31 / 80
体育祭
第31話 騎馬戦
しおりを挟む体育祭当日。
十月二十五日、土曜日。
朝から快晴だった。
「……今日か」
目が覚めて、窓の外を見る。
青い空。雲一つない。
体育祭日和だ。
でも、私の心は晴れなかった。
騎馬戦。
今日、出なきゃいけない。
「大丈夫……きっと、大丈夫」
自分に言い聞かせる。
メイクをして、ウィッグをつける。
制服じゃなくて、体操服を着る。
白い半袖シャツ。紺色のハーフパンツ。
鏡で確認する。
タッキング、問題なし。
ブラジャー、問題なし。
「……行くか」
学校に着くと、すでに校庭には生徒たちが集まっていた。
テントが張られ、各クラスの応援旗が立っている。
「みゆきちゃん! おはよう!」
桜井さんが、手を振ってくれた。
「おはよう」
「今日、頑張ろうね!」
「うん……」
-----
午前中は、様々な競技が行われた。
100メートル走、障害物競走、玉入れ――。
私は、応援団として、クラスメイトたちを応援した。
「二年A組、ファイトー!」
「頑張れー!」
センターとして、前で踊る。
ポンポンを振って、声を出して。
周りの生徒たちも、盛り上がっている。
「A組、すごい!」
「応援、めっちゃいい!」
他のクラスからも、声が上がる。
「……」
でも、私の頭の中は――
午後の騎馬戦のことでいっぱいだった。
-----
昼休み。
お弁当を食べながら、田中先生が説明してくれた。
「騎馬戦は、四人一組。三人が馬で、一人が騎手ね」
「みゆきちゃんは、どっち?」
桜井さんが聞く。
「佐伯さんは……馬の前側ね。体格的に、それが一番バランスがいいと思う」
「前側……」
つまり、誰かを乗せる側。
騎手を支える側。
「頑張ってね」
「……うん」
-----
午後。
騎馬戦の時間になった。
各クラスから、騎馬が並ぶ。
私も、チームメイトと一緒に集まった。
馬の後ろ側は、田村さんと鈴木さん。
騎手は、運動神経のいい佐藤さん。
「よろしくね、みゆきちゃん」
「よろしく……」
四人で、組み方を確認する。
「じゃあ、騎馬を組んで!」
先生の合図。
田村さんと鈴木さんが、腰を落とす。
私も、その前で腰を落とす。
佐藤さんが、私たちの肩に足を乗せて――
「よいしょ!」
乗った。
重い。
でも、三人で支えるから、何とかなる。
「いける?」
「大丈夫……」
佐藤さんの太腿が、私の肩に乗っている。
温かい。
柔らかい。
「よーし、いくよ!」
佐藤さんの声。
ホイッスルが鳴った。
騎馬戦、開始。
他のクラスの騎馬が、攻めてくる。
「うわ!」
体操服を掴まれる。
引っ張られる。
「負けないで!」
佐藤さんも、相手の帽子を取りに行く。
騎馬同士が、ぶつかる。
押し合う。
引っ張り合う。
体操服のシャツが、引っ張られる。
「きゃあ!」
誰かの悲鳴。
騎手が落ちたのか。
私たちの騎馬も、揺れる。
「頑張って!」
必死に、佐藤さんを支える。
その時――
視界に、入ってきた。
隣の騎馬の女の子。
体操服のシャツが、引っ張られて――
肩の部分がずれている。
ピンク色のブラ紐が、見えている。
「……!」
目を逸らす。
でも、また別の騎馬。
そこでも、体操服が乱れている女の子がいた。
水色のブラ紐。
「……」
見えてはいけないものが、見えていた。
いや、見てしまっていた。
『だめだ、見るな』
自分に言い聞かせる。
でも――
騎馬戦は続く。
押し合い、引っ張り合い。
体操服が乱れ、肌が見え、ブラ紐が見え――。
「やった! 取った!」
佐藤さんが、相手の帽子を取った。
「すごい!」
「やったー!」
チームメイトが喜んでいる。
騎馬戦は、まだ続く。
次の相手。
また次の相手。
何度も、何度も――。
-----
ホイッスルが鳴った。
騎馬戦、終了。
「お疲れ様ー!」
みんな、座り込む。
私も、その場に座り込んだ。
息が、荒い。
汗が、流れている。
「みゆきちゃん、すごかったね! めっちゃ頑張ってた!」
桜井さんが、水を渡してくれた。
「あ、ありがとう……」
飲む。
冷たくて、美味しい。
でも――
頭の中には、さっきの光景が焼き付いていた。
ピンク色のブラ紐。
水色のブラ紐。
乱れた体操服。
女の子たちの肌。
「……」
-----
体育祭が終わって、家に帰った。
シャワーを浴びて、ベッドに倒れ込む。
「疲れた……」
でも、無事に終わった。
騎馬戦も、バレなかった。
応援団も、うまくいった。
「良かった……」
そう思って、目を閉じた。
-----
翌朝。
日曜日。
目が覚めた時――
「……ん?」
違和感。
下半身に。
タッキングしている場所が――
硬くなっている。
男の朝特有の現象。
勃起。
「……!」
慌てて、ショーツの中を確認する。
確かに、硬くなっている。
「なんで……」
でも、すぐに気づいた。
この姿になって今日まで、マスターベーションをすることもなかった。
性的な興奮を感じることも、避けてきた。
女子高生として過ごすために。
でも、昨日――
騎馬戦で、見てしまった。
女の子たちの肌。
ブラ紐。
乱れた体操服。
それが、夢に出てきたのかもしれない。
「……当然か」
俺は、まだ男だ。
体は、変わってきているけど。
胸は膨らんできているけど。
でも、まだ――
男の部分は、残っている。
「くそ……」
どうすればいい?
このまま、放置する?
でも、収まらない。
むしろ、どんどん硬くなっていく。
「……」
仕方ない。
処理するしかない。
久しぶりに――
一ヶ月以上ぶりに。
「……」
ショーツを脱ぐ。
タッキングを解除する。
そして――
-----
十分後。
全てが終わった。
「……はあ」
ティッシュで片付けて、シャワーを浴びる。
鏡に映る自分を見る。
胸が膨らんでいる体。
でも、下半身には――
まだ、男の部分がある。
「俺は、何なんだ……」
呟いた声は、誰にも届かなかった。
女子高生として過ごしているのに。
まだ、男の欲望がある。
まだ、男の体がある。
「……」
複雑な気持ちだった。
でも、どうすることもできない。
タッキングをし直して、ブラジャーをつけて。
また、『佐伯みゆき』に戻る。
窓の外は、晴れていた。
日曜日の朝。
普通の、休日。
でも、俺の中では――
何かが、揺れ動いていた。
11
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる