1 / 17
その1 影武者令嬢はわがまま王女に婚約破棄された公爵令息に求婚される
第1話 シンプソン夫人著『影武者令息と公爵令息の秘密の恋〜わがまま王女に婚約破棄されて〜』
しおりを挟む
「『エイドリアン・タリー。よく聞け。今日この瞬間をもって、そなたとの婚約は破棄する!』
晩餐会のテーブルに並んだ王国重鎮の人々は、その瞬間、凍りついた。
一斉に、声の主に視線が集まる。
明るい金髪の巻毛に、海のように青い瞳をした、愛らしい少女が、立ち上がった。
陶磁器のように滑らかな肌。
少しばかり、つんと尖らせた、ピンク色の唇。
濃いピンク色のふわりとしたドレスを身に付けた少女は、まさに1輪のバラの花そのものの美しさだった。
しかし……少女はただの少女ではない。
王国唯一の王女、そして将来は、女王として立とうかという、高貴な存在だったのである。
『アンジェリナ王女殿下、全ては仰せの通りに従います』
落ち着いた声がして、王女の向かい側の席に座っていた、1人の貴公子が立ち上がった。
美しい王女と、爽やかな公爵令息が、見つめ合う。
こんな、お互いにこれ以上相応しいものはない縁組に、どんな問題があったと言うのであろうか?
テーブルに同席している大人達は、王女の両親である国王夫妻を含め、声を出すこともできないでいた。
そんな場に響いたのは、まだ少年特有の甘やかさを残す声だった。
しかし、動転しているのか、語尾がかすかに震えるのを、必死に抑えている。
『殿下。エイドリアンの気持ちを……、それに恐れながら、こんな間際になっての婚約破棄による殿下自身への評判もお考えください』
アンジェリナ王女と同じ、金髪の巻毛に、青い瞳をした、天使のような面差しの少年が、王女に歩み寄った。
少年は、そのほっそりとした体を、凛々しい騎士服で包んでいる。
彼の名前は、ジルベルト。
王家の命を受けてアンジェリナ王女の影武者を務める、王国将軍のただ1人の息子だったーー」
* * *
ローデール王国随一の人気を誇る、宮廷恋愛小説家、シンプソン夫人の新作は、実際にあった、アネット王女殿下の婚約破棄騒動を元にして執筆された、との評判だった。
王家から抗議があるかもしれないと思われたが、王女自ら「王女を愛らしく、かつ知的で行動的な女性に描いてくれて嬉しいわ」と述べられたそうで、お咎めなし。
「登場人物の名前も、性別も実際とは異なるし、よく作られた小説よ」
アネット王女はそう言って、理解のあるところを示されたとか。
『影武者令息と公爵令息の秘密の恋~わがまま王女に婚約破棄されて~』は、その年最大のベストセラーとなったのだった。
晩餐会のテーブルに並んだ王国重鎮の人々は、その瞬間、凍りついた。
一斉に、声の主に視線が集まる。
明るい金髪の巻毛に、海のように青い瞳をした、愛らしい少女が、立ち上がった。
陶磁器のように滑らかな肌。
少しばかり、つんと尖らせた、ピンク色の唇。
濃いピンク色のふわりとしたドレスを身に付けた少女は、まさに1輪のバラの花そのものの美しさだった。
しかし……少女はただの少女ではない。
王国唯一の王女、そして将来は、女王として立とうかという、高貴な存在だったのである。
『アンジェリナ王女殿下、全ては仰せの通りに従います』
落ち着いた声がして、王女の向かい側の席に座っていた、1人の貴公子が立ち上がった。
美しい王女と、爽やかな公爵令息が、見つめ合う。
こんな、お互いにこれ以上相応しいものはない縁組に、どんな問題があったと言うのであろうか?
テーブルに同席している大人達は、王女の両親である国王夫妻を含め、声を出すこともできないでいた。
そんな場に響いたのは、まだ少年特有の甘やかさを残す声だった。
しかし、動転しているのか、語尾がかすかに震えるのを、必死に抑えている。
『殿下。エイドリアンの気持ちを……、それに恐れながら、こんな間際になっての婚約破棄による殿下自身への評判もお考えください』
アンジェリナ王女と同じ、金髪の巻毛に、青い瞳をした、天使のような面差しの少年が、王女に歩み寄った。
少年は、そのほっそりとした体を、凛々しい騎士服で包んでいる。
彼の名前は、ジルベルト。
王家の命を受けてアンジェリナ王女の影武者を務める、王国将軍のただ1人の息子だったーー」
* * *
ローデール王国随一の人気を誇る、宮廷恋愛小説家、シンプソン夫人の新作は、実際にあった、アネット王女殿下の婚約破棄騒動を元にして執筆された、との評判だった。
王家から抗議があるかもしれないと思われたが、王女自ら「王女を愛らしく、かつ知的で行動的な女性に描いてくれて嬉しいわ」と述べられたそうで、お咎めなし。
「登場人物の名前も、性別も実際とは異なるし、よく作られた小説よ」
アネット王女はそう言って、理解のあるところを示されたとか。
『影武者令息と公爵令息の秘密の恋~わがまま王女に婚約破棄されて~』は、その年最大のベストセラーとなったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件
水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
以後、
寝室は強制統合
常時抱っこ移動
一秒ごとに更新される溺愛
妻を傷つける者には容赦なし宣言
甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。
さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――?
自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。
溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ
身を引いたのに、皇帝からの溺愛が止まりません ~秘された珠の還る場所~
ささゆき細雪
恋愛
五年前、内乱の混乱のなかで姿を消した最愛の妃・白瑤華(はくようか)。
彼女を失った皇帝・景玄耀(けいげんよう)は、その後ただ一人を想い続けながら執務に追われていた。そんなある日、書類に彼女の名前を発見し、居ても立っても居られなくなる。
――死んだはずの彼女が、生きている?
同姓同名かもしれないが確かめずにいられなくなった彼は地方巡察を決行。そこで、彼によく似た幼子とともに彼女と再会、地方官吏として働く瑤華と、珠児(しゅじ)を見て、皇帝は決意する――もう二度と、逃がさないと。
「今さら、逃げ道があると思うなよ」
瑤華を玄耀は責めずに、待ちの姿勢で包み込み、囲い込んでいく。
秘された皇子と、選び直した愛。
三人で食卓を囲む幸福が、国をも動かすことになるなんて――?
* * *
後宮から逃げ出して身を引いたのに、皇帝の溺愛は止まらない――これはそんな、中華風異世界ロマンス。
悪役令嬢を断罪したくせに、今さら溺愛とか都合が良すぎますわ!
nacat
恋愛
侯爵令嬢リディアは、無実の罪で婚約者の王太子に断罪された。
冷笑を浮かべ、すべてを捨てて国外へ去った彼女が、数年後、驚くべき姿で帰ってくる。
誰もが羨む天才魔導師として──。
今さら後悔する王太子、ざまぁを噛みしめる貴族令嬢たち。
そして、リディアをひそかに守ってきた公爵の青年が、ようやく想いを告げる時が来た。
これは、不当な断罪を受けた少女が、自分の誇りと愛を取り戻す溺愛系ロマンス。
すべての「裏切られた少女」たちに捧ぐ、痛快で甘く切ない逆転劇。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる