パーティに見捨てられた罠師、地龍の少女を保護して小迷宮の守護者となる~ゼロから始める迷宮運営、迷宮核争奪戦~

お茶っ葉

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二章

六話 鉄拳制裁

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「到着。ここがユグドラシルとミズガルズを繋ぐ玄関口、中央塔セントラルタワーだよ」

 第一層の転移ゲートを潜り、地上の神樹から伸びる極太の根っこを渡っていくと。
 目の前に巨大な門と白塔が見えてくる。ミズガルズを防衛する施設だ。検問も行っている。
 人の波に呑み込まれながら、簡単な審査を受ける。フォンもミリィも問題なく通り抜けられた。

「本当に検問は適当なんですね……私は簡単な質問に答えただけです」
「まぁそんなものだよ。地上で悪さをして、指名手配にならない限りは素通りできるし」
「ほぇ……人間さんでいっぱいです」
「変な人に絡まれたら知らせてね。ノノが護ってあげるから」

 綺麗で整った石造りの床を僕たちは歩いていく。
 身体が異世界に慣れているので、人の多さが逆に新鮮だ。
 中央の天井が吹き抜けで、階段を上り、各フロアに様々な施設が揃っている。

 外の冒険者街と比べると、あくまで利便性を追求した簡易的なものばかり。
 中央塔は買い忘れなどをして、一々外に戻るのが面倒な時に利用するような場所だ。
 屈強な冒険者たちにぶつからないよう隅っこに集まると、僕は用事を思い出していた。

「悪いけど、少しだけ時間をくれないかな」
「リーンくん、どうかしたの?」
「冒険者ギルドに【鋼の剣】の顛末を説明する義務があるから」
「あ……そうだね。そのパーティはリーンくん以外は全滅したんだよね?」
「……うん。全員死んでしまったよ」

 冒険者であるノノは気まずそうにしている。
 壊滅したパーティの生き残りは、周囲からあまりいい印象を持たれない。
 遺族から恨まれたり、ありもしない噂を流されたりと、今後の活動に大いに支障をきたす。

 とはいえ、僕の目的には関係のない事だ。守護者として上層を目指す。
 今後は冒険者として活動しないので、あくまで最後に残された仕事を片付けるだけ。

「わかった。二人の面倒はノノに任せて!」
「頼むよ、すぐに戻ってくるから。フォンもミリィも、ノノからはぐれたら駄目だよ?」
「はい。ここで貴方の帰りを待っていますね」
「お気をつけてです。……あわわ、ぶつかりそうで怖いです」

 三人に見送られながら、中央塔の冒険者ギルド支部に足を運ぶ。
 何度も利用しているので、ひと通りの手続きを終わらせて、窓口担当と話す。
 結論から言うと、特に滞りなく【鋼の剣】の件は処理された。質問を幾つかされただけだ。

 第二層【幻影ノ森】で全滅するパーティは少なくない。
 これもある意味、ギルドの日常なのだ。まぁ間違いなく僕の評価は下がっているけど。
 罠解除役が戦いに向いていないのは周知の事実なので、変に疑われるような事もなかった。

 呆気なく解放されて、ギルドから出ていく。

「あれが例の《罠師》か。ユニークスキル持ちの癖に、仲間を見殺しにしたらしいぞ」
「結局、罠解除役なんて寄生虫なのよ。適当に仕事して報酬だけ持っていくんだから」
「ギルドに推されているからといって、調子に乗るなよ。お前たちはお荷物なんだ」

 傍を通り過ぎるパーティの視線はどこか冷たかった。
 話が聞こえていたのだろう。信用を失った冒険者なんてこんなものだ。
 わざわざギルド側が罰則を下さなくても、集団の中で弱者は自然淘汰される。

 罠解除役が嫌われているのもそうだけど。
 僕は希少なユニークスキル持ちとして、名前だけは有名だ。
 まともな実績がないので、顔と名前が一致しない程度だけど。

 変に知名度があるせいで、僕が罠解除役の代表として叩かれている感じだ。
 迷宮異世界から一ヵ月ぶりに地上に戻ったので、この陰湿な空気を味わうのも久々である。
 違うな、カルロスたちと組んでいた時もそうか。最近は褒められる事が増えたので忘れていた。

「《罠師》に過度な期待をされても困るんだよね……」

 ユニークスキル持ちは、一人でも過酷な戦況を変えられるとされている。
 それだけ強力なスキルばかりなのだ。その中で、僕はハズレを引いてしまった。
 いや、まだこのスキルは”初期段階”であり、諦めるのは早いのかもしれないけど。

「はぁ……。地上は地上で精神的に疲れる。フォンたちの方は大丈夫かな」

 周囲の批判を耳に入れないようにして、待ち合わせの場所に移動する。
 すると、人混みの中から少女の怒った声が届いてきた。これはノノだろうか。

「いい加減しつこいよ! ノノはそんなつもりで貴方と仲良くしていた訳じゃないの!」

 年長の男がノノの手を掴もうとして、彼女がそれを振り払っている。
 これが淫魔の血の本来の影響なのか。男が無理やりノノに言い寄り、派手に暴れている。

「嘘だ!! お前はあの時、確かに俺に惚れていたはずだ。お前も俺の事が好きだったんだろう!?」
「だから、それは誤解で……。あーもうっ、どうして普通にしているだけで勘違いさせちゃうの……!」
「もう一度俺とやり直そう。一からパーティを作って……君のお姉さんにも許可を貰うからさ」
「カナデお姉ちゃんも巻き込むつもり!? やめてよ、お姉ちゃんにだけは迷惑を掛けないで……!」

 弱みを握られてノノは辛そうな顔をしていた。
 この場で彼女が下手な対応を取ると、【月の雫】の印象まで悪くなりかねない。
 最悪な野郎だった。誘惑に掛からなくても、最初から性格は歪んでいたんだろう。

「……恥ずかしい人です。思い通りにいかないからと、力で屈服させるのですね」

 フォンが冷たい声で男を切り捨てる。
 すると男は顔を真っ赤にして拳を振り上げた。

「んだとぉ!? この生意気な女め! 怪我人だからといって調子に乗るな、痛い目に遭わせるぞ!」
「私は既に地獄のような苦しみを味わいました。貴方程度の脅しに屈するほどやわではありません」

 包帯が巻かれた片目と、動かない片腕を見せつけて、フォンは威圧する。
 一瞬だが、男は気圧されて後ろに下がる。それでもちっぽけな自尊心が残っていたのか。
 前に出てきたフォンの身体を強く押し倒した。ノノが慌ててフォンの身体を支える。

「駄目っ! この子たちは関係ないよ! ……わかったから。謝るから、殴るのならノノにして……」
「あわわ……リーンさん。怖いです助けてください……!」

 僕は急いで野次馬の壁を潜り抜けて、男の背後に立つ。

「いい加減そこまでにした方がいいですよ。いい年した大人が情けない」
「あぁん!? 何だテメェは」

 突然現れた僕の姿に、男の顔が歪む。
 流石に年下の女の子に手を出すのは不味いと思っていたのか。
 男の僕に対しては随分と高圧的だ。胸倉を掴まれて身体が揺れる。

「関係ない男は黙っていろ。それともなんだ? お前はノノの特別な何かか?」
「そうだよ。彼女は僕と同じパーティを組んでいるんだ。これ以上、僕の仲間に手を出すな」

 本当はまだ保留にしていた事だけど。
 彼女たちに危害を加えるなら、僕だって遠慮はしない。
 どうせこれ以上評価が下がっても関係ないのだから。好きにやらせてもらう。
 
「はっ、ノノも男の趣味が悪いな!? こんな情けない優男に騙されやがって!!」
「ノノが誰と組もうと貴方には関係ないでしょ! リーンくんまで馬鹿にしないで!」
「見ていろ、今からコイツの化けの皮を剥がしてやる! そして俺の方が男として優れているという事を――――グハッ」
「……あ、ごめん。頬に虫がついていたから取ってあげたよ」

 遠慮なく拳で殴りつけた。辺りが一瞬、静まり返る。
 ちょうど胸倉を掴まれて殴りやすい位置に顔があったので不可抗力だ。
 
「この野郎!!」

 拘束が解かれ反撃の拳が届く前に、僕は後ろに下がって罠種を落す。
 
「な、なんでこんなところにトラバサミが!? く、くそっ!?」

 足を拘束されて身動きが取れなくなったところを、その無防備な腹に追撃の一撃。

「グフッ……道具を使うなんて、ひ、卑怯だぞ……!」
「その言い訳が、ユグドラシルでも通用するといいね」

 拳に握っていた魔石を戻す。脂汗を流しながら、男は腹を押さえていた。
 無視してフォンたちの方に向かう。ノノは目を真っ赤にさせて抱きついてきた。

「ごめん、乱入するタイミングを計っていたら、遅れてしまったよ」
「ううん。全然気にしてないよ……。でも、ノノなんかのために……リーンくんが……!」
「違う。これは僕が勝手にやったことだから。目の前に気に入らない男がいたから殴っただけだ」

 わざと周囲に聞こえるように大きな声で宣言する。
 【月の雫】に風評被害が出ないように。パーティを持たない野良だからできる特権だ。

「さっ、用は済んだし。すぐにでもここから離れよう」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 
 ◇ユニークスキル
 神の寵愛を受けた選ばれし者にだけ与えられる特権。報告例は数える程度。
 他のスキルを覚えられなくなる欠点があるが、その代わり、ユニークスキルは成長する。
 条件は今のところ不明だが、成長すれば大幅に性能が向上し、より尖った能力になるとか。

 ユニークスキル持ちは、それだけで名前が売れるので様々な国が欲している。
 逆に言えば敵を作りやすいという事だ。リーンのように野良で活動している者もいる。
 
 残念ながら、全てのユニークスキルが迷宮探索に役立つわけではない。
 戦闘用以外は何かと過小評価を受けやすい。《罠師》もその一つである。

 リーンの所持罠種

 矢罠 45
 矢罠(麻痺) 1
 矢罠(毒) 0
 トラバサミ 14→13(-1)
 岩石罠 1
 爆発罠 0
 泥沼罠  11
 移動床 2
 ワープ罠 1
 落とし穴 2
 警報罠 2
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