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Relaxation Salon ANNA
第15話 朝
しおりを挟む目が覚めたのは、朝の七時だった。
カーテンを開けると、夏の朝日が部屋に差し込んでくる。
昨日、全身の毛を処理した。
脱毛クリームで。
初めてだった。
男友達の中には、やっている奴もいた。「今、流行ってるんだよ」と言いながら、ツルツルの腕を見せてきた奴もいた。
流行っている、とは聞いていた。
でも、自分がやるとは思っていなかった。
しかし、これからは違う。
流行りでやりに行くんじゃない。
仕事の一つとして。
女子高生になるための、準備として。
鏡で全身を確認する。
昨日処理した足。腕。胸。
全部、ツルツルだ。
「……違和感しかない」
でも、慣れるしかない。
スマホを確認すると、美山理事長からメールが来ていた。
件名:本日の予約
本文:
『斎藤様
本日10時、脱毛サロン『Lumière』にて予約を取っております。
住所は以下の通りです。
東京都渋谷区神宮前3-XX-XX
最寄り駅:表参道駅
全身脱毛コース(VIO含む)です。
施術時間は約2時間を予定しております。
受付で「美山の紹介」とお伝えください。
料金は既に決済済みです。
美山崇子』
VIO。
つまり、下腹部も。
当然、そうなるよな。
女子高生になるなら、そこも処理しないと。
制服を着替える時、体育の授業、プール――。
もし誰かに見られたら、一発でバレる。
「……やるしかない」
朝食を簡単に済ませて、準備をする。
服は、昨日買った女性用のカジュアルな服。
デニムのスカートに、白いブラウス。
ウィッグは、茶髪のミディアム。
鏡の前で装着する。
「……」
そこにいるのは、若い女性だった。
メイクはまだしていないから、少し地味だけど。
でも、確かに女性に見える。
「行くか」
家を出る。
エレベーターで一階へ降りる途中、隣の部屋の住人とすれ違った。
五十代くらいの男性。いつも挨拶を交わす人だ。
「おはようございます」
そう言いかけて――止まった。
相手は、僕を見て、一瞬驚いた顔をした。
そして、会釈だけして通り過ぎた。
『気づかなかった……?』
いや、そもそも僕だと認識していなかったのかもしれない。
外に出る。
朝の住宅街。
犬の散歩をしている人。ジョギングをしている人。
誰も、僕を二度見しない。
『普通に、女性として見られている』
不思議な感覚だった。
表参道駅に着いて、指定された住所へ向かう。
『Lumière』
白を基調とした、清潔感のある外観。
ドアを開けると、受付の女性が笑顔で迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
「あの……美山の紹介で、予約している者です」
「ああ、斎藤様ですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
案内された部屋は、プライベート空間。
白い壁、柔らかい照明、リラックスできる音楽。
「では、こちらのガウンに着替えてください。全てお脱ぎになって大丈夫です」
施術師の女性は、三十代くらい。落ち着いた雰囲気。
「初めてですか?」
「はい……」
「大丈夫ですよ。痛みは最小限に抑えられますから。何かあったら、すぐにおっしゃってくださいね」
彼女が部屋を出て、一人になる。
服を脱ぐ。
全裸になる。
鏡に映る自分。
昨日処理したから、体毛はもうほとんどない。
でも、これから更に徹底的にやる。
ガウンを羽織って、ベッドに横になる。
ノックの音。
「失礼します」
施術師が戻ってきた。
「それでは、足からやっていきますね」
機械の音。
そして、光。
少しピリッとした痛み。
「大丈夫ですか?」
「はい……」
足、腕、脇、胸、腹――。
そして。
「では、VIOに移ります。少し体勢を変えていただけますか?」
顔が、熱くなる。
でも、仕事だ。
これも、仕事の一環だ。
「力を抜いてくださいね」
施術は、思ったよりもスムーズだった。
下腹部も、当然やった。
全部。
二時間後。
「お疲れ様でした。これで完了です」
鏡を見せられる。
全身、ツルツルだった。
「今後、二週間に一度くらいのペースで通っていただければ、完全にツルツルの状態を維持できます」
「わかりました……」
会計は、既に済んでいるとのことだった。
店を出る。
外の空気が、肌に直接触れる感覚。
「これが……女の子の肌か」
呟いた。
表参道の街を歩く。
ショーウィンドウに映る自分。
もう、男には見えない。
スマホを確認する。12時半。
明日の午後、花奈とのメイクレッスン。
「準備は、整ってきたな」
でも、心の準備は――。
まだ、できていなかった。
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