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30 『オモテ』と『ウラ』

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窟から出ると、朧は入り口に結界を張った。あくまで、『根』から佐久夜たちを一時的に隔離する為の措置だ。

『オモテ』は、人の世で有り、『ウラ』は、人外の世となる。人の世からすると、『ウラ』は天国、地獄、黄泉、魔など別称されている。妖である朧としては、どちらの世も当たり前に知っているため、感覚として『オモテ』、『ウラ』という説明しかできなかった。

『ウラ』は、人の世ではない。『ウラ』は、魂の世界。よって、保護なき生命は、抹消される運命だった。

『オモテ』と『ウラ』表裏一体であるが、唯一の共通点が『神』の存在だった。八百万やおよろずの神。神だけは、どの世でも当たり前の存在だった。

ただ、人だけは、遥か昔、神の手を手放してしまった。そのため、神の存在を忘れていった。

その為、人は、神話として語り継がれる神、悟りとして伝承される神、物語の創作物として、紙上に残る神以外、忘れ去られてしまった。

忘れられた神は、名を剥奪され、本来の力を失う。その神は、顔を晒す事も許されず、常に面で存在を隠匿する。

佐久夜が、神使となった名無き神も忘れ去られた神だった。

神の神使となった佐久夜は、人であっても神に認められた人となる。よって、『オモテ』『ウラ』どちらに存在しても許される存在となった。

「オイラのせいにゃ…」

朧は、先程までしっかりとした足取りで歩いていたが、窟を出て、結界を張った後、ほとんどの力を使い果たして倒れ込んだ。

地面に横腹を擦り、這いずりながら、朧は前へ進んでいく。ズルズルとバランスを崩し、何度も倒れながらも前へ前へと体を進めた。

じっと休んでいれば、妖気を回復することは可能だったが、京平の存在が、それを許さなかった。

京平は、『ウラ』では、抹消される対象だ。存在は許されない。窟に来た瞬間、京平は消え魂となった。。佐久夜も京平もそれに気づく前に、朧が京平の残滓に噛みついた。

牙と爪とで朧の妖気を 京平に注ぎ込んだ。結果、京平の命の存在が戻っただけだった。

朧の注ぎ込んだ妖気は、時間経てば経つほど薄まって無くなってしまう。京平を抹消させない為に、朧は回復を待たずに進んで行った。




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