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05 可哀相な夫 辛辣な妻
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「ユーリ、ユーリったら」
可憐な耳馴染みのある声に、ユーリスは顔を上げた。
心配そうにのぞき込むのはユーリスの片思いの相手。王太子妃のマリリアだった。
「あ、申し訳ありません……」
ユーリスは、昨晩の夢を思い出して、赤面してしまう。
間違いなく、このマリリアを抱いた。夢の中で、硬い中を解し、慣れない快楽を味わわせ、溺れさせ、縋り付かれた。
破瓜をシーツに沁み込ませた。
そう。現実である筈が無かったのだ。王太子妃であるマリリアは、すでに王太子と結ばれている。
夢の中では、そんな有り得ない事など不思議と頭からすっぽ抜ける。都合よく、このマリリアの乱れた姿が当たり前であると錯覚する。
その光景が確かにまだ脳に残っている。
だが夢であって夢ではなかったのだ。ユーリスが抱いたマリリアは、妻のアンジェだった。
姿はマリリアであるのに、その匂い、味、感触、熱、言葉。全て、妻のものだったのだ。
「ユーリ。やっぱり熱があるのね。もう帰る?」
まるで、いかないで、と言わんばかりにマリリアはユーリスの袖を摘まむ。
「い、いえ。大丈夫……いえ、やはり今日は帰ります」
「そう……ねえ、結婚、無理してない? 奥様に何か言われて」
「いっ、言われてません!」
まるで核心を突かれたような気分になって大きく訂正してしまう。しかし、それが悪手だった。
「やっぱり……無理矢理結婚を」
「むっ、無理矢理……!? 違います! あれは」
ユーリスは混乱の極みにあって、頭の中はアンジェの提案がぐるぐると渦巻いている。それしか考えられなくなってしまった。
無理矢理。
確かに、夢の中のマリリアは最初、抵抗していた。
しかし力で敵わないと分かると抵抗をやめ、じっとユーリスを見ていた。そして何かに気付いたように、徐々に――。
(あれは、マリリア様になりきって……? よく、わからない……)
アンジェの提案も、彼女の言う相互協力において彼女が得る利点も、ユーリスにはてんで理解が及ばない領域にある。
(異性との交わりは好まない……確かに契約書にはそういう行為を求めるなとあった……)
正しく頭に入ってなかったユーリスは、たった数刻で破ってしまった訳だが。
(彼女ほどの存在なら多少でも好いた男と一緒になれるだろうに。そういう行為を知ってしまったら余計に……まさか)
ユーリスは、彼女と仲の良い異性を知っている。
(王太子殿下……? いや、でも)
その邪推は、過去、すでに払拭されているのだ。当の二人によって。
互いにそういう対象として見た事はない。ただの従兄弟。とはっきり、二人とも同じように主張して邪推を笑っていた。
ユーリスは、もう一つ可能性を思い描いた。
(まさか……最初から、俺を?)
無性に体が熱くなった。
昨夜の夢の光景が鮮明に蘇り、隠していたであろう妻の本心を思い心を軋ませた。
ユーリスは居ても立ってもいられず、話半分でマリリアの前を辞した。急ぎ足でロンド家の別宅に向かう。
その様子を、じっと見られているとも気付かずに。
「気持ちが悪いですわ」
結論、妻からはバッサリと切られた。
「わたくし、そういうの気持ちが悪いのです。恋愛事の渦中に自分がいるのが耐えられません」
別宅の一室で、数時間前と同じ構図で座る二人。違うのは、アンジェがゆったりとした部屋着に着替えていた事くらい。
「わたくし実家の侍女にさえ裸を見られるのが苦痛です。それが他人……異性になど、考えるだけで鳥肌ものですわ」
「とりはだ……」
ユーリスは打ちひしがれた。
しかしアンジェの思考が分かり、提案に納得もした。決してその独特の思考を理解できたのではないが――。
「そ、それで、俺は君を君だと思わずにそういう事をしろ、と」
「あら。急に世迷い事を吐いたかと思ったら、まだその提案について悩んでいたのですか?」
世迷い事。
ユーリスは勢いのまま「俺が好きだったのか?」と聞いてしまい、気持ちが悪いと返され撃沈したのだ。
「悩む必要すらありませんわ。本当ならあなたとは何事もなく、書類上だけの夫婦を続けた筈でした。けれど」
初めてで、しかも無理矢理に近い性交だったが、快感が癖になったと言う。
結局、それを招いてしまったのはユーリス自身だ。何も言えはしないし、逆らうなど出来はしない。
ユーリスが未だこの家に置いてもらえているのは、アンジェと結婚したからだ。それが更にやらかしてしかも庇われている。
提案は、強制。
だからアンジェは、未だにユーリスが悩んでいる事に心底疑問だったのだ。
未だ自分の立場を真に理解していない。
まるで、可哀相な、自由の無い夫。
しかし離縁して家を出るのはユーリスの意思次第だ。それについては契約において自由にしていい、と言われている。
このアンジェは止めないだろう。当然、家族も。誰も。
「ああ、そうですわ。恋愛、とは違いますけれど」
アンジェが思い出したように頬を染めた。
「あなたの体はとてもよろしいと思います。逞しくて、筋肉の陰影も程よい胸の厚みも腹筋の割れ具合も……腕の血管も、大変男らしくて好きですわ」
「ぶっ……ご、ふっ」
ユーリスは、茶が肺の器官に入りむせた。ちょっと噴き出しもした。
その流れで僅かに痛む腕と背に意識が向いてしまった。爪痕が残る自分の体を視野にいれた途端、かっと頭に血が上る。
これをつけたのは、目の前にいる艶々した妻だ。
「それに立派な……これ以上はやめておきましょう。昼間から不健全ですものね」
微笑み目を伏せたアンジェからは見えない。
テーブルを挟んだユーリスの、その立派なものが見事に反応しているのを。
(夢の中のマリリア様は、中に欲しがった……子供……子供が、ほしいのか?)
契約内容を考えると、二人の子はあまりいい境遇に置かれない可能性がある。
それでも若い男の性。
ユーリスの体は喜んでいる。美しい妻が自分を望んでいる、欲している。
全てが振り切れないのは、やはり初恋のマリリアの存在。そしてアンジェの真の思惑が不透明なため。
考えがまとまらず混乱するユーリスとは逆に、アンジェはうっすらと思い描いている。
親の勝手で望んだ子には、決して不自由などさせない未来を。決して、不遇とは言わせないと。
可憐な耳馴染みのある声に、ユーリスは顔を上げた。
心配そうにのぞき込むのはユーリスの片思いの相手。王太子妃のマリリアだった。
「あ、申し訳ありません……」
ユーリスは、昨晩の夢を思い出して、赤面してしまう。
間違いなく、このマリリアを抱いた。夢の中で、硬い中を解し、慣れない快楽を味わわせ、溺れさせ、縋り付かれた。
破瓜をシーツに沁み込ませた。
そう。現実である筈が無かったのだ。王太子妃であるマリリアは、すでに王太子と結ばれている。
夢の中では、そんな有り得ない事など不思議と頭からすっぽ抜ける。都合よく、このマリリアの乱れた姿が当たり前であると錯覚する。
その光景が確かにまだ脳に残っている。
だが夢であって夢ではなかったのだ。ユーリスが抱いたマリリアは、妻のアンジェだった。
姿はマリリアであるのに、その匂い、味、感触、熱、言葉。全て、妻のものだったのだ。
「ユーリ。やっぱり熱があるのね。もう帰る?」
まるで、いかないで、と言わんばかりにマリリアはユーリスの袖を摘まむ。
「い、いえ。大丈夫……いえ、やはり今日は帰ります」
「そう……ねえ、結婚、無理してない? 奥様に何か言われて」
「いっ、言われてません!」
まるで核心を突かれたような気分になって大きく訂正してしまう。しかし、それが悪手だった。
「やっぱり……無理矢理結婚を」
「むっ、無理矢理……!? 違います! あれは」
ユーリスは混乱の極みにあって、頭の中はアンジェの提案がぐるぐると渦巻いている。それしか考えられなくなってしまった。
無理矢理。
確かに、夢の中のマリリアは最初、抵抗していた。
しかし力で敵わないと分かると抵抗をやめ、じっとユーリスを見ていた。そして何かに気付いたように、徐々に――。
(あれは、マリリア様になりきって……? よく、わからない……)
アンジェの提案も、彼女の言う相互協力において彼女が得る利点も、ユーリスにはてんで理解が及ばない領域にある。
(異性との交わりは好まない……確かに契約書にはそういう行為を求めるなとあった……)
正しく頭に入ってなかったユーリスは、たった数刻で破ってしまった訳だが。
(彼女ほどの存在なら多少でも好いた男と一緒になれるだろうに。そういう行為を知ってしまったら余計に……まさか)
ユーリスは、彼女と仲の良い異性を知っている。
(王太子殿下……? いや、でも)
その邪推は、過去、すでに払拭されているのだ。当の二人によって。
互いにそういう対象として見た事はない。ただの従兄弟。とはっきり、二人とも同じように主張して邪推を笑っていた。
ユーリスは、もう一つ可能性を思い描いた。
(まさか……最初から、俺を?)
無性に体が熱くなった。
昨夜の夢の光景が鮮明に蘇り、隠していたであろう妻の本心を思い心を軋ませた。
ユーリスは居ても立ってもいられず、話半分でマリリアの前を辞した。急ぎ足でロンド家の別宅に向かう。
その様子を、じっと見られているとも気付かずに。
「気持ちが悪いですわ」
結論、妻からはバッサリと切られた。
「わたくし、そういうの気持ちが悪いのです。恋愛事の渦中に自分がいるのが耐えられません」
別宅の一室で、数時間前と同じ構図で座る二人。違うのは、アンジェがゆったりとした部屋着に着替えていた事くらい。
「わたくし実家の侍女にさえ裸を見られるのが苦痛です。それが他人……異性になど、考えるだけで鳥肌ものですわ」
「とりはだ……」
ユーリスは打ちひしがれた。
しかしアンジェの思考が分かり、提案に納得もした。決してその独特の思考を理解できたのではないが――。
「そ、それで、俺は君を君だと思わずにそういう事をしろ、と」
「あら。急に世迷い事を吐いたかと思ったら、まだその提案について悩んでいたのですか?」
世迷い事。
ユーリスは勢いのまま「俺が好きだったのか?」と聞いてしまい、気持ちが悪いと返され撃沈したのだ。
「悩む必要すらありませんわ。本当ならあなたとは何事もなく、書類上だけの夫婦を続けた筈でした。けれど」
初めてで、しかも無理矢理に近い性交だったが、快感が癖になったと言う。
結局、それを招いてしまったのはユーリス自身だ。何も言えはしないし、逆らうなど出来はしない。
ユーリスが未だこの家に置いてもらえているのは、アンジェと結婚したからだ。それが更にやらかしてしかも庇われている。
提案は、強制。
だからアンジェは、未だにユーリスが悩んでいる事に心底疑問だったのだ。
未だ自分の立場を真に理解していない。
まるで、可哀相な、自由の無い夫。
しかし離縁して家を出るのはユーリスの意思次第だ。それについては契約において自由にしていい、と言われている。
このアンジェは止めないだろう。当然、家族も。誰も。
「ああ、そうですわ。恋愛、とは違いますけれど」
アンジェが思い出したように頬を染めた。
「あなたの体はとてもよろしいと思います。逞しくて、筋肉の陰影も程よい胸の厚みも腹筋の割れ具合も……腕の血管も、大変男らしくて好きですわ」
「ぶっ……ご、ふっ」
ユーリスは、茶が肺の器官に入りむせた。ちょっと噴き出しもした。
その流れで僅かに痛む腕と背に意識が向いてしまった。爪痕が残る自分の体を視野にいれた途端、かっと頭に血が上る。
これをつけたのは、目の前にいる艶々した妻だ。
「それに立派な……これ以上はやめておきましょう。昼間から不健全ですものね」
微笑み目を伏せたアンジェからは見えない。
テーブルを挟んだユーリスの、その立派なものが見事に反応しているのを。
(夢の中のマリリア様は、中に欲しがった……子供……子供が、ほしいのか?)
契約内容を考えると、二人の子はあまりいい境遇に置かれない可能性がある。
それでも若い男の性。
ユーリスの体は喜んでいる。美しい妻が自分を望んでいる、欲している。
全てが振り切れないのは、やはり初恋のマリリアの存在。そしてアンジェの真の思惑が不透明なため。
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