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会社にて
第2話 葛藤と希望の違い
しおりを挟むライターとして生きていきたい。
その想いは本物だ。三年間、地道に記事を書き続けてきた。取材先に断られても、締め切りに追われても、諦めずにやってきた。
しかし、この潜入が正しいのか。
女装して女子高生になりすます。それは取材なのか、それとも欺瞞なのか。頭の中で、希望と葛藤がせめぎ合っている。
僕は、震える声で質問した。
「潜入先は……決まっているんですか?」
簡単な質問のはずだった。だが、この答え次第で、僕の人生が変わる。
近藤は即座に答えた。
「当然だ」
資料の中から一枚の紙を取り出す。そこには学校の写真と名前が印刷されていた。
『私立聖ヶ丘女子学園』
「しかも、潜入先の理事長も喜んで引き受けてくれると言っている」
「え……理事長が?」
信じられない。普通なら拒否されるはずだ。いくらジャーナリズムのためとはいえ、男を女子校に潜入させるなど。
「理事長の雨宮先生は、かなり革新的な教育者でね。むしろこの企画に興味を持ってくれた。『今の女子高生文化を正しく社会に伝えることは重要だ』とおっしゃっていた」
近藤は続ける。
「もちろん、セキュリティ上の理由で、学校側のごく一部の教員だけには正体を明かす。担任になる予定の先生と、保健室の先生だ。生徒たちには一切知らせない。そこは徹底する」
僕は喉が渇いていた。ペットボトルの水を一口飲む。
「期間は?」
「二学期の間。九月から十二月まで。年末の特集号に間に合わせる」
四ヶ月。四ヶ月間、女子高生として生きる。
「斎藤、無理にとは言わない」
近藤の声が、少し優しくなった。
「だが、これは君のチャンスでもある。この企画が成功すれば、君の名前は業界で知られるようになる。フリーランスとしての道も開ける」
希望。
その言葉が、僕の心を揺さぶった。
「一週間、考える時間をやる。返事は盆明けまでに聞かせてくれ」
会議室を出ると、編集部のざわめきが耳に入ってきた。いつもと変わらない日常。でも、僕の世界は、もう変わり始めていた。
鏡に映る自分の顔を見る。
確かに、童顔だ。髪を伸ばせば……化粧をすれば……。
「本当に、できるのか?」
呟いた声は、誰にも届かなかった。
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