パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~

お茶っ葉

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十話 対決【森林の殺戮者】

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「ぐおおおおおぉぉっ!!」

 大盾が弾かれる。襲い来る剛力に鍛えられた身体が悲鳴を上げる。
 キラーマンティスの両腕の鎌が煌めき、頭上を通り過ぎた。木々が薙ぎ倒される。
 盾として前線を張り続けたダントの脳裏を支配するのは、ちっぽけな勇気を上回る恐怖だった。

「このままでは……やはり、単独で対処するのは無理があるか……!」

 周辺の魔物に見つからず水を確保したまでは良かったものの。
 カルロスたちの元へ戻ろうとしたところを、第二層を支配する変異種に捕捉されてしまったのだ。
 細心の注意を払ったはずであった。見つかれば命はないと。慎重に、ミスは犯していないはずだ。

「【森林の殺戮者】とはよく言ったものだ。俺たちの匂いを覚えていやがったな……!」
 
 キラーマンティスの複数の眼がダントを捉える。
 悍ましい蠢く口からは悪臭漂う瘴気を放った液体が飛び散っていた。
 毒性の植物や、魔物を捕食することで、キラーマンティス自体にも毒が宿っている。
 第二層が【幻影ノ森】と呼ばれているのは、この神経毒の作用によって幻覚を見せられるためだ。

「……く、くそっ。不味い、少し吸ってしまった……!」
 
 ダントは膝をついた。目の前が酷く歪んでいる。
 まともに戦っても苦戦必須の相手に、更に毒まで備わっている。
 万全な準備を整え、全力を尽くしてやっと対等に戦えるのだ。一人では逃げることも叶わない。

 徐々に盾が擦り減り、盾越しでも敵の表情が見えるようになる。
 汗ばむ手を強く握りながら、ダントは決死の想いで鎌を弾き返した。
 それが最後の抵抗だった。毒が回り、頭に靄がかかり働かなくなる。

「ここが俺の墓場か。カルロス、お前を恨むぞ――――――ガアッ」
 
 突然、肩に鋭い衝撃が走る。変異種の攻撃ではない。
 触れてみると、一本の矢だった。痛みが現実に引き戻してくれる。
 そしてダントの視線の先には、矢罠の後ろに立つ、リーンの姿があった。
 
 ◇

「リーン、お前生きていたのか!!」
「……話はあと、死にたくなければ僕についてきて」
「くっ……!」

 ダントが肩を抑えながら走ってくる。
 キラーマンティスも一緒だ、獲物が増えて喜んでいるように見える。
 僕たちは周囲の木々を盾として利用しながら、巨大な相手をかく乱していく。

「……幻覚を取り除いてくれた事には感謝するが、荒々しいな。他に方法はなかったのか……?」
「お前たちが僕にした仕打ちを考えれば安いものじゃないかな?」

 僕の熱が通わない冷たい言葉に、ダントは気まずそうに口を噤む。

 ダントはカルロスと比べたらまだ、普段から僕に対しても普通に接してくれた。
 それでも彼はあの時、僕を庇ってくれなかった。カルロスの狂気を止めてくれなかった。
 
「僕はお前たちを許していない。今助けたのだって、利用価値があると思ったからだ」
「……利用価値だと? 俺の力を何に利用するつもりだ?」
「これからキラーマンティスを小迷宮に誘い込む。そこでお前は奴を地上に引き付けるんだ。あとは僕の罠で一気にケリをつける」

 僕はダントに作戦を伝える。
 飛翔能力を持つキラーマンティス相手に、通常の手段では罠は通用しない。
 罠には微量の魔力が通うもので、勘が鋭い魔物は罠への察知能力も優れている。
 しかし地上で誰かが囮になってくれたら話は変わる。盾役のダントは適任だった。

「足止め程度なら可能だが、本当に奴を倒せるのか……? お前のスキルは所詮は罠の再利用だろう?」

 信用できないといった表情だ。当然の反応ではあると思う。
 自己紹介の時と、逃げる時くらいしか僕が罠を使っているところを見せていないし。
 罠が危険だという意識はあっても、実際に強敵を倒せるイメージには直接繋がらないのだろう。

「迷っている時間はないよ。敵は……変異種だけじゃないんだ」
「それはどういう意味だ――――ん、この音は何だ?」

 後方から変異種とは別に獣の叫び声が森を反響している。
 第二層の支配者の狩猟に、そのおこぼれに預かろうとマッドウルフたちが集まってきている。
 大体予想通りの展開だ。そしてこれが、第二層で一番避けなければいけない状況なのだ。
 
「変異種の恐ろしさはその能力だけじゃない。絶対的な支配者はその他有象無象を引き寄せる。……偉そうな人の周りには常に誰かが付き従っているよね? それと同じ。特に今はダントが負傷しているから、血の匂いに誘われているんだ」

 意外とこの事実を知る人は少ない。
 そもそも変異種とはなるべく戦わないようにするのが基本だ。
 遭遇したとしても、すぐに倒せるよう念入りに準備はしておくもので。

 変異種に追われるという状況を招いた時点で、そのパーティは大抵全滅するものだから。

「わからん話ではないが、俺たちが最初に奇襲を受けた時は他の魔物の姿なんてなかったぞ?」
「それは僕が、お前たちが逃げている最中に他の魔物に襲われないよう罠を仕掛けていたからだよ」

 変異種の奇襲を受けた時に、僕はすかさず警報の罠を使った。
 魔物を呼び寄せる音を鳴らす罠と、大量の泥沼の罠を合わせて一気に足止めをしたんだ。
 あれは危険な賭けだった。カルロスたちは逃げるのに必死で気付いていなかったみたいだけど。

 それを聞いてダントは、目を丸くしていた。
 
「……何故だ、何故それを初めから言ってくれなかったんだ! お前が俺たちの役に立っているのであれば、そう言ってくれれば仲間として受け入れられたはずだ。単なる足手まといではないと!」
「……伝えて本当に感謝してくれた? 僕の罠は最悪の状況を覆すだけの力はない。あくまで逃げるのに役立っただけで、しかもマッドウルフたちは僕の罠に掛かったけど、その現場をカルロスたちは見ていない。後から伝えても嘘だと言い張られるに決まっている。信じてもらえるわけがないよ」

 ただでさえ役立たずの扱いを受けていたのに。
 カルロスが僕に助けられたことを素直に認めるとは思えない。
 まぁ実際は弁解する暇もなく、殺されそうになったわけだけど。

「あの襲撃で奇跡的に犠牲者がでなかったのは……リーン、お前のおかげだったんだな……?」 
「本当なら変異種に奇襲されず、僕の努力が実らない方がよかったんだけどね」
「確かにお前に救われたとあの時教えられても、カルロスも、俺も、誰も信じなかっただろう……」
 
 ダントは唇を噛みながら俯く。
 背後に迫るキラーマンティスの周囲にはマッドウルフの群れがあった。
 一度目の襲撃とはまた違った最悪の状況が、僕の言葉を裏付ける証拠になっていた。
 
 しかし不味い事になってしまった。
 今回は流石に突発的に動いてしまったので、マッドウルフへの対策ができていない。
 今から警報の罠を使っても、逆に敵を増やすだけになってしまう。泥沼の罠も残り数が少ない。

 矢罠を設置しても、直線状に射出される矢は動き回る魔物には届かず。
 当たっても掠り傷を負わせる事すらままならない。どうにかして小迷宮を探さないと。
 
「――リーン! こちらです!」

 僕が最近知ったばかりの、少女の声が耳に届く。
 前方に片腕を振る人影が見えた。フォンの小迷宮がある場所とは別の方角だ。

「もしかして、もう新しい出入口ができたんだ!」
「はい。リーンの帰りが遅くて、嫌な予感がして万が一を考えて作業を早めました!」
「ありがとう! 恩に着るよ!!」

 フォンの助けによって僕たちは無事に小迷宮に辿り着いた。
 すぐさま罠種をばら撒いていく。拡張された通路もまた一本道だ。
 ダントがすぐさま状況を飲み込み、盾を構える。直後にキラーマンティスが飛翔、飛びかかる。

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 雄々しい叫びを放ち、ダントはキラーマンティスの一撃を耐え切った。
 跳ね除けられ巨大な質量が一度地面に足を付ける。瞬間、泥沼の罠が発動した。
 体勢を崩した支配者は、そのおこぼれに与ろうとした獣もろとも矢の嵐に呑み込まれる。

「出し惜しみはしないぞ、大盤振る舞いだ!!」

 手持ちにあった矢罠を手当たり次第に召喚していく。
 おまけにとっておきの落石罠を、上空に穴が生じて、そこから岩石が降り注ぐ。
 甲高い悲鳴が小迷宮内を駆け巡った。砂埃が吹き上げる、周囲に血だまりができていた。
 
「…………やったのか? マジかよ……本当に倒しやがった!」
 
 ダントがキラーマンティスの最期を見届けた。
 フォンは僕の隣に立ち、「凄いです」と褒めてくれる。
 せっかく作ってもらった出入口だけど、岩で塞がってしまった。

 安堵のため息を吐きながら、僕は罠種が入った袋の中身を確認する。
 変異種一匹を狩るだけで大量の罠種を消費した。あまりにも効率が悪すぎる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ◇泥沼の罠
 第一層から出現する一定の重さで反応する足止め系の罠。
 範囲がやや広いので複数をまとめて巻き込める。獣などには効果的。
 所詮はただの沼なので、相手の大きさや重さに左右されやすい。コツさえ掴めれば抜けるのも容易。
 沼の中に沈んでしまった武器や荷物は二度と戻ってこない。その為、荷物持ちは注意すべし。

 リーンの所持罠種

 矢罠 45→10(-35)    
 矢罠(麻痺) 3
 矢罠(毒) 1
 トラバサミ 2
 落石罠 4→3(-1)
 爆発罠 2
 泥沼罠 3→2(-1)
 移動床 2
 ワープ罠 1
 落とし穴 2
 警報罠 2
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