最弱から最強へ【擬人化】スキルによって、僕は神話級アイテムたちに好かれました。どうやら人間の仲間は必要ないようです

お茶っ葉

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第三章

第65話 二人の試練

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 重厚な音が空気を震わせる。正午を知らせる鐘が王都に響いていた。
 僕たちは朝に市場で買い集めた物資を鞄の中に詰め込んでいく。

「あるじさま、準備が整いました!」

「ありがとう。まだ出発まで時間があるから、ゆっくりしていていいよ」

 予約しているクランバル行きの馬車が宿に到着するのは一時間後。
 それまでの自由時間、最後の記念に窓から見える景色を眺めておく。

「この照明が眩しいお部屋ともお別れなのですね……闇属性の私めには勿体無い場所でした」

 【創造の樹杖】を大事そうに胸に抱きながら。
 フードを深く被りコクエンが部屋にお別れの挨拶をしている。

「あれ、そういえばアイギスは?」

 忘れないよう荷物を一つずつチェックしていると。
 机の上に置いていた【アイギスの神盾】が消えている。

「おや、アイちゃんいつの間に戻っていたのですか。心配してくださっていたロロアさんに一言伝えないと。らしくないですよ!」

 ライブラさんが部屋の隅で座っているアイギスを見つけた。
 僕もその後ろから様子を窺う。三角座りで顔を腕で隠していた。

「……ろろあ」

 もごもごと下を向いてアイギスが話し出す。

「どうしたの? 僕は気にしていないから。いつものように元気な姿を見せて」

「いつものってなぁに?」

 アイギスがこちらを向いて無邪気な笑みを見せてくれた。
 あれ、思ったよりも元気そうだ。ちょっと口調がエルに似ている。

「ろろあ、おはよう。あいぎすはげんきだよ? げんきいっぱい!」

「え、えっ……本当にアイギスなの? 別人じゃないよね!?」

 勢いよく立ち上がると、僕の腕を掴んで嬉しそうに上下に動かしだす。

「アイちゃん、ショックのあまり幼児退行していませんか……? その大きな丸二つでエルエルの真似は無理がありますよ! 正気に戻ってください!」

「エルはあるじさまと一緒でぺったんこです」

「男の僕と一緒でいいんだ」

「はい!」

 エルは寧ろ胸がないのを誇っていた。
 コクエンがこっそり自分のものを確かめている。

「私めは……小さくもなく大きくもない……中途半端……しくしく」

 って、今はそんな話題はどうでもよくて。僕も正気に戻らないと。

「アイちゃんにそんな冗談は似合いません。あまりふざけていると、揉みますよ!」

 額に汗粒を浮かばせて、ライブラさんが必死にアイギスに呼びかける。

「じょうだん、なにが? かわいいようせいさん、もむってなーに?」

「ああっ、いつもの変態妖精という罵倒が来ない!? 私様の調子が狂います!」

「ようせいさんようせいさんようせいさん」

「その可愛らしい声で、連呼しないでください! 頭がおかしくなりそうです!!」

 アイギスの口撃にライブラさんが頭を抱えていた。
 幼児退行しても立場は変わるどころかより優位になってない?
 
「あいぎすさん、お腹空いてます?」

「うん! おなかぺこぺこ」

「朝食の残りですが、パンをどうぞ」

「える、ありがと~!」

 エルがアイギスにパンを手渡すと、床に座って小動物のように食べだす。
 部屋に椅子があるのに座らない。アイギスはその辺しっかりしていたのに。

 この時点でもう、いつもの彼女じゃない事はわかった。

「幼児退行というか、これはもはや別人格だよね。そこまで、自分を追い詰めたんだ」

「盾の仕事は、ご主人様の生命に直結しますから。自分の不甲斐なさに引き籠りたくなる気持ち、わかります。……自分が消えてなくなりたくなるんです」

 コクエンが暗い表情のまま。アイギスを見つめる。

 アイギスを手放したのは、キングオーガとの戦いの時もあったけど。
 あの時はそれがトドメを刺す布石になったから、うまく処理できたんだ。

 クロスト戦では割と序盤で盾を失い、そのまま勝ってしまったから。
 アイギスの中でどうしても自分を納得させられる言い訳が思いつかなかった。
 
 防具は通用しなかった時点で、新しい物に切り替える意識がある。
 冒険者に共通の、当然の選択だ。自分の命を守る為だから妥協はない。

 今回の場合、通用しなかったのは僕の身体の問題であって。
 【アイギスの神盾】を使いこなせる身長と筋力がまだ足りていない。

 時間と共に大きくなっていずれは使いこなせるようにはなる。

 だけど現状は、僕にとって最善の選択ではない。
 防具の質の問題じゃなく、相性の問題だからこそ複雑だ。
 
 それでも僕はアイギスを選び続けると決めている。
 でもアイギスは自分は相応しくないと拒絶してしまった。

 今はすれ違った状態だ。少しずつ、この溝を埋めていく必要がある。

「でも、これは逆にチャンスですよ!」

 エルが僕たちを励まそうと大きな声を出す。

「自分の欠点が見えたというのは、あいぎすさんが成長する機会が訪れた事です!」

「ふむ。エルエルはとても前向きでいい事をおっしゃいますね」

「心の成長。これは僕とアイギスへの試練なのかな」

 元から神話級に近いアイギスはこれまでレアリティに変化がなかった。

 周囲が成長していく中で、自分一人だけ足踏みしている状況だ。
 焦りがあったのは言うまでもなく。かといって優秀で欠点も見せない。

 ここに来て精神の打たれ弱さという明確な弱点が露呈した。
 しかも本人だけのものじゃない。そこには僕も関わってきている。

 もしも二人で克服できたなら。目標の神話級に一気に近付くかもしれない。

「エル、その通りだね。僕たちがアイギスを支えてあげよう!」

 これまでだってずっと守ってきてもらったんだ。
 今度からは、僕たちがアイギスを守ってあげる番だ。

「ろろあ」

 幼児化したアイギスは僕をずっと見ていた。

 精神が幼くてもアイギスの身体は以前のままだ。
 僕の身体に覆い被さり床へと押し倒される。じゃれてくる。
 
「ろろあすき。だいすき。すきすき……」

 そのまま頬に優しく触れるように口付けされた。

「あー! エルもエルも! あるじさま大好きです!」

「ぶふっ。私めには……刺激が強いですぅ……しにそう」

 アイギスとエルに抱きつかれながら僕は天井を見上げる。
 冷静に、元に戻った時に果たして正気でいられるのだろうか。

 できればアイギスには、都合の悪い記憶が残らないで復活して欲しいなぁ。

「ロロア、旅立つ貴方へのお別れの挨拶に参りました――」

 タイミング悪くレイリアがドアを開けて入ってくる。
 そして、アイギスとエルに襲われている僕を見下ろす。 

「……これは、何でしょう?」

「もしかして修羅場です? はっ、レイリアも負けずに参加するです!」

「え、えっ……わ、私は……! その……!」

 ストブリがレイリアの背中を押す。
 遠慮気味にレイリアも僕の腕に抱き着いた。

「すきすき。だいすき……」

「エルも、エルも負けません!」

「う……これは恥ずかしい。ですが気持ちは誰にも……劣っていませんから」

「……あのぉ、もうすぐ馬車に乗る時間なのですが。じゃれ合うのもその辺にしまして――ってこういうツッコミは本来アイちゃんの役目であって、どうして私様が真面目にならないと……あぁ、調子が狂う!」
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