私のバイト

あさき のぞみ

文字の大きさ
13 / 15
第6章 支配

支配の構造

しおりを挟む

この会社は田沼が代表社員だった。

全て言いなりの奴ら。zoomの相手をしているのは役者で、俺が雇った。そいつも俺の獲物だ。まー、そいつは金というよりも俺の体だけが目当てなのは知っているがな。

田沼は、ワイングラスを傾けながら、スマホで会社の管理画面を開いた。

『相談員一覧』

田村麻美。32歳。女優志望。

プロフィール写真が表示される。

落ち着いた雰囲気の女性。メガネをかけた知的な印象。

でも、実際は。

「あいつ、今日もよくやってくれたな」

田沼は、田村との過去のメッセージを開いた。

一番最近のもの。

『田沼さん、三好さん、完全に落ちてますね。次はどう誘導しますか?』

『もう少し背中を押してくれ。連絡先交換を承諾させろ』

『了解です。報酬、いつものでいいですか?』

『ああ。今夜、俺の部屋に来い』

『はい♡』

田沼は、笑った。

田村麻美。

最初に、この「ビジネス」で引っかかった女だ。

二年前。

彼女も三好と同じように、モニター業務として応募してきた。

当時は、田沼が直接面接をしていた。

「時給一万円」

その言葉に、目を輝かせた田村。

そして、仕事を始めた。

最初のクライアントは、もちろん田沼自身。

偽名を使って。

食事をして、会話をして。

「好きです」と告白した。

田村は、戸惑いながらも応じた。

そして、関係を持った。

その時の写真。

動画。

全部、田沼は持っている。

「君、女優になりたいんだよね」

とある日、田村に言った。

「これ、流出したら、どうなると思う?」

田村の顔が、青ざめた。

「お願いします、やめてください」

「じゃあ、俺に協力しろ」

それから、田村は田沼の言いなりだ。

相談員として、獲物を誘導する。

そして、田沼が求めれば、体も差し出す。

「完璧な関係だ」

田沼は、満足げに呟いた。

会社の他のスタッフも、似たようなものだ。

面接担当の男。

経理の女。

全員、田沼の弱みを握られている。

または、田沼に心酔している。

この会社は、田沼の王国だ。

スマホに、メッセージが来た。

田村からだ。

『今から、行ってもいいですか?』

田沼は、時計を見た。

夜の10時。

『来い』

返信した。

三十分後、チャイムが鳴った。

ドアを開けると、田村が立っていた。

今日とは違う格好。

タイトなワンピース。

メガネは外している。

化粧も濃い。

「お疲れ様です、田沼さん」

「入れ」

田村が部屋に入る。

田沼は、ソファに座った。

「座れ」

田村は、田沼の隣に座った。

距離が近い。

「今日の三好、どうだった」

「完璧でした。もう、佐々木さんのことで頭がいっぱいです」

「そうか」

田沼は、ワインを飲んだ。

「次は、どうしますか」

「もっと会う回数を増やす。週に一回くらいにしたい」

「報酬は?」

「変えない。でも、メッセージの報酬を上げる。一通二千円」

「了解です」

田村は、メモを取る仕草をした。

でも、田沼はそれを遮った。

「仕事の話は、後だ」

田村の手を掴む。

「今は、お前の仕事をしろ」

田村は、微笑んだ。

でも、その目は笑っていなかった。

「はい」

服を脱ぎ始める。

田沼は、それを眺めた。

感情はない。

ただ、所有している。

それだけだ。

-----

一時間後。

田村は、服を着直していた。

「ねえ、田沼さん」

「何だ」

「三好さん、可哀想じゃないですか」

田沼は、鼻で笑った。

「可哀想? お前が言うか」

「私は……もう、慣れました。でも、三好さんはまだ純粋で」

「だから、いいんだろ」

田沼は、冷たく言った。

「純粋な方が、高く売れる」

田村は、黙った。

「お前も最初は、純粋だったな」

「……」

「でも、今はどうだ。俺の言いなりだ」

田村は、唇を噛んだ。

「三好も、そうなる。時間の問題だ」

「でも……」

「お前、まさか三好を助けたいとか思ってないよな」

田沼の声が、低くなった。

田村は、首を横に振った。

「思ってません」

「だろうな。お前にはそんな勇気ない」

田沼は、スマホを取り出した。

田村との写真を見せた。

「これ、覚えてるよな」

田村の顔が、青ざめた。

「やめてください……」

「なら、俺に逆らうな」

「はい」

田村は、項垂れた。

田沼は、満足げに頷いた。

「帰れ」

「はい」

田村が立ち上がる。

ドアに向かう。

でも、途中で振り返った。

「田沼さん、いつまでこんなこと続けるんですか」

「興味がなくなるまで」

「三好さんが、壊れても?」

「壊れたら、次を探す」

田村は、何も言えなかった。

ただ、ドアを開けて出て行った。

田沼は、一人になった部屋で、再びスマホを開いた。

GPSアプリ。

赤い点は、まだ動いていない。

三好かんなは、自宅にいる。

今頃、ジャケットを抱いて寝ているんだろう。

「可愛いな」

呟いて、田沼は別のアプリを開いた。

銀行口座。

今月の収入。

四百万円。

過去の案件からの継続収入。

写真や動画の販売。

そして、新しい獲物からの投資回収。

「来月は、もっと増えるな」

田沼は、計算した。

三好かんなから、どれだけ回収できるか。

最低でも、三百万円。

うまくいけば、五百万円。

「期待してるぞ、三好かんな」

スマホを置いて、田沼はベッドに向かった。

シーツに、まだ田村の香水の匂いが残っている。

でも、田沼は気にしなかった。

明日には、洗濯すればいい。

目を閉じた。

夢の中で、田沼は笑っていた。

三好かんなが、泣いている。

「助けてください」

と言っている。

でも、田沼は助けない。

ただ、カメラを向ける。

「もっと泣け」

と言う。

そして、シャッターを切る。

-----

その頃、田村麻美は。

自宅のアパートに戻って、鏡を見ていた。

化粧を落とす。

素顔の自分。

三十二歳。

女優の夢は、もう諦めた。

でも、田沼から逃げられない。

「三好さん……」

呟いた。

助けたい。

でも、できない。

自分が、壊れるから。

田村は、ベッドに倒れ込んだ。

涙が、出そうになった。

でも、泣かなかった。

泣く資格なんて、ない。

自分も、加害者なんだから。

スマホが震えた。

田沼からのメッセージだった。

『明日、三好に連絡しろ。次の面談を設定しろ。今度は、もっと踏み込んだ質問をしろ』

田村は、返信した。

『了解しました』

機械的に。

感情を、殺して。

そして、画面を閉じた。

暗闇の中で、田村は天井を見つめた。

「ごめんなさい、三好さん」

小さく呟いた。

でも、その声は。

誰にも届かなかった。​​​​​​​​​​​​​​​​
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【アラウコの叫び 】第4巻/16世紀の南米史

ヘロヘロデス
歴史・時代
【毎日19:20投稿】 4巻は、序盤は「推理もの」、中盤から後半は「ロマンスもの」が展開されます。 ・サンティアゴで起こる「事件」と「裁き」 ・「アンデスの悪魔」として悪名を轟かせた狂気の老人カルバハルの存在感 ・ニドス家の兄妹の「行く末」 ・イネスとバルディビアとの「出逢い」と「結末」 大きく分けてこの様な展開になってます。 ------------------- 1500年以降から300年に渡り繰り広げられた「アラウコ戦争」を題材にした物語です。 マプチェ族とスペイン勢力との激突だけでなく、 スペイン勢力内部での覇権争い、 そしてインカ帝国と複雑に様々な勢力が絡み合っていきます。 ※ 現地の友人からの情報や様々な文献を元に史実に基づいて描かれている部分もあれば、 フィクションも混在しています。 動画制作などを視野に入れてる為、脚本として使いやすい様に、基本は会話形式で書いています。 HPでは人物紹介や年表等、最新話を先行公開しています。 公式HP:アラウコの叫び youtubeチャンネル名:ヘロヘロデス insta:herohero_agency tiktok:herohero_agency

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

処理中です...