最愛の姉へ、花束をおくります

天塚あず

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「お姉ちゃんと旅行に行きたい」

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 最愛の姉が結婚する。

 直接的に言われてはないけれど、大学二年生の時から交際を始めて五年以上の月日を今の彼と過ごし、両家とも仲が良く、子供が欲しいと憧れていたから、もう時期なんだなと姉のSNSを見て察した。
 正直なところ、今にも泣きそうなぐらい寂しい。母子家庭の上、仕事人間だった実母の代わりに私の面倒をずっとみてくれていたので、ある意味母であり、最愛の姉が、どこかへいってしまう気がして寂しい。相手にも妹がいて、私だけの姉でなくなるのも、同じ苗字ではなくなることも、そもそもひとの者になるのがとても寂しい。
 それでも自分の寂しいという気持ちよりも、姉が自由に私に縛られずに幸せになって笑いながら生きる未来を望むぐらいには、妹として愛しているけど、心のどこかでどこにも行かないでほしいと願っている自分もいて苦しい。
まだ姉としてみたいことがたくさんある。話したいことがたくさんある。果たせてない約束もある。こんな気持ちを抱えたままではきっと祝福できない。
姉への祝福だけで満たして、おめでとうを伝えたい。

久しぶりに姉にメールをした。

「お姉ちゃんと旅行に行きたい」

 私が姉のことを好きだと自覚したのは、小学校五年生の頃の出来事。
姉が初めての彼氏ができて、クリスマスは帰らないといった。二十六日の夜、帰ってきたときには姉は女になっていて、この時は理由も分からずこっそりと部屋で泣いた。
 思い返せば、この感情も姉がどこか遠くへ行ってしまう恐怖と寂しさだった。今も昔もあまり変わらない自分が、少し笑えて、少し安心した。

 私はこの感情の沈め方を知っている。

 自分の携帯のフォルダをとにかく姉でいっぱいにすることで私は満たされた。姉はどんどん知らない世界に私を置いて進んでしまうけど、写真の中の姉は変わらないし、その時の姉を保存できる気がしたから。
 それからずっと姉の写真を撮りまくっていたら、私のカメラマンとしての才能が開花され、姉のSNSに私が撮った写真を使ってもらうことも増え、今では少し優越感もあり、ニヤニヤしたりもする。
 いつからか姉と出かけるときは、カメラマンとモデル。基本的におしゃれなカフェに行って撮影会、アフタヌーンティーをして撮影会、海に行って撮影会など、もちろん日焼けをするから水着の写真を撮ったら撤退。遊んだりする時間よりも明らかにカメラを抱えている時間のほうが長いけれど、私はこの時間が好きだったりする。移動中の車ではずっと話していられるし、二人で懐かしの曲を流して歌いながらするドライブも楽しいし、私を見てくれる優しい姉の目が大好きと自覚する。
 きっと、この旅行もそんな感じで終わる。
 これがお互い独り身の状態での最後の旅行。この先、結婚式の準備だったり、子供ができたりしたら、もう姉妹二人での旅行はこの先ないかもしれない。考えるだけで、また泣きそうなぐらい寂しい。この情緒は平穏になるのかと不安が募る中、旅行の日が近づいてくる。

 こんなもどかしい気持ちをどうやって処理しよう。

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