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美山さんとの出会い
第8話 美山からの一言
しおりを挟む買い物を終えて、表参道のカフェに入った。
大量の袋を抱えた僕の前で、美山理事長は優雅にエスプレッソを口にしている。
「お疲れ様でした。必要なものは、大体揃いましたね」
「あ、ありがとうございます……」
服、化粧品、スクールバッグ、文房具、スマホケース――。
今日だけで、軽く二十万は超えている。
黒いカードを、テーブルに置いた。
「あの、これ……お返しします」
「いえ、それは持っていてください」
美山理事長は、カードを僕の方へ押し戻した。
「これから必要になるものも、たくさんあるでしょう。その都度、使ってください」
「でも……」
美山理事長は、周りを見回した。隣のテーブルには若いカップルが座っている。
彼女は声を落とした。
「斎藤さん。一つ、お願いがあります」
「……はい」
「このカードで経費を使うことは、近藤さまにはご内密にしてください」
「え……?」
近藤に、内緒?
「雑誌社からも経費は出ると聞いています。でも、それだけでは足りない。本当にリアルな女子高生になるには、もっと細かい部分までこだわる必要がある」
美山理事長は、カップを置いた。
「その見返りとして、これはあなた名義のカードにしておきました」
「あなた名義……?」
「ええ。私が保証人になっていますが、名義はあなたです」
彼女は、僕の目を真っ直ぐ見つめた。
「しかし、実際に支払うのは私、美山です」
「……」
「どういうことか、お分かりですか?」
一瞬、頭が真っ白になった。
でも、すぐに理解した。
「つまり……」
「ええ。このカードの履歴は、全てあなたの名前で残ります。でも、請求は私に来る」
美山理事長は、微笑んだ。
「表向きは、あなたが自分のお金で買い物をしている。でも実際は、私が全て支払っている。近藤さまには、雑誌社の経費だけを報告する」
「それって……」
違法じゃないのか。いや、違法ではないかもしれない。でも、明らかにグレーゾーンだ。
「なぜ、そこまで……?」
美山理事長は、窓の外を見た。
表参道を歩く女子高生たち。制服姿で、楽しそうに笑っている。
「私は、本物を見たいんです」
「本物……?」
「上辺だけの取材じゃない。本当に、彼女たちの中に溶け込んだあなたを。そのためには、細部まで完璧にする必要がある」
美山理事長は、僕の方を向いた。
「そして、あなたにも……メリットがあります」
「メリット?」
「このカードは、あなた名義。つまり、クレジットヒストリーが積み上がります。将来、あなたがフリーランスになった時、この実績は役に立つでしょう」
なるほど。
フリーランスになるには、クレジットカードの審査が厳しい。でも、このカードの履歴があれば――。
「それに」
美山理事長は、声を更に落とした。
「この四ヶ月間、あなたは私の『教え子』でもある。私は、あなたの成功を心から願っています。だから、できる限りのサポートをしたい」
彼女の目は、真剣だった。
「近藤さまには言わないでください。これは、私とあなただけの……秘密です」
秘密。
また一つ、秘密が増えた。
「……わかりました」
僕は、カードを手に取った。
黒く光るカード。
これは、美山理事長からの投資なのか。
それとも――
「ありがとうございます、美山理事長」
「いえ。お互いに、win-winの関係ですから」
美山理事長は微笑んだ。
でも、その笑顔の奥に、何か別の感情が見えた気がした。
窓の外では、女子高生たちが笑っている。
僕は、もうすぐその中に入る。
美山理事長という、謎めいた協力者とともに。
カフェを出る時、僕は振り返った。
美山理事長は、まだ窓の外を見つめていた。
その横顔が、どこか寂しそうに見えたのは――
気のせいだろうか。
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