「俺、女子高生になります

あさき のぞみ

文字の大きさ
8 / 80
美山さんとの出会い

第8話 美山からの一言

しおりを挟む


買い物を終えて、表参道のカフェに入った。

大量の袋を抱えた僕の前で、美山理事長は優雅にエスプレッソを口にしている。

「お疲れ様でした。必要なものは、大体揃いましたね」

「あ、ありがとうございます……」

服、化粧品、スクールバッグ、文房具、スマホケース――。

今日だけで、軽く二十万は超えている。

黒いカードを、テーブルに置いた。

「あの、これ……お返しします」

「いえ、それは持っていてください」

美山理事長は、カードを僕の方へ押し戻した。

「これから必要になるものも、たくさんあるでしょう。その都度、使ってください」

「でも……」

美山理事長は、周りを見回した。隣のテーブルには若いカップルが座っている。

彼女は声を落とした。

「斎藤さん。一つ、お願いがあります」

「……はい」

「このカードで経費を使うことは、近藤さまにはご内密にしてください」

「え……?」

近藤に、内緒?

「雑誌社からも経費は出ると聞いています。でも、それだけでは足りない。本当にリアルな女子高生になるには、もっと細かい部分までこだわる必要がある」

美山理事長は、カップを置いた。

「その見返りとして、これはあなた名義のカードにしておきました」

「あなた名義……?」

「ええ。私が保証人になっていますが、名義はあなたです」

彼女は、僕の目を真っ直ぐ見つめた。

「しかし、実際に支払うのは私、美山です」

「……」

「どういうことか、お分かりですか?」

一瞬、頭が真っ白になった。

でも、すぐに理解した。

「つまり……」

「ええ。このカードの履歴は、全てあなたの名前で残ります。でも、請求は私に来る」

美山理事長は、微笑んだ。

「表向きは、あなたが自分のお金で買い物をしている。でも実際は、私が全て支払っている。近藤さまには、雑誌社の経費だけを報告する」

「それって……」

違法じゃないのか。いや、違法ではないかもしれない。でも、明らかにグレーゾーンだ。

「なぜ、そこまで……?」

美山理事長は、窓の外を見た。

表参道を歩く女子高生たち。制服姿で、楽しそうに笑っている。

「私は、本物を見たいんです」

「本物……?」

「上辺だけの取材じゃない。本当に、彼女たちの中に溶け込んだあなたを。そのためには、細部まで完璧にする必要がある」

美山理事長は、僕の方を向いた。

「そして、あなたにも……メリットがあります」

「メリット?」

「このカードは、あなた名義。つまり、クレジットヒストリーが積み上がります。将来、あなたがフリーランスになった時、この実績は役に立つでしょう」

なるほど。

フリーランスになるには、クレジットカードの審査が厳しい。でも、このカードの履歴があれば――。

「それに」

美山理事長は、声を更に落とした。

「この四ヶ月間、あなたは私の『教え子』でもある。私は、あなたの成功を心から願っています。だから、できる限りのサポートをしたい」

彼女の目は、真剣だった。

「近藤さまには言わないでください。これは、私とあなただけの……秘密です」

秘密。

また一つ、秘密が増えた。

「……わかりました」

僕は、カードを手に取った。

黒く光るカード。

これは、美山理事長からの投資なのか。

それとも――

「ありがとうございます、美山理事長」

「いえ。お互いに、win-winの関係ですから」

美山理事長は微笑んだ。

でも、その笑顔の奥に、何か別の感情が見えた気がした。

窓の外では、女子高生たちが笑っている。

僕は、もうすぐその中に入る。

美山理事長という、謎めいた協力者とともに。

カフェを出る時、僕は振り返った。

美山理事長は、まだ窓の外を見つめていた。

その横顔が、どこか寂しそうに見えたのは――

気のせいだろうか。​​​​​​​​​​​​​​​​
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)

MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。 かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。 44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。 小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。 一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。 ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...