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70 神さまは、寂しがり屋

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青銅の流し入れが終わり、完全に冷めて固まるまで、約一日放置。

「今日の作業は、ここまでかな」

手伝ってくれた朱丸の頭を撫でて、佐久夜は礼を伝えた。

「ウヘヘ」

嬉しそうに朱丸も目を細め、笑顔で笑う。

「ところでさあ、さっきからずっと気になってるんだけどて…アレ」

京平が、アレに背を向けたまま指を指す。

柱の影から顔を半分覗かせて、こちらの様子を伺うのは、神さまだ。

「俺たちが、神様に奉納する為の鏡を作ってるもんだから、朧に口出し無用と言われちゃって……」

じっと見つめてくる視線が痛い。皆が楽しそうに作業をしている姿を見て、寂しそうに声をかけて欲しそうにしている。

「朧センセ、何もしてないんだから、神さまと一緒にいてやりなよ」

佐久夜たちの近くの縁側で、毛繕いに励む朧に京平が、神さまの側にいろと言った。

「にゃにを!」

脚を伸ばしたまま、きらりと目を光らせて京平を睨む朧。

「だって、朱丸と浅葱は、いろいろ手伝ってもらったけど、朧センセは、見てるだけじゃん。神さま寂しそうじゃん」

「オイラは、わざとちんちくりんを除け者にしたわけじゃにゃいにゃ!」

耳を真っ平らにして、鼻息荒く抗議する朧。佐久夜は、そっと朧の頭を撫でる。

「解ってるって」

佐久夜は、作業を終え両肩をほぐす為、ストレッチをしながら少し大きな声を出す。

「今日の作業は、終わり!腹減ったな。神さま、今日は何が食べたい?」

物陰に潜む神さまが、ピクンと跳ねたのが、見えた。一度、そっと見えないように身体を隠す。

「神さま?神さま~?聞こえてる?ご飯何にする~?」

「見え見えだ」

京平が、背中を向けたまま、笑いを噛み殺していた。

しばらくすると、全然こちらの様子を気にも留めていなかった様子で、神さまがやってきた。

「どうしたのじゃ?主ら、今日の作業は、もう終わったのか?」

「ぶぶっ!」

京平が、噴き出した為、佐久夜は、京平の足をぎゅっと踏みつけた。

「あぁ、今は、鋳型に青銅を流し込んで、熱を冷ましているところだ。出来上がるまで、楽しみにしておいてくれよ」

「うむ、我も、佐久夜たちの想いが込められていることは、凄く感じておるぞ」

佐久夜も神さまが、期待して待っていてくれていることがわかっていたので、力強く頷く。

神さまは、願う。佐久夜たちの作業が、無事終わります様にと。佐久夜たちの鏡作りが、成功しますようにと。

朧から口出しはするなと言われていたが、祈りは神さまとしての役割の一つだ。

朧は、仕方ないなと思いつつ、神さまを見て再び毛繕いを始めた。



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