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35 決め台詞

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「ぶーん、ぶーん」

手に入れた八つ手の葉を両手に持って、ご機嫌に振り回す朱丸。一振り仰げば、弱い風。二振り仰げば、強い風。三振り仰げば、旋風。天狗に八つ手の葉の仰ぎ方を教わって、楽しそうに振り回していた。

「天狗どん、これ面白いな。『オモテ』でも使えるかなぁ?」
「えぇ、朱丸さまなら、きっと使いこなせます」

すっかり朱丸の子分状態となった天狗は、にこにこと笑顔で朧と朱丸について来ていた。

三人は、目的の八つ手の葉を手に入れ、佐久夜たちが待つ窟へ戻るところだった。

「ここにゃ」
「水鏡の結界……ですか?」

朧が、指し示す窟を見て、天狗が入り口に張り巡らされた結界を見て唖然としていた。

「うわぁ、穴が開いているって全くわかんないや。あそこに佐久夜兄ちゃんたちが待っているのか?」

本来であれば、ぽっかりと穴が開いた状態のはずが、朧の張った結界は、風景と同化させていた。

朱丸は、窟の側にたち、朧が結界を解いてくれるのを今か今かと待っている。朧が、短い二本の尻尾を振るわせると、窟の存在が露わになった。朱丸は、ぴゅうっと戸惑うことなく窟の中に飛び込んでいった。

「もはや、これ程の結界術をお持ちの方とは……」

天狗は、改めて朧と自身の力の差を感じ取っていた。

「佐久夜兄ちゃーん、京平兄ちゃーん」

大きな声で、朱丸は佐久夜たちを呼んだ。

「あれ?…朱丸?」
「あー!佐久夜兄ちゃん!!見つけた!」

窟の最奥に佐久夜と京平は、座っているのを見つけ、朱丸は声の主の胸へ飛び込んで行った。

「僕、すごく心配したんだよ」
「ゴメンね、心配させて」

佐久夜は、朱丸を安心させるように頭を撫でてやる。嬉しそうな顔をして、朱丸は、顔を擦り続けていた。

「待たせたにゃ!」

朱丸に続いて、かっこよく颯爽と姿を見せる朧。

「ぶっ!」
「ギャハハハハ!朧センセ、めちゃオモロい顔になってるやん!」

佐久夜は、辛うじて噴き出しそうなのを口に手を当てて何とか堪えることができた。京平は、指を指し、足をバタつかせ、腹を抱えて笑い出した。

「待たせたにゃって、めっちゃカッコいい何処かのゲームの主人公みたいに決めてんけど、顔泥だらけでたぬきみたいになってるから~!だめだ笑い止まんねぇ!アハハハハハハ」

京平に指摘され、朧は自分の顔が泥だらけでカピカピになっていた事を思い出した。

「そうだ!オッチャンお顔泥だらけって言うの忘れてた。僕も最初見た時、本当に朧のオッチャンかなって思ったもん」

朧は、余裕ある体裁を見せたかったが、自身が泥だらけになっていたことをすっかり忘れていた。恥ずかしくて、身体を震わせる。

佐久夜は、そっと朧の側に近づき、座って朧の顔に両手を添えた。

「うん!朧、すごくカッコいいよ。笑ってゴメンね。俺たちのために、必死に頑張ってくれてありがとう」

佐久夜は、泥だらけになった朧の顔を、優しく撫でてカピカピの泥を優しく落としていった。

そして、朧を抱き上げて、額をコツンと合わせた。朧は、佐久夜の匂いを嗅いで、ゆっくり落ち着きを取り戻していく。そして、目を細めると佐久夜の頬をに顔を擦り寄せた。

「オイラが、佐久夜たちを守ってやらないとにゃ!これからも、守ってやるから安心するにゃ」
「あはは、ありがとう朧。頼りにするね」

佐久夜は、朧をぎゅっと抱きしめた。

「朧センセ、笑ってごめん」
「オマエは触るにゃ!」

京平も朧に近づき、頭を撫でようとするとシャーっと朧は、牙を剥く。

「怖っ!」
「照れているだけだから大丈夫」
「それで、あの人は、ダレ?」

京平が視線を送った先に、四人の輪に入り込めず、両手をモジモジさせながら、今か今かと待っている天狗が、立っていた。


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