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第一章
第11話 決別
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「どうして貴方はあれだけ好き放題に言われて、一つも言い返さなかったのよ!?」
アイギスさんが僕に詰め寄ってくる。
三人がいなくなってからも、怒りが収まらず、腕が震えていた。
「地上ではああいう人も多いんだ。冒険者はいつも競い合うから自分より下の人を見て安心する。弱者を虐めて、自分はまだ大丈夫なんだと言い聞かす。強そうに見えて、内面は弱い生き物なんだよ」
「だからって存在そのものを否定しなくてもいいじゃない! 誰だって失敗はあるでしょ!?」
「一度の失敗で誰かが死ぬかもしれないんだ。仕事ができなくて責められるのは正しいよ」
「正しいとか、正しくないとか私は知らない。けど悔しくないの? 見返してやりたいと思わないの!?」
「アイギスさん、僕は本当に気にしていないんだ。だから落ち着いて」
違う、本心は悔しいと思っている、けど感情的になっても負けなんだ。
時には我慢も必要で。耐えて耐えて耐えて、それでいつの日か…………。
――このままで僕は変われるのだろうか。これではいつもと同じなのでは?
「自分の使い手を馬鹿にされて悔しくない武具はいないわ。私は……盾なのよ? マスターを傷付けられるのを、黙って見ていられるようにできていないわ! 私は奴らを、絶対に許さないから……!」
アイギスさんの声が弱まり、両頬が濡れていた。
僕の為に泣いてくれている。全部の激情を僕の為に。
「僕をマスターと呼んでくれるんだね?」
「ち、ちがっ、まだ認めてない……貴方を無条件に慕っているエルが可哀想なだけよ」
バッと勢いよく離れていくアイギスさん。
「エルは怒ってます。あの人たちに!」
「おや、エルエルまで。当然、私様も怒りで燃えていますけど」
エルとライブラさんも、冷静だけど激しく感情を出して。
「ありがとう。何度でも言うよ、僕は強くなるから」
「思うだけじゃ駄目なのよ。変わりなさい。そうじゃないと、私は素直に……」
変な噂を流されないようにと、監視の意味も含めて同行を提案したけど。
それも今考えると消極的だった。そうだ、僕はまだアイツらに怒っていない。
自分を隠す事が強いと思っていた。
でもそれは弱さを誤魔化しているだけだった。
「うん。僕、もう一度あの人たちの所に行ってくる。それでしっかりと言いたい事を伝えて決別してくるよ! 僕は頑張って、アイギスさんにも認められる人物になってみせるから!」
そうと決まれば急いでアイツらを追いかけないと。
拳を握り締める。一発くらい殴っても――許されるよね。
「エル、すぐ戻るから荷物を見ておいてね!」
「あるじさま、エルもついていきます!」
「これくらい僕一人で十分だよ! すぐに戻るから!」
「え、ちょっと待ちなさいロロア、思い切りが良すぎよ!? 待ちなさいって!」
「あーあ。ロロアさんは変なところで律儀ですから。これはアイちゃんの責任ですよ」
「私たちもすぐ追いかけるのよ! って、あの子足早っ。もうあんなに小さく――――」
僕は全力疾走でクルトンたちの元を目指した。ここから真の意味で変わるんだ!
◇
クルトンは二十九階へと続くゲートの前で立っていた。
他の二人の姿がない。まさか魔物にやられたとは思わないけど。
「あ? なんだ、嘘吐きロロアか。一人で何の用だ?」
「えっと、忘れ物があって。物というより言葉だけど」
いざ目の前まで来ると、緊張で胸が苦しくなる。
魔塔で二ヵ月以上も一方的に虐められていたんだ。
身体が拒絶するのもわかる。でも、心は負けていない。
「お別れだよ。僕はお前たちを――――」
ここだ、決めてやると。
意を決してお腹に力を入れた瞬間だった。
「馬鹿め、一人でノコノコ現れやがって!」
「わあっ」
何だか嫌な予感がしたので屈む。
「このガキ避けやがった! 背中に目でもついてるんじゃないか!?」
「何をするんですか! 当たったら死んじゃうじゃないですか!」
頭の上をシーザーの剣が通り過ぎ、髪の毛一本を失った。
「当てるつもりで狙ったんだよ! くそっ、ふざけたガキだ……」
僕は転がって距離を取る。あと一歩、二歩おまけで。
すると、一瞬だけ足をつけた地面が何度も爆発していた。
「設置罠も避けられた……? 足を奪ってやるつもりが、面白くないガキだね……!」
奥から隠れていたローズも出てくる。
「ちっ、揃いも揃って失敗しやがって。どう見ても絶好のチャンスだっただろ!?」
クルトンが二人を怒鳴りつけている。
僕を殺そうとしたんだ。どういう理由で?
「まさか、お前たちは能力喰らい……!?」
他人のスキルを無理やり奪い取る武装盗賊集団。
でも、どうして今まで行動に移さなかったんだろう。
寝ている時とか、チャンスならいくらでもあったはずなのに。
「あ……もしかして、ユニークスキルが奪えないと知らなかった感じですか?」
所有者が希少で情報自体が規制されているから、案外知らない人が多い。
それで二十五階まで粘っていたんだ。我慢強いというか、マヌケというか……。
「うるせぇ! 奪えないなら別の宝を奪うまで。お前が【擬人化】を使ったのはわかっているぞ!」
「コイツらエルたちが狙いなのか……! 逃げなきゃ……!」
能力喰らいは、魔塔に挑む冒険者にとって天敵ともされる最悪な犯罪者だ。
盗られたあとに殺される場合もあるし、
スキルを失って魔塔に放置も処刑と同じだ。
「――でも、その前に」
僕はすぐに逃げるフリをして、一気に前へ詰める。
クルトンもまさか接近してくるとは思ってなかったのか。
「は?」
至近距離で呆然と僕を見下ろしていた……いただき。
「ぐあっ!?」
「この嘘吐きの卑怯者め、お前にはその潰れた顔がお似合いだ!」
僕はそのマヌケな男の顎に、頭突きをお見舞いしてやった。
当たり所が良かったのか、鼻血を出して、醜い顔が更に醜く。
「くっ、殺すッ、コイツだけは、決して逃がすなよ!?」
「ローズ、魔法を使え! 足を止めたら俺が叩き斬ってやる!」
「発現せよ――ファイアーボール!!」
後ろから炎の玉が飛んで来る。横に、斜めに飛び跳ねて避ける。
前回と違い重たい荷物を持っていないから、全力で身体を動かせる。
「アイツ、やっぱり背中に目でもついてるだろ! すばしっこすぎる!」
「シーザー、ローズ、油断はするな。ロロアは戦闘に参加しなかったとはいえ、探索中怪我らしい怪我を負わなかった。逃げ足と直感だけは無駄に優れたガキだぞ!」
「過大評価をありがとう。初めてクルトンに褒められた気がするよ」
僕みたいな弱小が魔塔で生き残るには、
とにかく足と勘を働かせる必要がある。
ただ生き残る事だけに特化して、
それを第三者は卑怯者だの、臆病者だの笑うけど。
笑いたければ笑うがいい、最後まで立っていた者が勝者なんだ。
「よっと!」
足を急停止させて振り返る。直線状にローズとシーザーが。
「僕だって、偶には反撃してみせたり?」
お借りしてきた【改造型魔導銃トロン】を取り出し、
二人に対して銃口を向ける。
「それは魔導銃か、はっ、お前の魔力程度じゃ蟲さえ殺せないよ」
「驚かせやがって、所詮ガキはガキだな。飛び道具を持って強くなったと勘違いしたか?」
そうそう、忘れずエルから貰った水龍の魔力水を飲んでっと。
徐々に増幅していく魔法陣の数に、二人の当初の余裕が失われる。
「な、何よこの魔法陣の数は!? 本職の魔法士でもこの規模の魔法弾は創造できないわよ!?」
「一体どんな魔法を使いやがった! まさか、その銃も神話級なのか!?」
「答えは――自分の身体で受けてからのお楽しみだよ」
僕は迷いなくトリガーを引く。ローズの耳元を雷光が通り過ぎた。
今回の標的は小さいから当てるのが難しい。次弾装填は間に合わないか。
「うそ……でしょ?」
「な、なな……なんだこりゃあああ!?」
雷光弾を放った後には、地表に大きな窪みが長く続いている。
腰を抜かして放心している二人を置いて、僕はまた駆け出した。
アイギスさんが僕に詰め寄ってくる。
三人がいなくなってからも、怒りが収まらず、腕が震えていた。
「地上ではああいう人も多いんだ。冒険者はいつも競い合うから自分より下の人を見て安心する。弱者を虐めて、自分はまだ大丈夫なんだと言い聞かす。強そうに見えて、内面は弱い生き物なんだよ」
「だからって存在そのものを否定しなくてもいいじゃない! 誰だって失敗はあるでしょ!?」
「一度の失敗で誰かが死ぬかもしれないんだ。仕事ができなくて責められるのは正しいよ」
「正しいとか、正しくないとか私は知らない。けど悔しくないの? 見返してやりたいと思わないの!?」
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違う、本心は悔しいと思っている、けど感情的になっても負けなんだ。
時には我慢も必要で。耐えて耐えて耐えて、それでいつの日か…………。
――このままで僕は変われるのだろうか。これではいつもと同じなのでは?
「自分の使い手を馬鹿にされて悔しくない武具はいないわ。私は……盾なのよ? マスターを傷付けられるのを、黙って見ていられるようにできていないわ! 私は奴らを、絶対に許さないから……!」
アイギスさんの声が弱まり、両頬が濡れていた。
僕の為に泣いてくれている。全部の激情を僕の為に。
「僕をマスターと呼んでくれるんだね?」
「ち、ちがっ、まだ認めてない……貴方を無条件に慕っているエルが可哀想なだけよ」
バッと勢いよく離れていくアイギスさん。
「エルは怒ってます。あの人たちに!」
「おや、エルエルまで。当然、私様も怒りで燃えていますけど」
エルとライブラさんも、冷静だけど激しく感情を出して。
「ありがとう。何度でも言うよ、僕は強くなるから」
「思うだけじゃ駄目なのよ。変わりなさい。そうじゃないと、私は素直に……」
変な噂を流されないようにと、監視の意味も含めて同行を提案したけど。
それも今考えると消極的だった。そうだ、僕はまだアイツらに怒っていない。
自分を隠す事が強いと思っていた。
でもそれは弱さを誤魔化しているだけだった。
「うん。僕、もう一度あの人たちの所に行ってくる。それでしっかりと言いたい事を伝えて決別してくるよ! 僕は頑張って、アイギスさんにも認められる人物になってみせるから!」
そうと決まれば急いでアイツらを追いかけないと。
拳を握り締める。一発くらい殴っても――許されるよね。
「エル、すぐ戻るから荷物を見ておいてね!」
「あるじさま、エルもついていきます!」
「これくらい僕一人で十分だよ! すぐに戻るから!」
「え、ちょっと待ちなさいロロア、思い切りが良すぎよ!? 待ちなさいって!」
「あーあ。ロロアさんは変なところで律儀ですから。これはアイちゃんの責任ですよ」
「私たちもすぐ追いかけるのよ! って、あの子足早っ。もうあんなに小さく――――」
僕は全力疾走でクルトンたちの元を目指した。ここから真の意味で変わるんだ!
◇
クルトンは二十九階へと続くゲートの前で立っていた。
他の二人の姿がない。まさか魔物にやられたとは思わないけど。
「あ? なんだ、嘘吐きロロアか。一人で何の用だ?」
「えっと、忘れ物があって。物というより言葉だけど」
いざ目の前まで来ると、緊張で胸が苦しくなる。
魔塔で二ヵ月以上も一方的に虐められていたんだ。
身体が拒絶するのもわかる。でも、心は負けていない。
「お別れだよ。僕はお前たちを――――」
ここだ、決めてやると。
意を決してお腹に力を入れた瞬間だった。
「馬鹿め、一人でノコノコ現れやがって!」
「わあっ」
何だか嫌な予感がしたので屈む。
「このガキ避けやがった! 背中に目でもついてるんじゃないか!?」
「何をするんですか! 当たったら死んじゃうじゃないですか!」
頭の上をシーザーの剣が通り過ぎ、髪の毛一本を失った。
「当てるつもりで狙ったんだよ! くそっ、ふざけたガキだ……」
僕は転がって距離を取る。あと一歩、二歩おまけで。
すると、一瞬だけ足をつけた地面が何度も爆発していた。
「設置罠も避けられた……? 足を奪ってやるつもりが、面白くないガキだね……!」
奥から隠れていたローズも出てくる。
「ちっ、揃いも揃って失敗しやがって。どう見ても絶好のチャンスだっただろ!?」
クルトンが二人を怒鳴りつけている。
僕を殺そうとしたんだ。どういう理由で?
「まさか、お前たちは能力喰らい……!?」
他人のスキルを無理やり奪い取る武装盗賊集団。
でも、どうして今まで行動に移さなかったんだろう。
寝ている時とか、チャンスならいくらでもあったはずなのに。
「あ……もしかして、ユニークスキルが奪えないと知らなかった感じですか?」
所有者が希少で情報自体が規制されているから、案外知らない人が多い。
それで二十五階まで粘っていたんだ。我慢強いというか、マヌケというか……。
「うるせぇ! 奪えないなら別の宝を奪うまで。お前が【擬人化】を使ったのはわかっているぞ!」
「コイツらエルたちが狙いなのか……! 逃げなきゃ……!」
能力喰らいは、魔塔に挑む冒険者にとって天敵ともされる最悪な犯罪者だ。
盗られたあとに殺される場合もあるし、
スキルを失って魔塔に放置も処刑と同じだ。
「――でも、その前に」
僕はすぐに逃げるフリをして、一気に前へ詰める。
クルトンもまさか接近してくるとは思ってなかったのか。
「は?」
至近距離で呆然と僕を見下ろしていた……いただき。
「ぐあっ!?」
「この嘘吐きの卑怯者め、お前にはその潰れた顔がお似合いだ!」
僕はそのマヌケな男の顎に、頭突きをお見舞いしてやった。
当たり所が良かったのか、鼻血を出して、醜い顔が更に醜く。
「くっ、殺すッ、コイツだけは、決して逃がすなよ!?」
「ローズ、魔法を使え! 足を止めたら俺が叩き斬ってやる!」
「発現せよ――ファイアーボール!!」
後ろから炎の玉が飛んで来る。横に、斜めに飛び跳ねて避ける。
前回と違い重たい荷物を持っていないから、全力で身体を動かせる。
「アイツ、やっぱり背中に目でもついてるだろ! すばしっこすぎる!」
「シーザー、ローズ、油断はするな。ロロアは戦闘に参加しなかったとはいえ、探索中怪我らしい怪我を負わなかった。逃げ足と直感だけは無駄に優れたガキだぞ!」
「過大評価をありがとう。初めてクルトンに褒められた気がするよ」
僕みたいな弱小が魔塔で生き残るには、
とにかく足と勘を働かせる必要がある。
ただ生き残る事だけに特化して、
それを第三者は卑怯者だの、臆病者だの笑うけど。
笑いたければ笑うがいい、最後まで立っていた者が勝者なんだ。
「よっと!」
足を急停止させて振り返る。直線状にローズとシーザーが。
「僕だって、偶には反撃してみせたり?」
お借りしてきた【改造型魔導銃トロン】を取り出し、
二人に対して銃口を向ける。
「それは魔導銃か、はっ、お前の魔力程度じゃ蟲さえ殺せないよ」
「驚かせやがって、所詮ガキはガキだな。飛び道具を持って強くなったと勘違いしたか?」
そうそう、忘れずエルから貰った水龍の魔力水を飲んでっと。
徐々に増幅していく魔法陣の数に、二人の当初の余裕が失われる。
「な、何よこの魔法陣の数は!? 本職の魔法士でもこの規模の魔法弾は創造できないわよ!?」
「一体どんな魔法を使いやがった! まさか、その銃も神話級なのか!?」
「答えは――自分の身体で受けてからのお楽しみだよ」
僕は迷いなくトリガーを引く。ローズの耳元を雷光が通り過ぎた。
今回の標的は小さいから当てるのが難しい。次弾装填は間に合わないか。
「うそ……でしょ?」
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