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その1 影武者令嬢はわがまま王女に婚約破棄された公爵令息に求婚される
第2話 公爵令息と男装の騎士
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「きゃあ! ウィリアム様っ!」
「ジリアン様~っ! 素敵ですわっ……」
王宮の磨き抜かれた回廊を、2人の若者が颯爽と歩いてくる。
背が高い方は、艶やかな黒髪。印象的な黒い瞳に、純白の礼装が眩しい。
手入れの行き届いた髪と肌。落ち着いた表情に、品のあるしぐさで、すぐに高位貴族の令息と知れた。
小柄な方は、明るい金色の長い巻毛を首の後ろで束ね、大きな青の瞳をしている。
愛らしい顔だちだが、姿勢よく、膝丈のチュニックにマントを重ね、腰に剣を差した騎士姿だ。
黒髪の貴族令息が小柄な騎士にかがみ込むようにして、体を寄せながら歩いてくるのだが、それがまるで、騎士を守ろうとしているかのようにも見えて。
2人の姿がキラキラして見えるのは、鏡のように磨き抜かれた白と金の回廊だけのせいではないはずだ。
きゃー! と抑えながらも抑えきれない、女性達の悲鳴が辺りに響いた。
「まあ! ウィリアム・ディーン様とジリアン様よ」
「いつ見ても素敵なお2人……キラキラと輝いているわ……」
黒のドレスに、白のエプロン。
揃いのお仕着せを着た、王宮勤めの若いメイド達が熱い視線を注いでいるのは、もちろん、目の前を通り過ぎる、黒髪と金髪の2人だった。
黒髪で背が高いウィリアム・ディーン。
金髪巻毛で小柄なジリアン。
2人とも、年頃は同じくらい。
共に育った幼なじみの気安さがどこか滲み出ている。
「アネット王女殿下のお部屋へ行かれるのかしら」
「そうね、ウィリアム様は、王女殿下の婚約者ですもの」
そそそ……と集団で廊下の端に寄って、2人に道を譲りつつも、視線は外さず、賑やかに話す声は止まらない。
「王女殿下が羨ましいわ。両手に花、ならぬ2人の美しい殿方を抱えてーーうふふふふふ、ぐふ」
「ちょっと、貴女、その笑いはさすがに少々不気味でしてよ。ジリアン様が女性なのはもちろんーー」
「もちろん、知っていますわ。有名ですもの。将軍閣下の1人娘。男装騎士として、王女殿下の護衛を務める……」
自分の名前が聞こえたのか、メイド達を追い越しながら、ジリアンが眉をひそめて、ちらりと視線を投げたらしい。
ここで再び、きゃー! という女性達の悲鳴が入った。
「あぁん、ジリアン様は、本物の殿方以上に麗しいわ……!」
「本当に素敵。あぁ、わたくしも守っていただきたいわ……」
「うふふ。まさに男装の麗人ですわね。王女殿下は、ジリアン様を離しませんのよ? ジリアン様がおそばを離れると、まあ、ご機嫌斜めになられるとか」
「王女殿下は、ご気性がはっきりした方ですもの」
「物言いもはっきりされているわ。だから『わがまま王女』なんて言われるのね。でもっ! それくらいでいいのよ! 将来は、女王になられるかもしれないのだから……」
大盛り上がりの女性達。
彼女らの前を、ウィリアム・ディーンとジリアンが並んで足早に通り過ぎていく。
「また、お前の噂をしているぞ、ジル」
「私ではない。ウィル、お前のことだろう」
ジリアンはそっけない。
メイド達のことは、一瞬にして、彼女の中で、なかったことになったようだ。
可愛らしい顔をにこりともさせず、生真面目に前を向いて、ウィリアムに遅れまいと歩調を合わせている。
……そんな2人の様子を、回廊の端にそっと立ってさりげなく観察している、1人の貴婦人がいた。
「ジリアン様~っ! 素敵ですわっ……」
王宮の磨き抜かれた回廊を、2人の若者が颯爽と歩いてくる。
背が高い方は、艶やかな黒髪。印象的な黒い瞳に、純白の礼装が眩しい。
手入れの行き届いた髪と肌。落ち着いた表情に、品のあるしぐさで、すぐに高位貴族の令息と知れた。
小柄な方は、明るい金色の長い巻毛を首の後ろで束ね、大きな青の瞳をしている。
愛らしい顔だちだが、姿勢よく、膝丈のチュニックにマントを重ね、腰に剣を差した騎士姿だ。
黒髪の貴族令息が小柄な騎士にかがみ込むようにして、体を寄せながら歩いてくるのだが、それがまるで、騎士を守ろうとしているかのようにも見えて。
2人の姿がキラキラして見えるのは、鏡のように磨き抜かれた白と金の回廊だけのせいではないはずだ。
きゃー! と抑えながらも抑えきれない、女性達の悲鳴が辺りに響いた。
「まあ! ウィリアム・ディーン様とジリアン様よ」
「いつ見ても素敵なお2人……キラキラと輝いているわ……」
黒のドレスに、白のエプロン。
揃いのお仕着せを着た、王宮勤めの若いメイド達が熱い視線を注いでいるのは、もちろん、目の前を通り過ぎる、黒髪と金髪の2人だった。
黒髪で背が高いウィリアム・ディーン。
金髪巻毛で小柄なジリアン。
2人とも、年頃は同じくらい。
共に育った幼なじみの気安さがどこか滲み出ている。
「アネット王女殿下のお部屋へ行かれるのかしら」
「そうね、ウィリアム様は、王女殿下の婚約者ですもの」
そそそ……と集団で廊下の端に寄って、2人に道を譲りつつも、視線は外さず、賑やかに話す声は止まらない。
「王女殿下が羨ましいわ。両手に花、ならぬ2人の美しい殿方を抱えてーーうふふふふふ、ぐふ」
「ちょっと、貴女、その笑いはさすがに少々不気味でしてよ。ジリアン様が女性なのはもちろんーー」
「もちろん、知っていますわ。有名ですもの。将軍閣下の1人娘。男装騎士として、王女殿下の護衛を務める……」
自分の名前が聞こえたのか、メイド達を追い越しながら、ジリアンが眉をひそめて、ちらりと視線を投げたらしい。
ここで再び、きゃー! という女性達の悲鳴が入った。
「あぁん、ジリアン様は、本物の殿方以上に麗しいわ……!」
「本当に素敵。あぁ、わたくしも守っていただきたいわ……」
「うふふ。まさに男装の麗人ですわね。王女殿下は、ジリアン様を離しませんのよ? ジリアン様がおそばを離れると、まあ、ご機嫌斜めになられるとか」
「王女殿下は、ご気性がはっきりした方ですもの」
「物言いもはっきりされているわ。だから『わがまま王女』なんて言われるのね。でもっ! それくらいでいいのよ! 将来は、女王になられるかもしれないのだから……」
大盛り上がりの女性達。
彼女らの前を、ウィリアム・ディーンとジリアンが並んで足早に通り過ぎていく。
「また、お前の噂をしているぞ、ジル」
「私ではない。ウィル、お前のことだろう」
ジリアンはそっけない。
メイド達のことは、一瞬にして、彼女の中で、なかったことになったようだ。
可愛らしい顔をにこりともさせず、生真面目に前を向いて、ウィリアムに遅れまいと歩調を合わせている。
……そんな2人の様子を、回廊の端にそっと立ってさりげなく観察している、1人の貴婦人がいた。
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