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会社にて
第1話 ある日
しおりを挟む「斎藤、お前このままライターとして、この雑誌続けたいか?」
上司の近藤から呼び出されたのは8月お盆前のことだった。編集部の隅にある小さな会議室。窓の外では蝉が狂ったように鳴いている。
俺――斎藤みゆきは、躊躇することなく返事をした。
「はい、続けたいです」
近藤は腕を組んだまま、じっと俺を見つめている。重くもなく軽くもない言葉が、その口から零れ落ちた。
「そうか。なら、特集記事を任せる」
一瞬、胸が高鳴った。入社三年目、ようやく大きな仕事が回ってくる。
「テーマは『JKブーム』だ」
「JK……ですか」
「ああ。女子高生カルチャーの最前線。JKビジネス、制服ファッション、SNSでの発信力。今、社会現象になっている。それを君に取材してもらいたい」
近藤は資料の束を俺の前に置いた。
「ただし、条件がある」
俺は資料から顔を上げた。
「表面的な取材じゃ意味がない。本当の彼女たちの声を、内側から掴んでこい。そのためには……」
近藤は一瞬言葉を切った。そして、俺の顔をまじまじと見つめる。
「お前の見た目なら、できるかもしれない」
嫌な予感がした。
「斎藤、お前、女子高生に……なれるか?」
会議室に沈黙が落ちた。エアコンの音だけが、やけに大きく響いている。
「は?」
思わず間の抜けた声が出た。
「潜入取材だ。お前の童顔と小柄な体格なら、制服を着れば十分通用する。実際に彼女たちの中に入り込んで、リアルな声を拾ってこい。これは編集長の許可も取ってある」
俺は――いや、もはや「僕」と呼ぶべきなのか――混乱する頭で近藤を見返した。
「でも、俺、男ですよ……?」
「わかってる。だからこそ、この企画が面白いんだ。男性ライターが女子高生の世界に潜入する。今までにない切り口だろう?」
近藤の目は、本気だった。
窓の外で、蝉がまた一段と激しく鳴き始めた。
この夏は、長くなりそうだ。
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