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90 奉納祭

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佐久夜は、磨けば磨く程、光沢を増すため、黙々と作業に没頭していた。

裏も表も、装飾の細部まで丁寧に磨き上げ、佐久夜自身も満足できる仕上がりになったと思っていた。

「ふぅっ」

一息ついて、視線を上げた佐久夜は、皆が注目して作業を見守っていたことに始めて気がついた。

「な、何?声をかけてくれても良かったのに?」

周りを見渡して言う佐久夜に、京平は左右に首を振った。

「違うよ。佐久夜が、凄すぎて、みんな見惚れてたんだ。お前、気づいていないだろ?」

「佐久夜兄ちゃん、かっこよかった」

「見事な腕前でござりまする」

京平に続き、浅葱、朱丸も首を縦に振って褒め称えた。

神さまも嬉しそうに、朧の背に乗って微笑んでいた。

「ちんちくりん、あれ以上の鏡はないにゃ」

「うむ。佐久夜よ。大義であった。その鏡こそ、我が求める鏡ぞ」

皆に褒められて、一気に頬が紅潮していった。

「いや、そんな…でも…いやいやいやいや、俺だけじゃなくて、みんなが助けてくれた結果であって、俺だけじゃ、ここまでできなかったからさぁ」

真っ赤な顔をして、皆から視線を反らしていった。

「朧、七日後の陽中の陽に奉納祭の開催の言伝を頼む」

「任せるにゃ」

神さまは、朧の背から降りると朧はドロンと霞になってその場から消えた。

「奉納祭?」

「うむ、我が神使佐久夜による我への鏡奉納の儀とする。何、我は名もなき神じゃ。仰々しくはならぬ故、安心するのじゃ」

「ええ!?」

驚く佐久夜を他所に、お祭りと聞いて京平や朱丸、浅葱は手を取り合って喜んだ。

「佐久夜よ。我は、後七日。楽しみにしておるぞ」

神さまは、そう言い残し作業場を出ていった。

「京平、何でお前が、そんなに喜んでるんだよ」

「祭だろ、楽しいじゃんか。めでたいことは、何だって楽しいものと決まってる」

京平は、そう言い切ってガハガハと笑った。

そして、七日後、この神社での初めての祭事が執り行われる。



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