界にもはや安全と呼べる場所は無くなってしまった。だから、その安全が欲しい人と、安全を提供をするための施設が、ここ『世界特別傭兵派遣事務所』らしい。他にも、普通の職業案内所もあるらしいのだが、ここではこの事務所の方が栄えているのだという。

「へぇー。でも、登録証を作るのに、強さって関係あるんですか?」
「あるじゃなぁーい? 弱い人が傭兵団で働いていて、失敗したら護衛対象はたまったもんじゃないじゃない」
「ああ、そうか」

 確かに。仕事の失敗は自分だけでなく、その依頼者にも迷惑、というか死ぬことにも繋がるわけか。そりゃあ、生半可な人には発行できないよなぁ。というか、傭兵団っていう略称なのね。

「あの二人。大丈夫かなぁ……」
「わからないじゃない。それは判定する人の見方次第じゃない?」

 そうなんだけどね。そのまま僕とフーライはビルの待合室のような所で待ち続ける。一時間程ぼーっとしていたらアンリとゼノ、そして、ブライアンが戻ってきた。

「ど、どうだった?」

 僕はおそるおそる二人に聞く。もしダメだった場合、二人は追い出されるのだろうかとハラハラしながら。だが、杞憂だったようで。

「なんとか受かったわ! ほらこれ!」

 手のひらサイズの鉄のプレートを僕に渡す。どれどれ……?

「ふーん。フルネームじゃなくでもいいのか。アンリとしか書かれてないし。特技が……魔女? 身体能力が四でランクが二って……え?基準はなにさ?」

 僕の質問にブライアンが答える。

「本当に何も知らねぇんだな……。まず名前だがそれは本名じゃなくてもいい。呼び名だからな。特技だが、役職みたいなもんだ。第三次世界大戦から様々な種族や力を持った奴らがわんさかいるから枠を作りようがないんだ。身体能力は十段階でつけさせてもらってる。一番下が一で上が十。そのまた更に上の例外がEX。規格外ってことだな。ランクも同様だ」

 なるほど。世界に沿ったシステムだな。めんどくさくなくていいね。

「じゃあアンリは弱いって事?」
「よ、弱くないしっ!」
「そうだぜ。一番下の一って強さでも傭兵団の中の一って意味だからそこら辺の奴よりはまぁまぁ強いわけだ。身体能力が女で四ってのは高い方だぜ?」

 そうなのか。となると……

「ゼノさんは? 見せてよ」
「わ、私のはいいですよ」
「見せなって」
「あ、ああ……」

 奪い取るようにしてゼノの登録証を見る。そこには……

「名前はゼノだけか。特技が……結界師?まぁそうか。身体能力は一で、ランクも一……」
「…………」

 なるほど。アンリの数値は高い方だという事がわかったよ。うん。だから、そんな目で見ないで?居たたまれないから……

「で、ライト。お前のだ」
「あ、ああ。そうだった。というか僕何もされてないんだけど……」

 ブライアンから僕の登録証をもらう。なになに?

「名前はライトか。というか僕の希望は受け付けないわけね……。特技が……剣士?まぁ剣持ってるしね。…………は?」

 そこには身体能力EX。ランクEXと書かれてあった。なんで!?
 ブライアンが周りに聞こえないように耳打ちしてくる。

「お前……千堂だろう?」
「!? なんで……」
「お前の手に刻印があるじゃねぇか。それに、潜在的な力のオーラが他と圧倒的に違う。千堂なら子供でもみんなEXだ。よかったな」

 なるほど。世界最強の一族というのはマジらしい。ここまで数値で評価されるとは。やはり千堂はバケモノか。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...