「俺、女子高生になります

あさき のぞみ

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体育祭

第29話 体育祭に向けて

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そんな日常という非日常が、一ヶ月ほど過ぎた。

九月も、もう終わりに近づいている。

毎日、学校に行く。

メイクをして、ウィッグをつけて、制服を着る。

授業を受けて、休み時間に女子高生たちと話して、お弁当を食べて――。

もう、慣れた。

『佐伯みゆき』として過ごすことに。

でも、慣れたからといって、楽になったわけじゃない。

体の変化は、続いていた。

胸は、今やBカップくらいになっている。

ブラジャーのパッドなしでも、ちゃんと膨らみがある。

「……なんで」

毎朝、鏡を見るたびに思う。

でも、答えは見つからない。

美山理事長に何度か聞いたけど、いつも同じ返事。

『要因等不明です』

それだけ。

胃も、小さくなった気がする。

以前の半分くらいしか食べられない。

体重も、少し減った。

「……変わってる」

自分の体が、少しずつ変わっていく。

でも、周りは誰も気づいていない。

桜井さんも、他のクラスメイトも。

「可愛くなったね」

そう言ってくれる子はいるけど、誰も疑わない。

誰も、私が男だとは思っていない。

「……」

それが、救いなのか、恐怖なのか。

わからなくなってきていた。

-----

十月に入った、ある日。

ホームルームの時間。

田中先生が、教壇の前に立った。

「はい、みんな静かに。大事なお知らせがあります」

教室がシーンと静まる。

「三週間後、体育祭があります」

「……!」

教室が、ざわついた。

「体育祭!」

「やったー!」

「え、もうそんな時期?」

女子高生たちの声。

私の耳にも、届いた。

体育祭。

「……」

嫌な予感がした。

田中先生が、続ける。

「今年の体育祭は、十月二十五日です。クラス対抗で、様々な競技を行います」

プリントが配られる。

『第39回 聖ヶ丘女子学園 体育祭
日時:10月25日(土) 9:00~15:00
場所:校庭』

競技種目が、リストになっている。

- 100メートル走
- 200メートルリレー
- 障害物競走
- 玉入れ
- 綱引き
- 騎馬戦
- 組体操
- 応援合戦

「うわ、組体操もあるんだ……」

「騎馬戦、楽しそう!」

周りの女の子たちが、盛り上がっている。

でも、私は――

「……まずい」

体育祭。

つまり、体を動かす。

全力で。

そして、クラスメイトたちと密着する。

組体操とか、騎馬戦とか――。

「バレるかもしれない……」

田中先生が、説明を続ける。

「各競技に出る人を、これから決めます。立候補してもいいし、推薦してもいいです」

「はーい! 私、リレー出たいです!」

元気な女の子が、手を挙げた。

「私も!」

「じゃあ、私は玉入れで……」

次々と、手が挙がる。

「佐伯さんは?」

田中先生が、私を見た。

「え……」

「体力テストの結果、良かったよね。何か出てみない?」

「あ、えっと……」

考える。

何なら、バレにくいか。

100メートル走? いや、速すぎたら怪しまれる。

騎馬戦? 密着するから危険。

組体操? もっと危険。

「玉入れとか……どうですか?」

「玉入れ? いいね。じゃあ、佐伯さんは玉入れで」

名簿に、名前が書き込まれる。

「あと、応援団も募集します。クラスの代表として、応援を盛り上げてくれる人」

「応援団!」

「やりたい!」

また、手が挙がる。

「佐伯さん、応援団もどう?」

「え……私ですか?」

「帰国子女だから、英語の応援とか面白いかもよ?」

「あ、いや、その……」

断りたかった。

でも、周りの女の子たちが――

「みゆきちゃん、やろうよ!」

「絶対、盛り上がるって!」

「可愛いから、センターとかいいんじゃない?」

「ちょ、ちょっと待って……」

「じゃあ、佐伯さんも応援団ね」

田中先生が、勝手に決めてしまった。

「え……」

「放課後、応援団の練習があるから。よろしくね」

「は、はい……」

断れなかった。

-----

放課後。

体育館に集まった、応援団のメンバーたち。

二年A組から、十人くらい。

「よーし、みんな集まったね!」

リーダー格の女の子――名前は、高橋さん――が、元気よく言った。

「今年の体育祭、絶対優勝するよ!」

「おー!」

みんな、拳を上げる。

私も、合わせて拳を上げる。

「じゃあ、早速だけど、応援の振り付け考えよう!」

「音楽は何にする?」

「流行りの曲がいいよね」

女子高生たちが、ワイワイ話し合っている。

「ねえ、みゆきちゃん」

高橋さんが、私に声をかけてきた。

「イギリスの学校って、体育祭みたいなのあった?」

「え、あ……まあ、似たようなのは」

「どんな感じ?」

「えっと……もっとこう、カジュアルな感じで……」

適当に誤魔化す。

「へー、日本とは違うんだね。じゃあ、みゆきちゃんにセンター任せようかな」

「え、センター?!」

「だって、可愛いし、目立つでしょ?」

「い、いや、私そんな……」

「決まり! センターは、みゆきちゃん!」

「え……」

また、断れなかった。

-----

練習が始まった。

振り付けを覚えて、声を合わせて、ポンポンを振って――。

「もっと大きく!」

「声、出して!」

「笑顔! 笑顔!」

高橋さんの指示が、飛ぶ。

みんな、汗をかきながら、必死に練習している。

私も、必死だった。

でも、理由が違う。

バレないように。

自然に振る舞うように。

女子高生として――。

「はい、休憩!」

ようやく、休憩時間。

みんな、床に座り込む。

「疲れたー……」

「でも、楽しいね」

「体育祭、楽しみ!」

女子高生たちの笑顔。

私は――

ペットボトルの水を飲みながら、考えていた。

『三週間後、体育祭』

『玉入れと、応援団』

『バレないか……?』

不安が、胸をよぎる。

でも、もう決まってしまった。

やるしかない。

「みゆきちゃん、大丈夫? 顔色悪いよ?」

桜井さんが、心配そうに聞いてきた。

「あ、大丈夫……ちょっと疲れただけ」

「無理しないでね」

「うん、ありがとう」

窓の外は、もう夕暮れ時だった。

三週間後。

体育祭。

『佐伯みゆき』として、人前で全力を出す日。

その日が、刻一刻と近づいていた。​​​​​​​​​​​​​​​​
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