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第6章 支配
支配の構造
しおりを挟むこの会社は田沼が代表社員だった。
全て言いなりの奴ら。zoomの相手をしているのは役者で、俺が雇った。そいつも俺の獲物だ。まー、そいつは金というよりも俺の体だけが目当てなのは知っているがな。
田沼は、ワイングラスを傾けながら、スマホで会社の管理画面を開いた。
『相談員一覧』
田村麻美。32歳。女優志望。
プロフィール写真が表示される。
落ち着いた雰囲気の女性。メガネをかけた知的な印象。
でも、実際は。
「あいつ、今日もよくやってくれたな」
田沼は、田村との過去のメッセージを開いた。
一番最近のもの。
『田沼さん、三好さん、完全に落ちてますね。次はどう誘導しますか?』
『もう少し背中を押してくれ。連絡先交換を承諾させろ』
『了解です。報酬、いつものでいいですか?』
『ああ。今夜、俺の部屋に来い』
『はい♡』
田沼は、笑った。
田村麻美。
最初に、この「ビジネス」で引っかかった女だ。
二年前。
彼女も三好と同じように、モニター業務として応募してきた。
当時は、田沼が直接面接をしていた。
「時給一万円」
その言葉に、目を輝かせた田村。
そして、仕事を始めた。
最初のクライアントは、もちろん田沼自身。
偽名を使って。
食事をして、会話をして。
「好きです」と告白した。
田村は、戸惑いながらも応じた。
そして、関係を持った。
その時の写真。
動画。
全部、田沼は持っている。
「君、女優になりたいんだよね」
とある日、田村に言った。
「これ、流出したら、どうなると思う?」
田村の顔が、青ざめた。
「お願いします、やめてください」
「じゃあ、俺に協力しろ」
それから、田村は田沼の言いなりだ。
相談員として、獲物を誘導する。
そして、田沼が求めれば、体も差し出す。
「完璧な関係だ」
田沼は、満足げに呟いた。
会社の他のスタッフも、似たようなものだ。
面接担当の男。
経理の女。
全員、田沼の弱みを握られている。
または、田沼に心酔している。
この会社は、田沼の王国だ。
スマホに、メッセージが来た。
田村からだ。
『今から、行ってもいいですか?』
田沼は、時計を見た。
夜の10時。
『来い』
返信した。
三十分後、チャイムが鳴った。
ドアを開けると、田村が立っていた。
今日とは違う格好。
タイトなワンピース。
メガネは外している。
化粧も濃い。
「お疲れ様です、田沼さん」
「入れ」
田村が部屋に入る。
田沼は、ソファに座った。
「座れ」
田村は、田沼の隣に座った。
距離が近い。
「今日の三好、どうだった」
「完璧でした。もう、佐々木さんのことで頭がいっぱいです」
「そうか」
田沼は、ワインを飲んだ。
「次は、どうしますか」
「もっと会う回数を増やす。週に一回くらいにしたい」
「報酬は?」
「変えない。でも、メッセージの報酬を上げる。一通二千円」
「了解です」
田村は、メモを取る仕草をした。
でも、田沼はそれを遮った。
「仕事の話は、後だ」
田村の手を掴む。
「今は、お前の仕事をしろ」
田村は、微笑んだ。
でも、その目は笑っていなかった。
「はい」
服を脱ぎ始める。
田沼は、それを眺めた。
感情はない。
ただ、所有している。
それだけだ。
-----
一時間後。
田村は、服を着直していた。
「ねえ、田沼さん」
「何だ」
「三好さん、可哀想じゃないですか」
田沼は、鼻で笑った。
「可哀想? お前が言うか」
「私は……もう、慣れました。でも、三好さんはまだ純粋で」
「だから、いいんだろ」
田沼は、冷たく言った。
「純粋な方が、高く売れる」
田村は、黙った。
「お前も最初は、純粋だったな」
「……」
「でも、今はどうだ。俺の言いなりだ」
田村は、唇を噛んだ。
「三好も、そうなる。時間の問題だ」
「でも……」
「お前、まさか三好を助けたいとか思ってないよな」
田沼の声が、低くなった。
田村は、首を横に振った。
「思ってません」
「だろうな。お前にはそんな勇気ない」
田沼は、スマホを取り出した。
田村との写真を見せた。
「これ、覚えてるよな」
田村の顔が、青ざめた。
「やめてください……」
「なら、俺に逆らうな」
「はい」
田村は、項垂れた。
田沼は、満足げに頷いた。
「帰れ」
「はい」
田村が立ち上がる。
ドアに向かう。
でも、途中で振り返った。
「田沼さん、いつまでこんなこと続けるんですか」
「興味がなくなるまで」
「三好さんが、壊れても?」
「壊れたら、次を探す」
田村は、何も言えなかった。
ただ、ドアを開けて出て行った。
田沼は、一人になった部屋で、再びスマホを開いた。
GPSアプリ。
赤い点は、まだ動いていない。
三好かんなは、自宅にいる。
今頃、ジャケットを抱いて寝ているんだろう。
「可愛いな」
呟いて、田沼は別のアプリを開いた。
銀行口座。
今月の収入。
四百万円。
過去の案件からの継続収入。
写真や動画の販売。
そして、新しい獲物からの投資回収。
「来月は、もっと増えるな」
田沼は、計算した。
三好かんなから、どれだけ回収できるか。
最低でも、三百万円。
うまくいけば、五百万円。
「期待してるぞ、三好かんな」
スマホを置いて、田沼はベッドに向かった。
シーツに、まだ田村の香水の匂いが残っている。
でも、田沼は気にしなかった。
明日には、洗濯すればいい。
目を閉じた。
夢の中で、田沼は笑っていた。
三好かんなが、泣いている。
「助けてください」
と言っている。
でも、田沼は助けない。
ただ、カメラを向ける。
「もっと泣け」
と言う。
そして、シャッターを切る。
-----
その頃、田村麻美は。
自宅のアパートに戻って、鏡を見ていた。
化粧を落とす。
素顔の自分。
三十二歳。
女優の夢は、もう諦めた。
でも、田沼から逃げられない。
「三好さん……」
呟いた。
助けたい。
でも、できない。
自分が、壊れるから。
田村は、ベッドに倒れ込んだ。
涙が、出そうになった。
でも、泣かなかった。
泣く資格なんて、ない。
自分も、加害者なんだから。
スマホが震えた。
田沼からのメッセージだった。
『明日、三好に連絡しろ。次の面談を設定しろ。今度は、もっと踏み込んだ質問をしろ』
田村は、返信した。
『了解しました』
機械的に。
感情を、殺して。
そして、画面を閉じた。
暗闇の中で、田村は天井を見つめた。
「ごめんなさい、三好さん」
小さく呟いた。
でも、その声は。
誰にも届かなかった。
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