元Sランク冒険者は、新人!?冒険者として、お一人様を満喫したいそうです

枝豆子

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第4章:魔法の修行と孤児院の陰謀編

71 試験期間の終わりと薄れゆく景色と私

 最終日。
 リズの里親としての試験期間は、今日でようやく終わりだ。

 今日までの六日間を過ごして、リズ自身の気持ちも確認してみたが、孤児院から出て行く気は起きなかったらしい。




「今日が試験期間、最後の日ですね」
「ムガルのおじちゃん……やっぱりアタシの気持ちは変わらないよ?」
「そうですか……それでは、最後の思い出作りとしましょうか……アルデリア行きましょう」

 最後の思い出作りねぇ……やけにアッサリしているもんだね。最後だからといって気を抜かないようにしないと。

 自分自身の警戒を緩めないよう再確認の気持ちも込めて、ローブにつけている【白雪】のエンブレムを触った。



「最後ですから、今日はいろんなお店を見て回りましょう」

 取り敢えず、子どもたちのお土産をと思い、商店街にあるお菓子専門店に行った。リズと一緒にさまざまなお菓子を選ぶ。ムガルが会計をすると申し出るが、里親をお断りしたこともあり、自分達で購入するからと言って断った。



 二店舗目は、ムガルおすすめの茶葉を取り扱う店舗にやってきた。

「すごく良い香りだね……お姉ちゃん」
「このお店では、試飲もできるんですよ……私も気に入った茶葉をブレンドしていただいたほどです」

 香りが良い茶葉、お薬のような効能がある茶葉、お肉料理に合う茶葉、お魚料理に合う茶葉、ハーブや薬草など……たくさんの茶葉を取り扱っているようだ。

「あ……スズラ草もある」
「ああ……リラックス効果がある茶葉ですね 女性に人気があると聞いてます」

 ムガルは、おすすめだと言うだけあって、茶葉についても知識が豊富なようだ。聞いてもいないのに、いろいろと効能や味について説明してくれる。

「……おじちゃん詳しいんだね」
「お茶一つで、ヘルミナさまのご機嫌が取れるなら、詳しくもなります」

 なるほど、ヘルミナのご機嫌を取るために、茶葉についても詳しくなったんだ。

 いろいろと我が儘放題だもんね……あのお嬢さん。

 ムガルが、幾つか茶葉を選んで、店員に試飲をお願いしている。頼んでもいないのに、私とリズの分も用意してくれていた。


「柔らかい香りで、リラックス効果があるようですよ」


 店員の手前、無下に断ることもできず、グラスを受け取り、一気に飲み干す。

 柔らかい香りだと言うが、私には少々香りがきつい。鼻に残り香が纏わり付くので、あまり気に入らない。

 どうやら私はヘルミナとは、お茶の趣味も合わないらしい。リズが不安にならないために、飲み干したのだけど、指先で唇を拭う私を見て、ムガルがニヤリといやらしく笑みを見せた。ざわりと心が波打ち、動悸が速くなる。

 

 その後も洋品店や雑貨屋などを巡る。いろいろ店舗を巡り、歩き回ったためか、リズのお腹がぐうっと鳴る。


「お腹も空きましたし、中央広場の屋台で何か買って食べましょうか?」
「……それでいい」

 屋台で購入するなら、代金もたかが知れている。ムガルに遠慮する必要もないだろう。

 出店している屋台で、芳ばしい匂いで客が並ぶ、レッドボアの串焼きを買った。リズが、口いっぱいに頬張り、「あ、美味しい!」と無邪気に喜んだ。



「今日は、シャボン玉売ってないの?」
「ああ……ヘルミナさまですか? 疲れたと言って、今日は宿で休んでいますよ 試験期間が終われば、ゼブディアに帰ると伝えてますので、帰り支度でもしているのではないですか?」
「……へえ、そうなんだ」

 やっと、いなくなる。ほっと一息ついてしまうくらい、少しばかり心が浮き立ってしまった。

 本当はすぐにでも目の前から居なくなって欲しいところだけど、数日くらいなら我慢できる。

 【白銀の翼】に連なるものが、マローからなくなってくれるのが嬉しい。



「アルデリア、最後の晩餐です……本当に串焼き肉だけでよろしいのですか?」
「私は、これ以上貴方に奢ってもらう筋合いはない! もちろん、貴方は好きなだけ自分の分を買えば良いと思うけど」
「アタシ、リップルの飴食べたいな」
「よし、お姉ちゃんが買ってあげよう! おいで」

 デザートとして、リズにリップルの飴を買ってあげた。品評会で、カナリアと一緒に食べたことを思い出す。マローでできた親友のカナリアは、元気にエルガ村で過ごしているだろうか。

 今回の件が、落ち着いたら、手紙でも書こうと思った。そうだ、アリオスグッズも送ってあげよう。



 日が陰り始めたため、私とリズは、帰宅を申し出る。ムガルより、最後まで馬車で送らせて欲しいと申し出もあり、これが最後だし、孤児院まで送ってもらうことにした。

「アルデリア……もう、マローは見納めですね 思い残すことはありませんか?」
「私は、貴方との思い出を作っているわけじゃありませんけど?」

 何だろう? 相変わらず気味の悪い会話で、ムガルの意図が見えない。

「お姉ちゃん……アレ!」
「リズちゃん どうしたの?」

 馬車の窓に顔を貼り付けて前方を見るリズが、突然大きな声で私を呼んだ。

 窓の外を馬車を追い越すように走って行く黒い影。何匹もの魔狼の群が、馬車を追い越して走って行く。魔狼が向かう先は、馬車と同じ進行方向だ。

「急ぎましょうか?」
「ムガル お願い!」

 魔狼の群が、孤児院に押し寄せている。

 アリオスたちがいるから大丈夫だと思うけど、子どもたちが心配だ。ただでさえ、最近は、魔獣が頻繁に現れてると聞いている。

 ムガルが、御者にもっとスピードを出すようにと指示を飛ばす。大きく跳ね上がるように馬車が揺れ始めた。

「リズちゃん 危ないから……扉から少し離れて、お姉ちゃんに捕まって!」
「うん」

 本当は、一人で走る方が早いけど、リズを一人でこんな馬車の中に置いて行くわけにはいかない。

 速く、速く! と焦る気持ちを抑えつける。魔狼の遠吠えも聞こえ、リズがぎゅうっと力を込めて抱きついてきた。

 孤児院の周りで、アリオスとマザーが戦っている姿が目に入った。

 馬車が、大きな音を立てて、跳ね上がる。衝撃で馬車の扉が勢いよく開いた。

「……ようやくだ」

 ムガルが、つぶやいたと同時に、リズを馬車の外へ蹴り飛ばした。私の手から離れ、馬車の外へ転がり落ちて行くリズ。

「リズ!!」

 リズが怪我をしないように、魔力を一気に練り上げ、大気の渦を作る。大気の渦は、地面に打ちつけられる前に、リズを受け止めた。リズは、大丈夫。



「がはっ! ム……ガル!?」

ほっとしたのも束の間、私に痺れるような電流が走り抜け、後頭部に強い衝撃が貫く。



「し、ししょ……お……」

 薄れゆく意識の中、私とリズに気がついたアリオスが、何か叫びながら走って来るのが見えた。
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