私のバイト

あさき のぞみ

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第3章 パフェの味

新作パフェの値段

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新作のパフェはおいしかった。パフェを食べながら佐々木さんの顔が浮かんだ。かき消すように、パフェに入っているチョコアイスを口の中に入れた。

友達がトイレに行っている間に、佐々木さんの仕事を受けるメールを送った。

『次回の依頼、お受けします』

送信ボタンを押した瞬間、心臓が跳ねた。

「お待たせー」

友達が戻ってきた。

「このパフェ、めっちゃ映えるね」

友達がスマホで写真を撮っている。

「うん、おいしいし」

「かんな、最近なんか余裕あるよね」

「え?」

「だって、前だったら『パフェ高いよ』とか言ってたのに、今日すぐOKだったし」

ドキッとした。

「バイト、増やしたんだ」

嘘をついた。

「へえ、居酒屋?」

「ううん、別のとこ」

「どこ? 時給いいの?」

質問攻め。

「イベントスタッフ。単発で」

「そっか。かんな、ちゃんとしてるよね」

友達は納得したようにパフェを食べ続けた。

私は、スマホが震えるのを感じた。

返信だ。

でも、見られない。

トイレに立った。

個室に入って、メールを開く。

『ご快諾ありがとうございます。次回は三日後、同じ時間・同じ場所でよろしいでしょうか。佐々木様も大変喜んでおられます』

三日後。

早い。

でも、断る理由もない。

『大丈夫です』

返信して、トイレを出た。

友達の元に戻ると、友達は別の話をしていた。

「そういえばさ、就活どうする?」

「まだ全然考えてない」

「私も。でも、そろそろやばいよね」

「うん……」

就活。

将来。

今まで漠然と不安だったそれが、急に遠く感じた。

だって、二時間で五万円稼げるなら。

月に四回やれば二十万円。

普通の新卒の給料より高い。

そんなこと、考えてはいけない。

でも、考えてしまう。

「かんな、聞いてる?」

「あ、ごめん」

「もう、ぼーっとしてるよ」

友達が笑った。

「恋でもした?」

「してないよ」

即答した。

でも、心のどこかで引っかかった。

佐々木さんの顔。

あの、穏やかな笑顔。

違う。あれは仕事だ。

私は自分に言い聞かせた。

カフェを出て、駅で別れた。

家に帰ると、またメールが来ていた。

今度は相談窓口からだ。

『三好様 次回のお仕事前に、再度面談をさせていただきたく思います。お時間よろしいでしょうか』

面談。

何を聞かれるんだろう。

不安になったけど、断る理由もない。

『大丈夫です』

その夜、22時。またZoomを繋いだ。

田村さんが画面に映る。

「こんばんは、三好さん。次回のお仕事、お受けいただきありがとうございます」

「はい」

「今日は、少しお話を聞かせてください。前回のお仕事で、何か気になったことはありましたか」

「特には……」

「そうですか。では、佐々木様の印象はどうでしたか」

佐々木さん。

「物静かで、優しい人だなと思いました」

「好印象ですね」

「はい」

田村さんはメモを取った。

「三好さん、一つ確認したいのですが、佐々木様に対して、個人的な好意を抱いていませんか」

「え?」

突然の質問に、言葉が出なかった。

「仕事として割り切れていますか、ということです」

「割り切れて……ます」

自分でも、確信が持てなかった。

田村さんは優しい目で私を見た。

「三好さん、これは責めているわけではありません。ただ、境界線が曖昧になると、三好さん自身が傷つくことがあるんです」

「傷つく……」

「ええ。クライアント様は、あくまでサービスとして三好さんと接しています。でも、もし三好さんが本気になってしまったら」

言葉が続かなかった。

でも、わかった。

一方的に傷つくのは、私だ。

「大丈夫です。わかってます」

「本当に?」

「本当です」

強く言った。

田村さんは少し黙ってから、頷いた。

「わかりました。でも、もし少しでも違和感を感じたら、すぐに相談してくださいね」

「はい」

「それと、もう一つ。次回のお仕事から、少しルールを変更します」

「ルール?」

「ええ。二回目以降のクライアント様とは、連絡先の交換が可能になります」

心臓が止まりそうになった。

「連絡先……」

「ただし、あくまで業務連絡用です。弊社を通さず、直接やり取りができるようになります。もちろん、断ることもできます」

直接やり取り。

会社を通さない。

「それって……」

「クライアント様との信頼関係ができた証です。でも、無理に受ける必要はありません」

田村さんは真剣な顔で言った。

「三好さん、どうしますか」

私は、しばらく考えた。

連絡先を交換したら、何かが変わる。

でも、それが何なのか、わからない。

「考えさせてください」

「もちろんです。次回のお仕事の時に、佐々木様から直接お話があると思います。その時に決めてください」

Zoomが終わった。

私は、窓の外を見た。

夜景が広がっている。

どこかで、佐々木さんも同じ夜景を見ているんだろうか。

そんなことを考えて、頭を振った。

仕事だ。

これは、ただの仕事。

でも、胸の奥が、少しだけ温かかった。

スマホを見ると、振込通知が来ていた。

相談窓口利用料、五千円。

私は、画面を消した。

三日後。

また、佐々木さんに会う。

その時、何を話せばいいんだろう。

答えは、出なかった。​​​​​​​​​​​​​​​​
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