ショートショート集【月の裏側】恋愛小説

如月朔

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【掌編小説】かわいい嘘

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夕方の通り雨があがって、少し涼しくなった夏の夜。
君は僕を散歩に誘った。

「ねえ、全然寝られないし、散歩に行かない?」
「うん、そうしようか」

関東の片田舎にあるわが家は最寄りのコンビニまで歩いて15分。駅までは30分かかる。
「夜になるとますます何も見えないね」
都会から越して来た僕は退屈で何もないところだと感じていた。
「そうだね、でもそれもいいよね」
「君の実家がある東北はもっと何もないんでしょ?」
「うん、何もないがあるよ」
よくわからないよ、と僕は笑った。

しばらくぼーっと歩いていると、
「あ、流れた」
空を見上げた君が言う。
「え、どこ?見逃した」
歩道に沿って流れる小川を見ていた僕は流れ星が見られなかった。

「あ、クニマス!」
「ええ!?」
川を指差して君が言う。
「ああ、逃げちゃった」
僕が夜空から慌てて視線を戻すと君がニンマリ笑って言う。
「嘘だ。クニマスなんかこの川にはいないよ」
「いたよ、見る前に逃げちゃったんだよ」
「ちょっと前まで絶滅したと思われてた魚がこんな川にいたら大ニュースだよ」
僕は呆れて言った。

「あ、ティラノサウルス!」
僕の背中側の山を指差して君が叫ぶ。
「そんなわけないじゃん」
と、言いながら律儀に僕は振り向く。
「ああ、隠れちゃった」
「ウソツキ」
僕は目を細めて言った。
「そんなことないよ、本当にいたのになあ」

夏の夜、他愛ない会話、かわいい嘘。
2人の間には「何もないがある」

「あ、UFO!」
「あれは本当に流れ星だよ」
冷静に答えた僕の隣で、君がニンマリと笑った。
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