嘘は吐けない

みど里

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6 相思

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「俺は、会いたいから来ています……それでは駄目、でしょうか」
 ほぼ毎日会いに来ているというのに、リュゼは未だしっかりルヴィの目を見れていない。今も、花瓶に生けた白い花だけを見ている。
「お父様に命令されているのではない?」
「いえ、その、むしろ、会うなと言われています」
 無駄に期待を持たせるくらいなら、二度と顔を見せるな。温度の無い表情と声色で、ルヴィの父はそうリュゼを線引きした。
 しかし、強引に引き離さないのはそういう事なのだ。だからルヴィは、父がリュゼに無理を押し付けていると思っていた。

 ルヴィは、枕元に置いてある小説を手に取る。さっと顔色が変わったのは、リュゼだった。
「そ、れを、読まれたのですか……」
「ええ。既視感のある内容。没入感が凄くてドキドキするの」
 リュゼは青くなったり赤くなったり忙しい。

 それは、少し前に流行った恋愛小説のスピンオフのような、二次創作だった。
 王子と令嬢を逆恨みで邪魔していたとされる悪女。その裏にあった、純愛の物語。婚約者に蔑ろにされていた悪女は、じつは密かに想う男がいた。という内容。

「結局小説では主犯は有耶無耶になっているけど……あなたはどう思う? 私の」
「ルヴィ様、いいでしょう、それは、もう」
 考える間もなく口をついて出てしまう、ルヴィの思考。咄嗟に遮ったリュゼも薄々気付いている。

 主犯は、あの男なのではないかと。
 本来なら尻尾など掴ませず完璧に遂行させる手腕があるにも拘わらず、わざと、杜撰に痕跡を残させた。安直にルヴィに疑いが向くよう仕向けた。
 ルヴィが主犯であるという前提の尋問内容を、予め確認する事も簡単に出来る。決して「犯人に心当たりは?」と言わせない。
 ルヴィの潔白を証明する事など、容易かった。結果、それにより得る物は多大。

「あなたは恨んでいるのでしょうね……。だから、こうして私の元に」
「いえ……いいえ! 俺は、貴女に……」
 惹かれている。そう、口に出せなかった。
「貴女に罪なんかない。あのク……王子の被害者です。リアンナ様の被害者なんです、貴女は」
 ああ、と頷いて、ルヴィは悲しそうに目を伏せた。
「責任を感じているのね。彼らの傍にいて何もできなかったと……でも、あなたも知らなかった。あなたが責任を負う必要はないの」
 俯いているリュゼは進退窮まった。
「責任でも、何でも、負いたい、と思うのは駄目ですか? 貴女を支え、負いたいと思うのは……」

「それは、恋心ではないわ。それは、ただの罪悪感。憐み」
 顔を上げたリュゼは、とうとう見てしまった。ルヴィの目を。顔を。切なそうな表情を。
 切実な、心から紡がれた真っ直ぐな言葉が鮮明に頭に過り、リュゼは瞬時に顔に熱が集まるが、身体は冷えた。
 気付かれていた。かたちづくるそのものだと、だから惹かれたと言った、リュゼの信念。その、心変わりを。

 リュゼは、汗が浮かび、嫌な動悸が鳴り続ける中、観念して、白状した。
「ルヴィ様、その小説、全てが創作ではありません」
「え? ええ、そうね……私を基にして書かれているもの」
「ルヴィ様。その作者、実は俺の知人なんです。俺は当事者だからって取材されました。根掘り葉掘り……。俺は、答えました。俺の正直な気持ちを。崩れた信念もあの人への感謝も軽蔑も、初めて感じた浮ついた心も、全部、その作者に暴露しました」
 矢継ぎ早に、必死になりながらリュゼは言い募る。
「えっと……」

「その小説に書かれている主人公の相手の心情は、創作じゃないんです」
 真っ赤でどこか辛そうな顔をしたリュゼはそのまま、また来ます、と言い逃げのように、去って行った。

 ルヴィは一人、火照った頭で考えた。
 悪女と呼ばれ、純愛を貫いて冤罪を晴らした二次創作小説の主人公。その片思いの相手の、葛藤。主人公への想い。
 そんな事ないのに。主人公はずっと好きなのに。主人公に想いを伝えればいいのに……! と悲しくなりながら読んだ、心理描写。

「次に会ったとき、どうしたらいいの……?」

 ルヴィは、嘘が吐けなくなっている。
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