「俺、女子高生になります

あさき のぞみ

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体育祭

第31話 騎馬戦

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体育祭当日。

十月二十五日、土曜日。

朝から快晴だった。

「……今日か」

目が覚めて、窓の外を見る。

青い空。雲一つない。

体育祭日和だ。

でも、私の心は晴れなかった。

騎馬戦。

今日、出なきゃいけない。

「大丈夫……きっと、大丈夫」

自分に言い聞かせる。

メイクをして、ウィッグをつける。

制服じゃなくて、体操服を着る。

白い半袖シャツ。紺色のハーフパンツ。

鏡で確認する。

タッキング、問題なし。

ブラジャー、問題なし。

「……行くか」

学校に着くと、すでに校庭には生徒たちが集まっていた。

テントが張られ、各クラスの応援旗が立っている。

「みゆきちゃん! おはよう!」

桜井さんが、手を振ってくれた。

「おはよう」

「今日、頑張ろうね!」

「うん……」

-----

午前中は、様々な競技が行われた。

100メートル走、障害物競走、玉入れ――。

私は、応援団として、クラスメイトたちを応援した。

「二年A組、ファイトー!」

「頑張れー!」

センターとして、前で踊る。

ポンポンを振って、声を出して。

周りの生徒たちも、盛り上がっている。

「A組、すごい!」

「応援、めっちゃいい!」

他のクラスからも、声が上がる。

「……」

でも、私の頭の中は――

午後の騎馬戦のことでいっぱいだった。

-----

昼休み。

お弁当を食べながら、田中先生が説明してくれた。

「騎馬戦は、四人一組。三人が馬で、一人が騎手ね」

「みゆきちゃんは、どっち?」

桜井さんが聞く。

「佐伯さんは……馬の前側ね。体格的に、それが一番バランスがいいと思う」

「前側……」

つまり、誰かを乗せる側。

騎手を支える側。

「頑張ってね」

「……うん」

-----

午後。

騎馬戦の時間になった。

各クラスから、騎馬が並ぶ。

私も、チームメイトと一緒に集まった。

馬の後ろ側は、田村さんと鈴木さん。

騎手は、運動神経のいい佐藤さん。

「よろしくね、みゆきちゃん」

「よろしく……」

四人で、組み方を確認する。

「じゃあ、騎馬を組んで!」

先生の合図。

田村さんと鈴木さんが、腰を落とす。

私も、その前で腰を落とす。

佐藤さんが、私たちの肩に足を乗せて――

「よいしょ!」

乗った。

重い。

でも、三人で支えるから、何とかなる。

「いける?」

「大丈夫……」

佐藤さんの太腿が、私の肩に乗っている。

温かい。

柔らかい。

「よーし、いくよ!」

佐藤さんの声。

ホイッスルが鳴った。

騎馬戦、開始。

他のクラスの騎馬が、攻めてくる。

「うわ!」

体操服を掴まれる。

引っ張られる。

「負けないで!」

佐藤さんも、相手の帽子を取りに行く。

騎馬同士が、ぶつかる。

押し合う。

引っ張り合う。

体操服のシャツが、引っ張られる。

「きゃあ!」

誰かの悲鳴。

騎手が落ちたのか。

私たちの騎馬も、揺れる。

「頑張って!」

必死に、佐藤さんを支える。

その時――

視界に、入ってきた。

隣の騎馬の女の子。

体操服のシャツが、引っ張られて――

肩の部分がずれている。

ピンク色のブラ紐が、見えている。

「……!」

目を逸らす。

でも、また別の騎馬。

そこでも、体操服が乱れている女の子がいた。

水色のブラ紐。

「……」

見えてはいけないものが、見えていた。

いや、見てしまっていた。

『だめだ、見るな』

自分に言い聞かせる。

でも――

騎馬戦は続く。

押し合い、引っ張り合い。

体操服が乱れ、肌が見え、ブラ紐が見え――。

「やった! 取った!」

佐藤さんが、相手の帽子を取った。

「すごい!」

「やったー!」

チームメイトが喜んでいる。

騎馬戦は、まだ続く。

次の相手。

また次の相手。

何度も、何度も――。

-----

ホイッスルが鳴った。

騎馬戦、終了。

「お疲れ様ー!」

みんな、座り込む。

私も、その場に座り込んだ。

息が、荒い。

汗が、流れている。

「みゆきちゃん、すごかったね! めっちゃ頑張ってた!」

桜井さんが、水を渡してくれた。

「あ、ありがとう……」

飲む。

冷たくて、美味しい。

でも――

頭の中には、さっきの光景が焼き付いていた。

ピンク色のブラ紐。

水色のブラ紐。

乱れた体操服。

女の子たちの肌。

「……」

-----

体育祭が終わって、家に帰った。

シャワーを浴びて、ベッドに倒れ込む。

「疲れた……」

でも、無事に終わった。

騎馬戦も、バレなかった。

応援団も、うまくいった。

「良かった……」

そう思って、目を閉じた。

-----

翌朝。

日曜日。

目が覚めた時――

「……ん?」

違和感。

下半身に。

タッキングしている場所が――

硬くなっている。

男の朝特有の現象。

勃起。

「……!」

慌てて、ショーツの中を確認する。

確かに、硬くなっている。

「なんで……」

でも、すぐに気づいた。

この姿になって今日まで、マスターベーションをすることもなかった。

性的な興奮を感じることも、避けてきた。

女子高生として過ごすために。

でも、昨日――

騎馬戦で、見てしまった。

女の子たちの肌。

ブラ紐。

乱れた体操服。

それが、夢に出てきたのかもしれない。

「……当然か」

俺は、まだ男だ。

体は、変わってきているけど。

胸は膨らんできているけど。

でも、まだ――

男の部分は、残っている。

「くそ……」

どうすればいい?

このまま、放置する?

でも、収まらない。

むしろ、どんどん硬くなっていく。

「……」

仕方ない。

処理するしかない。

久しぶりに――

一ヶ月以上ぶりに。

「……」

ショーツを脱ぐ。

タッキングを解除する。

そして――

-----

十分後。

全てが終わった。

「……はあ」

ティッシュで片付けて、シャワーを浴びる。

鏡に映る自分を見る。

胸が膨らんでいる体。

でも、下半身には――

まだ、男の部分がある。

「俺は、何なんだ……」

呟いた声は、誰にも届かなかった。

女子高生として過ごしているのに。

まだ、男の欲望がある。

まだ、男の体がある。

「……」

複雑な気持ちだった。

でも、どうすることもできない。

タッキングをし直して、ブラジャーをつけて。

また、『佐伯みゆき』に戻る。

窓の外は、晴れていた。

日曜日の朝。

普通の、休日。

でも、俺の中では――

何かが、揺れ動いていた。​​​​​​​​​​​​​​​​
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