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十四話 崩壊の始まり
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「約束通り戻ったぞ。これで満足か、カルロス?」
「ダント、無事でよかったわ」
「……変異種に襲われなかったのか」
「まるで襲われて欲しかったかのような口ぶりだな?」
迎えに来たラミアに礼を伝えて、ダントはカルロスを睨む。
ダントは仲間を見捨てなかった。全員に水を届けるという約束を守ったのだ。
「途中、変異種に襲われたんだが、予期せぬ出会いがあった。これは彼から貰ったんだ」
リーンから受け取った食料を全員に見せる。
一人で使えば五日は持つだろう内容も、四人では精々二日分。
それでも二日は空腹を凌げるのだ。気の持ちようも変わるはず。
「リーンが助けてくれたんだ。俺たちはアイツを裏切ったのに、アイツは俺を救ってくれた!」
「……そ、そうですか」
「この目でしっかりと確かめた。アイツは決して足手纏いじゃなかった。立派な奴だったよ」
ダントは全員にリーンのこれまでの努力を熱心に語る。
しかし、彼の熱意とは裏腹に三人の表情は冷めたままだ。
「……毒が入っているかもしれませんね」
「おい、ロロンド。リーンの厚意を疑う気か?」
「普通に考えて、自分を害しようとした者に恵みを与えるとは思えませんね」
それを聞いてダントは答え辛そうに口を閉ざす。
リーンはダント一人が生き残れるようにと食料を渡していたのだが。
その事を彼は説明していなかった。あくまでリーンが全員に施したのだと伝えている。
そうしないと、カルロスたちがリーンに逆恨みしてしまうのではという懸念があったからだ。
「ご苦労だったなダント。それで――――リーンはどこに潜んでいたんだ?」
「カルロス……?」
「奴の隠れ場所には他人に分け与えられるほどの食料があるんだろう? そこに乗り込んで奪い取ってやるんだ。そうすれば俺たちの問題は解決する。奴には礼をしないといけないからな」
「お、お前は……! リーンは恩人だぞ!? そこまで堕ちたのか!!」
ダントはカルロスに拳を振るう。
だが、途中で透明な壁に阻まれてしまう。ロロンドの仕業だ。
ロロンドもまた、カルロスと同じ考えだった。杖を突き付けてダントをけん制する。
「お前こそ……リーンに絆されたな? 奴に金でも握らされたか」
「この状況で金を貰って何になる! 追い詰められて気でも狂ったか!?」
「狂っているのはダント、お前だ。貴様のその甘さは自分の首を絞めているのと同じだぞ」
「過ちを認めず、他者を陥れるやり方はもううんざりだ。俺はリーンに救われた。恩人は売れない!」
「どうやらここまでのようだな……?」
「ああ、地上まではと思っていたが。今すぐにでもこのパーティを抜けてやるよ」
これ以上は無駄だと、ダントはカルロスを突き放す。
荷物を背負い、食料をいくつか持って一人で立ち去ろうとする。
途中、ラミアの前で足が止まる。不安げな彼女にダントは提案した。
「ラミア、コイツらはもう駄目だ。俺たちだけでも地上を目指そう」
「ダント……」
「そしてカルロスたちの、俺たちの罪を洗いざらい――――ガアッ」
ダントの腹部に冷たい何かが通り過ぎていった。口から生温い液体が零れる。
首を横に動かすと、カルロスの邪悪に満ちた顔がダントの視界に映り込んだ。
「ぐあっ……カルロス……お前ッ……!」
「……裏切者は粛清しないとな? ――ロロンド、思考を読め。リーンの隠れ場所を調べろ」
「わかりました」
倒れたダントを見下ろしながら、カルロスは血濡れた剣を拭う。
半森妖精は魔術で相手の思考を読み取り、情報を断片的に抜き出すことができる。
このままではリーンにも危害が及ぶ。ダントは必死に逃れようとするも身体が動かなかった。
「くそっ……すまない……リーン。ら、ラミア……逃げろ……!」
ダントは目の前の仲間に手を伸ばす。
カルロスもロロンドもまともではない、狂っていると。
しかし、見上げた先にいる彼女は武器を持っていた。ダントは絶望した表情になる。
「……さようならダント。私は、ここで死ぬわけにはいかないの!」
「な、何故……! ガハッ!!」
ラミアが全力で杖を頭に叩き込む。地面に赤黒い血が飛び散る。
ダントはその場で息絶えた。【鋼の剣】の古株で、唯一の良心を失ったのだ。
「俺たちについた方が生き残れる。ラミア、お前は利口だな?」
「え、ええ……」
ラミアは静かに頷く。杖を持つ手が震えていた。
ダントが水を求めて傍を離れている間に、カルロスたちがラミアを唆したのだ。
リーンとダントは裏で繋がっている可能性があると。そしてその通りにダントはリーンを庇いだした。
「カルロス、どうやらリーンは【幻影ノ森】の小迷宮で地龍と一緒らしい」
「ククク、やはり魔族と通じていたか。これで奴を殺す正当性ができた。もしかしたら、俺たちへの変異種の奇襲も、奴が仕掛けたものかもしれんなぁ?」
カルロスはそうダントに伝えるが、魂が抜けた身体に返事はない。
そのまま仲間を蹴り転がし、ほくそ笑む。これから楽しい狩りが始まるのだ。
「リーンめ、待っていろよ。俺をコケにした報いを必ず受けさせてやる」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◇第二層【幻影ノ森】
全体の八割ほどが森で占める階層。ほぼ全ての生物が毒を持っている。
魔物の種類も豊富だが、ある程度人に開拓された第三層までの道中では出現数は少ない。
森の奥地にはマンドラゴラやジャイアントビートルなどの第二層だけの固有種も生息している。
変異種などの新しい脅威もあり、危険度は極めて高い。毎年死者も多く出ている。
初めて挑戦する場合は複数パーティでの攻略を推奨されており、第三層まで数ヶ月は掛かる事も。
迷宮異世界はとにかく広いので、目的地までの道のりが複雑に入り組んでいる。
その為に他のパーティと遭遇する確率が低く、救助隊が派遣されても間に合わない事も多い。
事前に信頼できる同業者との情報共有を行うようにと、ギルド側も呼び掛けている。
しかしながら、冒険者同士での派閥争いなどもあり。あまり上手くはいっていないようだ。
「ダント、無事でよかったわ」
「……変異種に襲われなかったのか」
「まるで襲われて欲しかったかのような口ぶりだな?」
迎えに来たラミアに礼を伝えて、ダントはカルロスを睨む。
ダントは仲間を見捨てなかった。全員に水を届けるという約束を守ったのだ。
「途中、変異種に襲われたんだが、予期せぬ出会いがあった。これは彼から貰ったんだ」
リーンから受け取った食料を全員に見せる。
一人で使えば五日は持つだろう内容も、四人では精々二日分。
それでも二日は空腹を凌げるのだ。気の持ちようも変わるはず。
「リーンが助けてくれたんだ。俺たちはアイツを裏切ったのに、アイツは俺を救ってくれた!」
「……そ、そうですか」
「この目でしっかりと確かめた。アイツは決して足手纏いじゃなかった。立派な奴だったよ」
ダントは全員にリーンのこれまでの努力を熱心に語る。
しかし、彼の熱意とは裏腹に三人の表情は冷めたままだ。
「……毒が入っているかもしれませんね」
「おい、ロロンド。リーンの厚意を疑う気か?」
「普通に考えて、自分を害しようとした者に恵みを与えるとは思えませんね」
それを聞いてダントは答え辛そうに口を閉ざす。
リーンはダント一人が生き残れるようにと食料を渡していたのだが。
その事を彼は説明していなかった。あくまでリーンが全員に施したのだと伝えている。
そうしないと、カルロスたちがリーンに逆恨みしてしまうのではという懸念があったからだ。
「ご苦労だったなダント。それで――――リーンはどこに潜んでいたんだ?」
「カルロス……?」
「奴の隠れ場所には他人に分け与えられるほどの食料があるんだろう? そこに乗り込んで奪い取ってやるんだ。そうすれば俺たちの問題は解決する。奴には礼をしないといけないからな」
「お、お前は……! リーンは恩人だぞ!? そこまで堕ちたのか!!」
ダントはカルロスに拳を振るう。
だが、途中で透明な壁に阻まれてしまう。ロロンドの仕業だ。
ロロンドもまた、カルロスと同じ考えだった。杖を突き付けてダントをけん制する。
「お前こそ……リーンに絆されたな? 奴に金でも握らされたか」
「この状況で金を貰って何になる! 追い詰められて気でも狂ったか!?」
「狂っているのはダント、お前だ。貴様のその甘さは自分の首を絞めているのと同じだぞ」
「過ちを認めず、他者を陥れるやり方はもううんざりだ。俺はリーンに救われた。恩人は売れない!」
「どうやらここまでのようだな……?」
「ああ、地上まではと思っていたが。今すぐにでもこのパーティを抜けてやるよ」
これ以上は無駄だと、ダントはカルロスを突き放す。
荷物を背負い、食料をいくつか持って一人で立ち去ろうとする。
途中、ラミアの前で足が止まる。不安げな彼女にダントは提案した。
「ラミア、コイツらはもう駄目だ。俺たちだけでも地上を目指そう」
「ダント……」
「そしてカルロスたちの、俺たちの罪を洗いざらい――――ガアッ」
ダントの腹部に冷たい何かが通り過ぎていった。口から生温い液体が零れる。
首を横に動かすと、カルロスの邪悪に満ちた顔がダントの視界に映り込んだ。
「ぐあっ……カルロス……お前ッ……!」
「……裏切者は粛清しないとな? ――ロロンド、思考を読め。リーンの隠れ場所を調べろ」
「わかりました」
倒れたダントを見下ろしながら、カルロスは血濡れた剣を拭う。
半森妖精は魔術で相手の思考を読み取り、情報を断片的に抜き出すことができる。
このままではリーンにも危害が及ぶ。ダントは必死に逃れようとするも身体が動かなかった。
「くそっ……すまない……リーン。ら、ラミア……逃げろ……!」
ダントは目の前の仲間に手を伸ばす。
カルロスもロロンドもまともではない、狂っていると。
しかし、見上げた先にいる彼女は武器を持っていた。ダントは絶望した表情になる。
「……さようならダント。私は、ここで死ぬわけにはいかないの!」
「な、何故……! ガハッ!!」
ラミアが全力で杖を頭に叩き込む。地面に赤黒い血が飛び散る。
ダントはその場で息絶えた。【鋼の剣】の古株で、唯一の良心を失ったのだ。
「俺たちについた方が生き残れる。ラミア、お前は利口だな?」
「え、ええ……」
ラミアは静かに頷く。杖を持つ手が震えていた。
ダントが水を求めて傍を離れている間に、カルロスたちがラミアを唆したのだ。
リーンとダントは裏で繋がっている可能性があると。そしてその通りにダントはリーンを庇いだした。
「カルロス、どうやらリーンは【幻影ノ森】の小迷宮で地龍と一緒らしい」
「ククク、やはり魔族と通じていたか。これで奴を殺す正当性ができた。もしかしたら、俺たちへの変異種の奇襲も、奴が仕掛けたものかもしれんなぁ?」
カルロスはそうダントに伝えるが、魂が抜けた身体に返事はない。
そのまま仲間を蹴り転がし、ほくそ笑む。これから楽しい狩りが始まるのだ。
「リーンめ、待っていろよ。俺をコケにした報いを必ず受けさせてやる」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◇第二層【幻影ノ森】
全体の八割ほどが森で占める階層。ほぼ全ての生物が毒を持っている。
魔物の種類も豊富だが、ある程度人に開拓された第三層までの道中では出現数は少ない。
森の奥地にはマンドラゴラやジャイアントビートルなどの第二層だけの固有種も生息している。
変異種などの新しい脅威もあり、危険度は極めて高い。毎年死者も多く出ている。
初めて挑戦する場合は複数パーティでの攻略を推奨されており、第三層まで数ヶ月は掛かる事も。
迷宮異世界はとにかく広いので、目的地までの道のりが複雑に入り組んでいる。
その為に他のパーティと遭遇する確率が低く、救助隊が派遣されても間に合わない事も多い。
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