6 / 8
6 相思
しおりを挟む
「俺は、会いたいから来ています……それでは駄目、でしょうか」
ほぼ毎日会いに来ているというのに、リュゼは未だしっかりルヴィの目を見れていない。今も、花瓶に生けた白い花だけを見ている。
「お父様に命令されているのではない?」
「いえ、その、むしろ、会うなと言われています」
無駄に期待を持たせるくらいなら、二度と顔を見せるな。温度の無い表情と声色で、ルヴィの父はそうリュゼを線引きした。
しかし、強引に引き離さないのはそういう事なのだ。だからルヴィは、父がリュゼに無理を押し付けていると思っていた。
ルヴィは、枕元に置いてある小説を手に取る。さっと顔色が変わったのは、リュゼだった。
「そ、れを、読まれたのですか……」
「ええ。既視感のある内容。没入感が凄くてドキドキするの」
リュゼは青くなったり赤くなったり忙しい。
それは、少し前に流行った恋愛小説のスピンオフのような、二次創作だった。
王子と令嬢を逆恨みで邪魔していたとされる悪女。その裏にあった、純愛の物語。婚約者に蔑ろにされていた悪女は、じつは密かに想う男がいた。という内容。
「結局小説では主犯は有耶無耶になっているけど……あなたはどう思う? 私の」
「ルヴィ様、いいでしょう、それは、もう」
考える間もなく口をついて出てしまう、ルヴィの思考。咄嗟に遮ったリュゼも薄々気付いている。
主犯は、あの男なのではないかと。
本来なら尻尾など掴ませず完璧に遂行させる手腕があるにも拘わらず、わざと、杜撰に痕跡を残させた。安直にルヴィに疑いが向くよう仕向けた。
ルヴィが主犯であるという前提の尋問内容を、予め確認する事も簡単に出来る。決して「犯人に心当たりは?」と言わせない。
ルヴィの潔白を証明する事など、容易かった。結果、それにより得る物は多大。
「あなたは恨んでいるのでしょうね……。だから、こうして私の元に」
「いえ……いいえ! 俺は、貴女に……」
惹かれている。そう、口に出せなかった。
「貴女に罪なんかない。あのク……王子の被害者です。リアンナ様の被害者なんです、貴女は」
ああ、と頷いて、ルヴィは悲しそうに目を伏せた。
「責任を感じているのね。彼らの傍にいて何もできなかったと……でも、あなたも知らなかった。あなたが責任を負う必要はないの」
俯いているリュゼは進退窮まった。
「責任でも、何でも、負いたい、と思うのは駄目ですか? 貴女を支え、負いたいと思うのは……」
「それは、恋心ではないわ。それは、ただの罪悪感。憐み」
顔を上げたリュゼは、とうとう見てしまった。ルヴィの目を。顔を。切なそうな表情を。
切実な、心から紡がれた真っ直ぐな言葉が鮮明に頭に過り、リュゼは瞬時に顔に熱が集まるが、身体は冷えた。
気付かれていた。かたちづくるそのものだと、だから惹かれたと言った、リュゼの信念。その、心変わりを。
リュゼは、汗が浮かび、嫌な動悸が鳴り続ける中、観念して、白状した。
「ルヴィ様、その小説、全てが創作ではありません」
「え? ええ、そうね……私を基にして書かれているもの」
「ルヴィ様。その作者、実は俺の知人なんです。俺は当事者だからって取材されました。根掘り葉掘り……。俺は、答えました。俺の正直な気持ちを。崩れた信念もあの人への感謝も軽蔑も、初めて感じた浮ついた心も、全部、その作者に暴露しました」
矢継ぎ早に、必死になりながらリュゼは言い募る。
「えっと……」
「その小説に書かれている主人公の相手の心情は、創作じゃないんです」
真っ赤でどこか辛そうな顔をしたリュゼはそのまま、また来ます、と言い逃げのように、去って行った。
ルヴィは一人、火照った頭で考えた。
悪女と呼ばれ、純愛を貫いて冤罪を晴らした二次創作小説の主人公。その片思いの相手の、葛藤。主人公への想い。
そんな事ないのに。主人公はずっと好きなのに。主人公に想いを伝えればいいのに……! と悲しくなりながら読んだ、心理描写。
「次に会ったとき、どうしたらいいの……?」
ルヴィは、嘘が吐けなくなっている。
ほぼ毎日会いに来ているというのに、リュゼは未だしっかりルヴィの目を見れていない。今も、花瓶に生けた白い花だけを見ている。
「お父様に命令されているのではない?」
「いえ、その、むしろ、会うなと言われています」
無駄に期待を持たせるくらいなら、二度と顔を見せるな。温度の無い表情と声色で、ルヴィの父はそうリュゼを線引きした。
しかし、強引に引き離さないのはそういう事なのだ。だからルヴィは、父がリュゼに無理を押し付けていると思っていた。
ルヴィは、枕元に置いてある小説を手に取る。さっと顔色が変わったのは、リュゼだった。
「そ、れを、読まれたのですか……」
「ええ。既視感のある内容。没入感が凄くてドキドキするの」
リュゼは青くなったり赤くなったり忙しい。
それは、少し前に流行った恋愛小説のスピンオフのような、二次創作だった。
王子と令嬢を逆恨みで邪魔していたとされる悪女。その裏にあった、純愛の物語。婚約者に蔑ろにされていた悪女は、じつは密かに想う男がいた。という内容。
「結局小説では主犯は有耶無耶になっているけど……あなたはどう思う? 私の」
「ルヴィ様、いいでしょう、それは、もう」
考える間もなく口をついて出てしまう、ルヴィの思考。咄嗟に遮ったリュゼも薄々気付いている。
主犯は、あの男なのではないかと。
本来なら尻尾など掴ませず完璧に遂行させる手腕があるにも拘わらず、わざと、杜撰に痕跡を残させた。安直にルヴィに疑いが向くよう仕向けた。
ルヴィが主犯であるという前提の尋問内容を、予め確認する事も簡単に出来る。決して「犯人に心当たりは?」と言わせない。
ルヴィの潔白を証明する事など、容易かった。結果、それにより得る物は多大。
「あなたは恨んでいるのでしょうね……。だから、こうして私の元に」
「いえ……いいえ! 俺は、貴女に……」
惹かれている。そう、口に出せなかった。
「貴女に罪なんかない。あのク……王子の被害者です。リアンナ様の被害者なんです、貴女は」
ああ、と頷いて、ルヴィは悲しそうに目を伏せた。
「責任を感じているのね。彼らの傍にいて何もできなかったと……でも、あなたも知らなかった。あなたが責任を負う必要はないの」
俯いているリュゼは進退窮まった。
「責任でも、何でも、負いたい、と思うのは駄目ですか? 貴女を支え、負いたいと思うのは……」
「それは、恋心ではないわ。それは、ただの罪悪感。憐み」
顔を上げたリュゼは、とうとう見てしまった。ルヴィの目を。顔を。切なそうな表情を。
切実な、心から紡がれた真っ直ぐな言葉が鮮明に頭に過り、リュゼは瞬時に顔に熱が集まるが、身体は冷えた。
気付かれていた。かたちづくるそのものだと、だから惹かれたと言った、リュゼの信念。その、心変わりを。
リュゼは、汗が浮かび、嫌な動悸が鳴り続ける中、観念して、白状した。
「ルヴィ様、その小説、全てが創作ではありません」
「え? ええ、そうね……私を基にして書かれているもの」
「ルヴィ様。その作者、実は俺の知人なんです。俺は当事者だからって取材されました。根掘り葉掘り……。俺は、答えました。俺の正直な気持ちを。崩れた信念もあの人への感謝も軽蔑も、初めて感じた浮ついた心も、全部、その作者に暴露しました」
矢継ぎ早に、必死になりながらリュゼは言い募る。
「えっと……」
「その小説に書かれている主人公の相手の心情は、創作じゃないんです」
真っ赤でどこか辛そうな顔をしたリュゼはそのまま、また来ます、と言い逃げのように、去って行った。
ルヴィは一人、火照った頭で考えた。
悪女と呼ばれ、純愛を貫いて冤罪を晴らした二次創作小説の主人公。その片思いの相手の、葛藤。主人公への想い。
そんな事ないのに。主人公はずっと好きなのに。主人公に想いを伝えればいいのに……! と悲しくなりながら読んだ、心理描写。
「次に会ったとき、どうしたらいいの……?」
ルヴィは、嘘が吐けなくなっている。
28
あなたにおすすめの小説
上手に騙してくださらなかった伯爵様へ
しきど
恋愛
アイルザート・ルテシオ伯爵は十七歳で家督を継いだ方だ。
文武両道、容姿端麗、人柄も良く領民の誰からも愛される方だった。そんな若き英雄の婚約者に選ばれたメリッサ・オードバーン子爵令嬢は、自身を果報者と信じて疑っていなかった。
彼が屋敷のメイドと関係を持っていると知る事になる、その時までは。
貴族に愛人がいる事など珍しくもない。そんな事は分かっているつもりだった。分かっていてそれでも、許せなかった。
メリッサにとってアイルザートは、本心から愛した人だったから。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
氷の公爵の婚姻試験
潮海璃月
恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる