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第1章 道化師は笑う
第6話 会話#1
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食事を終えるとしばらく無言の時間が続いた。そして、「あ、そういえば」と言ったかと思えば、ポケットからペンダントを取り出した。
「ねぇ、これ。あんたのでしょ?」
「......!......違う」
「いや、今のあんたの顔、どう考えても見知っているものでしょ」
「違うと言っているだろ」
クラウンは怒気を込めて言い放った。明らかに何か関係している顔と口調だ。おそらくクラウンが語りたがらない過去のことだろ。
正直、聞いてみたい気持ちもある。なにが起こって、ここまで不信になり、力を求めるようになったのか。でも、今はまだ信頼関係の構築が出来ていない。言葉を間違えれば、同盟関係もなくなるかもしれない。これは好奇心であろうか。同情したいのであろうか。どちらにせよ、目の前にいる男に興味を持っていることは確かだ。
「でも、あんたが持っていたものよ。それは、あんたが処理するなり、持っておくなりしなさい」
リリスはペンダントを放り投げるとクラウンはそれをパシッとキャッチして、ふとそれを眺めた。そして、しばらくしておもむろにそのペンダントをつけ始める。リリスはその行動がなにか意味あるように感じた。
「それで、あんたはいつになったらその仮面を外すつもりなの?正直言って、かなり邪魔じゃない?」
「.......」
クラウンはだんまりを決め込んだ。答えるつもりは無いらしい。するとロキが尻尾でペチンとクラウンを叩いた。まるで「言ったらどうだ?」という行動にも見えなくもない。だが、それでもクラウンは黙っていた。これに業を煮やしたロキは立ち上がるとリリスの傍により座った。
「ウォン、ウォン」
ロキは「はよ、言え」と言っているかのように吠えた。クラウンはロキをジッと見つめるとやがてため息を吐いた。動物であるロキがリリスの見方をしている。動物である直感がリリスは信用できると告げているのか。
しばらくして、クラウンはしゃべり始めた。
「......そもそもこれは顔を見せないためでもあるが、俺自身への戒めでもある」
「戒め?」
「過去の俺はあまりにも弱すぎた。弱いから、騙され、裏切られ、見捨てられ、そして殺されかけた」
「.......」
「.....いや、俺という人物は死んだ」
リリスは仮面の奥のクラウンが唇を噛みしめている表情が想像できた。まだ、多くのことを語っていないのになぜか胸を打つ、悲しくなる、苦しくなる、そして寄り添ってあげたくなる。
クラウンの言葉一つ一つに感情がこもっており、その一つ一つの言葉でどのような感じだったか想像できてしまう。
『助けて!』
「......!」
クラウンの心の声が聞こえたような気がした。今目の前にいる男よりも雄々しくなく、弱弱しく、それでいて優しい姿が。
「......なんだ?こっちをジロジロ見るな」
「別に見てるわけじゃないわよ」
リリスはそう言いながら零れ落ちそうになった涙を拭った。どうにも感受性が豊かで困る。いや、それともクラウンの言葉だったから胸を打ったのか。
「ねぇ」
「なんだ?」
「私から見れば縋っているように見えるわよ」
「あぁ?」
「殺しても殺しきれない良心が......!」
リリスが言い切る前にクラウンは動き出していた。もはや同盟も関係なく仮面から見える瞳には殺意しか込められていない。
リリスは自分の言葉を後悔した。同情し過ぎた故にでた言葉であったが、明らかにクラウンの心に土足で踏み込み過ぎていた。
力になりたい、なってあげたい。だが、それはクラウンが望んでいるとは限らない。身勝手な思いでクラウンの地雷を踏んだ。
クラウンは一瞬でリリスの目の前に現れると手を手刀の形にして腕を引いた。
リリスは自分のバカさ加減と自己嫌悪ですぐに動けなかった。そして、ただ迫りくるクラウンの手刀に死を受け入れ―――――――――
「ウォン.......グルルルル」
「......ロキ!」
「......ロキ、なぜ邪魔をする」
リリスは思わず目を瞑ってしまったが、死ぬことは無かった。ロキがクラウスの腕を噛んで止めたからだ。
ロキは唸り声を上げながら、クラウスを見る。だが、クラウスが攻撃を止めたのがわかると噛んだ腕を「ごめんね」とばかりに舐め始めた。そんなロキにクラウスは思わず疑問を口にしてしまった。
そしてしばらくして、クラウンは口火を切る。
「......最初はリリスに顔を知られないためだけの仮面だった」
「あんたは『信用』という言葉にかなり抵抗を持っているものね」
「ああ、俺は仮面をつける意味が増えた。お前の言う通りもう人間は信用できない。人間こそ、仮面を被って平気で人を陥れる。......これはそのためのものだ。俺は憎しみが勝って、感情が出やすいからな」
「そうね、わかる気がするわ」
「それにもう一つ意味がある」
クラウンがリリスから距離を取るとロキも動き出し、クラウンはロキを背もたれにして座ると再び話始めた。
「先ほど『戒め』と言ったが、これには『証明』の意味もある」
「あんたは死んでいるということ?」
「そうだ。そういえば、俺は人間は基本的に信用していないといったがそれはあの人以外だ」
「あの人?」
「俺に道を示してくれた人だ。......もういないがな」
リリスは思わず口を閉じた。クラウンは自分と同じくらい辛い経験をしている。いや、精神的にも来るのはきっとクラウンの過去の方だろう。もともと敵同士に近かった自分の立場よりも仲間であったクラウンの方が。
するとクラウンは真っ直ぐリリスの瞳を捉えた。リリスはその意思の宿った瞳に目が離せなくなった。
「いいか、よく聞け。弱い自分は一度死んだ!だが、俺は最強を超える存在になるために地獄の底から蘇った!目的はただ一つ、俺を狂わせた神をぶっ殺すことだけだ!!」
「......あんたの覚悟、改めてよく分かったわ。もう同盟関係ではあるけれど、改めてよろしくお願いするわ」
「......ああ」
そして、また無言の時間が続くが先ほどよりは幾分か雰囲気が良かった。
時間は暗さを増し始めたころ。クラウスはリリスに話しかけた。
「リリス、さっさと寝ろ」
「あんたは寝ないの?」
「『寝ない』んじゃない、『寝られない』んだ。この森はどこにいても油断していれば地獄を見る。だから、常に警戒をしていた。その結果、不眠症......それも極度のやつにな」
「じゃあ、今、何日寝てないのよ」
「さあな、ただ太陽は30回以上回ったな」
「あんた、1ヶ月以上寝てないの!?」
リリスはさすがにその発言には驚いた。どんなに頑丈な人でも三大欲求の一つで食欲と並ぶほどに重要な睡眠欲を欠いては生きていけるはずがない。
リリスは思わずクラウンという存在に引いた。最強になるために力を求める以前にある意味最強になっている。不眠で戦い続けられるという点で。クラウンに長期戦をさせたらまず間違いなくクラウンが勝つだろう。
だが、リリスはなんだかそのことが不憫に思えた。それは先ほど話をしたからだろう。思わぬ収穫でクラウンの過去のほんの一端に触れたが、そこでガッチリ心を掴まれてしまったような気がした。やはり、感受性が豊か過ぎる気がする。
リリスは右手を上げると今度は違う呪文を唱えた。
「防げ、防御結界」
リリスの右手にある指輪はリリスを中心に半径5メートル程の半円を作りだした。丁度、クラウンも入る大きさだ。
「これで、安心して寝れるでしょ?」
「壊されないという保証は?」
「私の母さんが作ったから、絶対よ」
これまでにない程、自信たっぷりなリリスにクラウンは呆れたため息を吐いた。自分自身よりも誇れる母の存在とはなにか。
「母か......。」
「ん?どうしたの?」
「なんでもない。」
「そ、ならいいけど」
そう言うとリリスはクラウンの方へ近づいてきた。クラウンは思わず身を引く。
「なんだ?」
「あんただけこんなモフモフずるいでしょ」
「......そういうことか、しょうもないな」
「いいえ、私にとっては大きな問題よ。ね、ロキちゃん」
「ウォン!」
「さてさて、ロキちゃんの同意も得たことだし」
「お、おい、待て!」
クラウンの制止も虚しく、リリスはロキを枕に寝始めた。「こいつ、急に強情になってないか?」そう思いながらも静かに目を瞑った。
「久々にこんなにしゃべったな」そうも思い、拙い微笑みを浮かべながら。
************************************************
数日が経ち、クラウンとリリスはある場所に来ていた。
「ここは.....」
「ここが私の目的地」
その場所は簡単に言えば古びた神殿で、扉は固く閉ざされている。神殿の柱は蔦が絡みついていたり、苔が生えていたりで長らく人が訪れた形跡はない。......そもそも、訪れることができる場所ではないが。
「そういえば、リリス。お前は、どうやって来たんだ?」
「ああ、それはこの指輪で結界を常時発動していたのよ。でも、あの時はほんとびっくりしたわよ、薬を飲もうとして一時的に結界を解いたら、真上からロキちゃんが振って来るんだもの」
「ロキは頭がいいからな」
「ウォン」
「こら、そこ褒めることじゃないわよ!一瞬、死を覚悟したんだからね」
「結果的には良かったけど」と呟きながらリリスは頬を膨らませて不貞腐れる。クラウンはそんなリリスを尻目に見ながら、神殿の方を向いた。
「......で、これを壊せばいいのか?」
「無理よ......って言っても聞かないだろうから、やってみればいいわ」
「ああ、そうする。......極震」
クラウンは大きく腕を振りかぶるとついでにゴリラの魔物から奪ったスキルを使って殴ってみた。
「ドゴ――――――――――――――――ン!」
クラウンが神殿の扉を殴る。だが、クラウンの尋常な筋力と防御無視の衝撃は攻撃である<極震>をもってしてもなにか透明な壁に受け止められ、神殿自体に届くことは無かった。
するとリリスが前に出てくるとそっと扉に手を触れた。
「我は理をもってこの世界を創造し、理をもってこの地を統べ、空・地・海の三界をもってこの世界を循環せし、縛りをもってこの世界を新たなる世界へと導かん」
リリスは呪文を唱え終わると扉にある小さな窪みに指輪を合わせた。そして、リリスは数歩下がる。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴッ」
すると扉の隙間から神々しい光を放ち、重量感のある音を立てながら、勝手に開き始めた。
「さ、目的はこの奧よ。行きましょ」
「ああ」
「ウォン」
そして、二人と一匹は神殿の中へ入っていった。
「ねぇ、これ。あんたのでしょ?」
「......!......違う」
「いや、今のあんたの顔、どう考えても見知っているものでしょ」
「違うと言っているだろ」
クラウンは怒気を込めて言い放った。明らかに何か関係している顔と口調だ。おそらくクラウンが語りたがらない過去のことだろ。
正直、聞いてみたい気持ちもある。なにが起こって、ここまで不信になり、力を求めるようになったのか。でも、今はまだ信頼関係の構築が出来ていない。言葉を間違えれば、同盟関係もなくなるかもしれない。これは好奇心であろうか。同情したいのであろうか。どちらにせよ、目の前にいる男に興味を持っていることは確かだ。
「でも、あんたが持っていたものよ。それは、あんたが処理するなり、持っておくなりしなさい」
リリスはペンダントを放り投げるとクラウンはそれをパシッとキャッチして、ふとそれを眺めた。そして、しばらくしておもむろにそのペンダントをつけ始める。リリスはその行動がなにか意味あるように感じた。
「それで、あんたはいつになったらその仮面を外すつもりなの?正直言って、かなり邪魔じゃない?」
「.......」
クラウンはだんまりを決め込んだ。答えるつもりは無いらしい。するとロキが尻尾でペチンとクラウンを叩いた。まるで「言ったらどうだ?」という行動にも見えなくもない。だが、それでもクラウンは黙っていた。これに業を煮やしたロキは立ち上がるとリリスの傍により座った。
「ウォン、ウォン」
ロキは「はよ、言え」と言っているかのように吠えた。クラウンはロキをジッと見つめるとやがてため息を吐いた。動物であるロキがリリスの見方をしている。動物である直感がリリスは信用できると告げているのか。
しばらくして、クラウンはしゃべり始めた。
「......そもそもこれは顔を見せないためでもあるが、俺自身への戒めでもある」
「戒め?」
「過去の俺はあまりにも弱すぎた。弱いから、騙され、裏切られ、見捨てられ、そして殺されかけた」
「.......」
「.....いや、俺という人物は死んだ」
リリスは仮面の奥のクラウンが唇を噛みしめている表情が想像できた。まだ、多くのことを語っていないのになぜか胸を打つ、悲しくなる、苦しくなる、そして寄り添ってあげたくなる。
クラウンの言葉一つ一つに感情がこもっており、その一つ一つの言葉でどのような感じだったか想像できてしまう。
『助けて!』
「......!」
クラウンの心の声が聞こえたような気がした。今目の前にいる男よりも雄々しくなく、弱弱しく、それでいて優しい姿が。
「......なんだ?こっちをジロジロ見るな」
「別に見てるわけじゃないわよ」
リリスはそう言いながら零れ落ちそうになった涙を拭った。どうにも感受性が豊かで困る。いや、それともクラウンの言葉だったから胸を打ったのか。
「ねぇ」
「なんだ?」
「私から見れば縋っているように見えるわよ」
「あぁ?」
「殺しても殺しきれない良心が......!」
リリスが言い切る前にクラウンは動き出していた。もはや同盟も関係なく仮面から見える瞳には殺意しか込められていない。
リリスは自分の言葉を後悔した。同情し過ぎた故にでた言葉であったが、明らかにクラウンの心に土足で踏み込み過ぎていた。
力になりたい、なってあげたい。だが、それはクラウンが望んでいるとは限らない。身勝手な思いでクラウンの地雷を踏んだ。
クラウンは一瞬でリリスの目の前に現れると手を手刀の形にして腕を引いた。
リリスは自分のバカさ加減と自己嫌悪ですぐに動けなかった。そして、ただ迫りくるクラウンの手刀に死を受け入れ―――――――――
「ウォン.......グルルルル」
「......ロキ!」
「......ロキ、なぜ邪魔をする」
リリスは思わず目を瞑ってしまったが、死ぬことは無かった。ロキがクラウスの腕を噛んで止めたからだ。
ロキは唸り声を上げながら、クラウスを見る。だが、クラウスが攻撃を止めたのがわかると噛んだ腕を「ごめんね」とばかりに舐め始めた。そんなロキにクラウスは思わず疑問を口にしてしまった。
そしてしばらくして、クラウンは口火を切る。
「......最初はリリスに顔を知られないためだけの仮面だった」
「あんたは『信用』という言葉にかなり抵抗を持っているものね」
「ああ、俺は仮面をつける意味が増えた。お前の言う通りもう人間は信用できない。人間こそ、仮面を被って平気で人を陥れる。......これはそのためのものだ。俺は憎しみが勝って、感情が出やすいからな」
「そうね、わかる気がするわ」
「それにもう一つ意味がある」
クラウンがリリスから距離を取るとロキも動き出し、クラウンはロキを背もたれにして座ると再び話始めた。
「先ほど『戒め』と言ったが、これには『証明』の意味もある」
「あんたは死んでいるということ?」
「そうだ。そういえば、俺は人間は基本的に信用していないといったがそれはあの人以外だ」
「あの人?」
「俺に道を示してくれた人だ。......もういないがな」
リリスは思わず口を閉じた。クラウンは自分と同じくらい辛い経験をしている。いや、精神的にも来るのはきっとクラウンの過去の方だろう。もともと敵同士に近かった自分の立場よりも仲間であったクラウンの方が。
するとクラウンは真っ直ぐリリスの瞳を捉えた。リリスはその意思の宿った瞳に目が離せなくなった。
「いいか、よく聞け。弱い自分は一度死んだ!だが、俺は最強を超える存在になるために地獄の底から蘇った!目的はただ一つ、俺を狂わせた神をぶっ殺すことだけだ!!」
「......あんたの覚悟、改めてよく分かったわ。もう同盟関係ではあるけれど、改めてよろしくお願いするわ」
「......ああ」
そして、また無言の時間が続くが先ほどよりは幾分か雰囲気が良かった。
時間は暗さを増し始めたころ。クラウスはリリスに話しかけた。
「リリス、さっさと寝ろ」
「あんたは寝ないの?」
「『寝ない』んじゃない、『寝られない』んだ。この森はどこにいても油断していれば地獄を見る。だから、常に警戒をしていた。その結果、不眠症......それも極度のやつにな」
「じゃあ、今、何日寝てないのよ」
「さあな、ただ太陽は30回以上回ったな」
「あんた、1ヶ月以上寝てないの!?」
リリスはさすがにその発言には驚いた。どんなに頑丈な人でも三大欲求の一つで食欲と並ぶほどに重要な睡眠欲を欠いては生きていけるはずがない。
リリスは思わずクラウンという存在に引いた。最強になるために力を求める以前にある意味最強になっている。不眠で戦い続けられるという点で。クラウンに長期戦をさせたらまず間違いなくクラウンが勝つだろう。
だが、リリスはなんだかそのことが不憫に思えた。それは先ほど話をしたからだろう。思わぬ収穫でクラウンの過去のほんの一端に触れたが、そこでガッチリ心を掴まれてしまったような気がした。やはり、感受性が豊か過ぎる気がする。
リリスは右手を上げると今度は違う呪文を唱えた。
「防げ、防御結界」
リリスの右手にある指輪はリリスを中心に半径5メートル程の半円を作りだした。丁度、クラウンも入る大きさだ。
「これで、安心して寝れるでしょ?」
「壊されないという保証は?」
「私の母さんが作ったから、絶対よ」
これまでにない程、自信たっぷりなリリスにクラウンは呆れたため息を吐いた。自分自身よりも誇れる母の存在とはなにか。
「母か......。」
「ん?どうしたの?」
「なんでもない。」
「そ、ならいいけど」
そう言うとリリスはクラウンの方へ近づいてきた。クラウンは思わず身を引く。
「なんだ?」
「あんただけこんなモフモフずるいでしょ」
「......そういうことか、しょうもないな」
「いいえ、私にとっては大きな問題よ。ね、ロキちゃん」
「ウォン!」
「さてさて、ロキちゃんの同意も得たことだし」
「お、おい、待て!」
クラウンの制止も虚しく、リリスはロキを枕に寝始めた。「こいつ、急に強情になってないか?」そう思いながらも静かに目を瞑った。
「久々にこんなにしゃべったな」そうも思い、拙い微笑みを浮かべながら。
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数日が経ち、クラウンとリリスはある場所に来ていた。
「ここは.....」
「ここが私の目的地」
その場所は簡単に言えば古びた神殿で、扉は固く閉ざされている。神殿の柱は蔦が絡みついていたり、苔が生えていたりで長らく人が訪れた形跡はない。......そもそも、訪れることができる場所ではないが。
「そういえば、リリス。お前は、どうやって来たんだ?」
「ああ、それはこの指輪で結界を常時発動していたのよ。でも、あの時はほんとびっくりしたわよ、薬を飲もうとして一時的に結界を解いたら、真上からロキちゃんが振って来るんだもの」
「ロキは頭がいいからな」
「ウォン」
「こら、そこ褒めることじゃないわよ!一瞬、死を覚悟したんだからね」
「結果的には良かったけど」と呟きながらリリスは頬を膨らませて不貞腐れる。クラウンはそんなリリスを尻目に見ながら、神殿の方を向いた。
「......で、これを壊せばいいのか?」
「無理よ......って言っても聞かないだろうから、やってみればいいわ」
「ああ、そうする。......極震」
クラウンは大きく腕を振りかぶるとついでにゴリラの魔物から奪ったスキルを使って殴ってみた。
「ドゴ――――――――――――――――ン!」
クラウンが神殿の扉を殴る。だが、クラウンの尋常な筋力と防御無視の衝撃は攻撃である<極震>をもってしてもなにか透明な壁に受け止められ、神殿自体に届くことは無かった。
するとリリスが前に出てくるとそっと扉に手を触れた。
「我は理をもってこの世界を創造し、理をもってこの地を統べ、空・地・海の三界をもってこの世界を循環せし、縛りをもってこの世界を新たなる世界へと導かん」
リリスは呪文を唱え終わると扉にある小さな窪みに指輪を合わせた。そして、リリスは数歩下がる。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴッ」
すると扉の隙間から神々しい光を放ち、重量感のある音を立てながら、勝手に開き始めた。
「さ、目的はこの奧よ。行きましょ」
「ああ」
「ウォン」
そして、二人と一匹は神殿の中へ入っていった。
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