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22晩目 ホースケさんと親子の絆

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 表情を引き締めホースケは、シズルとツカサに声をかけた。

「それ以上攻撃したらダメだ!後ろに下がって!」

 咄嗟の判断力は、あるのだろう。ホースケの掛け声に合わせて、二人は一気に下がり距離を取った。

「何か考えがあるんすね」
「後ろは、任せて!」
「おう!オバケには、オバケの戦い方があるってところを見せてやる!」

 一瞬大きく目を開いた後、シズルは唇を尖らせ口笛をピュイッと鳴らした。

「取り敢えず、俺の身体シマリスを預かっといてくれ」

 すいっとホースケは、シマリスから体を切り離すと、カーバンクルの子供に手を差し伸べた。シズルとツカサにはその子が見えないのだろうか、目の前のアンデット化した魔物から視線を逸らさない。

「よく分かんないっすけど、無事に戻って来てくださいよ」
「んじゃ、行ってくる」

 カーバンクルの子どもを抱えたホースケは、一気に子供の本体である頭蓋骨まで移動した。霊体での移動だった為か、親カーバンクルには気づかれることはなかった。

「とお…ちゃん ボク…気づ…か…ない」

 泣きそうな声で、ホースケにぎゅっと抱きついてきた子カーバンクルの頭を、そっと優しく撫でた。

「気づかないんじゃなくて、俺たちが見えないんだよ だけど、任せとけ、俺の力をオマエに貸してやる」

 小さな小さなカーバンクルの頭蓋骨。親カーバンクルは、既にこの子がこの世にいないことにも気づいていないのだろう。子を守るという思念だけが、アンデット化した身体を突き動かしている。

「まずは、父ちゃんを止めないとな」

 シズルとツカサが、気を惹きつけてくれている。しかも見えていないのだから、ホースケたちのことには、いっさい気づいている様子もない。

 両手を前に突き出したホースケは、親カーバンクルに意識を集中させていく。

「金縛り!」
「ングァゥオ」

 いきなり全ての動きを封じられ、唸るような悲鳴をあげた。油を差しても動かないブリキのオモチャみたいにギギッと音がしそうな拘束っぷりだ。

「よし、父ちゃんは、成功だな 次は、オマエだよ」

 ホースケは、小さな頭蓋骨の額にある赤い宝石に手を触れる。子カーバンクルもホースケを真似て、同じように額の宝石に手を添えた。にっこりと笑顔を見せたホースケは、「憑依」と唱えた。

 ホースケとカーバンクルの子どもの身体が光り、頭蓋骨を依代にして形を形成していく。長大きな耳、もふもふの襟巻きをしたように生えたふわふわの体毛。長く揺れる尻尾は、水が流れるような綺麗な毛並み。何よりも小ぶりな頭の中心に光る額の赤い宝石が、誰が見ても聖獣と呼ばれるそれだと解った。

「カ、カーバンクル?」

 シズルとツカサが大きく目を見開く。ホースケと融合して憑依した事で、その聖なる姿が見えるようになった為だ。

「さあ、俺の身体を貸してあげるから行っておいで」

 カーバンクルの子どもは、静かに頷くと拘束された父親の前に立った。

「守ラネバ……我ハ、守ラネバナラヌ」

 未だ光が灯らず、呪いのように呻き声をあげ続ける腐り落ちた身体を震わせるカーバンクルに、子どもはぎゅっと抱きついた。

『父ちゃん もう止めて』
「守ル…我…守ル…」

 止めろと言われても、カーバンクルは呻き声を上げ、身体を震わせる。

「あの子どもを守るために戦っていたの?」

 ツカサは、死して尚も子を守るために戦い続けるカーバンクルを悲しそうな目で見つめる。

「そんな言葉が欲しいんじゃないぞ」

 ホースケが、叫ぶ。

「オマエの父ちゃんは、オマエを守る為に戦い続けているんだ 守り切ってくれたんだよ!」

 ホースケの言葉に子どものカーバンクルは、かける言葉を間違っていたことに気がつく。

『父ちゃん ありがとう もう大丈夫だよ』
「我 守レタ…ノカ?」
『うん ボクを守ってくれた』

 言葉が、思いが届く。糸が切れたようにアンデット化したカーバンクルは、その場に朽ち落ちた。



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