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第2章道化師は進む
第32話 兵長の真実
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「ありがとう、あの子のこころに寄り添ってくれて」
「俺は何もしていない。ベルから勝手に語りだしたことだ」
全てを話し終えたベルがリリスのいるもとに戻っていくと同時に兵長がタイミングを見計らってクラウンのもとへ近づいて来る。なにやらまた話を聞かされそうな気がするが、こっちにも聞きたいことがあるのでこっちに関しては好都合。
兵長はクラウンの隣に座ると兵長が話始める前にクラウンが口火を切った。
「率直に聞く。お前は一体何者だ。変な御託はいい、正確に答えろ」
「儂はクラウン君の、いや【海堂 仁】の友だった【光坂 響】じゃよ。信じられないと思うなら、少しクラウンのプロフィールでも言おうかの。まず仁は【倉科 雪姫】の幼馴染で、儂と【須藤 弥人】、【橘 朱里】とも友だった。そして、ある日この世界にクラス全員と転移してきた。そこでの君の職業は【糸繰士】という非常に珍しい職業じゃった」
「......もういい」
クラウンは兵長の言葉に驚きが隠せなかった。兵長が言ったことは紛れもない事実であったから。だからこそ疑問が生じる。この兵長は自身のことを響と言っていた。だが、それだとこの世界に響という人物が二人存在するという事になる。
全く同じ顔で体格で年齢だったら、ドッペルゲンガーとでも説明のつけようがあっただろう。なんせこの世界は魔法があるのだから。だが、今並べた3つのこと全てが当てはまらない。しかし、同時に納得もいった。兵長と初めて会ったときに感じた既視感はそういう事だったのだと。
すると兵長がクラウンの気持ちを察したように言葉を発した。
「前によく知っていると言ったのはそういうことじゃ。そして、儂が今こうしているのは儂に予言した女性がしたことなのじゃ。その女性は物凄い魔法を持っていての、儂をか過去へと飛ばしたのじゃ」
「それは俺がいる過去へとってことか?」
「その解釈であっておる。ただ、魔力が足りないとのことで随分と時間座標がズレてしまっていたがの」
この世界がたとえ魔法ありきだとしても「なんとも摩訶不思議な話だ」とクラウンは思わざるを得ない。このジジイを飛ばすとしたら時間魔法的なものが存在していないといけない。
だが、それはこの世界の理に干渉する魔法。そして、俺がまだ聖王国にいた頃に読んでいた魔法図鑑のような本にはそんなものは書かれていなかった。ということはその女が自発的に覚醒魔力として発動させた可能性の方が高い。
しかし、結局それは憶測でしかない。今生きているかもわからない女に割いている時間はない......ないはずなのだが、なぜか今物凄く愚かな考えが思いついた。それはその女がリリスの母親ではないかということ。リリスの母親は俺にこの世界を破壊させることを望んでいる。そして、その母親がその目的のためにジジイを過去へと飛ばしたなら一応筋は通る。
それからその考えを強める理由がもう一つ。それは女が時間魔法を使えたらの話だが、使えるのであれば自分を過去へと飛ばすことも当然可能であろう。なら、リリスの母親になりえることだってある。それに「予言」という点でも重なるし。となれば、その女がリリスの母親であるという線が浮上してくる。どう考えても愚かでしかないが、なぜかそれに変な自信を持っている。
クラウンが思考する中、兵長はふと思い出したことを告げた。だが、それはさらにクラウンを混乱させることになる。
「そういえば、これで14回目になると言っていたの」
「何がだ?」
「仁に儂が送られる回数じゃ。儂の前にも儂が仁をどうにかしようと動いていたというこじゃ」
「......」
クラウンは思わず押し黙った。確かに、時間魔法が使えるのだとしたらまるでタイムリープの真似事のようなことは出来なくもない。しかし、だとしたらなぜそこまで俺にこだわったのか。俺は世界を破壊するという目的に都合が良かったのだろう。だが、やろうと思えばいくらでも味方は作れたはずだ。なんせリリスの母親であればサキュバスであるのだから。
「俺をどうにかしようっていうのはどういうことだ?」
クラウンがふと兵長が言った言葉を聞くと兵長は暗い顔を浮かべて過去の記憶を思い出しながら語った。
「儂はなずっと後悔していた、あの時のことを。きっと信じてはくれんだろうが、あの時は自分が自分ではないような感覚だったのじゃ。そして、自分の意思とは関係なしに仁を傷つけた。その夜の襲撃はどこか仕方がないものだとも思っていた。恨まれることをしたのだから」
「自分が自分ではない......か」
クラウンはその言葉に引っ掛かりを感じた。あの人を嘲笑うような笑みは見方を変えれば、無理やり作った歪な笑みとも捉えられなくもない。しかし、その根拠がない以上許すこともないし、もとより許す気もないが。
「儂の頃はクラウン君と4度戦った。1回目はあの夜。2回目はたまたま会った洞窟で。3回目は魔王城の近くで。4回目は再び聖王国で。儂は必死に止めようとした。自分が犯した過ちとはわかっていながらも、仁にこれ以上心を壊してほしくなくての。じゃが、その願いは叶わんかった。儂はこの世界を救うため、仁はこの世界を破壊するため、ついに4回目に殺し合いをした。そしてそこで相打ちになり当たり所が良かった儂が生き残り、仁が死んだ」
「......」
クラウンはそのことに腹を立てることはなかった。それは所詮違う世界線の話でしかないから。ただ、不快であることには変わりないが。それに知っていたから、なぜ勇者が俺と相打ちになるのかの理由を。
それは勇者が持つ【成長倍率】というもともとの能力、それで俺と張り合うまでに強くなれたのだろう。それにしても4回も戦うというのが実にめんどくさそうだ。まあ、今回がそうなるとは限らないが。
「問題はその後にあった。それは死んだはずの教皇が生きていたことじゃ。その教皇は狂ったように『神を称えよ!神を崇めよ!そして、神の創作に素晴らしい生贄を捧げるのだ』と言い、聖女様を、ガルドさんを、兵士達を、国民たちを、そしてクラスメイトを惨殺していったのじゃ」
「......」
「儂はもちろん戦った。無様に負けたがの。挙句の果てに『全てを見届ける義務がある』と言われ、体も動かず、目も閉じられないままその光景の始終を見させられた。その時知ったのじゃ、仁がこの世界を破壊しようとした理由を」
「.......」
「そして、全てが終わると儂は道端にある石のように無視されて、その場に取り残された。荒廃した聖王国に、まるで赤のペンキをかけたかのような血濡れの地面、それから見知った人や仲間達の死屍累々。まさに地獄じゃった。そして、そんな中仲間たちと共に死ぬことも許されなかった儂は全てに絶望した」
「自ら命を絶つこともできただろう?」
「出来たの、今思えばじゃが。じゃが、その時はなぜか体がそうしようとは動かなかった。まるで誰かに止められているみたいにの。そんな曖昧な日々を過ごしていた時に出会ったのが例の女性じゃ。そして、そこで聞かされた。何人もの自分がこの時に戻って別の方法で運命を変えようとして失敗してきたことを」
「......」
「その話を聞いて、儂は過去に戻ることに決めた。その時の儂が幸せになれるよう、そしてかけがえのない友を失わぬようにと。会ったことはないが、きっとあの時の儂もそんな気持ちだったのだろうな」
兵長は過去の自分に思いをはせるように澄んだ空を眺めた。時折、その空が青から赤へと変わる光景がフラッシュバックしながらもその表情を歪めることはない。それからクラウンにこんな事も告げた。
「そういえばの、儂がこれまで聞いた過去事変では儂はどうやら仁に会ったことはなかったらしいのじゃ。というのも、ほとんどの儂は先代獣王様に助けられた後、すぐに獣王国を出立して仲間を探す旅に出たらしいのじゃ。そこでなにがあったのかは知らぬが、失敗という時点で大まかな予想は出来るがの。じゃから、それを聞いた儂はあえてこの国に残ってみた。するとここで仁に会えてという事じゃ」
「という事は運命が変わっているという事だな?」
「そうじゃの、少なくとも今はだが」
「今が変われば未来はさらに大きく変わる。もしそれで同じ運命になろうとも俺がぶち壊せば済む話だ」
「フォフォフォ、やはり頼もしさは心が変わっても変わらないの」
兵長はクラウンの言葉を嬉しそうに笑った。その顔はもう勝利を得たような顔にも見える。
「あ、そう言えばベルは儂の孫であっても本当の孫ではないぞ?」
「あ?急に何言ってんだ?」
クラウンが明らかにバカにしたような目線を向けるが、兵長はその目線をどこ吹く風と言った様子で話を続ける。
「シリアスな話に疲れたじゃろ。じゃから、息抜きにな。となればと男同士話すジャンルが一つじゃろう?」
「言いたいことはなんだ?」
「ベルは儂の息子夫婦の養子なのじゃ。息子の嫁が病で子がなせなかったからの。儂が仲良かった友の娘夫婦が子をなしてすぐに事故死してしまっての、そんでもって生贄巫女のこともあったからちゃんと育てられる自信がないから養子にしてくれと頼まれたのじゃ。まあ、儂も息子夫婦に良かろうと思って引き受けたのじゃ。つまり何が言いたいかと言うと......」
兵長は大きく息を吸うと声高らかに言った。
「ヤっても儂とは血縁関係にはならんぞ?」
「何言ってんだこのジジイは?」
クラウン今日一のツッコミであった。そんなクラウンに構わず兵長は言葉を並べていく。
「狐の獣人はええぞ。毛並みの触り心地は良く、肌も柔らかで手に吸い付くようじゃ。そして、なにより美人じゃ」
「.......」
「まあ、ベルの場合は先祖返りの血が濃すぎるせいかあんな姿じゃ。じゃから、美人よりも可愛い路線かの。そんでもって成人済みにも関わらず、まだ穢れを知らぬ。加えて仁に従順。最高じゃと思わないか?」
「エロ狐にはエロジジイありきってか......はあ......」
クラウンはため息を吐いた。急に話題の内容が180度以上回ってついていけない。にもかかわらずこのジジイは勝手に話を進めていく。
「お前の本当の孫でなくても孫であることには変わりないのだろう?なぜ俺にすすめる?」
「前に言ったではないか『よろしく頼む』と。それ込みの意味じゃったんだが伝わらなかったかの?」
「伝わるわけねぇだろうが、クソジジイ!」
クラウンは思わず噛みついた。そんなクラウンの様子を気にすることもなくなだめるように言葉を発した。
「フォフォフォ、そんな怒りなさるな。そういえば、聞いたぞ我が孫娘が家族を欲しがっていることを。あの子には小さい頃から失い過ぎた。じゃから、本能的の求めてしまったからかもしれん」
「......」
「儂は嬉しいのじゃ、ベルが仁のもとにいることがの。やはり孫娘を託すなら友の方が良いからの」
「......お前はそんな年になってまでも俺を『友』というのか?」
「当たり前じゃが?」
「.....!」
クラウンはそんな自信たっぷりに言う兵長を見て思わず目を見開く。その兵長の顔と元の世界にいた時の響の顔と重なったからだ。そのことに複雑な感情が湧いた。そんなクラウンの心境を知ってか知らずか冗談交じりなことを......
「あー、早くひ孫が見たいのー」
「まだ押すきか、ジジイ」
「当たり前じゃ、本気じゃからの」
......どうやら本気だったらしい。クラウンは思わずため息を吐いた。そして、告げる。
「俺を二度と元の名で呼ぶんじゃねぇ、クソジジイ」
「俺は何もしていない。ベルから勝手に語りだしたことだ」
全てを話し終えたベルがリリスのいるもとに戻っていくと同時に兵長がタイミングを見計らってクラウンのもとへ近づいて来る。なにやらまた話を聞かされそうな気がするが、こっちにも聞きたいことがあるのでこっちに関しては好都合。
兵長はクラウンの隣に座ると兵長が話始める前にクラウンが口火を切った。
「率直に聞く。お前は一体何者だ。変な御託はいい、正確に答えろ」
「儂はクラウン君の、いや【海堂 仁】の友だった【光坂 響】じゃよ。信じられないと思うなら、少しクラウンのプロフィールでも言おうかの。まず仁は【倉科 雪姫】の幼馴染で、儂と【須藤 弥人】、【橘 朱里】とも友だった。そして、ある日この世界にクラス全員と転移してきた。そこでの君の職業は【糸繰士】という非常に珍しい職業じゃった」
「......もういい」
クラウンは兵長の言葉に驚きが隠せなかった。兵長が言ったことは紛れもない事実であったから。だからこそ疑問が生じる。この兵長は自身のことを響と言っていた。だが、それだとこの世界に響という人物が二人存在するという事になる。
全く同じ顔で体格で年齢だったら、ドッペルゲンガーとでも説明のつけようがあっただろう。なんせこの世界は魔法があるのだから。だが、今並べた3つのこと全てが当てはまらない。しかし、同時に納得もいった。兵長と初めて会ったときに感じた既視感はそういう事だったのだと。
すると兵長がクラウンの気持ちを察したように言葉を発した。
「前によく知っていると言ったのはそういうことじゃ。そして、儂が今こうしているのは儂に予言した女性がしたことなのじゃ。その女性は物凄い魔法を持っていての、儂をか過去へと飛ばしたのじゃ」
「それは俺がいる過去へとってことか?」
「その解釈であっておる。ただ、魔力が足りないとのことで随分と時間座標がズレてしまっていたがの」
この世界がたとえ魔法ありきだとしても「なんとも摩訶不思議な話だ」とクラウンは思わざるを得ない。このジジイを飛ばすとしたら時間魔法的なものが存在していないといけない。
だが、それはこの世界の理に干渉する魔法。そして、俺がまだ聖王国にいた頃に読んでいた魔法図鑑のような本にはそんなものは書かれていなかった。ということはその女が自発的に覚醒魔力として発動させた可能性の方が高い。
しかし、結局それは憶測でしかない。今生きているかもわからない女に割いている時間はない......ないはずなのだが、なぜか今物凄く愚かな考えが思いついた。それはその女がリリスの母親ではないかということ。リリスの母親は俺にこの世界を破壊させることを望んでいる。そして、その母親がその目的のためにジジイを過去へと飛ばしたなら一応筋は通る。
それからその考えを強める理由がもう一つ。それは女が時間魔法を使えたらの話だが、使えるのであれば自分を過去へと飛ばすことも当然可能であろう。なら、リリスの母親になりえることだってある。それに「予言」という点でも重なるし。となれば、その女がリリスの母親であるという線が浮上してくる。どう考えても愚かでしかないが、なぜかそれに変な自信を持っている。
クラウンが思考する中、兵長はふと思い出したことを告げた。だが、それはさらにクラウンを混乱させることになる。
「そういえば、これで14回目になると言っていたの」
「何がだ?」
「仁に儂が送られる回数じゃ。儂の前にも儂が仁をどうにかしようと動いていたというこじゃ」
「......」
クラウンは思わず押し黙った。確かに、時間魔法が使えるのだとしたらまるでタイムリープの真似事のようなことは出来なくもない。しかし、だとしたらなぜそこまで俺にこだわったのか。俺は世界を破壊するという目的に都合が良かったのだろう。だが、やろうと思えばいくらでも味方は作れたはずだ。なんせリリスの母親であればサキュバスであるのだから。
「俺をどうにかしようっていうのはどういうことだ?」
クラウンがふと兵長が言った言葉を聞くと兵長は暗い顔を浮かべて過去の記憶を思い出しながら語った。
「儂はなずっと後悔していた、あの時のことを。きっと信じてはくれんだろうが、あの時は自分が自分ではないような感覚だったのじゃ。そして、自分の意思とは関係なしに仁を傷つけた。その夜の襲撃はどこか仕方がないものだとも思っていた。恨まれることをしたのだから」
「自分が自分ではない......か」
クラウンはその言葉に引っ掛かりを感じた。あの人を嘲笑うような笑みは見方を変えれば、無理やり作った歪な笑みとも捉えられなくもない。しかし、その根拠がない以上許すこともないし、もとより許す気もないが。
「儂の頃はクラウン君と4度戦った。1回目はあの夜。2回目はたまたま会った洞窟で。3回目は魔王城の近くで。4回目は再び聖王国で。儂は必死に止めようとした。自分が犯した過ちとはわかっていながらも、仁にこれ以上心を壊してほしくなくての。じゃが、その願いは叶わんかった。儂はこの世界を救うため、仁はこの世界を破壊するため、ついに4回目に殺し合いをした。そしてそこで相打ちになり当たり所が良かった儂が生き残り、仁が死んだ」
「......」
クラウンはそのことに腹を立てることはなかった。それは所詮違う世界線の話でしかないから。ただ、不快であることには変わりないが。それに知っていたから、なぜ勇者が俺と相打ちになるのかの理由を。
それは勇者が持つ【成長倍率】というもともとの能力、それで俺と張り合うまでに強くなれたのだろう。それにしても4回も戦うというのが実にめんどくさそうだ。まあ、今回がそうなるとは限らないが。
「問題はその後にあった。それは死んだはずの教皇が生きていたことじゃ。その教皇は狂ったように『神を称えよ!神を崇めよ!そして、神の創作に素晴らしい生贄を捧げるのだ』と言い、聖女様を、ガルドさんを、兵士達を、国民たちを、そしてクラスメイトを惨殺していったのじゃ」
「......」
「儂はもちろん戦った。無様に負けたがの。挙句の果てに『全てを見届ける義務がある』と言われ、体も動かず、目も閉じられないままその光景の始終を見させられた。その時知ったのじゃ、仁がこの世界を破壊しようとした理由を」
「.......」
「そして、全てが終わると儂は道端にある石のように無視されて、その場に取り残された。荒廃した聖王国に、まるで赤のペンキをかけたかのような血濡れの地面、それから見知った人や仲間達の死屍累々。まさに地獄じゃった。そして、そんな中仲間たちと共に死ぬことも許されなかった儂は全てに絶望した」
「自ら命を絶つこともできただろう?」
「出来たの、今思えばじゃが。じゃが、その時はなぜか体がそうしようとは動かなかった。まるで誰かに止められているみたいにの。そんな曖昧な日々を過ごしていた時に出会ったのが例の女性じゃ。そして、そこで聞かされた。何人もの自分がこの時に戻って別の方法で運命を変えようとして失敗してきたことを」
「......」
「その話を聞いて、儂は過去に戻ることに決めた。その時の儂が幸せになれるよう、そしてかけがえのない友を失わぬようにと。会ったことはないが、きっとあの時の儂もそんな気持ちだったのだろうな」
兵長は過去の自分に思いをはせるように澄んだ空を眺めた。時折、その空が青から赤へと変わる光景がフラッシュバックしながらもその表情を歪めることはない。それからクラウンにこんな事も告げた。
「そういえばの、儂がこれまで聞いた過去事変では儂はどうやら仁に会ったことはなかったらしいのじゃ。というのも、ほとんどの儂は先代獣王様に助けられた後、すぐに獣王国を出立して仲間を探す旅に出たらしいのじゃ。そこでなにがあったのかは知らぬが、失敗という時点で大まかな予想は出来るがの。じゃから、それを聞いた儂はあえてこの国に残ってみた。するとここで仁に会えてという事じゃ」
「という事は運命が変わっているという事だな?」
「そうじゃの、少なくとも今はだが」
「今が変われば未来はさらに大きく変わる。もしそれで同じ運命になろうとも俺がぶち壊せば済む話だ」
「フォフォフォ、やはり頼もしさは心が変わっても変わらないの」
兵長はクラウンの言葉を嬉しそうに笑った。その顔はもう勝利を得たような顔にも見える。
「あ、そう言えばベルは儂の孫であっても本当の孫ではないぞ?」
「あ?急に何言ってんだ?」
クラウンが明らかにバカにしたような目線を向けるが、兵長はその目線をどこ吹く風と言った様子で話を続ける。
「シリアスな話に疲れたじゃろ。じゃから、息抜きにな。となればと男同士話すジャンルが一つじゃろう?」
「言いたいことはなんだ?」
「ベルは儂の息子夫婦の養子なのじゃ。息子の嫁が病で子がなせなかったからの。儂が仲良かった友の娘夫婦が子をなしてすぐに事故死してしまっての、そんでもって生贄巫女のこともあったからちゃんと育てられる自信がないから養子にしてくれと頼まれたのじゃ。まあ、儂も息子夫婦に良かろうと思って引き受けたのじゃ。つまり何が言いたいかと言うと......」
兵長は大きく息を吸うと声高らかに言った。
「ヤっても儂とは血縁関係にはならんぞ?」
「何言ってんだこのジジイは?」
クラウン今日一のツッコミであった。そんなクラウンに構わず兵長は言葉を並べていく。
「狐の獣人はええぞ。毛並みの触り心地は良く、肌も柔らかで手に吸い付くようじゃ。そして、なにより美人じゃ」
「.......」
「まあ、ベルの場合は先祖返りの血が濃すぎるせいかあんな姿じゃ。じゃから、美人よりも可愛い路線かの。そんでもって成人済みにも関わらず、まだ穢れを知らぬ。加えて仁に従順。最高じゃと思わないか?」
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「お前の本当の孫でなくても孫であることには変わりないのだろう?なぜ俺にすすめる?」
「前に言ったではないか『よろしく頼む』と。それ込みの意味じゃったんだが伝わらなかったかの?」
「伝わるわけねぇだろうが、クソジジイ!」
クラウンは思わず噛みついた。そんなクラウンの様子を気にすることもなくなだめるように言葉を発した。
「フォフォフォ、そんな怒りなさるな。そういえば、聞いたぞ我が孫娘が家族を欲しがっていることを。あの子には小さい頃から失い過ぎた。じゃから、本能的の求めてしまったからかもしれん」
「......」
「儂は嬉しいのじゃ、ベルが仁のもとにいることがの。やはり孫娘を託すなら友の方が良いからの」
「......お前はそんな年になってまでも俺を『友』というのか?」
「当たり前じゃが?」
「.....!」
クラウンはそんな自信たっぷりに言う兵長を見て思わず目を見開く。その兵長の顔と元の世界にいた時の響の顔と重なったからだ。そのことに複雑な感情が湧いた。そんなクラウンの心境を知ってか知らずか冗談交じりなことを......
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連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
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