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◎ソニア視点 私の復讐④
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悠月:
この視点には残酷な描写や、倫理観に反する描写が含まれています。苦手な方はスキップしていただいても、本編の内容には影響ありません。
————————————
遅れてくる正義は正義など呼べない。
喉が枯れるまで叫んでも、誰も助けてくれなかった。だから、どんなに卑劣で非道な手段を使おうとしても、私は生き抜いてみせる。
魔物に遭うのは想定内だった。あの場所から逃げられるなら、足でも手でも、何を代償にしても惜しみはない。
ところが、まるで過酷な人生に一服の休止符が打たれたかのように、突如として空から幸運の雨が降り注いだ。失ったはずの運が一気に戻ってきた。
私に復讐など馬鹿げた考えを諦めて、今この幸福なひとときを味わえと、心が甘い毒に少しずつと侵されていくのを感じていた。
・人に命を救われた。
私ながら、魔物たちの争いに巻き込まれ、食べ物として、ちょうど目的地であるスペンサーグ城の近くまで連れてこられ……運がいいのやら、悪いのやら。
・同じく足掻いた同胞たちを救出できた。
冒険者ギルドに訴えかけたのは、他人の同情を集めて自分を慰めるためではなく、すべてを明らかにするためだ。
理由はどうあれ、あの男とは普通の“夫婦”として2年を過ごし、さらには世間で言う“愛の結晶”である子供を産んだ。
法律上、あの男は私の”夫”になった。誘拐犯でも強姦犯でも、法の前では訴えることができない。
だからこそ、大義名分を作らなければならない。多くの人の共感を集める必要がある。注目が集まれば集まるほど、私の安全は守られる。
もちろん、助けられるなら、なおも足掻き続ける同胞たちを救いたい。そして、可能な限り、私の復讐に巻き込みたくない。
だが、何日訴え続けても、避けられる一方だった。それは当然とも言うべきか。私たちは社会を安定させるための生贄のような存在だと、前々から気づいていた。
しかし、まさか引き受けてくれた。たったの三十人足らずの小ファミリー、<妖精の円舞曲>の皆さんが!
・安定の仕事と衣食住が得られた。
ロザリンド様の言葉は真実だった。都会では女性は家の手伝いでも誰かのためでもなく、自分のために働ける。
人数や権力の配分で、男性が女性より恵まれている事実には失望しない。田舎では読み書きができなくても普通に暮らせるから、誰も教育を重要だと思わなかった。
だが、もしそれが上に上がる鍵だと知れば、きっと誰もかこぞって男の子に教育を受けさせ、女の子には代わりに彼らの仕事を押し付けられ、余裕があるときだけ残飯を与えるに違いない。
現に、読み書きのできる男性が女性より多い、それは自然なことだ。一人娘でない限り、女が文字をいくつか知っていても、ずっと学ばせられる家はほとんどない。
過去の戦争で沢山の人が死んだ。でも皮肉なことに、その後遺症のおかげで、残された女が従来“男の仕事”と見なされていた職に就けられた。さらには、看護師のような、女性のための職まで生まれたのだ。
そう、まるで、いつまで続く男権社会に女性が通せる細い隙間を無理やりこじ開け、それが静かに、しかし確実に広がっていくようだった。
・目指せる目標を見つけた。
新しい知識を得られ、新しい人たちに出会い、進むべき道を教えられ、目標となる人を見つけた。
サイカ会長が語った夢のような計画はあまりにも壮大で、現実味がなく、ついていけない部分も多かった。
私とそう年が離れていないのに、女性として商会を一から立ち上げ、この規模に発展させ、未来を見据えて迷わず進む姿はあまりにも眩しい。
私も、出来るなら、全てを投げ出して、その夢の構築に参加したい。
……。
そう、何も考えず、溺れていれば……。
私が憎しみを放棄しさえすれば、何もかも良くなる方向へ進む。あの村の人を含めて、お互い相手の存在を忘れ、元の生活に戻れば、誰もが幸せになれる……。
でも、本当に?
本当にこれでハッピーエンドになれたと思うの?
……。
悔しい。
悔しい!
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い……。
過去の無知で甘い私を殺したのは、あの男一人ではない。
女を村の財産として扱い、その仕組みを維持し続ける村人たち。
村と結託して庇い立てする兵士や貴族。
知っていながら、見ぬふりをする群衆。
女を劣った存在と決めつけ、縛りつける社会と制度。
――すべてが共犯者だ。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!
***
シア君をドアの前で見送った後、私はいつも張り付けていた笑顔を消した。
私がしたことが、平穏な日々に酔い、復讐が目前の時に取り乱すとは。
「おい、あの村への転移陣を仕掛けたぜ。今夜、行動するか?」
「……もちろん。皆を食事に呼んでくるから、カゲロウさんは隠れていてください」
いつも背後から音もなく現れるこの男にも、私はだんだん慣れ始めていた。
彼、カゲロウに冒険者ギルドを通じて護衛を依頼したのは嘘ではない。
けれど、彼との面識はその前にある。寮に入って間もない頃、倉庫で走り回る鼠を追いかけていたとき、血まみれの彼を見つけた。
人を呼ぶ暇もなく、刀を突きつけられ、薬と食事を差し出すと、その代わりに「誰かを殺したいのなら手伝おう」という物騒なことを言われた。
もがいた時に刃が首をかすめ、薬を塗ってもその傷はなかなか治らなかった。こんな男と関わりたくないと、心の底から思った。
しかし、安逸な生活に馴染んで、私と同じ復讐心を抱いていると思っていた女性たちは、その場所に関わる記憶を脳から切り離そうと否定し、触れれば暴れ出す勢いで拒絶され、とても協力できる状態ではなかった。
村全体を相手に復讐するには、人手が必要だ。
***
深夜、マスクを着け、手袋をはめて、私は慎重に禍々しい黒い気配を放つ茸を摘み取っている。
その茸はまるで人の死体から自然に生まれたのかのように遺骸と溶け合い、養分を吸い尽くしながら成長している。深紅に染まった傘は血を吸い上げ、妖しく艶めき、黒くよじれた茎は空へと鋭く突き出している。
怨念茸、それは人の憎しみと絶望を糧に育つ毒茸。
噂によれば、未練を残して散った魂は、その死骸に恨みと苦しみを宿し、負の感情が濃ければ濃いほど、茸はより美しく育つという。
あまりにも毒々しい姿に、誰も近づこうとしない。ましてや料理して、食べるなど。
食事の用意を任された時から、毎日、何度も、毒を忍ばせるのをぐっと堪えていた。
あの男とその母を消すことは、この村を滅ぼすという最終目標のための、ほんの序章に過ぎない。
「ほんま、こえぇ女やな。自分の旦那がおった村の連中を皆殺しにしてくれって頼むなんて」
背後から男の声が聞こえ、振り返ったが、何も見えなかった。
黒服の男は既に夜と一体化していた。
「あなたの国では、女を攫って無理やり子を産ませれば、その女が男の所有物になります?あのケダモノとこの村の人は私の敵以外の何ものでもありません」
「せやな。お前が言ってた試験とやら、コネがなきゃ受けられんって話やろ?なら、あの男はお前を養ってたんちゃうか?」
「はっ、可笑しなことを言いますね。たとえ試験に落ちようとも、私一人食べていくくらいのことはできますし、今も生活費の他に、あなたを雇う金もあります。それにしても、カゲロウさんがこんなにお喋りな人だとは知りませんでした。無駄話をする前に、今夜の依頼、あの家の人はどうなりましたのが、先に教てくれますか?」
カゲロウの報酬は、難易度と要する時間によって決まる。村一つを、恐怖を植え付け、じわじわと命を刈り取るのだ、相当な額にもなる。その金は会長から前払いで受け取った。
あの時、会長は私がその金で何をするつもりか、見抜いていたのだろうか。
「へっへっ、この世は金がモノを言う。片付けたぜ、確認しに行くか?」
私は茸を詰めた袋の口をしっかり縛り、立ち上がった。
「だが、あの男が不憫やな」
またグダグダとつまらないことを言う。
男って、ほんと……。
「男はすぐに同性の肩を持ちますね。そうなに同性がお好きなら、男同士で家庭を築けばいかがです?」
「げ、なんちゅうキモいこと言うんや」
「私は同性愛には反対致しませんよ。またつべつべ言うなら、この依頼を中止します」
よく、『過去の辛いことを忘れて、今の生活を大切にしなさい』とか、祝福みたい(?)な言葉を掛けられる。
でもね、なぜ私の意思を無視して、私を苦しめた者たちを許そうとする? 誰にも私を代弁する資格はない。
私は私の意思を持って、この村に復讐する。
まるで眠っているかのように倒れた人たちを前に、私は思わずカゲロウの手際の良さに舌を巻いた。
吐き気を堪え、死体の首を不自然な角度に曲げて手足を人形のように弄り、新鮮な血で<獄炎の魔女>のメッセージを残す。
これで新たな舞台は整えた。
共同の水道や井戸には予め用意しておいた毒粉を混ぜ込み、カゲロウには騒動の後に村から逃れようとする者がいれば始末するよう命じ、私は毒茸を携えていつもの日常へ戻った。
***
「お前から血の匂いがするな」
「あら、グレムさん、おはようございます。朝、転んだときの傷かもしれませんね」
ああ、やめよう。不利な状況になると、すぐに男に媚びる癖。
私の愛想笑いを気にも留めず、顔に幼さが残る青年は無邪気な笑みを浮かべ、まるで獲物を観察し、喰らいつくタイミングを計るかのように、血の色をした赤い瞳を細めた。
「別に、お前が何をしようが知ったことじゃないが、ここは俺の遊び場だ。もし壊したら、喰ってやるぞ」
まるで『明日は何を食べようか』とでも言うような軽い口調。冗談めいて聞こえるが、女の勘が、それは本気の言葉だと告げている。この男なら、本当にやりかねない。
「はい、重々承知しています。商会の皆さんには迷惑はかけません」
ここ、フィオラ商会は、さまざまな人の居場所なのだ。
瞬く間に、グレムはどこかへ消えた。
まとわりついていた圧迫感のようなオーラがふっと途切れ、張り詰めていた体がほっと緩む。
初めて会長の執務室で会った時にも思ったが、会長に飼い慣らされ、その傍らで寛いでいる姿をどれほど人畜無害に装っていても、あれは本物の猛獣だ。いつ獰猛な牙を剥くか、分からない。
一度、血に染めてしまったこの手は、もう二度と元の色には戻らない。
もしこの世に『正義』というものが存在するのなら、私は村人たちと同じ、悪の存在として裁かれるのだろうか。
それでもいい。
私はいつまでも待っている、私に相応しい結末を。
この視点には残酷な描写や、倫理観に反する描写が含まれています。苦手な方はスキップしていただいても、本編の内容には影響ありません。
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遅れてくる正義は正義など呼べない。
喉が枯れるまで叫んでも、誰も助けてくれなかった。だから、どんなに卑劣で非道な手段を使おうとしても、私は生き抜いてみせる。
魔物に遭うのは想定内だった。あの場所から逃げられるなら、足でも手でも、何を代償にしても惜しみはない。
ところが、まるで過酷な人生に一服の休止符が打たれたかのように、突如として空から幸運の雨が降り注いだ。失ったはずの運が一気に戻ってきた。
私に復讐など馬鹿げた考えを諦めて、今この幸福なひとときを味わえと、心が甘い毒に少しずつと侵されていくのを感じていた。
・人に命を救われた。
私ながら、魔物たちの争いに巻き込まれ、食べ物として、ちょうど目的地であるスペンサーグ城の近くまで連れてこられ……運がいいのやら、悪いのやら。
・同じく足掻いた同胞たちを救出できた。
冒険者ギルドに訴えかけたのは、他人の同情を集めて自分を慰めるためではなく、すべてを明らかにするためだ。
理由はどうあれ、あの男とは普通の“夫婦”として2年を過ごし、さらには世間で言う“愛の結晶”である子供を産んだ。
法律上、あの男は私の”夫”になった。誘拐犯でも強姦犯でも、法の前では訴えることができない。
だからこそ、大義名分を作らなければならない。多くの人の共感を集める必要がある。注目が集まれば集まるほど、私の安全は守られる。
もちろん、助けられるなら、なおも足掻き続ける同胞たちを救いたい。そして、可能な限り、私の復讐に巻き込みたくない。
だが、何日訴え続けても、避けられる一方だった。それは当然とも言うべきか。私たちは社会を安定させるための生贄のような存在だと、前々から気づいていた。
しかし、まさか引き受けてくれた。たったの三十人足らずの小ファミリー、<妖精の円舞曲>の皆さんが!
・安定の仕事と衣食住が得られた。
ロザリンド様の言葉は真実だった。都会では女性は家の手伝いでも誰かのためでもなく、自分のために働ける。
人数や権力の配分で、男性が女性より恵まれている事実には失望しない。田舎では読み書きができなくても普通に暮らせるから、誰も教育を重要だと思わなかった。
だが、もしそれが上に上がる鍵だと知れば、きっと誰もかこぞって男の子に教育を受けさせ、女の子には代わりに彼らの仕事を押し付けられ、余裕があるときだけ残飯を与えるに違いない。
現に、読み書きのできる男性が女性より多い、それは自然なことだ。一人娘でない限り、女が文字をいくつか知っていても、ずっと学ばせられる家はほとんどない。
過去の戦争で沢山の人が死んだ。でも皮肉なことに、その後遺症のおかげで、残された女が従来“男の仕事”と見なされていた職に就けられた。さらには、看護師のような、女性のための職まで生まれたのだ。
そう、まるで、いつまで続く男権社会に女性が通せる細い隙間を無理やりこじ開け、それが静かに、しかし確実に広がっていくようだった。
・目指せる目標を見つけた。
新しい知識を得られ、新しい人たちに出会い、進むべき道を教えられ、目標となる人を見つけた。
サイカ会長が語った夢のような計画はあまりにも壮大で、現実味がなく、ついていけない部分も多かった。
私とそう年が離れていないのに、女性として商会を一から立ち上げ、この規模に発展させ、未来を見据えて迷わず進む姿はあまりにも眩しい。
私も、出来るなら、全てを投げ出して、その夢の構築に参加したい。
……。
そう、何も考えず、溺れていれば……。
私が憎しみを放棄しさえすれば、何もかも良くなる方向へ進む。あの村の人を含めて、お互い相手の存在を忘れ、元の生活に戻れば、誰もが幸せになれる……。
でも、本当に?
本当にこれでハッピーエンドになれたと思うの?
……。
悔しい。
悔しい!
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い……。
過去の無知で甘い私を殺したのは、あの男一人ではない。
女を村の財産として扱い、その仕組みを維持し続ける村人たち。
村と結託して庇い立てする兵士や貴族。
知っていながら、見ぬふりをする群衆。
女を劣った存在と決めつけ、縛りつける社会と制度。
――すべてが共犯者だ。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!
***
シア君をドアの前で見送った後、私はいつも張り付けていた笑顔を消した。
私がしたことが、平穏な日々に酔い、復讐が目前の時に取り乱すとは。
「おい、あの村への転移陣を仕掛けたぜ。今夜、行動するか?」
「……もちろん。皆を食事に呼んでくるから、カゲロウさんは隠れていてください」
いつも背後から音もなく現れるこの男にも、私はだんだん慣れ始めていた。
彼、カゲロウに冒険者ギルドを通じて護衛を依頼したのは嘘ではない。
けれど、彼との面識はその前にある。寮に入って間もない頃、倉庫で走り回る鼠を追いかけていたとき、血まみれの彼を見つけた。
人を呼ぶ暇もなく、刀を突きつけられ、薬と食事を差し出すと、その代わりに「誰かを殺したいのなら手伝おう」という物騒なことを言われた。
もがいた時に刃が首をかすめ、薬を塗ってもその傷はなかなか治らなかった。こんな男と関わりたくないと、心の底から思った。
しかし、安逸な生活に馴染んで、私と同じ復讐心を抱いていると思っていた女性たちは、その場所に関わる記憶を脳から切り離そうと否定し、触れれば暴れ出す勢いで拒絶され、とても協力できる状態ではなかった。
村全体を相手に復讐するには、人手が必要だ。
***
深夜、マスクを着け、手袋をはめて、私は慎重に禍々しい黒い気配を放つ茸を摘み取っている。
その茸はまるで人の死体から自然に生まれたのかのように遺骸と溶け合い、養分を吸い尽くしながら成長している。深紅に染まった傘は血を吸い上げ、妖しく艶めき、黒くよじれた茎は空へと鋭く突き出している。
怨念茸、それは人の憎しみと絶望を糧に育つ毒茸。
噂によれば、未練を残して散った魂は、その死骸に恨みと苦しみを宿し、負の感情が濃ければ濃いほど、茸はより美しく育つという。
あまりにも毒々しい姿に、誰も近づこうとしない。ましてや料理して、食べるなど。
食事の用意を任された時から、毎日、何度も、毒を忍ばせるのをぐっと堪えていた。
あの男とその母を消すことは、この村を滅ぼすという最終目標のための、ほんの序章に過ぎない。
「ほんま、こえぇ女やな。自分の旦那がおった村の連中を皆殺しにしてくれって頼むなんて」
背後から男の声が聞こえ、振り返ったが、何も見えなかった。
黒服の男は既に夜と一体化していた。
「あなたの国では、女を攫って無理やり子を産ませれば、その女が男の所有物になります?あのケダモノとこの村の人は私の敵以外の何ものでもありません」
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カゲロウの報酬は、難易度と要する時間によって決まる。村一つを、恐怖を植え付け、じわじわと命を刈り取るのだ、相当な額にもなる。その金は会長から前払いで受け取った。
あの時、会長は私がその金で何をするつもりか、見抜いていたのだろうか。
「へっへっ、この世は金がモノを言う。片付けたぜ、確認しに行くか?」
私は茸を詰めた袋の口をしっかり縛り、立ち上がった。
「だが、あの男が不憫やな」
またグダグダとつまらないことを言う。
男って、ほんと……。
「男はすぐに同性の肩を持ちますね。そうなに同性がお好きなら、男同士で家庭を築けばいかがです?」
「げ、なんちゅうキモいこと言うんや」
「私は同性愛には反対致しませんよ。またつべつべ言うなら、この依頼を中止します」
よく、『過去の辛いことを忘れて、今の生活を大切にしなさい』とか、祝福みたい(?)な言葉を掛けられる。
でもね、なぜ私の意思を無視して、私を苦しめた者たちを許そうとする? 誰にも私を代弁する資格はない。
私は私の意思を持って、この村に復讐する。
まるで眠っているかのように倒れた人たちを前に、私は思わずカゲロウの手際の良さに舌を巻いた。
吐き気を堪え、死体の首を不自然な角度に曲げて手足を人形のように弄り、新鮮な血で<獄炎の魔女>のメッセージを残す。
これで新たな舞台は整えた。
共同の水道や井戸には予め用意しておいた毒粉を混ぜ込み、カゲロウには騒動の後に村から逃れようとする者がいれば始末するよう命じ、私は毒茸を携えていつもの日常へ戻った。
***
「お前から血の匂いがするな」
「あら、グレムさん、おはようございます。朝、転んだときの傷かもしれませんね」
ああ、やめよう。不利な状況になると、すぐに男に媚びる癖。
私の愛想笑いを気にも留めず、顔に幼さが残る青年は無邪気な笑みを浮かべ、まるで獲物を観察し、喰らいつくタイミングを計るかのように、血の色をした赤い瞳を細めた。
「別に、お前が何をしようが知ったことじゃないが、ここは俺の遊び場だ。もし壊したら、喰ってやるぞ」
まるで『明日は何を食べようか』とでも言うような軽い口調。冗談めいて聞こえるが、女の勘が、それは本気の言葉だと告げている。この男なら、本当にやりかねない。
「はい、重々承知しています。商会の皆さんには迷惑はかけません」
ここ、フィオラ商会は、さまざまな人の居場所なのだ。
瞬く間に、グレムはどこかへ消えた。
まとわりついていた圧迫感のようなオーラがふっと途切れ、張り詰めていた体がほっと緩む。
初めて会長の執務室で会った時にも思ったが、会長に飼い慣らされ、その傍らで寛いでいる姿をどれほど人畜無害に装っていても、あれは本物の猛獣だ。いつ獰猛な牙を剥くか、分からない。
一度、血に染めてしまったこの手は、もう二度と元の色には戻らない。
もしこの世に『正義』というものが存在するのなら、私は村人たちと同じ、悪の存在として裁かれるのだろうか。
それでもいい。
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