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「おっかえり~」

 玲とメルルに気付いたココは、右手をぶんぶんと振ってお出迎えをしてくれた。ふと、玲の足元に居る一匹の子豚。

「サトシ殿?その子豚どうしたんね」
「ただいま、ココちゃん。川で溺れてたのを助けたら、懐かれちゃった的な感じ?」
「んま!サトシ。私を動物的な扱いをするんじゃないわよ!」
「あ、お前。いきなり………」
「……………ブー」
「遅えよ……バーカ」

 ゴブリン三姉妹の三女ココは、目の前の喋る子豚を見て、固まっていた。こうなってしまうことが予め予測できていたので、ただの子豚のフリをするを言い出したのは、ペルセポネーだった。

「良い事、私は、みんなの前では、ただの子豚のフリをするから」
「え?何でそんな面倒くさい事するんだ?」
「考えてみなさい。子豚が、ペラペラと言葉を話したら変でしょ。だからぁ、私が、話せることは、サトシとメルルちゃんとの三人だけの秘密にしましょ」

 ゴブリンたちとの拠点に戻る前に、取り決めていたことだった。突然、玲たちと一緒に現れた子豚に対して、ツッコミが入らないという選択肢は無かった訳で、案の定拠点で待っていたココに質問をされたのだった。

 ペルセポネーは、取り繕う様に、豚の鳴き真似をしている訳だが、そんなんで誤魔化せる程の間抜けなんてここにはいない。
 もし、いるとすれば、アレスの弟、筋肉おバカのアガレスとアストロくらいしかいないだろう。

「ブ……ブー」
「今、喋ったね。この子豚、喋ったね」
「ブ、ブー」

 ガッツリと子豚を見つめるココから、視線を泳がし、玲を涙目で見上げ、縋る様に訴えかけてくるペルセポネー。

「し、喋ったかなぁ……?」
「アタイ、しっかり聞こえたんね。なぁ、メルル様も聞いたべ」

 だめだ、誤魔化せれない。

 ペルセポネーに、首を左右に振り、力及ばずと合図を送ると、あからさまにショックを受けた表情をして見せた。

 普段無口な三女のココだが、いつにも増して早口で田舎言葉を捲し立てる。

「あぁ、お姉ちゃん。豚、取り逃しちゃったね」
「そうね、残念だけど、足がとても速かったわ。代わりに野鳥が獲れたのだから、問題ないでしょ」

 がさりと森の奥から、ゴブリン三姉妹の長女カカと次女キキが、戻ってきた。話していることから、獲物を取り逃したが、代わりに野鳥を仕留めたということらしい。

「お、お帰りなさい」
「た、ただいま?」
「アンタら、何、遊んでんだ?」

 ココに胸ぐらを掴まれ、ぐわんぐわんと揺さぶられている状態の玲を見て、呆然とするカカとキキ。

「あ!カカ!サトシ殿の足元見てみてよ!」
「あら、あれって……キキが取り逃した子豚ですわね」
「ぴ、ぴぎー!!」

 ペルセポネーを見つけたカカとキキが、獲物を狙うハンターの目に変わった。そして、怯えるペルセポネー。玲は、何となくペルセポネーが、上流から溺れて流された原因が、わかった気がした。

「サ、サトシ!ちょ、ちょっと、私を助けなさいよ!乙女のピンチなのよ!」
「ぶ、豚が、喋った?」
「ほら、サトシ殿、聞いたべ。子豚が喋ったんね!」
「ペル……。お前、只の子豚設定忘れてないか?」
「ぷぎっ!?」
「ハァッ。もう、手遅れだ」

 ペルセポネーは、ゆっくりゴブリン三姉妹の顔を見上げた。喋る不思議な子豚に、食い入るような視線を送っている。命の危険は去ったのか?

「サトシ……どうにかして?」
「ペル、はっきり言うぞ。もう、喋れることは、隠し通すことは、無理だ」
「ぷぎ!!でも、このままだと、私食べられちゃう!!」

 玲は、ペルセポネーの言葉を聞き、改めてゴブリン三姉妹を見る。確かに最初は、逃げられた獲物を見つけたハンターの表情をしていた。だけど、喋る子豚を見た後は、どうだろう。今は、もう、獣を見る視線ではないと思う。

 意志の疎通が出来る相手を食糧として見るだろうか?

『最初から、食糧って言ってましたよね』

 思い出したのは、いつかディアブロに言われた言葉だった。

「そうか………。ペルは、あの時の俺と同じなんだ」
「サトシ~」
「キュウ」

 玲は、しゃがんでペルセポネーの頭を撫でた。玲の顔を見上げるその瞳は、今にも涙が溢れ出しそうなほど潤んでいた。

 にっこりと微笑んで、ペルセポネーに両手を伸ばして抱きかかえた。メルルを見るとそれが一番の正解だと言わんばかりに頷いてくれた。

「サトシ殿。その喋る子豚は、いったい何ね」
「彼女の名は、ペル………だ。川で溺れてたのを助けたのが、縁だけど、俺のことを手伝ってくれることになった」
「キューキュー」
「そうだな、メルルの友達!だから、言葉が喋れる!」

 玲は、自分の説明だけじゃ、説得力が弱いと思った為、メルルの言葉に乗っかる事にした。メルルの友人であれば、食糧枠から、外してもらえると考えた。

「メルル様のご友人…何ですか?」

 ゴブリン三姉妹の長女カカが、反応した。委員長キャラであるカカであれば、友人枠と言う言葉は、効果的面のようだ。

「そうだ!それと喋れる子豚だと、今みたいに気持ち悪がられると思って、最初は、只の子豚のフリをするつもりだった」
「!?」

 玲の言葉に思う節がある三姉妹は、少しバツの悪い表情になった。ほんのちょっぴり罪悪感に訴えかける。だけど、それを責めてはいけない。

「だけど、この子豚のペルは、ちょっとお間抜けさんで、演技が出来ない。うっかり自分で喋っちゃうようなおバカさんなんだ。ごめんな、驚かせてしまって。ほら、自分で挨拶出来るかペル」

 抱き上げているペルの背中を優しく撫でる。ペルは、じっと玲の顔を見つめた後、こくりと頷いた。ゆっくりと三姉妹に振り返り、改めてご挨拶。

「私は、ペル……。サトシたちと一緒にいたいの。仲良くしてくれる?」
「あいや、子豚さん。アタイこそ、驚いてしまって悪かったべ。アタイの名前は、ココ」
「あー、さっきは、弓で狙って悪かった。アタシは、キキだ」
「こちらこそ、よろしくお願いします。カカと言いますの」

 後は、アレスとゴンゾウさん達、ゴブリン衆に紹介すれば、問題解決かな。

 


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