私のバイト

あさき のぞみ

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第3章 パフェの味

選択

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前日、会社からの電話が鳴った。私は寝てた。留守電のメッセージを聞くと、

「佐々木様からのご要望で、時間は前と同じ時間でお願いします。場所を考えてほしいのですが、唐突なので次のから選んでほしいとのことです。1つ目がフレンチ。2つ目はラーメン。3つ目が私のおススメ。どうされますか? 早急にご返答をお願い致します」

との伝言だった。

時計を見ると、午後三時。

電話があったのは一時間前だ。

私は布団から跳ね起きた。

選択肢。

フレンチ、ラーメン、私のおススメ。

この三つ、全然違う。

フレンチなら、前回と同じような高級路線。安全だ。

ラーメンは……カジュアルすぎる気もする。でも、逆に新鮮かもしれない。

私のおススメ。

これが一番難しい。

何をおススメすればいいんだろう。

私は、スマホを握りしめた。

会社に電話をかける。

「お世話になっております、三好です。留守電、聞きました」

「ああ、三好さん。お返事お待ちしておりました」

男性の声だ。面接の時の人かもしれない。

「えっと……選択肢なんですけど」

「はい」

「ラーメンって、本当にラーメン屋ですか」

「ええ。佐々木様のご希望です。高級店じゃなくて、普通のラーメン屋がいいと」

普通のラーメン屋。

五万円もらって、ラーメン。

ちぐはぐな気がした。

「三好さんのおススメでも構いませんよ。どこか行きたい場所はありますか」

行きたい場所。

頭に浮かんだのは、いつも友達と行くカフェだった。

でも、それは違う気がした。

「ラーメンで、お願いします」

言ってから、自分でも驚いた。

なんでラーメンを選んだんだろう。

「承知しました。では、どちらのラーメン屋がよろしいですか」

「え……私が決めるんですか」

「ええ。佐々木様から、三好さんに任せたいとのことです」

任せたい。

私に。

「じゃあ……」

頭の中で、知ってるラーメン屋を思い浮かべた。

駅前のチェーン店。大学の近くの二郎系。バイト先の近くの家系。

どれも違う気がした。

「少し、調べてもいいですか」

「もちろんです。一時間以内にお願いできますか」

「わかりました」

電話を切って、スマホで検索を始めた。

『都内 ラーメン おすすめ』

ランキングが出てくる。

でも、どれもピンとこない。

有名店は混んでるし、二時間も並んでられない。

『都内 ラーメン 静か』

検索ワードを変えた。

いくつか候補が出てきた。

その中で、目に留まったのは、住宅街の中にある小さな店だった。

『らーめん 凪』

口コミを見ると、『落ち着いた雰囲気』『カウンター八席のみ』『予約可』と書いてある。

写真を見ると、シンプルな醤油ラーメン。

これだ、と思った。

会社に電話をかけ直した。

「決まりました。『らーめん 凪』でお願いします」

住所を伝えると、担当者が確認してくれた。

「承知しました。では、予約を取っておきますね。明日19時、よろしくお願いします」

「はい」

電話を切った後、なぜか緊張した。

自分で選んだ。

佐々木さんが、どう思うかわからない。

もし、気に入らなかったら。

そんなことを考えて、頭を振った。

仕事だ。気に入る気に入らないは関係ない。

でも、胸のどこかで、期待している自分がいた。

喜んでくれたらいいな、と。

夜。相談窓口から連絡が来た。

「三好さん、明日のお仕事の件で少しお話ししたいのですが」

田村さんの声だ。

「はい」

「ラーメン屋を選ばれたんですね」

「はい……変でしたか」

「いえ、全く。むしろ、良い選択だと思います」

「本当ですか」

「ええ。佐々木様は、形式ばった場所よりも、リラックスできる場所を求めていらっしゃいます。三好さんの選択は、その意図を汲んでいますね」

少し、ほっとした。

「でも、一つ注意点があります」

「何ですか」

「ラーメン屋は、フレンチと違って距離が近いです。カウンター席だと、隣同士になります」

隣。

確かに、前回は向かい合わせだった。

「身体的接触は禁止ですが、物理的な距離は近くなります。それに対して、不快感はありませんか」

「大丈夫……だと思います」

「本当に?」

田村さんの声が、少し厳しくなった。

「もし少しでも不安があるなら、今から変更できます」

私は少し考えた。

佐々木さんの隣に座る。

肩が触れるかもしれない。

でも、それは……大丈夫な気がした。

「大丈夫です」

「わかりました。では、明日、気をつけて行ってきてください」

Zoomが終わった後、私はクローゼットを開けた。

明日、何を着ていけばいいんだろう。

ラーメン屋なら、カジュアルでいい。

デニムに白いTシャツ。

鏡の前で合わせてみる。

普段着だ。

でも、それがいい気がした。

スマホを見ると、友達からメッセージが来ていた。

『明日、暇? 映画行かない?』

私は返信した。

『ごめん、バイト入った』

『またー? 最近忙しいね』

『うん、ちょっと』

『無理しないでね』

『ありがと』

無理、してるのかな。

自分でもわからない。

疲れてない。

むしろ、少しだけ楽しみにしている自分がいる。

それが、怖かった。

ベッドに横になって、天井を見た。

明日。

佐々木さんと、ラーメン屋。

二時間。

五万円。

そして、連絡先の話。

受けるべきか、断るべきか。

答えは、まだ出ていなかった。

でも、明日には出さなきゃいけない。

私は、目を閉じた。

眠れるかわからなかった。

でも、いつの間にか、意識が遠のいていった。

夢の中で、佐々木さんが笑っていた。

ラーメンを食べながら。

私も笑っていた。

それが、夢なのか現実なのか、わからなくなっていた。​​​​​​​​​​​​​​​​
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