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第6章 支配
歯車
しおりを挟む田村は言われるがまま行動した。
翌朝、9時。
田村は、会社のデスクに座っていた。
パソコンの画面には、三好かんなのプロフィール。
そして、田沼からの指示メール。
『次の面談で聞くこと:
1. 佐々木への感情の深さ
1. 性的な関心の有無
1. 金銭感覚の変化
1. 罪悪感の程度
1. 将来への不安
特に2について、丁寧に聞け。抵抗があるようなら、少しずつ慣れさせろ。
お前ならできるだろう。』
田村は、画面を見つめた。
性的な関心。
それを聞けと。
三好かんなに。
まだ21歳の、純粋な女の子に。
「最低だ」
呟いた。
でも、手は動いた。
メールを作成する。
宛先:三好かんな様
件名:次回面談のご案内
『三好様
いつもお世話になっております。
相談員の田村です。
佐々木様との関係も順調に進んでいるようで、嬉しく思います。
つきましては、次回の面談を設定させていただきたく、ご連絡いたしました。
より良いサービス提供のため、三好様の現在のお気持ちや状況を詳しくお伺いできればと思います。
日程:本日20時
所要時間:1時間程度
ご都合いかがでしょうか。
お忙しいところ恐縮ですが、ご返信お待ちしております。
相談員 田村麻美』
送信ボタンに、カーソルを合わせた。
指が、震えた。
「やめろ」
心の中で、叫んだ。
でも、クリックした。
メールが、送信された。
田村は、椅子に深く座り込んだ。
「私、何やってるんだろう」
呟いた。
でも、答えはわかっている。
生きるため。
逃げられないから。
田沼の支配から。
スマホが震えた。
三好からの返信だった。
早い。
『田村様
こんにちは。
今日の20時、大丈夫です。
よろしくお願いします。
三好かんな』
短い返信。
でも、その文章から、真面目さが伝わってくる。
「ごめんね」
田村は、画面に向かって呟いた。
でも、罪悪感を振り払った。
感情を、殺した。
これは、仕事だ。
ただの、仕事。
-----
20時。
Zoomの画面に、三好かんなが映った。
「こんばんは、三好さん」
田村は、笑顔を作った。
完璧な笑顔。
優しくて、信頼できそうな。
「こんばんは」
三好も、微笑んだ。
でも、少し疲れているように見えた。
「最近、どうですか。佐々木様とは順調ですか」
「はい……順調です」
三好の声が、少し弾んでいた。
恋をしている声だ。
田村は、それを聞いて、胸が痛んだ。
でも、表情には出さない。
「それは良かったです。昨日も会われたんですよね」
「はい。公園で……雨に降られて」
三好は、恥ずかしそうに笑った。
「佐々木さんが、手を引いてくれて」
「まあ、素敵」
田村は、演技をした。
嬉しそうに。
でも、心の中では。
田沼の顔が浮かんだ。
計算している顔。
獲物を、追い詰める顔。
「三好さん、少し踏み込んだ質問をさせてください」
「はい」
「佐々木様のこと、どう思っていますか。正直に」
三好は、少し考えてから答えた。
「好き……だと思います」
「仕事としてではなく?」
「はい。最初は仕事だったけど、今は……」
三好は、俯いた。
「本当に、好きなんだと思います」
田村は、メモを取るふりをした。
でも、実際には何も書いていない。
全部、録音されている。
田沼が、後で聞く。
「それは、素晴らしいことですね」
嘘だ。
全部、嘘だ。
でも、言った。
「佐々木様も、三好さんのことを本気で想っていらっしゃいます」
それも、嘘だ。
でも、三好は信じた。
顔が、明るくなった。
「本当ですか」
「ええ。先日も、『三好さんと一緒にいると、心が落ち着く』とおっしゃっていました」
田沼が言うはずない。
でも、三好は知らない。
「嬉しい……」
三好の目に、涙が浮かんだ。
田村は、それを見て。
吐き気がした。
でも、笑顔を保った。
「三好さん、次の質問なんですが」
「はい」
田村は、深呼吸した。
そして、田沼の指示通りに聞いた。
「佐々木様と、もっと親密になりたいと思いますか」
「親密……」
「はい。例えば、手を繋ぐとか、ハグをするとか」
三好の顔が、赤くなった。
「それは……契約で」
「契約は、変更できます。もし、三好さんが望むなら」
三好は、黙った。
でも、その表情から。
考えている、とわかった。
望んでいる、とわかった。
「どうでしょう」
田村は、優しく聞いた。
悪魔のように。
「わかりません……」
三好の声が、震えていた。
「したい気持ちは、ありますか」
沈黙。
そして。
「あります」
小さな声。
でも、はっきりと。
田村は、心の中で謝った。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
でも、口では。
「それは自然なことです。好きな人と、触れ合いたいと思うのは」
「でも……」
「大丈夫ですよ。ゆっくり考えましょう」
田村は、次の質問をした。
田沼の指示通りに。
一つずつ。
丁寧に。
三好かんなを。
罠に、嵌めていった。
-----
Zoomが終わった後。
田村は、すぐに田沼に報告した。
『面談終了しました。三好さん、完全に落ちています。
身体的接触への抵抗、ほぼありません。
次のステップ、いつでも可能です。』
田沼からの返信は、即座だった。
『よくやった。報酬、いつもの倍出す。
今夜、来い。』
田村は、スマホを握りしめた。
報酬。
金。
体。
全部、交換条件。
「私も、三好さんと同じだ」
呟いた。
田沼の、獲物。
違うのは。
三好は、まだ気づいていない。
でも、田村は。
もう、全部わかっている。
それでも、逃げられない。
「ごめんなさい、三好さん」
もう何度目かわからない謝罪を。
誰にも聞こえない声で。
呟いた。
そして、立ち上がった。
田沼の部屋へ。
向かうために。
-----
その頃、三好かんなは。
ベッドの上で、ジャケットを抱いていた。
面談の内容を、反芻していた。
佐々木さんと、触れ合いたい。
その気持ちを、認めてしまった。
「やばい」
呟いた。
でも、心は軽かった。
だって、田村さんが言ってくれた。
「それは自然なことです」
と。
佐々木さんも、私のことを想ってくれている。
と。
信じてもいい、と思った。
かんなは、スマホを開いた。
佐々木さんに、メッセージを送ろうとした。
でも、何を書けばいいのかわからない。
『会いたい』
そんなこと、送っていいのか。
『好きです』
そんなこと、言っていいのか。
結局、何も送らなかった。
ただ、ジャケットを抱いて。
目を閉じた。
佐々木さんの顔が、浮かぶ。
優しい笑顔。
「好きです」という言葉。
全部、本物だと。
信じたかった。
そして、知らないうちに。
深い、深い穴に。
落ちていった。
誰も、助けてくれない穴に。
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