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第三章

第63話 Dランク冒険者

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「ルガンさん、遅くなりましたが癒しの水です」

「おお……痛みが和らいだぞ。骨折も治せるのか……専門の治療師より優秀だな」

 怪我を負ったルガンさんをエルのスキルで治療して。
 汚れた身体を地底湖で清めながら、地上からの助けを待つ。
 
「……まったく。あれだけの怪物を前にしてのあの大立ち回り。同じ冒険者として尊敬するぞ」

「結構危なかったですけど。魔導ゴーレムの助けを得てなんとか」

「君には早く上位ランクに上り詰めて欲しいものだ。でないと俺の自信が崩れかねん」

 ルガンさんはそう苦笑しながら寝転がる。
 僕も一緒になって天井を見つめていると人の気配が。

「ロロア! ご無事でしたか!」

「レイリア?」

 地底湖に似つかわしくない王女様が先頭を走っていた。
 ドレス姿のレイリアを見て、ルガンさんが口を開けている。

「良かった、お怪我はありませんか? 【理の破壊者】が現れたとお聞きしまして」

「急いで駆け付けてくれたんだね。ありがとう。無事に討伐したよ」

 彼女の後ろには王国の正規騎士の人たちが。
 クロストの散らばった肉片を回収していっている。

「もしや、創造主様がお一人で倒されたです?」

 メイド服を着たストブリも一緒で、僕に尊敬の眼差しを向けてくれる。

「僕だけじゃないよ。同じ試験を受けていたルガンさんと――あの子の助けがあってこそだよ」

 起動停止した白い魔導ゴーレムを指す。
 するとストブリが驚いた様子で駆け出した。

「レイリア! 行方不明になっていたフォルスです!」

「ええそうね。昇格試験真っ最中の洞窟に隠れていたのね。探しても見つからない訳だわ」

「この子はやっぱり、王国が所有する魔導ゴーレムで間違いないんだね?」

「はい。【理の破壊者】を討伐する為に、新たに開発した試作魔導兵器です」

 王国の第三王女をも襲った能力喰らいの新興組織。
 当然、国を挙げて対策に取り組んでいて。その一つらしい。
 
「組織の構成員カナンは神話級の秘宝【神化の秘薬】を隠し持っていました。フォルスには神話級に反応する探知機能があるのです。動力源に貴方が提供してくれたフォルネウスの魔石が使われています。他に二号機の開発にも着手しているところです」

 神話級の道具を持ち歩く人は限られているから。
 組織の者を探す判断材料としては一番理にかなっている。

「開発にはライブラ様の協力もあったです! とても頼りになりましたです!」

「えっ、いつの間に。でもそうか。神話級の探知機能を付けるには神話級の力が必要だもんね」

 という事はライブラさんはフォルスを知っていたんだ。
 教えてくれても良かったのに。僕を驚かせるつもりだったのかな。

「探知機能は正常に起動していたよ。討伐にも協力してくれたしね」

 クロストの【神化の秘薬】に反応したから、紛れ込んでいたんだ。
 誰が持っているのかを判断するまでには時間が掛かったみたいだけど。

 僕はフォルスのこれまでの行動をレイリアに報告する。

「間違いがあって善良市民を攻撃してはいけませんから。戦闘モードに切り替わるまでに時間を要するのです。もう少し細かい調整が必要ですね。貴重な情報をありがとうございます」

「レイリア、研究に没頭するのもいいですが。その前に伝える事があるです」

 ストブリが、レイリアの腕を何度も引っ張る。
 すると集中していた彼女が正気に戻り頬を赤らめた。 

 王宮でも冒険者に代わる新しい役目を見つけたみたいだ。
 魔導兵器の研究はどの国も競い合っている。頑張って欲しいな。

「失礼しました……その、昇格試験の結果をお伝え忘れていました」

「あれ、試験は中止になったのでは? まだ二日目だよ」

 数週間後に再試験の流れだと思ったけど。

「今回の一件は事前に犯罪者を見抜けなかったギルドの落ち度もあります。それに怪物と化した【理の破壊者】を洞窟内に封じ込め、王都の民を守った功績を王国としても無視する事はできません。特例としまして、ロロアにDランクを授与いたします。ギルドカードは後日配布いたしますね」

「おめでとうロロア。王女様からの直々の名誉だ。俺からも祝福させてくれ」

「おめでとです!」

 レイリア、ストブリ、ルガンさんに祝福されて。
 僕は無事にDランク冒険者の資格を得られたのだった。

「それから、ルガン様にも同じく特例措置を――」

「王女様、ありがたい話ですが俺は辞退させてもらいたい。同じ名誉をいただけるほど活躍はしていない。何より今後も彼と比較されると考えると耐えられそうにない」

 俺は英雄の器でないからなと、ルガンさんは後ろに下がる。

「……私も元冒険者として、ルガン様のお気持ちを理解できます。わかりました」

 そう言ってレイリアはルガンさんの希望を受け入れた。

 ◇

 王都の宿に戻り、ぐっすりと身体を休める。
 朝、目が覚めたら僕の隣でエルが転がっていた。

「あるじさま、おはようございます!」

「おはようエル。目が覚めたんだね」

「はい。遅くなりましたけど」

「ご主人様。昇格おめでとうございます」

「おめでとうございます~!」

 後ろでは既に朝食の準備をしているコクエンが。
 拍手で祝ってくれる。二人にお礼を告げて着替える。

「あれ、他の子たちは?」

「エルとこくえんさんだけです」

「珍しいね。アイギスが遅いだなんて」

「ライブラ参謀もです。どうしたのでしょうか?」

 ライブラさんはアイテムに戻るのが今回初めてだから。
 勝手がわからないのかもしれない。トロンはお寝坊さんだし。

「エルはなんとなくあいぎすさんが顔を出さない理由がわかります」

「私めも……それとなく」

「えっ、原因を教えて欲しいな」
 
 僕が聞き返すと、エルもコクエンも苦笑していた。

「あいぎすさん。あの戦いで弾かれちゃいましたから」

「盾としての役目を最後までまっとうできずに……私めもあまり通用せず。しくしく」

「そ、そうか……そういえばそうだった」

 クロストとの一戦で僕は力負けしてアイギスを手放した。
 盾としての誇りを持つ彼女にとっては許されない出来事なんだ。

「で、でもあれは僕の責任だし――で納得する子じゃないよね」

「はい……きっとしばらく戻って来ないと思います」

「同じく私めも本当は気まずいです……恥ずかしいよぉ」

「そんな事はないよ。コクエンも最後には通用するようになったし」

 しっかり活躍させてあげられなかった僕の落ち度だ。
 アイギスには悪い事をしてしまった。ちゃんと謝りたいな。
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