私のバイト

あさき のぞみ

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第7章 加速する

加速

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佐々木(田沼)さんからのメール。
『この前の返答を急かすつもりはないですが、私は三好さんあなたのことを考え過ぎてます。すみません。』
かんなは、そのメッセージを見て、心臓が跳ねた。
ベッドの上で、体を起こす。
画面を、何度も読み返した。
『あなたのことを考え過ぎてます』
考えてくれている。
私のことを。
頬が、熱くなった。
指が、震える。
返信しなきゃ。
でも、何て返せばいいんだろう。
『私も、考えています』
シンプルすぎる?
『佐々木さんのこと、私も……』
言葉が、出てこない。
好きって、書いていいのか。
まだ、言葉にしていいのか。
かんなは、ジャケットを見た。
佐々木さんの匂いが、まだする。
あの時の、温もり。
手を握られた感触。
「好きです」と言われた時の、胸の高鳴り。
全部、本物だった。
だから。
『私も、佐々木さんのことを考えています。たくさん』
送信した。
すぐに既読がついた。
そして、返信。
『嬉しいです。三好さん、明日、会えませんか』
明日。
また。
『はい、会いたいです』
返信してから、気づいた。
私、即答してる。
迷いもなく。
次のメッセージが来た。
『じゃあ、明日の夜、7時。場所は、三好さんの好きなところで』
好きなところ。
どこにしよう。
レストラン?
カフェ?
それとも……
頭に浮かんだのは、部屋だった。
私の部屋。
二人きりになれる、場所。
「ダメだ」
声に出して、否定した。
そんなの、早すぎる。
危険すぎる。
でも、体は正直だった。
熱くなってる。
あの時みたいに。
一人でした時みたいに。
かんなは、深呼吸した。
落ち着け。
冷静になれ。
『駅前のカフェ、どうですか』
安全な選択。
人が多い場所。
でも、返信を見て、驚いた。
『カフェもいいですけど、もっと静かな場所がいいです。三好さんの部屋とか……ダメですか』
部屋。
言われてしまった。
心臓が、早くなる。
部屋に、佐々木さんを呼ぶ。
二人きり。
誰も、邪魔しない。
契約のこと。
会社のこと。
全部、忘れて。
ただ、二人だけの時間。
かんなの指が、震えた。
『部屋……ですか』
『はい。でも、三好さんが嫌なら、無理には言いません』
嫌じゃない。
むしろ、したい。
でも、それを認めたら。
何かが、壊れる気がした。
『少し、考えさせてください』
『もちろん。ゆっくり考えてください』
優しい。
佐々木さんは、いつも優しい。
急かさない。
尊重してくれる。
だから、余計に。
信じてしまう。
かんなは、ベッドに倒れ込んだ。
天井を見つめる。
部屋に呼ぶ。
それって、どういうことだろう。
本当に、話すだけ?
それとも……
頭の中に、想像が広がる。
佐々木さんが、ソファに座る。
隣に、私が座る。
距離が、近い。
手が、触れる。
そして……
「やめろ」
自分に言い聞かせた。
でも、体は反応してる。
熱い。
疼いてる。
求めてる。
かんなは、パジャマの上から、自分の胸に手を当てた。
心臓が、激しく打ってる。
このまま、佐々木さんを部屋に呼んだら。
何が起こるか、わかってる。
わかってて。
呼びたいと思ってる。
「私、どうかしてる」
呟いた。
でも、止められなかった。
スマホを手に取る。
佐々木さんとのメッセージを、開く。
『少し、考えさせてください』
まだ、返信は来ていない。
待ってくれている。
私の答えを。
かんなは、立ち上がった。
部屋を見回す。
散らかってない。
掃除は、いつもしてる。
でも、佐々木さんを呼ぶなら。
もっと、綺麗にしなきゃ。
ベッドのシーツも、変えた方がいい。
「何考えてるの、私」
呟いた。
まだ、承諾してないのに。
もう、準備を考えてる。
矛盾してる。
でも、心は決まっていた。
かんなは、スマホを握りしめた。
そして、打った。
『明日の夜7時、私の部屋に来てください』
送信ボタンに、指を置く。
押したら、もう戻れない。
押したら、全部が変わる。
でも。
押した。
メッセージが、送信された。
既読がつくまで、三秒。
そして、返信。
『ありがとうございます。住所、教えてください』
かんなは、震える指で、住所を打った。
アパートの名前。
部屋番号。
全部。
送信した。
そして、気づいた。
私、自分の居場所を教えた。
佐々木さんに。
もう、隠せない。
逃げられない。
スマホが、また震えた。
『明日、楽しみにしています。三好さん』
楽しみ。
私も。
怖いけど。
でも、楽しみ。
かんなは、ベッドに座り込んだ。
明日。
佐々木さんが、ここに来る。
二人きり。
何が起こるんだろう。
ただ、話すだけ?
それとも……
答えは、わからない。
でも、一つだけ確かなことがあった。
私は、もう止められない。
佐々木さんを、求めてる。
体も、心も。
全部。
「やばい」
呟いた。
でも、もう遅かった。

その頃、田沼は。
自宅のソファで、三好かんなからのメッセージを見て、笑っていた。
「来た」
呟いて、ワイングラスを傾けた。
住所。
部屋番号。
全部、手に入れた。
GPSで推測していた場所と、一致する。
「完璧だ」
田沼は、スマホで別のアプリを開いた。
明日の準備リスト。
・小型カメラ×3(リビング、寝室、バスルーム用)
・録音機器
・避妊具
・ワイン
・現金5万円(報酬として見せる用)

全部、揃っている。
明日、三好かんなの部屋に仕掛ける。
そして、記録する。
全部。
「楽しみだな」
田沼は、過去の動画フォルダを開いた。
三人目の女性。
部屋での映像。
最初は、ただ話していた。
でも、だんだんと。
距離が近くなって。
手を繋いで。
キスをして。
そして。
「三好も、こうなる」
田沼は、確信していた。
明日。
全てが、始まる。
スマホが震えた。
田村からのメッセージだった。
『明日、三好さんが佐々木さんを部屋に呼ぶそうです。大丈夫ですか』
田沼は、返信した。
『知ってる。全部、計画通りだ』
『……わかりました』
田村の返信は、短かった。
田沼は、気にしなかった。
立ち上がって、窓の外を見た。
夜景。
明日の今頃、三好かんなは。
どうなっているだろう。
泣いているか。
それとも、まだ夢を見ているか。
どっちでもいい。
結果は同じだ。
田沼の、ものになる。
「さあ、ショータイムだ」
呟いて、田沼は笑った。
冷たく。
残酷に。
そして、満足げに。​​​​​​​​​​​​​​​​
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