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23晩目 ホースケさんの尻尾

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 光を失った瞳から流れるのは、紛れもなく涙だ。抱きつく子どもに頭を擦り寄せ、険しかった表情に笑みが戻っていく。

 パリン

 欠けた額の宝石にヒビが大きく入った。

「我 役目ヲ終エタ」

 その言葉を最後に額の宝石が、完全に砕け散った。カーバンクルの子どもは、父親が完全に旅立つまで、ずっと抱きついて感謝の言葉を送り続けた。

『ありがとう』



 緊張の糸が切れたシズルとツカサは、どかっと腰を下ろした。

「終わったんすよね」

 隣りで目尻の涙を指で拭うツカサを見て、そっと頭を撫でた。

 全てを終えたカーバンクルの子どもは、ホースケから離れ、身体を返した。

『お兄ちゃん ありがとう』
「えへへ、オマエも頑張ったな」

 憑依が解除すると残ったのは、カーバンクルの子どもの頭蓋骨だけだ。身体は遥か昔に朽ちて無くなったのだそうだ。

「シズル、俺の身体預かってくれてありがとうな」

 一仕事終えた二人に礼を言ったのだが、ビクリとシズルの身体が跳ねた。

「ん? どうした」
「いや、その、えっと、あ!その子どうするんっすか?」

 もごもごと口籠ったかと思えば、ホースケの周りにふよふよと漂うカーバンクルの子どもの霊体について聞いてきた。

 憑依が解除された今は、ただのオーブにしか見えない。声もホースケにしかわからない状態だ。

「父ちゃんと一緒に行かなかったのか?」

 ホースケと一緒にいたいとでも言うかの如く、ぐりんぐりんとホースケの周りを飛び回る。

「そっか」

 ホースケは、自分と一緒にいたいと纏わりつくカーバンクルの気持ちがくすぐったくて嬉しい。

「ちょっと待ってろ」

 シズルの後ろに見えたシマリスの身体に、ホースケは飛び込んだ。

「あ!っちょ!いや!」

 両手を振って慌てふためくシズル。ホースケは、一歩前に出ようとして、ヨタヨタとたたらを踏んでをよろめいた。

「アンタ 何持ってって……それ!」
「おい、シズル 何かバランスが悪い………って あれ? あれ? んお? 何じゃこれ!」

 ホースケは、自分のお尻を触り、ふだんあるべきはずの物を探し、ツカサは、シズルの右手に握られているそれを凝視する。

「尻尾 俺の尻尾がない!」
「やっぱり シズル その右手に持っているのって」
「も もげちゃったす」

 てへっとはにかみながら右手に握りしめていたシマリスの尻尾をホースケに差し出した。

「んあ!俺の尻尾!」
「死して尚も繋がる、カーバンクルの親子を見て つい興奮しちゃったっす 申し訳ないっす」

 額を地面に打ちつける勢いで、シズルは土下座をした。ホースケは、ミーシャに泣かれ、マキマに説教をかまされる未来が見え、「ハハハ」と空笑いするしかなかった。

「それで、ソレどうするの?」
「ハッ そうだった」

 元の身体に戻ったホースケは、ヨタヨタとカーバンクルの頭蓋骨が有ったところに近づく。既に役目を終えた頭蓋骨は、粉々に砕けカーバンクルの額の宝石だけが残っていた。ホースケは、赤い宝石を取るとシズル達の元へ戻る。

「コレ オマエの証だろ?コレと器があれば…」
「依代が作れるって事なの?」
「ウッヒャー やっぱりホースケは、何かと規格外っすね」

 何だか化け物扱いされた感がして、取り敢えずシズルの頬に一発飛び蹴りをしておく。尻尾を千切ったお仕置きとしておく。

「さて、オマエの器だけど……」

 その言葉にカーバンクルの魂は、ホースケの千切れた尻尾の上をポンポンと跳ね始めた。

「えっと、俺の尻尾が良いのか?」

 ポポン ポポン

 勢いよく跳ねるのは、肯定という事だろう。

「ま、いっか 尻尾が無くなった言い訳にもなりそうだし」
「それで、どうするの?」

 ホースケは、リュックから採取した魔核を取り出し、千切れた穴に赤い宝石と一緒に詰め込んだ。

「俺の故郷では、髪の毛や爪などを藁で作った人形に埋め込んだり、巻いたりしてさ、身代わり人形を作ったりする風習があったりするんだ で、コレは藁人形ならぬ尻尾人形ってところかな」

 むぎゅ、むぎゅっと詰め込んで、ホースケはカーバンクルの魂に差し出した。

「どうだ?依代に出来そうか?」

 ふよふよと尻尾の周りを漂い、吟味するする様子をホースケ達はじっと見守る。やがて、すぅっと尻尾に溶け込むようにカーバンクルの魂は、沈んでいった。
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