神逆のクラウン~運命を狂わせた神をぶっ殺す!~

夜月紅輝

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第10章 決戦

第221話 久々の再会

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 リリス達がハザドールに現れてから翌日、普段無口なの方であるベルの叱咤激励を受けたからか、全員の心持は明るい兆しを見せ始めた。

 といっても、事態は深刻だ。現状のままで突っ込んだとしても返り討ちにあうだけ。無策でゴリ押しというのはクラウンが案外とそうであったからかそう言う風潮になっているが、ここでは改めなければなるまい。

 とはいえ、そのためには些か情報不足だ。自分達が動けなくなったり、体が勝手に操られる現象についてはわかったけれど、それに対する対策があまり見つからない。

 加えて、クラウンはまだ何か隠している感じがあった。それに見る限りおかしな現象という場面はいくつもあった。

 これまでの旅をいろいろと思い出しながら、リリス達は客間の一室で集まって考えているがかれこれ一時間も無駄とも言えるほど有効な案が出てきていない。

 すると、「少し休憩」と疲れた息を吐きながら背もたれにだらしなく寄り掛かるリリスは正面に座っているベルにふとあることを聞いた。

「そういえば、私が転移石を使ったのってベルから指示されてやったんだけど、ベルはよく咄嗟に脱出手段を思いついたわね」

「そうだな。でも待てよ? あれって確か前回使った時は全員が使用者の体に触れてて一緒に転移したって感じだったけど、今回は動けなかったから触れてないはずだが?」

 カムイは思わず疑問を口にする。確かにその疑問は最もであろう。あの時はレグリアの神言マントラによって体を強制的に操られていた。

 その時、誰一人使用者のリリスに触れていた者はいなかった。なら、その場で消えるのはリリスだけということになる。

 僅かに空いた窓から風が流れ込む。その風は部屋中に新鮮な空気を届けていく。昨日よりも何十倍に美味しく感じる空気だ。

 その風に当てられ、僅かに気持ちよさそうに耳を揺らすベルはその疑問い対して答えを告げた。

「それは主様が保険として私に魔法を授けてくれたからです。レグリアの命令は移動自体の束縛でしたから、手は辛うじて動いたです。それからバレないように全員に糸を飛ばしたです。ちなみに、私が転移石を使うことを思いついていたのは主様が保険として私だけに伝えてくれたからです」

「旦那様がそんなことを.......それはいつの話なのかしら?」

「魔王が.......レグリアがいる場所の途中の移動道の時です。主様はその時から何か嫌な予感がしてると感じ取っていたらしいです。だから、その保険を私に授けました」

 ベルはその時のことを思い出して、結局こうなってしまっていることに歯噛みした。クラウンの直感は外れたことはない。それは戦いの時であればあるほどに。

 そして、それは現実になってしまった、不甲斐ないことに。当たってしまった、祈ったこともないのに。すると、その言葉に朱里が思わず反発する。

「待って、それならどうして海堂君は朱里達に言わなかったの!? 言ってくれればもしかしらた海堂君も一緒に逃げられたかもしれないのに」

「だからこそ、マスターはあえてミス・ベルにだけ伝えたのでしょう」

「どういうこと?」

「つまり私達は自分達が思っている以上に仲間意識が強いということよ。それは朱里自身が言葉として証明したじゃない。『一緒に逃げられたかも』って」

「.......」

「納得していない顔ね。いい? そもそもレグリアあいつの狙いはカムイの妹のルナさんと思わせたクラウン狙い。それで何がしたかったのかはまだよくわかっていないけど、クラウン自身は自分が狙われていることがよくわかっていた」

 リリスは机を囲っているソファから腰を上げると窓へと歩いて行く。そして、取っ手に手をかけると僅かに空いていた隙間を全開に広げた。

 風はあまり吹いていないのか僅かに髪を揺らす程度。その眼下に広がる城下町は自分達が見てきたおぞましさなど一切なく眩しいほどに輝いて見えていた。

 その景色を見ながらリリスは言葉を続けていく。

「私達は仲間意識が強い。仲間なら必ず助けに行く。けど、それは相手次第。レグリアのような相手には特に分が悪いかもね。だからこそ、クラウンはベルに保険を授けたのよ。そして、クラウン自身は賭けた」

「.......何を?」

「レグリアはクラウンを生きたまま何かをする気なのをクラウンは気づいていた。だから、殺されないという賭け。そして、自分が授けた保険によってきっと仲間が助けてくれるという信用の賭けよ」

「主様は私にその脱出案を告げた時、最後に告げたです。『お前らを信じている』とです。だからこそ、私達は立ち止まってはいけないです。私はもう一度主様に会いたい。その気持ちは皆だって一緒のはずです。だから―――――――諦めたくなかったのです」

「全く、ベルも最初っからそれを言ってくれれば私は顔をはたかれることもなかったってのに」

「あの言葉は単純にムカついたです。罰の意味も含まっているので悪気は一切ないです」

「わかってるわよ。あの時は私がどうかしてたわね」

「全く、旦那様のことが大好きなんだから。これじゃあ、いつ病んでもおかしくないわよ?」

「だ、大好きとかそんじゃないし!!」

「ツンデレ乙だよ、リリスちゃん」

「ゆーきーひーめぇ~~~~~~!」

 そう言いつつもリリスの顔は赤くもありながら、笑いに溢れていたそれだけ精神的に安定してきたということなのだろう。

 それは当然ながら良いことだ。何を行うにしても切り詰めて行えば、やがて無理が生じる。その無理はその次の無理を生む。

 それが連鎖的に続いてしまえばそれは今のリリス達にとって絶望的な状況になりかねない。だからこそ、心に余裕が必要なのだ。

 余裕は思考や行動を円滑に回していく。円滑に回ればそれだけ時間に余裕が生まれる。その時間はその時その時で有意義に使える。

 クラウンを救うことは絶対案件。でも、その前に自分達がしっかりと前を向いていなければ誰も救うことは出来ないだろう。

 そんな中、一人だけ未だ笑いきれないでいた人物がいた。その人物―――――カムイは「お手洗いを済ませてくる」と告げて部屋を出ていくとトイレとは真反対の廊下を歩き始めた。

 そして、向かった場所は城内にある衛生室。いわゆる病室のような場所だ。その一室のドアをノックすると「入るぞ」と声をかけながら入室する。

 そして、すぐに目に入るのは白いベッドで眠る妹のルナの姿が。胸のあたりが上下しているので呼吸は安定しているようだ。

 しかし、昨日から未だ目覚めていない。だが、昨日はかなりの衰弱であったので、最悪死んでいることも覚悟していたのでまだ目覚めるほど体力が回復していないのだろうと思っている。

「俺がいてももしかしたらあんな感じだったのかな.......」

 カムイは思わずルナを助けられなかったことをクラウンの件と重ねてしまった。それはある意味仕方のないことかもしれない。

 カムイがルナを探す旅を始めたのは自国が襲撃され、ルナが攫われてからである。その時は何度も考えた。なぜルナが攫われるときに自分は鬼ヶ島にいなかったのかと。

 しかし、今回の件は全く反対であった。自分はしっかり助けられる場面にいたにもかかわらず、結果は逃げて帰ってきた。

 なら、自分が鬼ヶ島にいても実は同じ結果であったのではないかと思ってしまう。それほどまでに自分は弱かった。

 あまり嘆きたくない言葉は勝手に言葉から漏れていく。これこそ自分の意志に反して。

 カムイは近くの椅子を引き寄せると腰かける。そして、そっと頭を撫でていく。しばらく見なかった間に随分と髪が細くなってしまっているようだ。

 あの美しくサラサラと風になびく髪は今は見る影もない。仕方ない、人質だったのだから。生かす程度の食事しか与えられていなかったということぐらい。

 しかし、嘆かずにはいられない。どうして自分の妹なのだろうかと。クラウンとかかわる未来だったからという結論はでているのに、その言葉に納得できない。出来るはずもない。

「俺さ、少しだけ弱くなってるかもしれない。いろいろと精神的にハードすぎてさ、心と思考と行動が上手く連動していないんだわ」

 カムイは撫でる手を止めると今度はルナの手に触れる。またもや随分と細く感じる。加えて、前よりも小さくも。

 仕方ないと思いつつも、その仕方ないをそのままにしておくことも出来ない。しかし、今のままでは変わらないし、どうすればいいかもわからない。

 冷たい手だ。この冷たい手で一体どれだけの辛い目に合ってきたのだろう。どれだけ心細くしていただろう。

 結局助けられるのは今になってしまった。随分とかかってしまった。随分とかけてしまった。それだけで自分は――――――

「兄として失格だな」

「――――――そんなことないですよ」

「!」

 思わず俯かせていた顔を上げるとすぐにルナの顔を見る。すると、まだ顔色は悪いがそれでも確かにしっかりと目を開けたルナの姿がそこにあった。

 ルナは僅かに開いた目だけをゆっくりとカムイへと向けていく。そして、カムイを視認すると嬉しそうに微笑した。

 それだけでカムイは思わずルナに抱きつこうとしたが、ふと寸前で止まって我に返る。病人相手に、それも目覚めたばっかの妹に抱きつくのは妹が可哀そうだ。

「おはよう。お目覚めかい?」

「はい、お目覚めです。実はさっきまで起きてたんですよ? でも、兄さんの撫でる手が気持ち良かったので思わず目を細めてしまいました」

「いつもは嫌がるのにな」

「恥ずかしいからですよ。でも、今は病人だから甘える時に甘えるんです」

「はは、甘え上手なことで」

「兄さん?」

 カムイは久々のルナとの会話に思わず涙ぐむ。まさか会話するだけでこんなにも胸を打つものがあるとは。それはルナが目覚めたからなのか、単にシスコンのカムイが感情豊かになっているのか。

 どちらにせよ、カムイにとっても、ルナにとっても感動の再会であることには変わりなかった。兄妹で会ったのは一体いつぶりなのだろうか。

 ともあれ、今は互いに言うべきは一つだけであった。

「お帰り、ルナ」

「ただいまです、兄さん」
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