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体育祭
第30話 体育祭まであと一週間
しおりを挟む体育祭まで、あと一週間。
応援団の練習も、本格的になってきた。
放課後は毎日、体育館で振り付けの確認。
「もっと声出して!」
「笑顔! 笑顔!」
高橋さんの声が、響く。
私も、必死についていく。
センターとして。
目立つポジション。
「みゆきちゃん、すごくいい感じ!」
「当日、絶対盛り上がるよ!」
クラスメイトたちの期待。
プレッシャーも、大きくなっていく。
でも、それよりも――
『玉入れなら、何とかなる』
そう思っていた。
玉入れは、密着も少ないし、体力勝負でもない。
バレるリスクは、低い。
『大丈夫、乗り切れる』
そう信じていた。
-----
十月十八日。
体育祭まで、あと一週間前になった日。
放課後、いつものように応援団の練習をしていた時――
「ちょっと待って! 大変なことになった!」
田中先生が、慌てた様子で体育館に入ってきた。
「どうしたんですか?」
高橋さんが、聞く。
「騎馬戦に出る予定だった山本さんが、バレーボール部の練習中に足を捻挫したの」
「え……!」
教室がざわつく。
「山本さん、大丈夫なんですか?」
「今、保健室にいるけど……骨折はしてないみたい。でも、腫れがひどくて」
田中先生は、ため息をついた。
「お医者さんに診てもらったら、『最低二週間は激しい運動禁止』って言われたって」
「じゃあ、体育祭は……」
「到底、騎馬戦なんて無理よ。松葉杖が必要になるかもしれないって」
「そんな……」
みんな、ショックを受けている。
「…だから、山本さんは玉入れに参加することになりました」
田中先生が、名簿を見る。
「そのせいで、玉入れのメンバーが一人多くなっちゃった。だから――」
嫌な予感がした。
「玉入れに参加する予定だった十五人で、くじ引きをします。一人だけ、騎馬戦に移動してもらいます」
「……!」
私の心臓が、バクバクと鳴り始めた。
騎馬戦。
密着する競技。
人を乗せる。
人に乗る。
体が触れ合う。
『まずい……』
「じゃあ、玉入れのメンバー、前に出てきて」
田中先生の声。
私も、他の十四人と一緒に、前に出る。
田中先生が、箱を持ってきた。
中には、紙が入っている。
「くじを一枚ずつ引いてください。赤い丸が書いてある人が、騎馬戦に移動です」
「……」
手が、震える。
一人ずつ、くじを引いていく。
桜井さんも、引いた。
高橋さんも、引いた。
そして――
私の番。
箱の中に、手を入れる。
紙を一枚、掴む。
引き抜く。
「はい、全員引きましたね。じゃあ、一斉に開けてください」
「せーの!」
みんなで、くじを開ける。
私も、開く。
そこには――
大きな赤い◯が、書いてあった。
「……」
時間が、止まった。
「あ……」
桜井さんの声が、聞こえる。
「みゆきちゃん……」
周りの視線が、私に集まる。
「佐伯さんが、当たったのね」
田中先生が、名簿に書き込む。
「じゃあ、佐伯さんは騎馬戦に移動。よろしくね」
「あ……は、はい……」
声が、震えた。
騎馬戦。
人を乗せる。
人に乗る。
密着する。
『バレる……』
不安が、一気に押し寄せてくる。
「みゆきちゃん、大丈夫?」
桜井さんが、心配そうに聞いてきた。
「だ、大丈夫……」
「騎馬戦、頑張ってね。応援してるから」
「う、うん……」
練習が終わって、家に帰る。
制服を脱いで、鏡を見る。
体。
タッキングをしている部分。
ブラジャーをつけている胸。
「……騎馬戦で、バレないか?」
人を乗せる時、体に触れられる。
もし、硬い部分に気づかれたら?
もし、胸が偽物だと気づかれたら?
「まずい……まずい……」
部屋を歩き回る。
どうすればいい?
辞退する?
いや、それはもっと怪しまれる。
何か理由をつけて休む?
でも、体育祭全体を休むことになる。応援団もある。
「……やるしかない」
深呼吸をする。
大丈夫。
今まで、バレなかった。
更衣室でも、体力テストでも、バレなかった。
騎馬戦も、何とかなる。
『何とかなる……』
そう思い込もうとした。
でも、不安は消えなかった。
スマホを手に取る。
美山理事長に、メールを送るべきか。
でも、何を聞けばいい?
『騎馬戦でバレませんか?』
そんなこと、聞いても意味がない。
「……」
結局、メールは送らなかった。
窓の外は、もう真っ暗だった。
あと一週間。
体育祭。
騎馬戦。
その日が、刻一刻と近づいていた。
報告書を書く。
『10月18日
体育祭まであと一週間。
騎馬戦のメンバー変更により、私が騎馬戦に出ることになった。
非常にリスクが高い。
密着する競技のため、バレる可能性がある。
でも、辞退することもできない。
不安……』
書き終えて、近藤に送る。
返信は、すぐに来た。
『大変だな。
でも、お前ならできる。
頑張れ。』
短い励まし。
でも、それだけだ。
「……」
スマホを置いて、ベッドに倒れ込む。
あと一週間。
その間に、何か対策を考えないと。
でも、何ができる?
答えは、見つからなかった。
不安を抱えたまま、私は夜を過ごした。
一週間後。
運命の日が、待っている。
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