「俺、女子高生になります

あさき のぞみ

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花奈との再会

第17話 寝坊寸前

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何度も練習しているうちに、不思議と慣れてきた。

手先が器用なこともあって、最初よりも随分スムーズにメイクができるようになった。

アイラインも、左右対称に引けるようになった。

マスカラも、ダマにならずに塗れるようになった。

チークも、自然な位置に入れられるようになった。

鏡の中の自分は、回数を重ねるごとに「女の子」になっていく。

「大丈夫……」

呟く。

「これだったら、花奈は気づかないだろう」

そう思いたかった。

いや、思い込もうとしていた。

気づくな。

頼むから、気づかないでくれ。

声も練習した。

少し鼻声がかった話し方。

「あのー、よろしくお願いしまーす」

「えっとー、これでいいですかー?」

高めの声。語尾を伸ばす。

何度も練習しているうちに、これも慣れてきた。

「よし……」

メイクを落として、また最初から。

五回目。六回目。七回目。

時計を見ると、もう深夜二時を過ぎていた。

「やばい、こんな時間……」

でも、まだ不安だ。

もう一回だけ。

八回目のメイクを始める。

その時、ふと思った。

「そういえば……」

ブラ。

女の子は、ブラジャーをつける。

制服を着る時も、当然つける。

「俺って、どうしたらいいんだ?!」

胸はない。

でも、ブラをつけないと不自然だ。

パッドを入れる? ヌーブラ? それとも――。

「美山さんに、明日確認しないと……」

スマホを手に取りかけて、止まった。

今は深夜二時。

さすがに、この時間にメールするのは失礼だ。

明日の朝、送ろう。

メイクレッスンの前に。

「よし、それで……」

メモをする。

『美山理事長に質問:ブラジャーどうする?』

メモを書き終えて、ペンを置いた瞬間――

急に、眠気が襲ってきた。

「……あれ」

目が、重い。

さっきまでアドレナリンが出ていたのか、全く眠くなかったのに。

緊張が解けた瞬間、疲れがドッと出てきた。

「寝ないと……明日、花奈に……」

ベッドに倒れ込む。

メイク道具が、テーブルの上に散らばったまま。

ウィッグも、マネキンヘッドに乗せたまま。

「明日……頑張らないと……」

意識が、遠のいていく。

そして――

いつの間にか、寝てしまった。

-----

ピピピピピ。

アラームの音。

「……ん」

目を開ける。

スマホを見ると、午前九時。

「……九時?!」

跳び起きる。

「やばい! メイクレッスン、十時からだ!」

美山理事長のアトリエまで、ここから三十分。

準備する時間が、三十分しかない。

「くそ! 寝坊した!」

慌てて、服を脱ぐ。

シャワーを浴びる時間はない。

顔を洗って、化粧水と乳液だけ塗る。

服は、昨日買った女性用のワンピース。

白地に、小さな花柄。

ウィッグは、茶髪のミディアム。

急いで装着する。

メイクは――

「時間がない!」

最低限だけ。

ファンデーション、眉毛、リップだけ。

鏡を見る。

「……ギリギリだな」

でも、時間がない。

バッグに、スマホと財布と――

「あ、美山さんへの質問!」

ブラジャーのこと。

でも、もうメールする時間がない。

「直接聞こう……」

家を飛び出す。

エレベーターに乗りながら、時計を見る。

9時15分。

ギリギリ、間に合うか――。

表参道駅に着いたのは、9時45分。

走る。

息が切れる。

アトリエの前に着いたのは――

9時58分。

「セーフ……」

息を整える。

汗が、額に滲んでいる。

でも、もう時間だ。

深呼吸をする。

そして、ドアを開けた。

「失礼しまーす」

受付のスタッフが、笑顔で迎えてくれる。

「あ、斎藤さんですね。お待ちしておりました。奥の部屋でお待ちください」

案内された部屋へ向かう。

ドアを開ける。

そこには――

「いらっしゃい。待ってたわ」

花奈が、笑顔で立っていた。

半年ぶりの、再会。

でも、彼女は気づいていない。

目の前にいるのが、元カレだということに。

「あ……よろしく、お願いします」

声が、震えた。

でも、花奈は何も気づかない様子で――

「緊張してる? 大丈夫、優しく教えてあげるから」

そう言って、微笑んだ。

俺の心臓は、バクバクと鳴り続けていた。​​​​​​​​​​​​​​​​
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