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第5章 天気予報
罠
しおりを挟む田沼は帰り道、スマホを確認した。お金を振り込み。そして、ジャケットの中に入れておいた位置情報確認システムのアプリを開いた。
画面に、赤い点が表示される。
三好かんなの現在地。
リアルタイムで動いている。
「駅から近いって、嘘ついたな」
田沼は、口角を上げた。
赤い点は、駅から離れていく。
住宅街の方向だ。
「三十分くらいかかるか。可愛いこと言って」
田沼は、画面を拡大した。
建物の名前まで、だいたいわかる。
「古いアパートかな」
メモアプリを開いて、記録した。
『三好かんな 住所:推定○○区××町2丁目付近』
完璧だ。
ジャケットに仕込んだGPSトラッカー。
名刺サイズで薄い。ポケットの裏地に縫い付けてある。
気づくはずがない。
「洗濯したら壊れるけど、まあいい」
どうせ、それまでに住所は特定できる。
田沼は、電車に乗った。
空いた車両の端の席。
スマホを見続ける。
赤い点が、止まった。
「着いたか」
建物の形から判断すると、二階建てのアパート。
「一人暮らしか。都合がいい」
メモに追記する。
『一人暮らしの可能性大。建物は古め。セキュリティ低そう』
田沼は、次のフェーズの計画を立て始めた。
今日の雨は、予想外だった。
でも、結果的には完璧だった。
手を握った。
肩にジャケットをかけた。
近くに座った。
「好きだ」と言った。
全部、計画通り。
そして、三好かんなの反応。
嬉しそうだった。
恥ずかしそうだった。
でも、拒否しなかった。
「もう、落ちてるな」
田沼は確信していた。
相談窓口の記録も見た。
『佐々木様への好意:否定しているが、感情の揺れあり』
『境界線:曖昧になりつつある』
『金銭感覚:麻痺の兆候。高額報酬に慣れ始めている』
完璧だ。
あと少しで、フェーズ3に移行できる。
田沼は、別のアプリを開いた。
過去の「案件」の記録。
一人目:早期離脱。損失30万円。
二人目:途中離脱。損失50万円。
三人目:成功。回収額200万円。
四人目:継続中。現在までの回収額150万円。
五人目:三好かんな。投資額約20万円。
「三好は、どこまで行けるかな」
田沼は、三人目の女性のファイルを開いた。
最終的に、どうなったか。
写真がいくつか保存されている。
ホテルの部屋。
ベッドの上。
服を着ていない女性。
顔は映っていない。でも、体は鮮明に。
「あの時は、二百万円回収できたな」
その女性は、最初は三好と同じように純粋だった。
「仕事です」と言いながら、感情が揺れていた。
そして、田沼が「好きだ」と言った時。
完全に落ちた。
その後は、簡単だった。
デートを重ねる。
手を繋ぐ。
キスをする。
そして、ホテル。
全部、「恋人として」の行為。
でも、毎回報酬を払う。
最初は五万円。
次は三万円。
だんだん減らしていく。
でも、女性は断れない。
なぜなら、もう「好き」だから。
そして、ある日。
「写真、撮らせて」
と言う。
「二人の思い出に」
と。
女性は、恥ずかしがりながらも応じる。
そして、その写真を。
「これ、高く売れるんだよね」
田沼は、過去の取引記録を見た。
アダルトサイトの運営者。
一枚、五万円で買い取ってくれる。
顔は映さない。
個人は特定できない。
だから、違法じゃない。
「三好も、そのうちこうなる」
田沼は、スマホを閉じた。
電車が、駅に着いた。
自宅の最寄り駅。
改札を出て、タクシーに乗る。
高層マンションの前で降りた。
エレベーターで、二十階へ。
部屋に入る。
広いリビング。
高級家具。
全部、この「ビジネス」で買った。
田沼は、ソファに座った。
ワインを注ぐ。
スマホを開いて、もう一度アプリを確認。
赤い点は、動いていない。
三好かんなは、自宅にいる。
今頃、何をしてるんだろう。
ジャケットを見てる?
匂いを嗅いでる?
「可愛いな」
呟いて、ワインを飲んだ。
次のフェーズ。
依存関係の形成。
もっと会う回数を増やす。
もっとメッセージを送る。
そして、報酬を増やす。
月に十万円。
いや、十五万円でもいい。
金に慣れさせる。
その金がないと、生活できなくなるくらいに。
そうしたら、もう逃げられない。
「あと一ヶ月くらいかな」
田沼は、計算した。
一ヶ月後には、フェーズ4。
境界線の破壊。
キス。
抱擁。
そして。
「楽しみだな」
田沼は、笑った。
スマホに、通知が来た。
三好かんなからのメッセージだ。
『今日は、ありがとうございました。とても楽しかったです。ジャケット、大切にします』
大切にする。
その言葉に、田沼はさらに笑った。
「大切にしてくれ。俺の目が、入ってるんだから」
返信した。
『こちらこそ、ありがとう。また会いたいです。三好さんのこと、本当に好きです』
送信。
すぐに既読がついた。
そして、返信。
『私も、会いたいです』
完璧だ。
田沼は、ワイングラスを掲げた。
「三好かんな、君は最高の獲物だ」
一気に飲み干した。
そして、立ち上がって、窓の外を見た。
夜景が広がっている。
この街のどこかに、三好かんながいる。
田沼のジャケットを着て。
田沼のことを思って。
恋をしていると思い込んで。
「可哀想に」
呟いて、笑った。
でも、同情はしない。
これは、ビジネスだ。
感情は、商品だ。
体は、資産だ。
全部、金に変えられる。
「さあ、どこまで行けるかな、三好かんな」
田沼は、スマホを握りしめた。
赤い点を、見つめながら。
-----
その頃、三好かんなは。
自宅のベッドで、ジャケットを抱きしめていた。
佐々木さんの匂い。
温もり。
全部が、愛おしかった。
「好きって、言ってくれた」
呟いて、微笑んだ。
これは、仕事。
そうわかってる。
でも、佐々木さんの気持ちは本物だって。
そう信じたかった。
スマホが震えた。
佐々木さんからのメッセージ。
『私も、会いたいです』
と返信してから、かんなは気づいた。
自分、完全に恋してる。
「やばい」
呟いた。
でも、止められなかった。
ジャケットに顔を埋める。
そして、涙が出た。
なんで泣いてるのか、わからない。
嬉しいはずなのに。
でも、どこかで。
何かが、おかしいと思っていた。
気づけない。
気づきたくない。
かんなは、目を閉じた。
佐々木さんの顔が、浮かぶ。
優しい笑顔。
全部、本物だと信じたい。
そう、願いながら。
深い闇に、落ちていった。
自分でも気づかないうちに。
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