サラリーマン、少女になる。

帰還とワンピースの違和感

まいからの返信は、一瞬で届いた。
『わかったー』
それだけの、気の抜けたような、しかしいつものまいらしい返事だ。その簡潔さに、俺は胸を撫で下ろした。彼女は疑うことなく、俺からのメッセージだと信じ、家で待っていてくれる。
（これで、俺には話し合いの場が確保できた。だが、この姿でどうする……）
コンビニの陰から立ち上がり、俺は幼い足で自宅へと踵を返した。しかし、道中、新たな問題が意識を占拠し始める。
「くそっ、この服……」
まいから借りたワンピースは、慣れない感覚の塊だった。タイトなスカートやスーツに慣れた元の体とは違い、服の裾が歩くたびにひらひらと揺れる。そして、下着を履いているにも関わらず、脚に風が触れる感覚が、どうにも落ち着かない。
さらに、自分の歩き方もぎこちない。大股でスタスタと歩いていた習慣が抜けないせいで、ワンピースの裾が余計に揺れ、誰かに見られているような羞恥心が増幅する。
（俺は今、「女の子」として歩いているのか？ そんなこと、意識したこともなかった！）
自宅の前に辿り着いた。玄関には、見慣れたまいさんの靴がある。やはり、約束通り待っていてくれたようだ。
俺は深呼吸をし、幼い手のひらで、玄関のドアノブに触れた。
中には、最も信じている人間が、最も知られたくない秘密を抱える俺を待っている。そして、この変身の原因、そして元の体の手がかりが、この家の中に隠されているはずだ。
「……行くぞ、俺」
幼い声で決意を呟き、俺はドアを開けた。